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「カタログで取り寄せたこの紅茶…なかなか美味しいわね。また頼もうかしら」
 真紅はティーカップを置いて、ふうと溜息を吐いた。
 それから今日届いた新しい紅茶カタログを手に取る。
 美味しそうな紅茶が無いか、これでチェックするのが真紅の趣味の一つだった。
「ふんふん、どれも美味しそうね…あら?」
 ページを捲るとはらりと一枚の紙が滑り落ちた。
 どうやらチラシみたいだが、原色を派手に使っている何か胡散臭いものだ。
「『198538人中から選ばれました、運命の一人です。超限定セットを完全無料でお送りします。お金は一切掛かりません!』
…胡散臭いわね…」
 不審に思いながらも目を進める。そこには「まきますか まきませんか」の二択が書かれていた。
 下らない、とそのチラシを捨てようと思ったが、ちょっとした出来心で鉛筆を手に取る。
「…別にこれぐらい良いわよね…」
 自分に苦笑いを浮かべつつ、「まきますか」の方に丸印をつけた。
 …はっきり言って面白くもなんともなかった。
「いけない、くんくんが始まるわ」
 時計を見るとくんくん探偵が始まる時間になっている。
 真紅はそのチラシをゴミ箱に入れてリビングへと降りていった。

 

 急いでテレビのチャンネルをつけると、既にオープニングテーマが始まっていた。
「良かった、間に合った…」
「遅かったわね真紅ちゃん。今呼びに行こうと思ってたのよ」
 ちょうど洗い物をしていたのりが手を休めてリビングへやってきた。
 手のお盆には二人分のお菓子と飲み物が置かれている。
「そう、ありがとうのり。ちょっとカタログに見入っていたのだわ」
 そうしている間にもオープニングも終わり今週のタイトルが表れた。「ギターピック殺人事件」というタイトルだ。

 

『くんくん、死体の近くにこのギターピックが…! ということは犯人は音楽をやってる人…となると…!」
『いや、そう考えるのは早い。犯人の罠かも知れない…』

 

「さすがくんくんね、考えが深いのだわ」
「誰が犯人なのかしらね…」
 テレビに夢中になって見入る二人。
 ハラハラする展開に、今日も目が離せないといった様子だ

 

 熱中していると時間が過ぎるのは早いものであっと言う間に終わってしまった。
「ふう、今週もくんくんは大活躍だったわ。そろそろ宿題をやるわ」
「分かった。私は晩ご飯の買い物に行って来るわね」
「わかったわ。行ってらっしゃい」
 のりを見送り、熱中しすぎて張った肩を揉み解しながら部屋に戻った。
「さてと、今日の宿題っと…。……なに、これ…?」
 部屋の扉を開けて、真紅は思わず硬直してしまう。
 硬直した真紅の目の前には、見たことも無い大きい鞄が鎮座していた。

「…何…どこから来たのこれ…?」
 得体の知れない鞄を目の前にして真紅は不安になる。
 窓のカギは閉まっているし、誰かが入って来たとは考えにくい。
 その鞄から目を離さないまま、ゆっくりとそれの前に膝立ちになる。
「…何が入っているのかしら…」
 不気味に感じながらも、恐る恐るといった様子で鞄を開けた。
「…これ、男の子の人形…? 大きいわね…」
 中には、小さな男の子ぐらいのメガネを掛けた人形が眠るように横になっていた。
 それは精巧に作られていて、パッと見では人形か人間か分からないくらいだ。
「…凄い…。人間みたい…」
 手に取ってみるとその人形の精巧さが更に際立った。感触は人間みたいに柔らかく、温かい。
 試しに頬っぺたを抓ってみたが、人間と大差ない。
 だが呼吸音が全く聞こえないところが人形だという事を強調している。
 しばらくあちこち見ていると、背中に穴が開いているのに気が付いた。
「…穴…? 何か入れるの?」
 鞄に目をやると、中に光る物が入っているのに気が付いた。
「ゼンマイ? …これを入れるのかしら…」
 それを手に取り、穴に差し込んでみる。
 すると、それ真紅が回すよりも先に勝手に回りだし、キリキリと音を立てて回っていく。
「なっ…!?」
 真紅は驚いて思わず手を離してしまい、人形は床へ落ちていった。
 呆然としばらくそれを見ていたが、やがてゼンマイは動きを止めると自然に穴から抜け落ちた。

「…ん…」
 不意に、人の声が耳に入った。とは言え、ここには真紅以外人はいない。
 あるのはぬいぐるみだが喋る筈が無い。他にいるのは、目の前にいる人形…。
「…うそ…」
 目の前で起きている現象に唖然とする。
 人形は一人でに立ち上がると、人間が目覚めたかのようにコキコキと関節を鳴らし始めたのだ。
 やがてそれを終え一際大きな伸びをすると、真紅に気が付いてその方を向いた。
「…お前が螺子を回したんだな?」
「…あ…」
「どうした? 回したんだなと聞いてるんだけど?」
 あまりの事に声が出ない真紅。そりゃそうだ。人形が勝手に動き出すなんてありえないんだから。
 返事をしない真紅に、人形はイラついたようにもう一度問いかける。
「? 聞かれたら答えるって、常識じゃないのか?」
 更にイラついた様に、一歩踏み込んできて問いかけてきた。
 それで真紅は正気に返った。そして。
「人形が喋ったのだわーーー!!」
 人生で一番の絶叫を上げた。
「…っさいな、人形が喋ったぐらいで叫ぶなよ…」
「だ、誰だって叫ぶわよ! ま、まさか呪い人形!?」
「呪い人形だ何て失敬な奴だな。僕はローゼンメイデン第五ドール、ジュンだ」
「ローゼンメイデン…!? そんな、まさか実在するなんて…!」
「僕の事、知ってるのか?」
 真紅は数日前、金糸雀に勧められたオカルト雑誌を読んでみたのだ。
 そこに書かれたいたのがローゼンメイデンの項目だ。
 金糸雀はかなり興奮してこの話について熱弁していたのだが、真紅はただのフィクションとしか受け取らなかった。
 そんな非現実な話があるものかと。
「それなら話は早いな。これからここに厄介になるからよろしく頼む」
 だが、その非現実が目の前にいる。それもかなり生意気な態度で。

「や、厄介になるって…そんな事いきなり言われても…」
「ホーリエの契約にサインしただろ? 破棄は認めないからな」
「契約…? なにそれ?」
「来なかったか? 何か変わったやつ」
「変わった…まさか、あの変な紙!?」
 カタログに挟まっていたチラシを思い出し、慌ててゴミ箱の中を見る。
 だが、そのチラシは既に消えてなくなっていた。
「無い!? そんな…!?」
「やっぱり契約したんだな。そういう訳で…」
「冗談じゃないわ! あんなの無効よ! く、クーリングオフ! クーリングオフを使うわ!」
「そんな事言ってて良いのか? …もうここを嗅ぎ付けたみたいだな。面倒な奴…。」
「え?」
 ジュンがそう言うと同時に、部屋においてある鏡が波打ち始めた。
 ありえない現象に、真紅はまたも唖然とする。
「な、鏡が…!?」
「女、伏せろ!」
 言うや否や、ジュンは真紅に一直線に飛び掛った。
 人形とは思えない衝撃に、真紅は堪えきれず後ろに倒れこんだ。
「な、何す…!」
 怒って怒鳴ろうとしたが、目の前を幾つもの木の棒――木刀――がかすめて行き言葉を失う。
 ジュンは立ち上がり、鏡が合った方を睨む。
「…やっぱりお前か。巴」

 体を起こし、波打つ鏡を見てみると、中から木刀を背中に背負った女の子の人形が出てくるところだった。
 その人形は無表情ながら、どこか狂気じみた物を感じさせる。
「…久しぶり。589791時間53分24秒ぶりね、ジュン」
「ちっとも変わってないな。その好戦的なところも」
「あなたこそ。その退屈そうな目…ほんとつまんなそうね…」
「…潰し合いが楽しいと思えるお前よりよっぽどマシだと思うけど?」
「…な、人形が鏡の中から…!?」
 あまりの急展開に真紅の頭が追いつかない。まるで夢でも見ているようだ。
「彼女があなたのミーディアム? 非力そう…」
「別に好きで選んだわけじゃないからな。偶々だ偶々」
「…そう。じゃあ楽に勝てそうね」
 刹那、巴は木刀を構えて一直線にジュンへと向かって行き、一気になぎ払う。
 ジュンはそれを飛んでかわし、そのまま真紅の机の上に着地した。
「確かに僕は退屈してる。でも、だからってローザミスティカをほいほい差し出すような奴じゃない」
「そうこないとね」
 ジュンは真紅の机に置いてあった鋏を持って目を閉じる。
 すると、見る間に鋏がジュンにあう大きさの二本の刀に変わっていった。
「鋏が…!」
「今度は僕から行くよ」
 目を開けるとジュンは巴へと飛び掛り、二本の刀をそれぞれ振り下ろす。
 まるで刀が生きているかのようにそれぞれ動いていくが、それを紙一重に巴はかわしていく。
 しかし、その表情は全く焦りを見せていない。寧ろ、余裕さえ感じられる。
「随分鈍ってるわね。ずっと寝てて衰えちゃった?」

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