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昨日の晩に相次いで来た翠星石と蒼星石。
2人は僕が起きた頃には、既にいなかった。
僕の両隣にあった布団は部屋の隅に畳まれていた。

…この置いて行かれた感は何だろう…
ちくしょう…学校に行きてぇ…

…あ、そうそう。
翠星石んとこのお母さんが梅岡と直に話した…
ってのは昨日一昨日の話だよな。
予定通りなら。

ということは、ABCに対して何らかの措置があるはず…だよな?

登校…できる環境になってほしいな…。

(「キモイ、裁縫ヲタク!」)

えっ…。
…誰の声だよ…。

(「だからお前って暗くてキモイ奴だったんだな!w」)

くっそ…。
窓閉まってるのに…。

(「お前なんか所詮癌だ。死ね」)

何で布団の中に隠れたくなるんだ…。

(「馬鹿だねぇ。そのまんま女になればいいのにwww」)

震えが止まらない…。

(「脳みそ腐ってるんじゃね?」)
(「うわぁ…ヲタク臭せぇ…あっち行け、しっしっ」)
(「お前には絶望したわ…」)

…あぁ…。
幻聴…幻聴か?

──やっぱりまだ学校に行けないや…。
ABCだけじゃないんだ…。
怖い…。

裁縫も、そろそろ再開させようかなとか考えてたけど、
…やる気失せた…。

見えない悪魔って本当に存在するんだな…。

…寝よ。

~~~~~

次に起きたのが昼の3時。
もう今日はグダグダだ…。

適当に昼飯食って、
適当にテレビ見て、
適当にネットして…。

──刺激がない…。
何でこう引き篭もり生活って退屈なんだろう。
充実もクソもない。

かと言って、外に出るにはそろそろ危ない時間だ。
昨日翠星石が言ってた通り、ABCに絡まれるかもしれない──

まぁ、それだけは勘弁なので、
またネットの続きをして、
ベッドに飛び込んで、
適当に本棚から本を取り出して…

あ、今日勉強してない…。

そうだ…
今日は二度寝して完全にリズムが狂ってたんだった…
くっそ~…最近順調だったのに…
今日の分、いつやろう…

…もう明日やるか。
ベッドに横になりながら、ヤングジ○ンプでも読も~っと。

──で、気がつけばベッドの上で寝ていた。
晩の8時半…さすがに寝すぎた気がする。

翠星石は学校の帰りにこっちに来なかった…みたいだな。
メールも入ってないし着信履歴も残ってない。
蒼星石からもそれが無いし。

そして、Sからのメールの返信すら来ない。

下で何か食器棚から食器を取り出す音がする。
返信を待ってる間に晩飯が出来上がりそうだ。

~~~~~

下に下りると、ま~た居た。

水銀燈。

…はぁ…。

銀「…」
ジ「…」

僕の足音に気づいたのか、ふっとこっちを見た。
また昨日のように見つめ合う。

銀「ジュンくん、ちょっと…」

今日の水銀燈は手を招いてきた。

…あのさ。
僕は自殺するつもりで窓を開けたわけじゃないんだ。
窓の下に屋根とか雨どいがあるはず…って思ったんだけど、
そういうのが全然無くてビックリしたもんだった。

ただ、それだけだ。

なのにみんな大げさで、
ねーちゃんや水銀燈に怒られるし、
翠星石は見張り目的で泊まりたいなんて言い出すし、
蒼星石まで家に来るんだからなぁ…

---------

銀「──悪かったわね。昨日は…」

僕が近寄った瞬間、いきなり水銀燈が起立して、僕に頭を下げた。

銀「ごめんなさい」
ジ「…」

──凄まじく違和感を感じる中、僕は黙ってそれを見ていた。

そして、顔を上げた。

銀「大会が近いからって…まぁ感情的になってしまったところもあると思うし…
  Aとかいう奴の親がラクロス部の顧問だとか、
  別に…私たちに必ず…何があっても話せとは言ってないしねぇ」

水銀燈はかなり萎縮していた。
…僕は急に自責の念に駆られた。

ジ「いや、僕こそ…窓から身を乗り出すなんてことして…
  迷惑かけて…ねーちゃんにも…ごめんなさい」

──あぁ。
何でこんなことにイライラしてたんだろう。
みんなそれだけ心配してくれてるんだよな──

の「ほんとに…もう二度とあんなことしないでよぉ…」

キッチンに居るねーちゃんが言う。

ジ「…うん」

…と、水銀燈はガシッと僕の両肩を持った。

銀「…目を見て」
ジ「…」

その顔は真剣だった。

銀「──これだけは聞かせて」
ジ「…」
銀「街へ行った日の晩、私が何を言ったか覚えてる?」

水銀燈は僕の目をじっと見つめてくる。
その瞳の奥に、あの時の水銀燈が映った。

ジ「…僕が強くならなきゃダメだって…」
銀「…」
ジ「…翠星石を護れなくて悔しくないのかって…」

自分でも怖いくらい鮮明に覚えていた。
あの時、水銀燈が顔を真っ赤にして叫んでたことを──

銀「そうよ」

僕の両肩を持つ水銀燈のその手に、ますます力がこもるのを感じた。

銀「翠星石も口にはしないだけで、きっとこう思ってるわぁ。
  …あの時ジュンが奴らを蹴散らすことが出来たら…ってね」

…確かにそうだろうなぁ。
僕としても後味が悪かった。

…でもさ…だから引き篭もりになってるんだよ。僕は。
水鉄砲しようとした時に翠星石の家の前に現れたABCにも、
僕は何も出来なかった。

出来てたら今頃ABCを相手に対等…いや、より上の立場に立てたはずだ。

銀「でもまぁそれが出来たら…今頃引き篭もってないんでしょうけどw」

…水銀燈は僕の心を読んでいるかのようだった──

銀「だったら、あなたに今できることはひとつ。
  ──あなたの代わりに戦ってる人を支えてあげなさぁい」
ジ「…」
銀「翠星石とか蒼星石とか、巴ちゃんとか…
  それに、他にも友達がいるでしょう?」
ジ「…うん」
銀「そんな子たちを、ジュンくんが支えてあげるの」

水銀燈は静かに手を放した。

銀「翠星石なんか、よくここに来てるんじゃない?」
ジ「…そうだけど」
銀「ふっふ~ん」

…水銀燈はソファに座った。

銀「お互い立ちっぱなしじゃ話しにくいから、座りましょ?」

そう言う水銀燈。
僕はソファに隣同士で座った。

銀「あの子ねぇ、知ってると思うけど…昔っから争いごとが大っ嫌いだったのよぉ。
  殴り合いとか罵り合いとか…まぁ、ジュンくんとは例外だけどねぇw」
ジ「…あ…はは…」

そうだもんな…分かってはいるんだけど、
聞くたびに結構ショックを受けるんだよなぁ。
とほほ…。

ラクだよなぁ…他のみんなは…。

銀「それが今ではこんなに必死になって、蒼星石や巴ちゃんと一緒に戦って──」
ジ「僕もあいつは変わったなと思うよ…」

…僕にとっても、まさかのABCとの対決だったけれど…。
初めてあいつの他人に対する本気の戦いを垣間見ることが出来たのかもしれない。

銀「じゃああなたも変わりなさぁい。翠星石に先を越される前に…」

あぁ。
それに、周りに迷惑ばかり掛けてられない。

銀「あなたねぇ…今でも翠星石には強気なんだから、
  あいつらには絶対勝てるはずよ!」  
ジ「…そう…かなw」
銀「だって、翠星石が勝てたんですものぉ」
ジ「…あぁ」
銀「まぁ、私が鍛えた成果もあったりしてねぇ…w」

水銀燈がクスクスと笑った。
僕も釣られて笑った。

今日の水銀燈、何だか凄く好感が持てる…。

銀「ジュンくんには感謝してるのよぉ?」

水銀燈は続けた。

銀「翠星石の友達って、みんなジュンくんか蒼星石絡みなのよね」
ジ「あぁ…」

今思えば、確かに。

銀「あの子、そういうのに全然積極的じゃないから心配してたんだけど、
  ジュンくんが幼稚園の入園式の日に声を掛けてくれたから…」
ジ「僕さぁ…席が隣だから挨拶しようとしただけなのに、
  いきなりビンタされたらしいんだよw」
の「そうよぉ。その時の映像、観て見る?」

ねーちゃんがキッチンで晩飯の準備をしながら話に乱入してきて、
とんでもないことを言い出した。

ジ「いや、もう観たくない」

ビンタされて思いっきり泣いてる様子を、改めて観る必要なんざ全く無い。

銀「あらぁ、残念…w」
ジ「残念で結構!」

それでも水銀燈は壊れたように笑い続けたので、
イラッときた感情は吹っ飛び、僕もつられて笑ってしまう。
まったく、何でなんだか…。

ジ「しっかし…幼稚園の頃の翠星石との思い出は…
  腕噛まれたりとか、脛を蹴られたりとか、
  本当に毎日が大変だったとしか覚えてないなぁw」
の「そうそう、そんなことあったわねぇ。
  蒼星石ちゃんとはすぐに仲良くなれたのに…」

キッチンから昔の思い出話に参加するねーちゃん。

銀「でもあの時初めて見たわぁ…
  ジュンくんを引っ張りまわしてた翠星石が何だか楽しそうで──」
ジ「だからか…いつの間にか手を繋がなかったら怒られるようになったのは…w」
銀「あの子にとって初めての友達なんだもの。ジュンくんは…」
ジ「で、何かもうずっと一緒だったから、友達の数まで一緒になっちゃって…」
銀「幼稚園だったら友達が一緒ってのは有りがちじゃなぁい?」
ジ「…でも友達をつくるときはいっつも苦労するんだよ。
  誰かから初めて話しかけられた時なんか、僕や蒼星石の後ろにすぐ隠れるからw」
銀「そうそう…私もちょろっと覚えてるわぁ。
  小学校に上がっても暫く続いてたものねぇ…」
ジ「柏葉ですら怖がってたからなぁ…w」
銀「あっはwそうねぇw…まぁ、小3くらいになったら、
  さすがに極度の人見知りも消えてなくなったわね──」
ジ「そうそう。小4~小6ぐらいがあいつの黄金期だったよw
  でも一旦消えたかと思ったら、実は今でもかすかに残ってるからね…」
銀「えぇ。そうねぇ──」
ジ「剣道部の友達は翠星石と柏葉絡みだし。
  友達がそこそこ居るって言ったって小学校が同じだった奴ばっかだし、
  自力では何とか園芸部で数名出来たって程度だからなぁ…」
銀「…今度は高校に入ってからが心配だわぁ…」
ジ「…」

何か、僕のせいで深刻なムードにしてしまった気がする…。

銀「独りでももっと友達を作れるようになって欲しいんだけどねぇ…」
ジ「…」

ここで僕が何か言わなければ──
あっ。

ジ「そうだ!…だから変わったんだよ。翠星石は」
銀「あっ──」
ジ「ABCに立ち向かえる今の翠星石なら、大丈夫だよ」
銀「…そうね。そう信じるわぁ」

水銀燈はシャキッと背筋を伸ばし、ひとつ息をついた。

銀「私から“翠星石が変わった”って言っておいて、これはないけど…w」
ジ「ははw」

そうだそうだw
言いだしっぺは水銀燈じゃんかw

ジ「なんか、昔の事を思い出してたら、僕も友達をたくさん作ってた時期が
  あったなぁ…なんて思ったよ。僕も頑張らないとなぁ」
銀「そうよ。頑張りなさいよ。ジュンくんなら出来るはずよぉ」
ジ「あぁ」

水銀燈の笑顔が僕を優しく包んでくれる。
今の僕も、きっと笑顔なんだろうな…。

──ふとここで時計を見ると、21時前だった。

銀「ごめんなさぁい…もうこんなに遅くなっちゃった…。
  ホントね…話すと止まらなくなるのよぉ」
ジ「でも今日は楽しかったよw」
銀「そう。なら良かったわぁ」

水銀燈はカバンを手に持った。

銀「じゃ、帰るねぇ~」
の「はーい」

そして、ゆっくりと玄関へ向かい、靴を履く。
僕とねーちゃんは玄関でお見送り。

銀「じゃあ、またのりと一緒に泊まりにきなさいよ。
  その時はみんなで大富豪したりぃ、人生ゲームなんかしたりして、
  遅くまで騒ぐわよぉ~♪」
ジ「おっけー。楽しみにしてる」
の「また明日」
銀「えぇ。それじゃ」

水銀燈は最後に玄関の外から手を振り、そしてドアが閉まった。
僕はすがすがしい気持ちで満たされていた──
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