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フラヒヤ山脈、ベースキャンプ。
ちょうど翠星石と蒼星石の双子が、今から十数時間前に眺めていたものと同じ光景を、ジュンは眺めていた。
ただし、沈み行く夕日を見ていた双子と違い、今のジュンの眼鏡に届くのは澄んだ午前の陽光であるが。
ジュンは青く塗られた、ギルドの支給品ボックスに手をかけ、その中身を確認する。
(……やっぱり、ほとんどの支給品はあいつらが持って行ったか)
少し残念には思うが、このくらいの事態なら十分想定してあったので、問題はない。
ジュンはその背から白いライトボウガンを下ろし、腕の弾薬ホルダーから弾薬を抜き出し始める。
半年のハンター生活を経て、今や駆け出しハンターの装備であったジュンの『マフモフシリーズ』は、
『バトルシリーズ』に様変わりしている。
『バトルシリーズ』とは、コストと性能をかなり高いバランスで調和させ、
ほとんど量産することが出来ないはずのハンター用防具の中でも、例外的に量産が可能となった、
ハンターズギルド付き鍛冶職人達の傑作モデルの1つである。
ギアノスの爪ぐらいでは引き裂かれない強靭な繊維をベースに、人体の急所は鱗状に重ねた金属片で強固に防御。
更にガンナー用の『バトルシリーズ』を特徴付けるのは、鎧の各所に着けられた防爆仕様の弾薬ホルダーである。
鎧外部に弾薬ホルダーを配するというこの作りにより、
いちいちリロードのたびにアイテムポーチから各種弾丸を取り出す手間は、大幅に省かれることとなる。
すなわちガンナーが宿命的に付き合わねばならないリロード時の隙を、かなり減らすことが出来るのだ。
またこの弾薬ホルダーは、不慮の事故による弾薬の引火・暴発事故を防ぐ作用もあり、
よって通常の装備では危険で扱い辛い、高威力の炸薬の使用を可能とする。
これにより、結果的にはボウガンの威力をある程度高めることすら、成功したのである。
またジュンがその弾薬ホルダーから弾丸を抜き出し、装弾を行うその得物は『ショットボウガン・白』。
ドスギアノスの体皮や鱗でグリップや薬室を防護した、まばゆい白色のライトボウガンである。
半年前に死闘を繰り広げたあの二頭のドスギアノスは、こうしてジュンの新たな武器に生まれ変わった。
ハンターが自ら倒し去ったモンスターの鱗や甲殻を剥ぎ取るのは、何もそれを売って小遣いを稼ぐためだけではない。
むしろこのように、自らの用いる新たな武具を作り出すための材料として、
モンスターの素材を手に入れることの方が、ハンターにとっては重要な意味なのである。
ジュンの背後のテントから姿を現した真紅を見れば、それがなおのこと深く理解できるだろう。
「ジュン、鎧を着終わったのだわ」
翠星石同様、金髪を鎧の中にたくし込んだ真紅は、赤い鎧に身を包み、そこにたたずむ。
「さすが、みっちゃんさんの仕事は早くて正確だわ」
真紅はその両手を緩やかに開閉し、新たな鎧の装着感を味わいながら、鍛冶職人の腕前に賛辞を送る。
真紅が『マフモフシリーズ』の次に選び取った鎧……それは毒蜥蜴イーオスの鱗より作られる、『イーオスシリーズ』。
本来なら毒性を帯び、素材として扱うには危険なイーオスの素材を、
鱗一枚一枚に至るまで丁寧に毒抜きし、それを何重にも張り合わせて金属製のフレームで補強した鎧である。
鎧の設計は『ランポスシリーズ』のものが流用されており、
ちょうど蒼星石のまとう『ランポスシリーズ』を、赤く塗り替えたものと言って問題はない。
真紅はこの『イーオスシリーズ』の持つ強力な防毒能力と生命力の強化作用に惹(ひ)かれて、
はるばるクルプティオス湿地帯まで二ヶ月間もの大遠征を行い、五頭ものドスイーオスを狩ったのだ。
もちろん現在真紅が腰に帯びる片手剣も、イーオスの素材より作られている。
『ボーンククリ』に代わる新たな真紅の武器……それは毒々しいまでに赤いイーオスの皮を張られ、
エッジ部分にはいまだ毒液を分泌し続ける、『イーオスの毒牙』を埋め込んだ『ハイドラバイト』である。
『ボーンククリ』と違い、形状は「剣」というよりは「鉈」に近いが、決してその威力が劣るわけではない。
『ハイドラバイト』はモンスターの皮膚を「切り裂く」というよりは、むしろ「引き裂く」ようにして傷付け、
その傷口から『イーオスの毒牙』の毒を注入する。
これを何度も繰り返せば、やがては巨大な飛竜ですら中毒症状を起こすほどの大量の毒液が、その体内に流れ込むのだ。
ジュンは、紫色の粘液が染み出る『ハイドラバイト』の刀身を見て、不安そうに顔を歪める。
「真紅……頼むからもう二度と『ボーンククリ』を使ってたときみたく、
その『ハイドラバイト』でボクをひっぱたくのは止めてくれよ」
「大丈夫よ。その時は毒牙の部分が当たらないよう、峰打ちにしてあげるから」
「そういう問題じゃない! とにかく止めてくれ!」
「私だって、モンスターに向けるべき武器で人間を傷つけてはいけないことぐらい、十分承知しているわ」
「どう考えたって承知してないだろ!? ってゆーか本当に止めろよ!? 絶対止めろよ!?」
真紅の態度を批判するはずが、最後の方には懇願のニュアンスが強く入ってしまうジュンであった。
一方、今や己の全身を覆う『イーオスシリーズ』の鎧を眺め、真紅は色々な感情のこもったため息をつく。
「それにしても、今日の朝方には防具一式が完成しているだろう、とはみっちゃんさんも言ってたけれども、
その完成した防具一式が、私達の使ったポポ車の荷台に積まれていたなんて、本当に都合のいい偶然もあったものだわ」
マイペースに話題を切り替える真紅。それに呆れるような物言いで、ジュンも彼女に同意する。「それは同感」、と。
ジュンもまた肩をすくめて言うが、それは決してこの「都合のいい偶然」を不満に思っているわけではない。
おそらくは昨日、ジュンの言葉を受けたポッケ村村長ことオババが、
きっとポッケ村の鍛冶職人……みっちゃんことミツの側にも、密かに話を通してくれていたのだろう。
仮にもハンターズギルドのポッケ村支部長であるオババ自身は、規則違反を幇助するような真似など下手には出来ない。
しかし、ランペからもたらされたこの依頼に不審な点が見られるのもまた事実であり、
万一ジュンの推理の通り、ランペが何らかの悪意を抱いてこの依頼を出していた、その場合の保険もかけてはおきたい。
そう考えたオババは、このように真紅とジュンの独断専行を黙認し、更に水面下で支援を施してくれたのだろう。
そう推理するジュンは、オババの根回しの適切さに感謝しながらも、真紅と並んで顎を軽く空に向ける。
ひくひくと鼻を動かし、このフラヒヤ山脈の現状の把握にかかる。
「翠星石と蒼星石は、どうやら山脈内部の洞穴南西部にいるみたいだわ。
それからこの『ペイントボール』の臭いは、おそらくフルフルね。今は……中腹西部にいるみたいだわ」
「それからこの嗅ぎなれないハンター用香料の持ち主は……おそらくはランペって奴のだな。臭いの元は山頂部だ」
ハンターとしての訓練を経た2人の鼻は、次々と目標の位置を突き止める。
次に行うべきは、作戦計画の組み立て。
真紅は再び顎を引き直し、その青い瞳をジュンに向けて話を切り出す。
「ひとまずは、ここから一番近い位置にいる翠星石と蒼星石に合流しましょう。
そこで私達がここに来た事情を説明して、そこからフルフルを狩るなりランペを救出するなり考えればいいわ」
「ああ、そうだな。ここから先、正しい作戦を組み立てるなら、まず必要なのは情報だ。
……でも、あの2人がボクらの中途参加で気を悪くしないか、少し心配だ」
「それに関しては心配は要らないわ。仮にもあの2人は私の義理の姉だもの、私が話を通すことにするわ」
ジュンは真紅の答えを受けて、安心したように頷く。
「なら問題はないな。そうしたら、まずは食べるべきものを食べていこう」
ジュンは、アイテムポーチの中からそれを取り出す。
発熱性を帯びた野生のキノコ、『ニトロダケ』の粉末を練り込んだ包み紙にくるまれた、少し大ぶりの塊を。
「『ホットミート』だ。ボク達には支給品の『携帯食料』もないし、
そもそもこっちを食べた方が時間の節約にもなる。悪いけど今日はいつものアレはなしだ」
「『ホットドリンク』を淹れて頂戴、と言いたかったのだけれども、仕方がないわね」
ジュンからその大きな塊を受け取った真紅は、包み紙を剥ぎ取る。
中にあったのは、『ニトロダケ』を配合した包み紙のお陰で未だに温かい、ミディアム仕立ての骨付き肉だった。
その骨付き肉の周囲には赤い粉末がこれでもかとばかりまぶされ、鼻を強烈に刺激する。
この献立の名は『ホットミート』。
食用になる野生の獣から取った『生肉』を焼き、その上から『トウガラシ』を振りかけた辛口の食事である。
本来ならばそのままでは食べられないほどに辛い『トウガラシ』の粉末には、
焼かれた肉から滴るジューシーな肉汁が絡み、まろやかなものになっている。
『ホットミート』は無論それでも辛いが、辛いものが苦手な人間でも、我慢すれば食べられないことはない。
真紅は毒々しいほどに赤い『ホットミート』の見た目に一瞬顔をしかめる。
だが、この食事はあくまで狩りに必要だから行うものであり、決して味を楽しむのが目的ではないのだと言い聞かせ、
意を決して手をかけた。
幸いにも『ホットミート』の包み紙の中には、ホーリエが入れてくれたとおぼしき木製のフォークもあり、
『ホットミート』それ自体にも最初から切れ込みが入っているため、食べにくくはない。
「ふつう、ハンターはこんな回りくどい調理方法なんてとらないで、そのまま丸かじりにするもんだけどな」
「私は1人のハンターである以前に、1人のレディでもあるのだわ。
ホーリエがわざわざフォークまで付けてくれたのなら、行儀の悪い食べ方は出来ないわ」
ジュンは、いちいち野外に出ても上品な振る舞いを忘れない真紅に、わずかばかりの苦言。
真紅は木製のフォークを用いて、『ホットミート』の切り身を一つ一つ丁寧に口に運ぶ。
「……辛い……!」
真紅が『ホットミート』の切り身を1つ食べるごとに真紅の顔には赤みが差し、徐々にその瞳も潤んでいく。
『ホットミート』を全て食べ終えた真紅は、涙目になりながら水筒の水を胃に流し込んだ。
そんな真紅を、若干の意地悪さを込めながら横目で見るジュンは、
行儀も何もあったものではなく、『ホットミート』をそのまま鷲掴みにして口に放り込んだ。
『トウガラシ』のもたらす強烈な辛さが口いっぱいに広がる中、ジュンは『ホットミート』の効果を確信する。
体を思い切り動かせるだけのスタミナと、『ホットドリンク』の持つ体温の上昇効果が、同時に体中を駆け巡る。
ジュンは『ホットミート』を十分に噛み、胃に収めた。
「……よし、準備万端! 真紅も行けるか?」
「ええ……何とか……ぐすっ……」
辛さの余り涙が出そうになるのをこらえながら、真紅は鼻を鳴らす。
ジュンはその湿った音の滑稽さに思わず吹き出しそうになったが、我が身可愛さゆえに自重することは忘れない。
ここで下手に真紅の事を笑って、万一真紅の『ハイドラバイト』を食らったら、色々な意味で洒落にならないくらい、
ジュンは百どころか千か万は承知している。
思わずにやけ面を作りそうになったジュンは、気合いを入れるのを兼ねて自らの頬をばしんと叩いた。
今の自身は素手ではなく、『バトルガード』を着けているので、その分勢いはいくらか抑えてはいるが。
真紅は、『イーオスシリーズ』の鎧を鳴らして駆け出した。
ジュンも真紅の後を追い、目の前の丘の下に飛び降りる。
膝をクッションとして扱い、己の体重と着けた武装の重みを受け切る2人。
飛び降りた衝撃を殺しきって、体勢を整えるや否や、2人は駆け出す。
この細い道を進みながら、ふと真紅はジュンに投げかける。
「それにしてもジュン」
「……何だ、真紅?」
「今日のあなたは、やけに重武装なのね。
普段使う弾薬に加えて、ホーリエが調理し損ねた『生焼け肉』や、
ほとんど使わない『増強剤』に『怪力の種』に『こやし玉』……。
弾薬も『徹甲榴弾』に、あなたの持つライトボウガンでは撃てない『火炎弾』まで」
真紅は、ジュンが出掛けにアイテムボックスから取り出していたアイテムの多さを、しっかりと覚えている。
ガンナーは強力なモンスターと対峙する際、大量の弾薬を携行するのは常識ではあるが、
それでも今のジュンが持つ荷物は余りにも多い。
ジュンはそれを指摘されて、真紅にはただ苦笑を返すのみ。
「だから、今回お前にはいつも持ってもらってる『角笛』以外に、『回復薬』や『回復薬グレート』、
それから『こんがり肉』や『ホットドリンク』を持ってもらっているんだ。ちゃんと持ってきてるよな?」
「当然よ、出発前にしっかり確認したわ」
ジュンは真紅の発言に満足したように、「ならいい」、とだけこぼす。
「村を出る前にあの2人に仕えているアイルー……確かスィドリームにレンピカだったか?
……に確認した通り、2人の武器はヘビィボウガンと双剣みたいだな。
ついでにベースキャンプに置いてあったヘビィボウガンのケースによると、
翠星石のボウガンは『インジェクションガン』。
あわよくばと思っていたけれども、『火炎弾』は持ってきておいて正解だった」
「一体どういうこと、ジュン?」
真紅に問われたジュン。
半年前のミスを経て、ジュンは確実に己の作戦立案能力が上がってきていることを確信しながら、真紅に言う。
「双剣使いとヘビィボウガン使いを迎えてフルフルと対峙するなら――」
西に歩を進める2人に、そろそろフラヒヤ山脈の冷たい山風が届き始める。
『ホットミート』を食べた体を通じてでも、その冷たさは彼らの身を引き締めるには十二分。
「――ボクの持ってきたアイテムは、必ず役に立つ。あの2人の力を、100%以上に引き出してみせる」
ジュンは、フラヒヤ山脈の氷河のように、崩れることない信念を込めて、真紅に言い切って見せた。

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