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──ん~。
午後4時半を回ったが、今日はピンポンが鳴らない。
今日は昼過ぎから空がどんよりとしていて、時折小雨がぱらついている。
雨だから、ここに来るのがめんどくさくなったのか。

それに、昨日揉めたばかりだし、
今日は…意地でも来ないんだろう。
メールも電話も昨日の晩から全然反応がない。ダメだ。
さすがにちょっと焦ってきた。

──それにしても、昨日の翠星石は…わかんないな。

ABCなんてもう放置したらいいんだよ。
あいつらと、それの周りに集ってる人間とさえ会わなければ、
今なら普通に家の外に出れると思うしな。

水銀燈から言われたことも明確に覚えてるけどさ、
何かもう現状で満足だよ。
僕は──

…にしても、今日は学校で絶対何か起きてるはず。
早く学校の様子を聞きたいところだ。
確か、翠星石んとこのお母さんが梅岡に僕のことを話す日って昨日だったしな。

…他に何もやる気が起きないし、
6時まで、門扉の前で待ってみるか。

~~~~~

午後5時前。
未だに翠星石は姿を現さない。
風がただ僕の身体を通り抜けるように吹くだけだった。
雨がただ僕の身体に突き刺さるように降るだけだった──

…。

…。

ジ「…あ」

ひょこんと向こうの方に現れた、僕と同じくらいの背の、長髪の女の子…
見覚えのある黒い部屋着、そして何故かツッカケを履いていて、
緑の傘をさしている──

──どう考えても翠星石だ。

…おぉ…良かった。
怒らせてから暫く無視られるかと思ったよ…。

さて、その翠星石。
僕を見つけた瞬間、何を思ってか、急に立ち止まったが、
再び、慌てるように僕の方に駆け寄ってきた。

翠「…」
ジ「…」

僕の目の前で立ち止ま───

翠「バカチン!」
ジ「…は?」

…。

翠「独りで外にいて、ABCがまたここに来たらど~するですかっ!
  おめぇが前にここで絡まれてたのも、同じような時間だったじゃないですか!」
ジ「…」

勢いに押される僕。
まぁ…確かにそうだと思う…。

──何も言えずにいるうちに、翠星石はカバンからノートを取り出した。

翠「こっ…これ!今日の授業の分です!」
ジ「…」

ボンッ!!
──と手渡された。

翠「今日の!晩に!また取りにくるですからね!」

翠星石は叫ぶようにそう言い残し、猛ダッシュで帰っていった。

ズデッ…

翠「きゃっ!」

──転んだ…。

ジ「…」

その上、なっかなか起き上がらない。
…明らかに様子がおかしい。

…僕は急いで駆けつけた。

ジ「…どうしたんだ…」
翠「えぐっ…ひぐっ…」

…絶対今のでどこか擦り剥いてるよな…。

ジ「…怪我は?」
翠「ひっく…うっぐ…」

──僕はいつまでも何も言わない翠星石に我慢できなくなった。

ジ「転んだぐらいで泣くなよ」

翠星石は充血した目で僕を睨んだ。

翠「うるせぇです!」

そしてワッと起き上がり、また逃げるように走り去っていった。

ジ「…」

~~~~~

僕は自分の部屋で考えていた。

さっきの翠星石、ほんと何だったんだろ…。
いつもより遅く来て、部屋着にツッカケって…。
しかもツッカケって…雨なのに足濡れるの分かってるだろうに…。

それに、また取りにくるなら、僕の部屋にいてくれたらいいのに。
怪我の手当ても出来るのに。
…まぁ、何か余程の用事でもあるんだろうかなあ。

──な~んてことを考えてる場合じゃないや。
翠星石が来るまでにやらないと…

ということで、翠星石に貸してもらったノートを開き、
僕のノートに今日の授業の分をよく目を通してから書き写す──

──そうして、時間は過ぎていった。

ピーンポーン

…ん?
ねーちゃんはまだ帰ってくる時間じゃないぞ…?
誰だ?

──と、インターホンのディスプレイを確認したところ、
そこに映っていたのは蒼星石だった。

ジ「はい」
蒼「蒼星石だよ」
ジ「うぃ。開けるよ」

ガチャ…

蒼「おじゃまします」
ジ「はいよ」

よく見ると、制服姿だけどカバンを持ってない。手ぶらだ。
一旦家に帰ったんだろうか。

蒼「のりさんは…?」
ジ「まだ帰ってないよ。いつも通り、大会も近いし」
蒼「だよね。水銀燈も去年のこの時期はやたら遅かったし」
ジ「今日は剣道部は終わりがちょっと早かったんだね」
蒼「うん。まぁね」
ジ「柏葉は?」
蒼「塾…だって」

僕は蒼星石をダイニングに連れて、テーブルに座ってもらった。
そこで麦茶を飲みながら、会話に花を咲かせた。

蒼「最近ゆっくり話す機会がなかったから、今日はどうかなって思って
  来てみたんだ。突然でごめんね」
ジ「あ、いや、別にいつでも来ていいよ」
蒼「そう。ありがと」

蒼星石は冷えた麦茶を口にした。

僕は、翠星石に聞けなかったことを聞こうと思った。

ジ「あのさ…最近学校はどうよ?」
蒼「僕のクラスでは相変わらず…なんだけど…」
ジ「…そうか」
蒼「でも、翠星石は頑張ってるよ。かなり」
ジ「ふ~ん」

自分のクラスはどうなんだろう──
僕はうわの空だった。

蒼「…何かあったの?」
ジ「…え?」
蒼「なんか、さっきから意識がどっか行ってる感じがして…」
ジ「あ、ああ」
蒼「…」
ジ「…翠星石と喧嘩した」
蒼「またぁ?」

蒼星石は呆れ声を上げた。
…毎度のことだからなぁ…。

ジ「しかも今回は全然仲直りできる気がしない」
蒼「──とか言って、いつも仲直りしてるじゃん」
ジ「…でも、今日は変な形で逃げられたし」
蒼「あ、だから膝を擦りむいてたのか…」
ジ「…」
蒼「あ、翠星石は家では別に何ともないよ」
ジ「…」
蒼「今日家に帰ったら翠星石が玄関を開けてくれてね、
  ついでにジュン君のことを聞いてみたら、嬉しそうに話してたのになぁ」
ジ「…どんな風に?」
蒼「『ジュンの奴なら順調にヒッキーもどき生活を送ってるですよ~♪』って」
ジ「…」
蒼「あと『今日なんて玄関の外に出て待っててくれたですぅ~♪』って」
ジ「…」
蒼「何か色々あったみたいだけど、別に気にしなくていいと思うよ」

~~~~~

蒼星石が帰った後、僕は自分の部屋に戻り、
さっきの続きでノートの内容を写した。

──そして、書き写してから演習問題を適当に解き、
今日の勉強はひとまず終わった。

じゃ、1階に降りて、翠星石が取りに来るまで適当にテレビでも観るか…。
でも僕が返しに行ってもいいんだけどなあ。家も近いし…。

ガチャ…

…。

…。

下に下りると、リビングのドアが開きっぱなしで、
リビングにねーちゃんがいるのが見えた。

あれ?
玄関の開く音が聞こえなかったんだけど…。

ジ「…」

水銀燈らしき人が、ソファに座っている。

銀「…」

目が合った。
はっきりと見つめ合った。

──目を剥く水銀燈。
その豊富な銀髪もまるで逆立ってるような雰囲気だ…。
そして、ぬっと立ち上がった。

ジ「!」

心臓が止まりそうになった…。
無我夢中で階段を必死に駆け上がる。
──何で…僕、また何かしたっけ?

…ガチャン!!

ジ「…隠れるトコどこだぁ…どこだぁ…」

部屋に戻り、ひたすらに隠れるところを探す。
ベッドの下に隠れようとするも、頭やら肩が引っ掛かって入れない…
机の下なんて丸見えだし…

…ダッダッダッ…

ジ「ギャアアアアアアアア!!!」

ピンポンピンポンピンポンピンポン!!

僕は迷わず窓を開け、身を乗り出した。
──うおっ!下、何もない…。

翠「きゃぁーーーーーーーーッ!!!」

~~~~~

の「すみませんでした──」

悲鳴を聞いて駆けつけてきた近所の人たちは皆、
呆れた表情を浮かべて各々の家へと戻っていった。
ホントすみませんでした…。

そしてリビングに戻ってから、思いっきりねーちゃんに叱られた。

の「何てことしてくれたの!…窓から身を乗り出すって…」
銀「ホント馬鹿ねぇ!」

ダイニングのテーブルに座った水銀燈。
ピシャリと言うその背中が震えている。

ジ「…水銀燈が…怖かったから…」

水銀燈が握り拳でテーブルをドン!!と叩いた。

ジ「…」
銀「何であんたたちは…なんで…」

水銀燈の声が裏返る──
ねーちゃんがそっと僕に耳打ちした。

の「水銀燈がね、今朝翠星石ちゃんと蒼星石ちゃんの話を耳にしたんだって。
  ラクロス部の顧問の先生がジュンくんを苛めてる人の親だってことを──」
ジ「…」
の「それからずっとあんな感じなのよぉ。学校でも…」

…あちゃー。
遂に…この時が来たか…。

銀「…私に…隠してたってわけぇ??」
ジ「あの…水銀燈が聞いたらショックでどうにかなるんじゃないかって──」
銀「…」

だって大会もいよいよらしいし…。
そんな事、言えるわけないだろ…!

その一方で翠星石は、完全に脱力した感じでソファに座り込み、
我ここにあらずといった感じで、ある一点をじっと見つめていた…。

翠「今日は…ジュンの部屋に泊まらせて欲しいです…」
の「──ジュンくんと翠星石ちゃんの御両親の許可があれば…いいわよぉ」

翠星石は懇願するような眼で僕を見つめてきた。

ジ「まぁ、好きにしてくれ…」
翠「じゃあ携帯で家に連絡するです…
  明日学校でも、別に6時に起きて帰れば問題ないですし…」

翠星石はおもむろにポケットから携帯を取り出した。
そしてボソッと呟く。

翠「まさか…自殺未遂なんて──」
ジ「いや、自殺なんて…」

──場の空気が止まった。
僕、そんなつもりじゃなかったんだけどな…。
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