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この、息のつまりそうな街で。





NE

第三話

「Taste  of  love」





「なぁ、お前は、これが終わったあとはどうするんだ?」
「さあな。俺は、こんな糞みたいなとこから早く抜け出したいだけだよ。
 それから先のことなんて、考えてらんねぇじゃねえか」
「それもそうね。今は、それしかないわよ」
「んだよ。俺だけか。先のこと考えてんのは」

少年たちが、不確定な未来について話している。
そこだけ見れば、普通の会話にも見えるだろう。
彼ら自身とても楽しそうに話しているからか。

「へぇ。じゃあ、教えろよ。お前が考えていること」

一人が、笑いながら、からかうように尋ねた。

「やだよ。ぜってー言わねぇ」

同じように、笑いながら、仲間の軽口に答えている。

「ちっ。けちだなぁー。お前は。減るもんじゃねぇのに」
「うっせー、馬鹿」

実に楽しそうだった。

「私は、この街から出て、何もない、完璧な世界に行きたい」

と、唐突に私は声を発した。
話していた四人全員が、こっちを見る。
普段から口数の少ない私が、そんなことを言い出したからだろう、彼らは驚いていた。

「どんなとこだよ、そこって」

一人が、流石に聞いてきた。

「わからない。でも、ここより遥かにマシなとこ。例えるなら・・・砂丘みたいな世界」

「わけわかんねぇって」
くつくつ笑いながら、まだ聞いてくる。
しかし私は、この話は終わりというように、毛布を体に軽く巻きつけた。

「仕方ないな。じゃあ、明日の手順について、もう一度確認するぞ」

私たちは明日、宝石店を襲う。



拳銃五丁、車一台が今の状況だ。
一週間と少し前、誰かの車が盗まれた。六人乗りのだ。
そして一週間前、少し離れた三か所の交番から拳銃が計七丁奪われた。
その二日後、一丁の拳銃が、その翌日、もう一丁の拳銃が回収された。

その時所持していた人間はともに、犯行を否定、誰かから買ったものだと主張。
この回収劇の裏側には、密告電話が絡んでいる。

無論、真犯人は私たちだ。
拳銃を買った二人はともに、誰かに恨みを持っていて、殺す手段を探していたところだった。

そんなことなんて、見ればわかる。
殺意なんて、最もわかりやすい感情の一つだろう。
感じ取ることができるのが、普通ではなく、私だけだということに気づいたのはかなり後のことではあるが。

二人とも、訝しみながらも、この渡りに船な話に結局は乗った。

しかし、復讐はダメだろう、全く知らない誰かさんがみすみす殺されてゆくのは可哀そうだ、ということで、
通報してあげたのだった。

まぁ、銃弾は売りつけた拳銃には一発ずつしか入ってなかったわけだから、警察側も真犯人を必死に探しているのだが。


計画は、簡単にいえば、二人が、車に乗り逃亡を手伝い、残り三人で実行する予定だ。
なぜ車に二人もいるのかは、片方が車の運転、周りの警戒。
もう片方が、警察無線の傍受である。

傍受なんて、ゴミの山を漁ればすぐに部品を見つけられるし、組み立てられる。



そして、詳しい確認を終えたあと、全員が、翌日のために寝静まる中、一人未来について考える。
彼らは、一人を除いて本当に、何も考えていないだろう。
それを、馬鹿だ、なんて笑う気には不思議となれなかった。

未来について考えてはいるが、誰にも言わなかった彼は、きっとそのあと復讐をするのだろう。
復讐。何が彼をそれに駆り立てるのか。
その理由は、おそらく私しか知らされていない。

もともと、彼の父親は、警官であったらしい。
それもかなり、正義感の強い。
だが、そのせいで彼は死ぬことになった。
殉死だった。相棒を庇っての。

だが、賞賛されるべき行為は、責任逃れのものとされてしまった。
詳しくは知らない。誰かに汚職を擦り付けられたらしい。
誰かはハッキリしていないが、大体の見当は付いていると、彼はいう。

この街で上に登りつめるのは、不可能に近いが、没落だけは、とてつもなく早い。
幼き頃に、そんな経験をした彼は、ずっと大きな憎しみを持ち続け、今となっては、その一人にだけではなく、
社会全体に対するものへと、成長してしまった。

なぜ、この話を私にしたのかは、私にはわからない。
私に対して、似たものを感じ取ったのかも知れない。



今となっては知ることなど出来ないが。



そして、夕方、運命の時。
終わりの始まり、蒔かれた種。
天国の口、終りの楽園。



「なんだよクソッ!」
助手席に座った一人が叫ぶ。
仕方がないことだろう。
これは、喜劇としても最悪だ。
優しすぎる悲劇。悲しすぎる喜劇。

「なんで、俺らが狙ってたとこに先客がいるんだよ!」

そう、襲われているのだ。例の宝石店が。私たち以外の誰かたちに。

「あり得るかよクソがッ!」

さあ行こう、と車のドアに手をかけた瞬間、店内から銃声が聞こえてきたのだった。
なんだと思い、よく見てみると中には黒いマスクを被ったのが複数。
急いで逃げてきたというわけだ。



ある程度距離を置いたところで、愚痴をこぼしている。

「畜生ッ」
「まあ、落ちつけよ。こればかりは仕方ないだろ、偶然なんだからさ」
「出来るかよッ!俺には今日しかないんだよッ」
「落ち着きなさいって。何があるのかは分からないけどさ。だったら、別のところにすればいいんじゃない?」

「……」
私はただこの提案には沈黙するしかなかった。
彼に何があるのかは私にも分からないが、こんなことを承諾するとは思えなかった。

「んなことッ……。いや……。やり方を少し変えれば……。……いける」

私は驚かざるをえなかった。あそこまで慎重だった彼があっさりと受け入れるなんて。

「ちょ、ちょっと。待って。あり得ないって。そんなにあっさり変えて・・・」
当然止めようとした。

だが、
「いや、心配すんな。いける。大丈夫だから。な、やるぞ。
 じゃあ、どこにするか?ここのすぐ近くは嫌だしな」
と私の意見はあっさりと却下されてしまった。



なぜ、私は流されてしまったのだろうか。
なぜ、私はここで下りなかったのだろうか。
なぜ、私はいやな予感に従わなかったのだろうか。

予感というのは、案外当たるものなのに・・・



「じゃあ、基本は最初の計画と同じだな。行くぞ」

宝石店から少し離れた銀行の前、私たちはそこにいた。


ここから先は、一瞬のことのように感じた。



銀行に入ってゆく彼ら三人。



受付に近づいてゆく二人。


お前ら動くな金を出せッ、と叫んだ声。


一発の威嚇射撃。


おそらくこの時だろう、隙をついたのか、一人の公務員が、受付下の緊急ベルを押した。


それに気づいた少年が、それを、撃った。


赤い花。


外にいる私たちにも、その音は届き、警察無線を傍受していた少女が、通報されたことを確認し、
中へと急いだ。


まだ、車のハンドルを握っている私。


あれよあれよという間に、パトカーに囲まれた銀行。


始まった銃撃戦。


私は、アクセルを思い切り踏み込んだ。
銀行へと向けて。


飛び散るガラス。
フロントを転がる、銃を持った警官。


死を覚悟した。


車から飛び出し、仲間のいるはずのカウンターへと腰をかがめ、走る。
銃弾が何発か、身を掠めたが、気になるものではない。

カウンターへと潜り込み、怪我をしているものの、まだ生きている全員を確認した。
ほんの少しだけホッとした。まだ、生きている。
みんなバラバラのところにもいる。
あるものは、同じようにカウンターを盾に、あるものは壁に背をぴったりとつけ、あるものは、死体を盾にしてだ。

私以外は、全員警官に向けて数発発砲していたが、命中させてはいなさそうだった。

残りの銃弾にこの時はまだ余裕があった。

時間にして、三分も立っていないだろうが、突然焼けつくような痛みを感じた。
撃たれたというわけではない。
とてつもない殺意。
後にも先にも味わうことはないであろう、あまりに強すぎる憎しみ。



見れば、一人が誰かの名前を叫びながら、盾にしていたものから離れ、銃弾を連射していた。



突然、焼けつくような痛みが途切れた。
私は、何も見ていない。嘘だ。すべてを見ていた。



叫び声があふれ出していたその口へ、まるで蓋をするように、一発の、銃弾が、流れた。

後頭部に、赤い、大きな、血の、花が、咲いた。

さらに、数発、銃弾が、撃ち込まれる。

バスバス、と肉は、削がれて、いく。

体は、床に、大きく、模様を、描きながら、倒れた。

あとには、痛いほどの、静寂だけが、残った。



ここから先、終幕へは早かった。


それを見て、恐怖した三人が、急いで逃げようと体を乗り出す。
どこへ逃げるのだろうか?

その時、私はカウンターの下から体を少しだけ乗り出し、一発。
一発だけ、銃弾を放った。

それは、一人の警官の体の中へ吸い込まれるようにして消えた。

しかし、逃げようとしていた三人へ、容赦なく弾丸は放たれる。

肉を裂き、骨を断つ重い雨。



命、尽きようとしていた少女が、最後の一言を叫んだ。



「あんたのせいよ!」



ここからはもう覚えていない。

目の前には気づけば、大いなる闇が広がっていた。





DUNE 第三話「Taste  of  love」 了

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