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「……相変わらず、いつ着ても最悪ねぇ…」
白衣に袖を通しながら、水銀燈が小さな声でぼやいた。

「だったら、何でそんなの着るんだよ…」
ジュンが小さな声でつっ込む。
「……可愛い銀ちゃんが見れるように……私が考えた伝統だよ……?」
ニヤニヤしながら、薔薇水晶が水銀燈に視線を向ける。

「ほらそこ!もうすぐ授業が始まるよ!」
蒼星石が全員に聞こえる声で注意を促す。
「わかったら、てめぇらサッサと席につきやがれですぅ!」
翠星石が雛苺のほっぺたをつねる。

「……ぴぎゃーーー!!」
「た…大変かしら!?メディック!メディーーーック!!」
小さな二人が泣いたり騒いだり慌ただしく動いている。

雪華綺晶は壁際にもたれかかりながら、その光景に苦笑いしている。


アジトの中の、作戦会議室。
人数が多い事を除けば…いつもとあまり変わらない光景だった…。



     20.最後の戦いへ 闘う理由



 
「初めに言っておくけど…今回の作戦は、参加するかどうかは各自で決めなさぁい…」
水銀燈が白衣を羽織ながら、ホワイトボードにキュキュっと地形を書き込む。

そして、理解してるのかしてないのか。
やたらと頷いている雛苺に視線を向けた。
「そこのおチビさん…その子と初めて会ったときに見かけた警備用の機械人形が町中に配備されていて…
そこを突っ切って、街の中心、『薔薇屋敷』まで突入。目標の破壊と、脱出経路の確保。
かいつまんで言うと、そんな所ねぇ」

「敵は、どの程度の戦力なんだい?」
蒼星石が手元の資料に目を通しながら尋ねる。
「かなりの数、って事は確かねぇ」
「……そう…」

考え込む沈黙が広がる。

「人形は屋敷の中に有る制御装置を破壊すれば、動かなくなるから…」
ジュンが発破をかけるように声を上げる。
「それで、どうやって肝心の装置まで行けばいいのかしら…?」
「…それは……」

誰かが小さなため息をつく音が聞こえた。

「……陽動部隊と潜入部隊……二手に別れて……」
薔薇水晶が地図に目を向けたまま、小さな声で言う。
「全員参加、という前提は、今回は無しですわよ?」
「…ぅぐ……」

 

「…とりあえず…こうしててもラチが開かないわねぇ……
圧倒的に不利な状況。それでも…やってみる子、誰かいるかしらぁ?」
水銀燈は全員に視線を向け、椅子に座り足を組みなおす。

「…私と雛苺は参加しますわ。
紅薔薇のお姉様の事でもありますし……それに…お父様の仇でもありますし……」
「……私も行く………もう……きらきーにだけ無茶させるのはイヤ……」
雪華綺晶と、薔薇水晶。

「これで4人…まぁ、何とかなるかもしれないわねぇ…」
水銀燈はそう言うも…それが嘘だと分かっていた。
たった4人。作戦を練るまでも無い人数。

だが…
かといって、何の因縁も無い人間を巻き込むのは…どこか気が引けた。

水銀燈は作り笑いを浮かべながら、誰とも視線を合わせないように資料に目を向け――


「カナも行くかしら!正義の『技術屋』の一人として、技術の悪用は許せないかしら!!」
金糸雀がガタンと立ち上が音が派手に響く。

「…全く…戦力差を考えると、全然足りてないね……僕もご一緒するよ」
蒼星石がテンガロンハットを目深にかぶり、口の端を持ち上げる。

「てめぇらの体を隅々まで知ってる私が、しゃーなしに付いて行ってやるですぅ!
…も…もちろん、医療的な意味でですよ!?」
翠星石が一人で舞い上がり、蒼星石が苦笑いしながらなだめる。

 

「なによぉ……結局、全員じゃない……馬鹿じゃないのぉ…」
いつの間にか視線を向けてくる全員から顔を隠すように俯き、水銀燈は呟いた。

薄っぺらなものだと思っていた。いつしか、心の中で大切なものに変わっていた。
仲間との絆。
それを感じていたのは、自分だけじゃなくって……

胸に何か、温かい感じが広がるが……だが、流されるべきではない。
勝ち目の薄い闘い。リーダーとして、それを忘れてはならない。

決意を秘めた眼差しを向けてくる全員に、再び視線を向け…
そして水銀燈の目が、一人の人間に向けられ止まった。
「…そうねぇ…あなたはここに残りなさい」

「な…!!?カナもチームの一員かしら!そんなのあんまりかしら!!」
突然向けられた突き放すような言葉に、金糸雀は驚き…それでも、抗議の声を上げる。

水銀燈は落ち着いた様子で、金糸雀の言葉を遮る。
「そう…でも、あなたは戦いは不得手でしょぉ?戦力で言うなら…そのおチビさんと同じ位よねぇ…?」
横目で雛苺に視線を向け…そして再び、真っ直ぐ金糸雀を見つめる。
「ただ、あなたは…その子と比べて、闘う理由が無い。だから……あなたはお留守番、って事ねぇ」

「…!!」
金糸雀は立ち上がったまま、何も答えない。
やがて…その目の端にうっすら涙を溜めながら、会議室から飛び出していった――

 
―※―※―※―※―


「…ぅぅ…ぐすっ……」
機械片の散らばった自室の隅で、金糸雀は膝を抱えて泣いていた。

水銀燈の言う事も、分からないでもない。

確かに、自分が参加した所でろくな戦力にならないだろう。
それどころか、無駄死にする可能性が高いだけ。
言い方こそキツかったが…冷静に考えると、水銀燈なりの優しさにすら思えた。

それでも…

突き放されたような気がして、悲しかった。

「…ひぐ……ぐす……」
悲しさは、正常な判断を失わせる。
金糸雀は泣きながら、荷物をまとめだした。

――ここから出て行こう
暮らす内、すっかり荷物の多くなった部屋の中で、背中を丸めて泣きながら手元に荷物をかき集める。

雑に積まれた多くの物は、ゴミにしか見えない。
それでも、それらをかき集める金糸雀には……どれもが全て、思い出の詰まった大切な物だった…。

 
すっかり壊れた、試作品のGPS――
これのお陰で、荒野で迷子になり、干物みたいになった。

ひしゃげて、使い物にならない機械人形の破片――
初めて雛苺に出会った時の戦利品。

せっせと量産していた、雛苺用の発破『ベリーベル』――
思えば、これを必死に避けてまわった事もあった。

逆さに吊るして、ドライフラワーにした真っ赤な薔薇――
金属で作った造花とこれを、雛苺と二人で交換しあった。

サブマシンガン『メイメイ』の弾丸と弾倉――
二度とみっちゃんがさらわれないように…寂しい思いをしないで済むように…
チームの一員になった時、水銀燈に渡したハンドメイドの銃。その部品。


どれもゴミ同然だったり、替えの効く物ばかりだったが…どれも、大切な思い出の品だった。

「……ぐすっ…」
気がつけば、金糸雀の涙は止まりかけていた。
「みっちゃん……ごめんなさいかしら…」
呟き、紙とペンを取る。

大切な…今まで作った何より、大事な思い出。それをくれた、仲間。

例え止められようが、怒られようが、こんな所で置いてけぼりは寂しすぎた。
 
マイペースで、料理が前衛的で、強くて、格好良くて…そんなリーダー。水銀燈。
冷静かと思ったら、姉のことになると目の色の変わり…それでも、誰より頼りになる蒼星石。
いっつも苛めてくるけど、肝心な時には…やっぱり口は悪いけど、助けてくれる翠星石。
無口で不器用だけど、とっても優しい薔薇水晶。皆のお姉さんみたいな雪華綺晶。
そして……雛苺。

例えそれが、どんな危険な場所でも……皆と一緒に居たい。そう思った。


「…みっちゃん…これを読んでる時、カナはどうしてるかしら?
出来れば、元気に飛びまわってるのが嬉しいかしら…
……みっちゃん。カナは、とっても大切なお友達が沢山出来たかしら…―――」
紙の上にペンを走らせる。

――闘う理由が無い――
水銀燈には、そう言われた。
――仲間と一緒に――
闘う理由は、しっかり有った。

小さな体に大きな決意を秘め、金糸雀は手紙を書く。
遠く離れた相手に語りかけるように、手紙に文字を書き連ねる―――

「……これが…最後のお手紙になるかもしれないかしら……―――」

 
―※―※―※―※―


翌朝…。

日の出より早く、水銀燈達は出発の準備を始める。

少しでも敵に見つかるのを遅くする為、馬は途中までしか使えない。
十分な装備を確認しながら、それぞれ準備を進め―――

「カナも…ご一緒するかしら!!」
大きなリュックを背負った金糸雀の声が、全員の手を止めた。

「確かに…力不足かもしれないけど……それでも、チームの一員かしら!皆の仲間かしら!!」

全員の視線が金糸雀に降り注ぎ…そして…水銀燈に向けられる。

全身に視線を感じながら…水銀燈は目もあわせずに答えた。
「ごめんなさいねぇ。足手まといは連れて行けないのよぉ…」

リーダーの決定であり……少し寂しくもあるが、妥当な判断。
誰もが、そんな考えが脳裏によぎり―――

だが、金糸雀だけは別だった。
金糸雀だけは、この会話を覚えていた。 

初めて水銀燈と出会い…そして、チームに加えてくれと頼んだ時。
同じ仕草、同じ言葉。

「こう見えても、カナは『技術屋』かしら…」
そう言い、リュックの中から徹夜で作った大量の弾薬を取り出す。
「……必ず…お役に立ってみせるかしら……!」


水銀燈はため息混じりに振り返り…そっと金糸雀の頭に手を置いた。
そして…金糸雀の頭を掴んだ手に、ミシミシと力を込める…

「相変わらず…意気込みだけは一人前ねぇ…?」
いつかと…いつもと同じように、ニヤリと口を持ち上げる。

「その様子じゃあ、止めたって付いて来る気だろ?」
蒼星石が苦笑いを浮かべながら言う。
「足引っ張るようだったら、荒野のど真ん中に置いて行くですよ?」
翠星石がほっぺたをつねってくる。
「……意地っ張りさん……」
薔薇水晶が額にチョップをしてくる。


「…でぇ?準備は出来てるんでしょうねぇ…?」
「もちろんかしら!!」

 
―※―※―※―※―

朝日が昇る。

水銀燈は眩しく輝く地平線に視線を向けながら、煙草に火を付けた。


最凶の敵。過去の因縁。共に歩む仲間。知らずの内に築かれた絆。
もう、悩むべき時は終わったように感じる。


煙草の煙をゆっくり吐き、全員の顔を改めて見る。
誰の顔にも、迷いは無いように見えた。


知らずの内に、笑っている自分に気がついた。
「さぁて…派手に行くわよぉ…!」


果てしなく広がる荒野に…全てを終わらせるべき場所へ向け、足を踏み出す―――――





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