※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

――からたちの 花が咲いたよ
           白い 白い 花が咲いたよ ―――……



歌を歌い終えた水銀燈は――静かに目を瞑り――そして、頭上に輝く星空に視線を向けた。

「素敵な歌だね…」
「…でも…どこか切ない感じがするですぅ」
聞こえてきた感想に、水銀燈は少し目を細め…だが、すぐにいつもの表情で全員を見つめる。

「さぁて、座談会もそろそろお開きにしないと…明日からの仕事に響いても知らないわよぉ?」
手をヒラヒラさせながら、皆に帰るように促す。

名残惜しそうに、全員がアジトへと戻る中、ただ一人、その場に残る人影。
薔薇水晶がその姿に気が付き、心配げな視線を向けるが――

向けられた背中と、いつに無いその雰囲気に…
かけるべき言葉が見つからず、躊躇いがちにではあったが、アジトへと戻っていった。





   19.それぞれの想い



 
星空の下。
一人残った水銀燈はポケットから煙草を取り出し、オイルライターで火を付けた。

…随分と長く使ったせいで、施されていた薔薇の装飾はすっかり剥げ落ち、
それが何なのか認識する事すら最早難しい状態。

水銀燈はそんなライターを指の腹で撫で…そして、手の中にしまった。


…仇を討つ。それに興味が無かった訳ではない。

腕の立つ双子の傭兵とチームを組む事にした。
敵だった狙撃手を、仲間に迎え入れもした。
拠点を定め、情報を集めやすい環境も整えた。
そして…弾道を読まれない『曲撃ち』という芸当…。

だが…仇の居場所を突き止める。その一番肝心な箇所が、スッポリと抜け落ちたままだった。

『荒野を自由に飛びまわる』
その目的だけを振り回し、好き勝手に暴れ続けた。


そして…全くの偶然。
真紅とかいう気に喰わない人間の出現……そして、掴んだ仇の尻尾。


「…そろそろ……ケリをつける時…ってヤツかしらねぇ…」
一人、呟く。

 

確かに、一人なら…
一人で戦いに行くのなら、問題は無い。唯一、問題が有るとすれば、戦力的に勝ち目が無い事。

かといって…

荒野を駆け回る中で築かれた絆。
初めは、目的が有って仲間を増やした。いざという時は、替えが効くと思っていた時期すら有った。
だが、気が付けば、一人一人が決して欠かす事の出来ない仲間になっていた。

そんな仲間を、勝ち目の薄い戦いへと連れて行く?


「……バカじゃないの…」
誰に向けるでもなく、小さく呟く。

いつの間に、私はこんな仲間想いな人間になったのだろう?
冷笑的に考えていた他人との繋がりに、いつから安らぎを感じるようになったのだろう?

考えてみても…結局、答えは見つからない。
どうするべきかも、見えてこない。


水銀燈は、小さくため息をつくだけだった。



 

―※―※―※―※―


「ブラボォ!!素晴しい!」

真紅は屋敷の一室でテーブルに着きながら、
大仰な身振りで話す長髪の男――白崎と名乗った――と向かい合っていた。

「まさか梅岡も、流れ弾で死ぬとは運が無かったのでしょうな。
しかし、彼と彼が監禁していた『技術屋(マエストロ)』…たしか…」
「ジュンよ。桜田ジュン」
「ふむ…とにかく、彼らの研究成果は素晴しいものです!」

そう言い、白崎は真紅が届けた資料を机の上に置いた。

「そんなに素晴しい情報を届けたんだもの。何かお礼をするべきじゃないの?」
仮面のように表情を浮かべない顔で、真紅は淡々と告げる。


「…確かに。確かに貴方は梅岡の護衛には失敗しましたが…
それでも、この情報をもたらしてくれた事にはそれ以上の価値があります」
そう言い、大き目の鞄をドサリと机の上に置いた。

「十分な報酬をこちらで用意させて頂きました。どうぞ、お受け取り…」
「いらないわ」
大金の詰まった鞄を前に、真紅は感情の無い声で白崎を遮る。
 

「梅岡から事情は聞いてるのだわ。……私もお仲間に入れて頂戴」


死人に口無し。
全くのデタラメだが、梅岡が死んだ今となっては確認し様も無い。


全て、あらかじめ決めた予定通りに話を進める。
何の問題も無い。大丈夫。

自分にそう言い聞かせるも…
真紅は、手の中に冷たい汗が広がる感覚に歯噛みした。


…ここは、敵の口の中。
いつ、その牙が自身を貫いてもおかしくは無い。


少しでも感情が出たら、その瞬間に恐怖に押し潰されそうな予感が全身を静かに駆ける。

人形のように、感情を見出せない表情で、真紅は紅茶を口に運ぶ…
「良いリーフを使っているわね」


本当は味覚を感じる余裕など、無かった。


 

―※―※―※―※―


小さな音を立てて、半分程まで紅茶の減ったポットがテーブルの上に置かれた。
「いただきます…」
小さくそう言い、巴が透き通る紅茶のカップを口に運ぶ。

テーブルを囲む、ジュンと巴とオディール。
カップがカチャカチャと鳴る音以外は、何一つとして存在しなかった。


「それで真紅は……死ぬのか…?」
沈黙を破ったジュンの声が…さらに深い沈黙を広げる。

誰も、何も、答えない。
まるで物音を立てる事すらはばかられるように、巴とオディールはカップを宙に静止させる。
呼吸ですら止めたくなるような静寂だけが、部屋に広がった…。

「……説明が必要なのか?」
苛立たしげにカップを置き、ジュンが再び静寂を破る。

「…ずっと…梅岡に閉じ込められて、研究させられてたんだ…分かるさ。『Alice』はじき、起動する。
そうすれば…『Alice』は大気に散った水蒸気を集め雲を作り…雲を集めて嵐を作る。
……自由に嵐を操る敵…そんなの、勝てる訳が無いだろ…」

語りかけるようなジュンの口調も、やがて、搾り出すような小さな声になる。
 
「だったら…嵐を起こされる前に、『Alice』を破壊する。
その為に、真紅は一人で残ったんだろ?……自分の逃げ道も考えずにさ…」
カップの中に残った紅茶に語りかけるように、低いトーンの声だけがジュンの口から流れ出た。

「なあ、柏葉……何で…何で止めなかったんだよ!」
声を荒げる、という程では無かったが…それでも、どんな声より痛々しく、その言葉だけが響いた。

巴は持ち上げていたカップを静かに置き…だが、何も答えようとはしなかった。


再び広がった沈黙。
…それを破ったのは、苛立たしげなジュンでも、俯いた巴でもなかった。


「…あなたに何が分かるのよ……」
オディールが小さく、呻くような声で呟く。
そして、ジュンの目を射すくめるように真っ直ぐ見つめながら、今度ははっきりとした声で口を開いた。

「…守るべき村を、目の前で破壊され…自分の無力さに自殺すら考え…
それでも真紅は、こんな悲劇を二度と繰り返さない為……自ら手を汚し続けてきたのよ…?」

オディールは胸に下げたロケットを、そっと撫でる。
「…私だって、そう。目の前でおばあさまを殺され…絶望に囚われていた。
だけど、闘い続ける真紅と雛苺に出会って……
私は『あなたも闘いなさい』と、おばあさまが導いてくれた……そう思ったわ…」
 

「真紅は、自分なりのやり方で『Alice』に至る。そう言って、私達を導いてきたわ…。
それは…それだけが、私や巴や雪華綺晶や雛苺にとって……希望だったのよ」
氷のような視線を、オディールはジュンに向ける。
ジュンは…その目に気おされ、何も言えずにいた…。


「……ごめんなさい…喋りすぎたわね…」
そう言い、オディールはジュンから視線を逸らし、再びカップを持ち上げる。
そして内心を隠すかのように目を瞑り、紅茶を口にした。

重苦しい沈黙が再び場を支配する。


確かに、たった一人の生贄で『Alice』を止められるのなら……
たった一人が死地へ赴くだけで、脅威が無くなるというなら……

うんざりする程、合理的で……哀しい程にドライな作戦。

その考えも、ジュンにはよく理解できた。
過去に交戦し、圧倒的な力に打ちのめされ…それから囚われの身として敵の内部を見てきたジュンには…
それが最上の作戦にすら思えた。

「でも……それでも…僕は認めない…認めないぞ!」
乾いて、張り付いた喉で叫びながら、ジュンは立ち上がった。

部屋から駆け出し、扉を乱暴に開き、留めてあった馬に飛び乗り、走らせる――

 
アテは…有る。
『技術屋(マエストロ)』は、その技術秘匿の為に横の繋がりが強い。
こんな頭で良かったら、いくらでも下げてやる。

それに……

あの時…唯一、師と仰いだ人間が連れてきた、銀髪の少女。自身の救出の際にも、現れた人物。



残された時間は、そう長くない。


ジュンは水銀燈のアジトを目指し、荒野へと走り出した―――




                                     ⇒ see you next Wilds!!

|