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―※―※―※―※―

ラプラスに謀られ、町は炎に包まれた。

水銀燈とめぐはラプラスを追い、とある建物に辿り着く。
そこで奇襲をかけるべく二手に別れた二人。
ラプラスの背後に回る為、建物内を走る水銀燈は、そこでAliceという巨大な機械を発見する。
そして…その背後から……本来ならめぐと交戦中のラプラスが声をかけてきた……。

その頃、槐は…
町の防衛手段の要である火薬庫。
ラプラスにより無力化されたそれの復旧の為、単身、攻防戦の最前線に飛び出していた…。

―※―※―※―※―


    0.自由な鳥のように、歌を歌いながら...(後編) 


―※―※―※―※―

「…派手にやってくれるわね…!」
絶え間なく続く銃声の中、めぐは思いっきり悪態をついた。

相手は一人。こちらは二人。
水銀燈と挟み撃ちにする作戦。
何も、無理をする必要は無い。

物陰から顔も出さずに、適当にウインチェスターライフルをぶっ放しながら応戦する。
とにかく、何としてでも相手の注目をこちらに集め、水銀燈の奇襲をより効果的なものにする。
その為には…
とりあえず、応戦している態度だけ見せれば良いだけの話だった。

(かといって…あんまりわざとらしいのもダメよね…)
そう考え、今度は物陰から少し身を乗り出しながら銃を構え―――

「……え?」

小さな言葉と共に、一瞬ではあるが……無防備なまま、動きが止まる。

階段の上に待ち構えていた者…それは…『者』ですら無かった。

動けないように足のパーツを砕かれ、固定砲台のように銃を撃つだけの、機械人形…
ラプラスの手引きにより、町に混乱と破壊をもたらした、悪魔の道化人形の姿…

動きが止まっためぐ――
そしてその一瞬――

銃弾が、めぐを貫いた――― 

「!!…っく!!」
肩を押さえながら、慌てて物陰に再び身を隠し――

(大丈夫…肩を撃たれた程度じゃ…死にはしないわ…)

そして、相変わらず聞こえる、絶え間ない銃声を聞きながら、考えをまとめる。


相手がもし、ラプラスだったら…血が流れていたのは、肩ではなく眉間だっただろう…
だが、相手がラプラスなら…あんな隙を見せる事も無かった。

そして…

ラプラスは…
完全にこちらの行動の一手先を読んできてる…なら……


「…水銀燈!」
めぐは自分のミスに気がつき、思わず声を上げた。


二対一を覆す作戦。
何って事は無い。

一人一人、始末すれば良いだけの話だ。

―※―※―※―※―

『パチ…パチ…』
ラプラスが手を叩く音が、部屋の中に響く。

「ブラボォ!…いやはや、まさかお嬢さんがあの包囲網を抜けこの施設に辿り着くとは…素晴しい!」

まるで役者のように大きく手を広げ、ラプラスが天を仰ぐ。

「しかも…この迷路のような通路の中で、見事Aliceにまで到る……
これには流石の私も、度肝を抜かれましたよ…クックック……」

「だったら…次は、眉間ぶち抜いてやるわぁ!」
水銀燈は素早い動きで拳銃を持ち上げ、ラプラス目掛けて続けざまに引き金を引く!

だが…

ありえない事に、ラプラスは少し体を捩ると――その全ての弾丸を避けてみせた。

「!!?」
水銀燈は必殺となる筈の一撃が空振りに終わり、一瞬顔色を変えるが……
それでも、まだ負ける訳にはいかない。
ラプラスは…銃すら抜いていないのに…。

(マズイわぁ…コイツ、本当に人間なのぉ……)
自分の常識の遥かに上を行く相手に、水銀燈は言いようの無い戦慄を覚える…

そんな水銀燈の姿に…いや、外見には動揺など見えなかったが、ラプラスは楽しそうに口の端を持ち上げた。 

「クックック……トリビァル!!
…目の動き。指先の軋み。その全てが銃口に現れ……私に弾道を教えてしまってますよ…。
もう一人のお嬢さん位、経験を積まれた方がよろしいのでは…?」

そこまで言うと、手を自分の額に当て……そして、さも嬉しそうな声で叫びを上げ―――

「ククク…クックック……いや失礼!ここで死ぬ方には、無理な話でした!」

懐からズラリと、銃身を伸ばした銃・バントラインスペシャルを取り出す。


「…寝言は…寝ながら言うものよぉ!!」
水銀燈は歯を噛み締め、ラプラスに向けてがむしゃらに引き金を引く!

だが…

「ふむ…狙えば弾道が読まれ、狙わなければ、拳銃などそうそう当るものではありません……」
嫌味な笑みを浮かべたまま…全ての弾を避けながら、水銀燈に一歩、また一歩と近づく…

「…ですが…せっかくですので……少し遊んで差し上げましょうか…」
そう言い、わざとゆっくり、バントラインの銃口を持ち上げる―――

水銀燈は横に跳び―――ラプラスの弾丸が、水銀燈の足元を抉る――!

「…無駄と知りながら…それでも必死に抵抗する様は…なんとも物悲しく……」
「ちぃ!」
水銀燈はすかさず体勢を立て直そうとし―――
「……まさに、涙を禁じえません」
―――ラプラスに脇腹を蹴り上げられた! 

本能が痛みに叫びを上げる中――

水銀燈は、自分の骨が折れる音を聞いた―――……


―※―※―※―※―


(通りで援護してくれてる仲間達も……そう長くは持たないだろう…)
槐は一心不乱に、千切れた配線を繋ぎなおす。

素手で配線を繋ぎ直すうち、指先からは血がにじみ…やがて手は、自分の血で赤く染まっていった。

それでも槐は、天才を自称する技術屋の誇りにかけて…
痛みを気にせず、黙々と作業を続ける。


痛みを気にしてる暇があるなら、一瞬でも…一秒でも早く、火薬庫の配線を修理する…

それだけを考え、一人でひたすら、ボロボロの手で配線と格闘していた。



そして…
槐は気が付いた。

いや、気が付かなかった事に、気が付いた。 


いつの間にか、通りから聞こえる銃声の間隔が広くなり……やがて止まった事に…


「……そうか……表は……全滅か……」
感情を極力抑えながら、作業を続け、呟く。

「……これが……逃げる最後のチャンス…かな…」
繋ぎ終えたコードを置き、新しい配線に手を伸ばす。

逃げるつもりは、無い。

もし、逃げ延びれたとしても…
確実に『ローゼンの技術を継ぐ男』という存在は、彼らから追われる。
そして…二人の娘達も、僕を動かす人質とする為に、必ず狙われるだろう。

もう、この町に娘達を保護する力が無い事は、明らかだった。

「……まさか…こんな最後になるなんてな……」
全ての配線を繋ぎ終え、壁にもたれかかる。

やがて通りから、機械人形たちが壁越しに銃を向けてくる音が聞こえた。

耳の近くを。肌を。銃弾がかすめる。 

「……結局……約束は守れなかったな……」
脳裏に、二人の娘の姿が浮かぶ。最後に見たのは、いつだったか。
呟く。
「これじゃ……父親失格かな……」


約束。
めぐや水銀燈とも、約束をした。
家を出るときも、帰ってくると心に誓った。
二人の娘を、必ず守ると決めた。

「……僕は……ダメな父親だな……」
再び、呟く。

何故だろう。不思議と後悔は無かった。ただ、少し寂しかった。


突然、不意に何かが体を突き抜けるような感覚が広がる。

熱い。

自分の胸に、視線を向ける。

どこまでも熱い何かが、胸から流れ出ている。 


「……これじゃあ……あの子達に………叱られてしまうな……―――」


薄れる意識の中、槐は―――二人の娘の姿を見た。
故郷の庭で、誰もが幸せそうな顔をしていた。

薔薇水晶が楽しそうに駆け回り、雪華綺晶が僕の隣で読書をしている。
そっと、その髪を撫でてやる。すると、それを見た薔薇水晶が僕の方に駆け寄ってきて…
僕はそんな薔薇水晶を抱き寄せようと手を広げ――――


槐の腕が力なく床に落ちるのと同時に、全ての火薬が爆発し…光が広がった―――― 


―※―※―※―※―


地面を揺るがす轟音が響く。

同時に、町の到る箇所から火の手が上がる。
その炎により、新たなる火薬庫が誘爆し―――

町は一瞬で、炎に包まれた。


ラプラスはその光景を、窓から眺め…
そして、地面に倒れる水銀燈に視線を戻した。

「ふむ……どうやら、私は友人の事を侮っていたようですな…」

そして、バントラインスペシャルをくるりとステッキのように回し…ピタリと水銀燈の頭に狙いをつける。

「あなたは友人ではありませんが……侮るな、という教訓に従わせていただきますよ…」


拳銃は蹴り飛ばされ手元に無いし、そもそも全ての弾を撃ち尽くしてしまってる。
体のいたる箇所が痛いし、口の中には鉄の味が広がりっぱなしだ。
だが…
そんな絶望的な状況でも…水銀燈は、ラプラスを睨み続けていた。

(これは…あの時と同じ……)

荒野に飛び出した日。
たとえ死ぬにしても、絶対に諦めの表情なんか見せない。見せてやらない。そう決めた。
どんな時でも…たとえ神様に嫌われたような人生だったとしても…
私はめぐと出会って、精一杯に生きる事の素晴しさを知った。
そんな人生の最期に浮かべるのが、絶望の表情。それだけは、絶対に嫌だ。


「ふむ……あなたは絶望に歪む表情を見せてくれないのですね……」
ラプラスは大仰に怪訝そうな表情を作り…
「なら…それはそれで……仕方ありませんな」
そう言い、引き金に指をかけた。

ラプラスの指が、ゆっくり引き金を引き―――


「それまでよ…!」

一つの声に、遮られた。

ラプラスは、首だけを動かし、声の主に視線を向ける。
水銀燈には、例え姿を見なくても…いや、声さえ聞かなくても、誰だか分かった。

いつだって……そう、あの時だって……常に、ピンチの時に助けてくれる人間。
誰より頼りになる、風変わりな相棒。

「…め…ぐぅ……」

「待たせたわね…水銀燈」

肩を抉られ、体中に怪我をしながら…
それでもそこには、ウインチェスターライフルを構えるめぐの姿が在った。 


―※―※―※―※―


「さて…ラプラスとか言ったわね……これまでよ…銃を捨てなさい!」
引き金に指をかけながら、めぐが鋭く叫ぶ。

めぐは、指をほんの少し動かすだけ。
それに対し、ラプラスは銃口をめぐに向ける所から始めないといけない。
勝負は、火を見るより明らかだった。

「ふむ…確かに、この状況…。どうも、私には不利なようで……」
そう言いながらも、ラプラスの顔から笑みは消えない…。

そして…

水銀燈に向けた銃の撃鉄を、カチリと親指で起こした。


「私の代わりになる人間は居るでしょうが……はてさて、このお嬢さんの代わりは…?」


嫌な沈黙が広がる。

「めぐ…こいつを……」
水銀燈は地面に這い蹲りながら、そう言うが…頭に銃を押し付けられる。

睨みあう、ラプラスとめぐ。 

「…人質なんて、恥ずかしくないの?…水銀燈を放しなさい!」
「ククク…これは手厳しい……勝利に貪欲といってほしいですね…」





やがて…ため息と共に、めぐが銃口を下げた……


ラプラスがその顔に邪悪な笑みを浮かべ、めぐにバントラインを向け―――

同時に水銀燈が抉れた床板の一部を掴み――
めぐが銃を再び構える―――


ラプラスの脇腹に、水銀燈の握る尖った木片が突き刺さる。


水銀燈はその感触を手に感じたのと同時に……
『一つ』の銃声が部屋に中に響いた…―――



水銀燈の視界にはそれが、やけに、ゆっくり、見えた。


めぐの胸から、まるで大輪の赤い薔薇が咲くように、何かが…散りゆくのが。 


一瞬で、全身の血が沸騰したような熱い感覚が体を駆ける。
動けないと思ってた体が、まるで他人のもののように、動く。

「めぐ!!」
水銀燈は叫びながら、地面を蹴り、低く飛ぶようにめぐに近づく。

視界の端に、苦痛に顔を歪めたラプラスが、銃を持ち上げるのが見える。

崩れ落ちるように倒れるめぐの体。
それを地面に付く前に抱え―――

(……いつか…めぐは…私の事を『天使』って呼んでくれた…!)

そのままの勢いで、窓に体当たりをする―――


窓を破り、虚空に放り出され、重力を遠くに感じながら…

水銀燈は、胸を赤く染めためぐを、ただ抱きしめていた……

(私が…本当に天使だったなら……)

地面が近づく中、水銀燈は考える。


私には、翼なんて無い。
それでも、絶対に死ぬ訳にはいかない。

私の事を、天使と呼んでくれた人の為……

絶対に、死ぬわけにも、死なせるわけにもいかない…!



めぐを抱いたまま、地面に背中からぶつかる。

「か…は!!」
骨が砕ける音がする。呼吸が苦しくなる。
痛みより、一瞬で意識を持っていかれそうになる感覚―――

駄目だ。
まだ、眠りの時間には早い。

自分にそう言い聞かせ、霞む視界で周囲を見やる。

…町は炎に包まれており……その炎が、新たなる火薬庫の近くまで迫っていた。 

「め…ぐ……大丈…夫…すぐに……逃げるわよぉ……」

体を動かすだけで、痛みに意識を失いそうになりながらも、水銀燈はめぐを引き摺る。

逃げる?何所へ?

町は完全に、炎に包まれている。
通りも、じきに火薬庫への引火で吹き飛ぶだろう。

何所へ行けば良い?
いっつも一緒にいためぐは、何も答えてくれない。

何所へ……


絶望に包まれた時……人は皆、そこへ向かうと言う。
水銀燈もまた…視界の端に捉えた、古ぼけた教会へと、体を引き摺りながら向かった。



―――神様…どうか、お願いです…生まれて初めて、心から祈ります……だから…めぐを…… 


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―――寒い…

めぐは、その感覚で目を開けた。

視界は色を失い、全ての景色がぼやけて見える。


―――冷たい……

失われた自分の体温より冷たい地面の感覚が、体を包み込んでた。


そんな中で…めぐは、不思議な温かさも同時に感じていた。

―――なんでだろう…?

霞む視界を、ぼんやりとそちらに向ける。


水銀燈が泣きながら、すがりついていた。


きっと沢山、悲しい思いをしてきたはずなのに…
水銀燈の涙を見るのは、これが初めてだと気が付いた。 


―――天使さん…どうして泣いてるの?
「めぐ……喋ったら駄目よぉ……今…手当てしてあげるから……」

―――こんなに泣いて……そうだ…歌、歌ってあげようか…?
「ダメ……じっとしてて……死んじゃうわぁ……めぐ……」

―――ふふ…大丈夫よ…私はね、鳥になるの。それでね。ずっと、ずぅっと、水銀燈と一緒に……
「イヤぁ…めぐぅ……お願い……」

―――…ねえ、泣かないで。私は大丈夫よ。だから……お願い……泣かないで……


ステンドグラスを背景に涙を流す天使さんはとても綺麗で……なんだか私まで泣きそうになる。



―――…天使さんの好きな歌……歌ってあげるから……



流れるような銀色の髪を、そっと撫でてあげたいけど……もう手が動かないのが、とても悔しい。



――― からたちの……とげは痛いよ……青い…青い………――――――― 


―※―※―※―※―


私は、神様が嫌いだ。

結局神様は、私の願いに一度だって耳を傾けてくれなかったから。






果てしなく広がる廃墟の中…私はウインチェスターライフルを、盛った地面に突き刺した。


誰も、居なくなった。
槐も、その弟子も、町で出会った全ての人も……めぐも。


泣くわけには、いかない。
私は零れそうになる涙を、空を見上げて我慢する。


どこまでも青い空に、一羽の鳥が飛んでいるのが見えた気がした。


そうだ。めぐは、鳥になったんだ。
鳥になって、自由に荒野を羽ばたき続けてるんだ。 


だから私も、こんな所で休んでる訳にはいかない。

私も、めぐに負けないくらい、自由に荒野を飛びまわらなくっちゃいけない。


私はポケットから、薔薇の飾りが施されたオイルライターを取り出し、煙草に火をつける。

慣れない煙の感覚に、思わずむせ返ってしまった。

少し涙が零れたが……激しく咳き込んだせいだと、自分に言い聞かせる。



今度はゆっくり、落ち着いて煙を吸い込む。


どこまでも高く昇る煙を追うように、空を見つめ続ける。 


…そして……私は、いつか誰かがしたように、煙草を指先でピンと弾いた。

その示す先に、視線を向ける。


どこまでも広がる荒野が、そこには在った。



私は大切な人から教えてもらった、大好きな歌を口ずさむ。



一歩。また一歩と、大地に足を踏み出した――――






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