分類:A級特秘書類・閲覧不可
報告:桜田ジュン
同行:蒼星石・翠星石
任務内容:『--』(注1)が最後に確認された地での『--』についての調査
赴任先:○○州南部

『--』と呼ばれる吸血鬼が消息を絶ったと言われる地での聞き込み、現地調査を行った。
現地の町では、『--』の存在は有名であり、伝承としても残されているものの、
その姿を見たという者にはこの町ではついに会うことができなかった。
『--』を生で見、生き残ったものはこの町では皆無であるというのが、
当時からこの町で暮らしていた人からの証言である。
村人たちの話によると、『--』が現れたのは深夜のことであり、
そこで漁をはじめようとしていた漁師たちがその姿を見たという。

この町の傍には茂った森があり、町人たちの間では『迷いの森』と呼ばれていた。
伝承によると、『--』はその森へ逃げ込み、男たちが『--』を追って森へ入ったが、
ついに森から帰るものはなく、遺骨はおろか、遺品の一つすらも見つかっていないところからこの名がついたそうである
(今では森への道が作られ、この町の炭や建築素材などの木材はこの森から切り出されているという)。
今では森は有効利用はされているものの、かつてあった事件などから、
進んで入りたがる者は殆どおらず、森の全容を知る人間は、町にはいなかった。

翠星石および蒼星石を宿泊しているホテルに待機させ、単独で森に入る。
森の中は磁石が効かず(それも『迷いの森』と呼ばれる一因であると思われる)、
太陽光も殆ど入らないので、方角がさっぱりわからないが、30分ほどだろうか。
歩いていくと、レンガ造りの屋敷が見つかる。
町の図書館によると、森に屋敷が造られたという記録どころか、
誰かが暮らしていたなどというものさえ全くない模様。
そういうものが見つかった、という報告も聞いたことがないそうである。

明らかに不審なこの屋敷に対し、調査を試みるものの、結界のようなものに阻まれる。
ドアの目の前に自分がいる。
そしてドアへと向かって歩いているはずなのに。
いつの間にか来た道を戻っている。
『近づかせない結界』という上等な結界が張られていると思われる。
しかし、その結界発動のトリガーが分からない。
そこで、着ていた服含む、全ての持ち物を降ろしてドアに近づいたところ、ドアに近づき、開けることができた。
そして、一つ一つ持ち物を増やしていったところ、【B級特秘事項】(注2)を持つと入れないことが判明した。
いつごろ、この結界が造られたかは分かっていないが、
【B特秘事項】を阻む技術つまりは【特A級特秘事項】(注3)の術を使役できるものがいたわけである。
少なくとも、ここ数十年は【特A級特秘事項】の術関連の事件は起きていないので、技術は失われたのだろうが・・・。

ますます、この屋敷がクサいということで、侵入を試みるが、見事なまでのボロである。
外装はそうでもなかったが、中に入ってみれば、老朽化が進んでいるのがよくわかる。
あちらこちらの壁の塗装が剥げているならばともかく、壁がなくなっている箇所などもまま見られる。

めぼしいものを探して3階まで上がった時に、半吸血鬼の少女と出くわす。
夜盗か何かと思われる男の死骸を貪っていたところに丁度私が来てしまったようだ。
何か、彼女が情報を持っているのではないか、ということで彼女の心の糸を手繰ってみる事にしたが、
有益そうな情報は見当たらなかった。
強いて言えば、彼女が自らの父親を食い殺してしまったことくらいだろうか。
(彼女の心には、人間の父と吸血鬼の母の間に生まれたという『記録』はあるが、
 母親についての『記憶』が殆どなく、父親についての記憶も殆ど風化しており、
 読み取るのが困難だのに、彼女が父親を食い殺した事については異様に鮮明に記憶されている。
 さらに、こういった、隠しておきたい、忘れたい、『罪の記憶』は普通心の深層にあり、読み取りづらいはずだが、
 彼女の心の糸を手繰って最初に出てきた情報が、父親を食い殺したことについてである。色々と不自然な点が多い)

どうやら、彼女は肉を食らって気が高揚していたようで、私に襲い掛かるが、それを封殺する。
上記の点から、彼女に(研究の対象として)興味を持った私が、一緒に来ないかと持ちかけたところ、
大量の食屍鬼が屋敷のどこからか、現れる。
半吸血鬼の女は、自分が彼らが人間だった頃に血を吸ったということを否定をしてはいる。
彼女は半吸血鬼ではあるものの、吸血鬼としての能力はごく弱いもののようである。
どうやら『外』の記憶を持っていないようなので、ずっと屋敷に篭っていたからかもしれない。
だから肉体が弱っているのかもしれない。

彼女を連れ、一階まで辿りつくと、人と熊から成っていると思われるキマイラ、虎のように大柄な猫、
この二つが現れる。
腐敗箇所が目立つため、だいぶ前に作られたもののようである。
しかし、キマイラの一般的な寿命は3年持てば良いほうだといわれており、これらはそれより明らかに古そうである。
おまけに、彼らからは強い血のにおいを感じる。
本来、キマイラというものは愛玩動物であり、つぎはぎで出来た強度の低い身体ゆえに戦闘力は持ち得ない。
しかし、戦闘用のキマイラは作れないわけではないというのが、最近の学説であり、
それを証明したのは、我らが対吸血鬼科学技術班の製作したキマイラ、
『ジャバウォック』であることはこの組織の内では周知の事実である。
それでも、近年の技術でようやく形を成したのみであり、まだ試作品の域を出ず、
量産もままならないというのも、これもまた、この組織での周知の事実と言うべきだろう。
この屋敷を囲む結界といい、この長寿の戦闘キマイラといい、かなり高度な魔法および外科技術が使われている。
そしてその高等技術の結集の如き中に一人いた、半吸血鬼の女。ますます不思議である。

あるテストをしてみることにした。
まず、一体目のキマイラを壊した後、二体目の攻撃を受けて倒れることにした。
二体目と、半吸血鬼を戦わせてみるのである。
結果、さらに奇妙なことがわかった。この女吸血鬼は、「翼」を持っているのである。
「ハネ」を持っている吸血鬼なら、多くはないが、別に少なくはない程度には存在する。
しかしそれはある程度力を持っている吸血鬼であり(半吸血鬼で羽を出せるものは確認されていない)、
特に男性の吸血鬼に多い(これは単に嗜好の問題だが)。
長い間血を吸わず、外にも出ず、衰弱し切っている半吸血鬼にそんなものを出せる道理はない。
おまけに、「翼」である。これが最も奇妙な点である。
通常、吸血鬼が持つのはコウモリなどに見られるような、手が発達した「羽」、
もしくは、蚊や蜻蛉などの羽虫を連想するような、「翅」である。
この女吸血鬼が持つのは、カラスのように黒い「翼」である。
結論から言うと、彼女は2体目の猫と虎のキマイラ(?)を瀕死に追いやった。
翼による羽ばたきによって、通常では考えられないほどの風圧を起こし、
脆くなった屋敷の壁を突き破っただけでなく、周囲の木々もなぎ倒すほどであった。

彼女の翼から剥がれ落ちた羽根も、サンプルとしてこの報告書に添付するが、
柔軟性があり、軽く、しなやかであるものの、ナイフのような鋭さを持っている。
これが、翼によって巻き起こされた風に乗って飛んでくるとしたら、とんでもない凶器に成り得る。
彼女を放置しておき、後でとんでもない事態になることも想像できなくはない。
都合のいいことに、彼女は自分になついているようである。
『鎖をつける』という意味合いで、自分の傍に置く事にする(注4)。
その後、心の糸を用いて翠星石、蒼星石と連絡を取り、救助に来てもらったが、
半吸血鬼の【自主規制】(注5)が、柔らかくて気持ちいいので、自分で歩けるにも関わらず、
肩を貸してもらっていたというのは内緒である。

結果的には、『--』についての情報は全く得ることができなかったが、
この屋敷は十分不審であり、引き続き調査をするに値すると思われる。

以上
(注1)・・・『特別情報請求請願書』と『特別資料閲覧権』を持つもののみ、閲覧を許可する。
(注2)・・・その単語もしくは文章に禁じられるべき要素は無いが、文脈より『A級特秘事項』もしくは
       『特A級特秘事項』の内容が察せられる場合、それを『B級特秘事項』とし、閲覧を禁ずる。
(注3)・・・最高指令本部高等役員、報告者を除くあらゆる者の閲覧を禁ずる。
(注4)・・・これについての許可はVC課課長・槐氏に許可を頂いており、
       これを読まれる諸兄らもご存知のことと思います。
(注5)・・・ヒワイな内容であるために自主規制。読者の想像に任せる。


不定期連載蛇足な補足コーナー「桜田ジュンによる考察」

『--』がこの村で最後に確認されたというだけで、『--』と女吸血鬼には直接的な関係はないと思われる。
この屋敷は、『--』が逃げ込んだ、という噂を利用して(もしくは屋敷建設のために噂をでっち上げて)、
作られたものであると考えている。
この屋敷の作られた時代を考えると、オーパーツと言っても過言ではないほどの超技術が詰め込まれている。
さらにはキマイラ作成、禁術を使った結界など、
人道から外れていると文句を言われても仕方のないようなものばかりである。
そして、奇妙な点をいくつも持つ半吸血鬼の女の子や、ゾンビの群れ。
これらのことから考えて、
この館は、ある人間が禁術、兵となりうる存在を開発するために作った隠れ家だったのではないだろうか。
その研究の一環として、人為的に吸血鬼を作ろうとする実験が行われていたと考える。
この吸血鬼の少女も、ゾンビたちも、実験の被害者なのではないだろうか。
人為的に、人間を吸血鬼に変えるという実験のである。
ゾンビの群れはその失敗作たちであり、
あの半吸血鬼の少女のみが、人間を吸血鬼に変える試みに成功したのではないだろうか。
そして、館の主によって、自分(そして彼女)にとって都合のいい記憶を与え、
さらには、彼(彼ら?)の持つ技術力で、彼女自身を吸血鬼と鳥類のキマイラと改造したのではないか。
自分は、そう解釈すれば、つじつまは合うのではないかと思っている。

あーちなみに、『雛苺・雪華綺晶事件はなかったことにして、書かないでおいてくれ。残業代が出せない』
と槐課長に言われてだな・・・。国家組織なのに貧乏ってのも泣けるよなぁ。
むしろ国家組織だからだろうか? 僕はその辺りには疎いからよく知らないんだが。

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最終更新:2008年05月01日 00:12