※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「…本当に町が有るんでしょうねぇ…遭難なんて勘弁よぉ…」
「うーん…今までこのやり方で、遭難した事なんてあんまりないんだけど…」
「……『あんまり』って所が…リアルで嫌ねぇ…」

ジリジリと照りつける太陽が、地面を容赦なく熱する。
ユラユラと揺れる地平線が、360度ぐるりと周囲を囲む。

そんな荒野の中心で水銀燈は…ゲッソリしながら、めぐと並んで歩いていた。

「…そもそも…投げた煙草で行く先を決めるだなんて…完全にどうかしてるわぁ…」
「そう?ワイルドで格好良いと思わない?」
「…あなた…良い性格してるわねぇ…」
「ふふ…ありがと」
「褒めてないわよ…」

今更、来た道を引き返すのは精神的にしんどい。かといって、このまま進んだ所で…どうなる事やら。

水銀燈は盛大にため息をつきながら、視線を遥か彼方へ向け…――

「……ねえ…めぐ…あれって…」
何気なく視線を向けた地平線から、何本もの煙が上がっているのを見つけ、指差した。
「うん。きっと、町があるのね」
「…行かないのぉ?」
「行きたいの?」
「…行きましょうよぉ」
「うん、行ってみようか」

 
 
    0. Sing a song. Like a free bird...(前編)   



「…変な町ねぇ…」
水銀燈は町の入り口で率直な感想を呟く。。

町の到る所から生えた煙突が、モクモクと煙を吐き出し…
さながら、町全体が一つの工場のような空気をかもし出していた。

「……うん…そうね…」
そんな水銀燈の横で、めぐは地図を横にしたりひっくり返したりしている。
「変ね…この町、地図に載ってないわ」
「…めぐ…あなた…本当に地図が読めるんでしょうねぇ…?」
水銀燈が訝しげに声をかけるも…
「大丈夫。きっと、地図が間違えてるだけよ」
めぐはそう言い、バサバサと地図をたたんだ。

「さて、新しい町に来た事だし、どこかで一段落しましょうか」
めぐはそう言い、町の入り口付近に有った酒場に、意気揚々と足を向け―――


風にキィキィと小さな音を立てる酒場のドアを、めぐがバンッ!と開けた。
同時に、酒場の中にたむろしていた男達の視線が向けられる。

(何で…わざわざこんな目立つ入場をしないと気が済まないのかしらねぇ…)
刺すような視線を浴びながら、水銀燈はそう思うも…
めぐの奇怪な行動にはすっかり慣れていたので、それ以上考えない事にした。
 

周囲の視線を浴びながら、めぐと水銀燈は奥のカウンターへと進み…
「お酒を」
「ヤクルト」

酒場の主人が鋭い視線を向けてきたが、カウンターの上に金貨を置いて黙らせる。


二人とも、出てきた飲み物を片手に酒場の中を見渡す…

こちらに向けられる気配。招かれざる客を見るような視線。
どことなく、排他的な雰囲気を感じる。

長年、自分を忌み嫌う町で育った水銀燈は、そんな気配をいち早く察していた。


「…何だか…感じ悪い町ねぇ…」
嫌な思い出が蘇り、水銀燈は少し顔をしかめる。

「そう?おもしろそうじゃない?
町中にある煙突…あれは『技術屋(マエストロ)』が沢山居る、ってことでしょ?
それだけ産業が発展してるのに、地図に載ってない。かといって、最近出来た町でもなさそうだし…
冒険の匂いがプンプンすると思わない?」
めぐは半分程まで灰になった煙草を教鞭のように動かし、そう見解を述べてくる。

「冒険ねぇ…」
水銀燈も、二人の旅に目的が無い事はよく知っている。
いや…唯一の目的と言えそうなものといえば、『自由気ままに荒野を冒険する』。
だから水銀燈も、それ以上は何も言わなかった。

 

二人は再びカウンターに向き直り、グラスを傾け―――

「いやあ、なかなかの観察眼と推理だね」
不意に背後から、そう声をかけられた。

振り返るとそこには―――

身長は190センチはあろうかという大男…いや、痩せている為『大男』なんて言葉の全く似合わない…
とにかく、身長ばかり高い、金髪の男が立っていた。

「横、いいかな?」
そう聞くと、男は返事も待たずにめぐの隣に座る。
同時にバーテンが酒の入ったグラスを男の前に置く。
男はグラスだけ受け取ると、手を振ってバーテンを追い払う。

「この町では見ない顔だけど…見たところ、道に迷った旅人か何かかな?」
男は正面を見たまま、そう尋ねてきた。
「…ま、そんな所ね」
めぐも正面に目を向けたまま新しい煙草に火を付け、答える。

「…この町に来客なんて珍しいからね…つい、声をかけてしまったよ」
そう言う男に、めぐは煙を吐きながら少し目を細め…
少し悪戯っぽい笑顔を浮かべながら――
「……悪いけど…ナンパなら間に合ってるわよ?」
そう言い少し体をずらし、水銀燈の姿を見せてみせた。

だが…
「ははは、まさか。これでも、故郷に娘を二人残してる身だからね」
そう言い男は、水銀燈に、どこか優しい視線を向け…
「ちょうど、君と同じ位の歳になってる頃かな?」
 
全くもって、意外な答えにめぐは…一瞬キョトンとし――しばらくケラケラと楽しそうに笑い――
そして、目の端に溜まった涙を指先で拭きながら、おかしそうに喋る。
「もう――― 完全に勘違いしちゃったじゃない、格好つかないわねえ」
「ははは…いや、なかなかに格好良かったよ」
男もつられて笑いだし―――


ひとしきり笑い、めぐは完全に話題から外されて少し拗ねている水銀燈を指した。
「私は柿崎めぐ。この子と――水銀燈と一緒に、自由な旅をしてるの」

男はそれに答えるように、手にしたグラスを持ち上げる。
「槐だ。この町で『技術屋』をしてる」

めぐと槐のグラスが『キン』っと小さな音をたててぶつかった。



「それにしてもこの町、まるで全体が『技術屋』の工房みたいね」
「ああ、それだけがこの町の特徴といえる所かな?」
「ふーん…地図にも載ってないし…変な町ね…」

めぐは灰皿に、火を付けたばかりの煙草を置き…

「それに…ずいぶん独特な歓迎の仕方があるみたいだし」
「!?」
めぐのその一言を理解するより早く、水銀燈は振り返り―――

いつの間にかこちらに銃口を向けて立つ、眼鏡をかけた長髪の男と目が合った。
 
水銀燈は慌てて身を隠そうとするが―――
「…大丈夫よ、多分。…そうじゃなかったら、とっくに死んでるわ」
めぐの一言で、辛うじて椅子の上に留まる…。


「…フフ…フフフ…いや、驚きですな…まさか、背中にも目が付いていたとは…」
男はまるで役者のような動きで大げさに肩をすくめながら…おどけたような声を上げる…

めぐは背中を向けたまま、カウンターの上に置かれたグラスを軽く叩いて答えた。

――磨かれたグラスには、ぼんやりとだが、男の姿が映る。


「ほお…これはこれは…やはり私めには出すぎた真似でした…」
「本当に…僕の客人に対して、少々悪戯が過ぎるんじゃないか?」
槐はそう言うと、大きくため息をつきながら立ち上がり、男の横に近づいた。

「紹介するよ、こいつはラプラス。まあ、ちょっと…度を越した変人だが、腕は立つ」
槐に紹介され、銃をしまったラプラスは大仰な動作でお辞儀をしてみせる…。


「…ラプラスぅ?…名前まで変なのぉ…」
置いてきぼりの上に銃まで向けられ、すっかり機嫌を悪くした水銀燈が、小さな声で呟き――
だが…そんな小さな声だったにも関わらず、ラプラスにはしっかり聞こえていたらしい。
「商売上そう呼ばれているだけですよ、可憐なお嬢さん。以後、お見知りおきを…クックック…」
まるで道化師のように、おどけた動作を交えながら小さな声でほくそえむ。

「…ふぅん」
水銀燈は、興味無いといった感じで返事をするも…
ラプラスの態度にイラつきを覚え、心中穏やかではない。

(…なんだか…無性に腹立つヤツねぇ…)
他人の背後勝手に立ち、銃を向けたかと思えば、おどけて下手に出てくる。
そうかと思えば、次の瞬間には人を馬鹿にしたかのような態度。
そして…
それだけではない。
その一挙手一投足からは、自然に身に付いたものではない…いわゆる、『演技』の匂いがした。


そんな、明らかに眉間に皺をよせる水銀燈に気を使ってか、槐がラプラスに声をかけた。
「こんな所でのんびりしてて良いのかい?何せ君は、忙しい身だろ?」
「そうです!いや、やっと帰ってこれたので少々浮かれてしまいました!」
そう言い、水銀燈とめぐに向き直り…
「それではマドモアゼル、御機嫌よう」
大げさな動きで頭を下げると、さっさと酒場から抜け出していった。

「変人ねぇ…」
「…うん、変人ね」
水銀燈とめぐは、半ば呆れるように感想を呟き…
「…変人だよ」
呆れたような口調の槐が、再び隣に座った。

 
槐はコホンと咳をし、気分を改めて話しかける。
「その…僕の友人が不愉快な思いをさせたお詫びといってはなんだけど…
この町は『技術屋』の町でね。おかげで、秘密が多いんだ。
だから、流れ者の旅人には、なかなか過ごし難い所だし…」
槐の目が、一瞬泳ぐ。

「だから…その…君たちさえ良かったら、僕に色々案内させてもらえないかな?」
後半は、まくしたてるような早口になっていた。

めぐはちょっとだけキョトンとした表情をし…横に座る水銀燈に向き直る。
「ねえ、水銀燈…ひょっとして彼、口説くつもりなのかな?」
「その可能性は有るわねぇ?」
「…そうかな?」
「そうなんじゃないのぉ?」
「…そうなんだ」
「娘が居る、って言ってたのにねぇ…?」
「それも、二人ね」

なんだか他人事のような顔をしためぐと、ニヤニヤする水銀燈。

そんな二人の会話に…
槐はただ苦笑いを浮かべ、困ったように頭を掻くだけだった。

 
―※―※―※―※―


招かれざる客。まさにそんな感じで町中から向けられていた視線。
それが、槐と共に歩いているというだけで、一切向けられなくなった。

「…周囲の目が変わったわねぇ…ひょっとして、あなたこの町の有力者か何かなのぉ…?」
「はは…まさか。僕はただの『技術屋』だよ」
槐は、いぶかしむ水銀燈の質問に笑いながら答えた。
「ただ、僕はこの町に招かれた身だからね…。皆、何かと気を使ってくれるのさ」


槐の案内で、町の中をグルリと見て回る。
が、そこら中に『技術屋』の店が並んでいるだけで、何も面白い所の無い町だった。

「…これだけ『技術屋』が沢山いたら、商売にならないんじゃないの?」
当然の疑問を、めぐが口にする。
「ああ、確かにそうだけど…そこはラプラスが、出所を隠して他の町に売ってくれてるからね。
彼は、この町の唯一と言って良い外との窓口なんだよ」
「ふぅん…変人も役に立つのねぇ…」
「変人なのにね」
「…ああ…変人だけどな…」

そんな会話をしながら町を歩き…ふと、めぐは気付いた。

まるで居住性を無視して設計された町というのか…
いや…まるで、町全体が一つの要塞のような…いや…要塞というより、むしろ…
 
例えば、大通りやその周辺には、必ずといって良い程、倉庫が並んでいる。
槐の説明では、火薬庫だというが…
そんな危険な代物を、町の到る所に置くのは、どう考えても危険すぎる。
だが逆に…
その倉庫に一斉に火を放てば、町の通りを塞ぐ事が簡単に出来る。外敵の足を、かなり止める事が出来る。

さながら、町の形をした迎撃システムといった印象だった。


(…一体、この町は何なのかしら…)
めぐはぼんやりとそう考えながら歩き…
気が付けば、町外れまで来ていた。

「ああ…あそこにあるのが、僕の工房だ」
槐が、一軒の家を指差した。
「良かったら、ちょっと寄ってみないかい?ずっと歩いて疲れたろ?」


―※―※―※―※―


槐に説得され、水銀燈とめぐは半ば強引にリビングまで通され―――

「お茶でも淹れてこよう。くつろいでてくれ」
そう言い、家主の居ないリビングの椅子に座る。
暫くして―――部屋の外から、騒がしい声が聞こえた。
 
 
「急いで紅茶を淹れてくれたまえ!」
「…嫌です。何で僕が…」
「何!?君の淹れる紅茶は絶品だと聞いたぞ!?」
「まったくアイツ…余計な事を吹き込んで……」
「とにかく!一番良い紅茶だ!頼んだぞ!」

…声が止み、少し経って…
部屋を出たときと同じように、爽やかな表情の槐がリビングに戻ってきた。

「いやあ、教え子が気を利かせて、お茶を淹れてくれるそうだよ」
「…気を利かせて…ねぇ…?」
「…聞こえてたわよ?」
「……」

これ以上槐をからかうのも可哀想なので、何気ない会話をしながら…
水銀燈はふと、めぐが煙草を吸ってない事に気が付いた。

「なによぉ…今更、禁煙なんてしちゃって…」
ニヤニヤしながら、肘でめぐを突っつく。
だが…
「あら?だって、ヘボ技術屋の家で喫煙。落ちてた火薬に引火してボカン!なんて嫌じゃない?」
めぐは、水銀燈の期待をあっさりと裏切る発言をしてのけた。

槐はその言葉に苦笑いを浮かべる。
「だったら…そのヘボ技術屋に何か預けてみないかい?精一杯の趣向を凝らした細工をつけてあげるよ」
めぐは少し首をかしげて考え…
「なら、これをお願いしようかな?」
そう言い、愛用のオイルライターを机の上に置いた。
 
「素敵な細工をお願いね?」
「はは…これはプレッシャーだな」
槐は机の上のオイルライターを指先で拾い上げると、くるりと手の中に収める。
「明日までには、何とかしよう」
と、どこか楽しそうに言った。

そんな和やかな空気の中、リビングのドアがガチャリと開き―――
「…全く…なんで……僕が…」
ブツブツ言いながら、一人の少年が紅茶の乗った盆を手に入ってきた。

「おお!来たか!君も一緒にどうだい?」
槐はそう言うと、返事も聞かずに少年を椅子に座らせ―――
「彼は桜田ジュン。
この町に来る直前に立ち寄った村で『技術屋』をしていた所、修行にと、一緒に来る事になった…
言わば、僕の一番弟子かな?」
「…無理やり説得しといて…よく言うよ…」
「いや、彼は若いながら才能溢れる『技術屋』でね。無愛想なのが唯一の欠点かな」

ポットから全員のカップに紅茶を入れながら、ジュンは小さく挨拶をする。
「…ども…桜田ジュンです…」

(冴えないガキねぇ…)
年の頃は同じくらいだろうが…
めぐとの旅で、気持ちだけは大人になったつもりの水銀燈にとって、目の前の少年はそんな印象だった。

 
紅茶を囲みながら、めぐと水銀燈の武勇伝や、槐の男手子育て奮闘記に華が咲き…―――

気が付けば、太陽はすっかり西に沈んでいた。
 
「…すっかり話し込んでしまったな。…どうだろう、夕食でも…」
槐は暗くなった空を見、そう提案するが…
「あら?出会ったその日に夕食に誘うのは、いささか気が早いんじゃない?ジェントルマン?」
めぐは悪戯っぽく微笑みながら、そう答える。

「そ…それもそうだな。…だったら、夜道は危険だし、せめて宿まで送って行こう」
そう言い槐は立ち上がるが…
「ふふ…こう見えても私達、けっこう腕利きなのよ?」
またしても一蹴された。


「僕の名前を出せば、心地よく宿を貸してくれるだろう」
槐のそのアドバイスを受け、町の中に消えていく水銀燈とめぐの背中。

槐はそれをいつまでも眺め続け…――
横でジト目で自分を見てくるジュンに気が付いた。

「…まあ…なんだ…その……」
「………」
「…何も言うな…」
「……必死でしたね」
「…頼む……それ以上言うな……」
「………」


ジュンのため息が、小さく聞こえた気がした…


 
―※―※―※―※―


夜の闇の中…

町外れの一軒の廃屋から、小さな光が漏れていた。


人目を忍ぶような小さなランプの光で、ラプラスは一枚の手紙を見ている。

そして…その手紙を、ランプの中に放り込んだ。

音もたてずに手紙は燃え尽き…
それを確認すると、ラプラスは拳銃に弾丸を込め始めた…。

「…イーニ……ミーニ……マイニー・モー……神様の……言うとおり……クククク…」


その口の端に浮かぶのは、邪悪な笑み…

だが…

それを見るものは、誰も居なかった……
 


                                     ⇒ see you next Wilds...

|