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都会には怖い人だらけだと思っていた。
だから私はすれ違う人のその全てに怯えていた。

作りもののような笑顔で笑いあう恋人達や
機械的に決められたルートを歩くようなサラリーマン。
無表情で携帯を眺めるだけの女子高生に、
イヤホンで誰との関わりも遮断する大学生。

聞きしに勝る異様がそこにはあった。

誰とでも挨拶を交わし、誰とでも本当の笑顔を向け合い、
いろいろなものに気を向けてキョロキョロと寄り道をし、
ちょっとした伝言のためだけに2kmも先の友達の家まで会いに行ったり、
風に揺れる木々にまで耳をすませたあの日常とはまるきり違う。

私は身を縮ませながら改札を目指す。
あちこちに矢印の向いた掲示板と格闘をしつつ…。

ようやく辿り着いた改札口には思いもよらぬ人数が詰めあって連なる。
幾筋も延びたその列の一つに身をゆだね、一歩ずつ規則的に前に進んでいく。

私の前がひらけ、切符を通す機械がようやく目の前に。
慌てて券を通すと異音とともにゲートが閉まって・・・後ろからは舌打ちとため息。
戻ってきた券を取り出して急いで列を離れる。

「すいませんですぅ、すいませんですぅ」

誰に謝っているのかも分からないまま私は頭を下げ続けて、
視線すら向けないままに人々は私の横をすり抜けていく。 

都会には怖い人なんていなかった。
怯える必要なんてなかった。

誰も私に関心のある人なんていない。
こんなに人があふれていても、悪意すらぶつけてはこない。

手元に目をやると切符には確かに東京駅までの運賃表示。
私は涙をためて「なんでですぅ」とつぶやいた。

「それは…磁気化してない切符なんじゃない?裏面見せて・・・」

唐突に聞こえてきた声とひょいと私の手から切符を取り上げる見知らぬ手の平。
その手の伸びてきたほうを見ると、そこには一人の青年がいた。

「やっぱり紙切符だね。ここらじゃなかなか拝めないよこれ」
「はい。これ駅員さんのいる改札で見せたらちゃんと通れるから」

再び手に戻ってきた切符と、青年の顔を何度か見返す。
裏返してみると確かに紙でできた切符で裏面は真っ白。
そういえばかなりの遠距離だったから普通の券売機では買えず、駅舎のおじさんに発行してもらったのだった。

鼻をスンと鳴らしてこぼれかけていた涙を飲み込み青年を見据える。
優しげに笑う彼からはまるで悪意などは感じられない。本当の優しさがそこにはある気がした。
しかしそんな田舎では当たり前のような他人の優しさに…どこか居心地の悪い自分に気づく。 

「田舎ものだと思ってバカにしてやがるですか!わかってたですよ!そんなことくらい」

さっきまでさんざ都会に悪態をついていたからだろう。素直に優しさが受け取れなくなっている。

「東京くらい進んでるなら紙でもいけるかと思ったですけど…買いかぶりだったようですね!がっかりですぅ」

フン!と首を横に向けて精一杯の強がり。
苦笑いを浮かべた青年は「がっかりさせて申し訳ないよ」とそんな言葉を残して背中を向けた。
ちょっと振り向いて「それじゃね」と歩き出す青年を見て、私の中に生まれたのは後悔の念。

「ちょ、ちょっと待つです!」

立ち止まり再び振り向いた青年の表情・・・良かった、嫌悪はそこには感じ取れない。

「えっとその…あり…がとです…」

振り絞るように感謝を伝える。
彼は少しポカンとしてからクスクスと笑い出し、笑顔で手を振りながら歩いて行った。

そんな彼が人ごみの中に消えるのを確認して、ふぅと漏れでた吐息。
なんだか高鳴っていたような気がする心臓にも気づかないふりをしてバッグを手にする。

「さて、頑張らなきゃです」

なんだかちょっとだけここでやっていく元気をもらえた気がする。
私はそんなことを感じながら再び改札を抜ける人の群れに合流する。

三ヵ月後に再会することを知ってか知らずか・・・
私は青年の顔を心に思い浮かべながら―――笑顔で改札を抜けた。

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