翠「…」
机の上でノートを開き、頬杖をついて、ため息をひとつ…
はぁ。
このノートも用無しですかねぇ。
ジュンを引き篭もりから脱却させるために
色々考えた作戦をまとめたノートなのですが──
もうどうでもいいです。
さっさと行くです。
──まぁ、少しくらいはオシャレして行ってもいいかもしれないですけどぉ?
~~~~~
…さ、着替え終わりましたし、街へ出発しますか。
まぁ、デ…デートなわけないですから、別にさっきの服装でも良かったのですが…
どうせジュンは私と行きたくないようですし?
コンコン…
──誰か私の部屋の扉を叩く奴がいるです…
翠「誰ですかぁ?」
紅「私よ…」
真紅ですか…
翠「どーぞです」
ガチャ…
紅「…」
真紅は入るなり、蒼星石のベッドにちょこんと座ったです。
──ずっとこっちばかり見てきやがるです…
気味が悪いくらいに…
翠「何ですかぁ?…私の顔に何かついてるですか?」
──まぁ、何を聞きたいのかは判ってるんですが。
紅「私も下に居て少しイライラしたわ…」
翠「…」
紅「…いつまで経っても喧嘩してばかり…よく仲を保てたものだわ」
翠「今日でその仲も終わりです!」
紅「そう言って何回も仲を取り戻してるくせに…」
翠「真紅は黙ってろです」
ふ~んだ。
何が1人で行ってやる!ですか。
これからも…引き篭もりが治ろうがどうしようが、絶対誘ってやらねぇです!
…絶対、
…絶対。
──はぁ。
テンション下がるです…。
翠「あ、真紅はチビ苺と一緒にジュンの家の警備をしてくれです」
こうなった以上は仕方ないです。
翠星石が1人で行ってやるですから、
チビ人間はチビなりに1人でお留守番してたらいいんですっ!
危なっかしいですからね…
紅「あっ…それは翠星石のやるべきことよ」
翠「いや、翠星石はケーキ買いに行きますから──」
紅「いいから行きなさい。ジュンのところへ」
翠「イ~~~ヤです!翠星石は1人で行ってくるです」
紅「翠星石!」
翠「今度ばかりは本気で怒ってるです!じゃあ行ってくるです。
真紅はチビ苺を連れて絶対ジュンの家に来るですよ?解ったですね?」
ガチャ!!
さぁ急いでドアを開けて家を出てやるです!
紅「こら!待ちなさい」
翠「妹は妹らしく姉の言うことを聞いてくれです!」
あぁもう、追ってくるですぅ!
階段…
リビングのドア…
玄関の靴…
あっ…あったです翠星石の靴!
ガチャ…
とにかく走って逃げるです!
…走ればこっちのものですよ。
ほら、真紅ももう追って来ないですね。
…まぁ家に帰れば捕まるんでしょうけど…
どーせ妹なわけですし、華麗にスルーすればいいんです~w
~~~~~
…コソコソ
──右…左…右…
…だ、誰も見てないですよね?
こればっかりは誰にも見られるわけには…
ピーンポーン
…イライラ
相変わらず遅いですねぇ
でも今朝はあれをやろうとしたと思われて怒られたですし…
ったく、翠星石はそこまで…短気なんかじゃねぇですのにぃ…
…イライライライラ
ピーンポーン
…イライライライライライライライラ
──た…た…短気なわけ…ないですよぉ?
短気なんかじゃ…短気なんかじゃ…
──くっ…!
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!
…どちくしょぉぉぉ!
──出ないですねぇ。
居るんだったら窓から「五月蝿い黙れ」ぐらい言えばいいですのにぃ…
…よし、もう一度…。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!
──やっぱり出やがらねぇです…。
まさか…本気で街へ行ったですか…??
はっ…。
…たっ…大変です!
早く追いつかないと…
人の多さに気絶して線路に落ちてもらったりなんかしたら…
うわぁ…考えるだけで背筋が凍るです…。
~~~~~
はぁ…
はぁ…
──走るのも疲れるですね。
ちょっとそこの公園で休むですか…。
…ジュンの奴、そこまで意地張らなくてもいいですのに…。
それとも、あいつなりに頑張って引き篭もりを治そうとしてるんですかね…。
無茶しなくてもいいですのに…。
歩いてでも行けるですが…
やっぱり駅まで一番早く行く方法は…
あっ…向こうにバスが来たです。
走らなくては…
──間に合ええええぇぇぇ!!!
あいつのためなら200円なんて安いもんです。
運『このバスは~23系統…』
アナウンスなんかどーでもいいです!
さっさとドアを開けて乗せろです!
~~~~~
ア『ご乗車、ありがとうございました。終点──』
バスに乗ったらあっという間でしたね。
さっさと200円払って降りるです。
──もぉ…
バス停から駅まで中途半端に距離があるんですから…
再開発してでもこれですか。まったく──
ったく!
あの赤信号、さっさと青に変わりやがれです!
あぁもう…何で券売機にこんなに人が並んでやがるですか。
…イライラするですぅ。
ピンポン!
翠「なっ…」
ガチャン!
自『切符をお入れ下さい』
あっ…入れ忘れてたです。
焦り過ぎると却って遅くなるですね…。
~~~~~
…ホームの上も人でいっぱいです…。
さてさて、ジュンは…と。
──あ。
あんなところにオドオドしてる奴が…
同い年くらいの背の高さに見えますね…。
……。
はぁぁ…あれは完璧にジュンですぅ。
あの眼鏡の形といい服装といい…。
…いやぁ、分かりやすい野郎ですぅ。
だから無理するなって言ったですのに。
しかも、どっからどう見ても挙動不審じゃねぇですかw
──なんて、ぼーっと見てる場合じゃねぇです!
翠「…ジュン?」
ちょっと呼んでみて振り向けば…。
ジ「は…?」
──やっぱりジュンです!
ガシッ!
ジ「…!」
翠「ちょっとこっち来いです」
人のいないホームの端まで何としてでも連れていくです。
こういう所で怒鳴りつけるつもりはないですが…念のため…
ジ「…何だよ…まさかさっきのをずっと見てたのかよ」
翠「ずっとではないですけど、やっぱりお前が1人で出歩くのは無理…」
ジ「無理じゃないよ」
翠「震えてたくせに!」
ホームの端に人がいないからって急に元気になりやがってぇ…
ジ「話はそれだけかよ。じゃあな」
パシーン!!
翠「どーしても1人で行くってなら…意地でも連れて帰るです!」
あぁ…無意識のうちに手を出してしまったです…
ここには人がいないって言ったって、
向こうからは不特定多数の人間が見ているかもしれないですのに…
ジ「じゃあ僕は翠星石から逃げるだけだ」
ガシッ…
翠「そうはさせるかです」
ふん。お前の右手をゲットです。
こうなったら、もう後戻りは出来ないです。
そこまで街へ行く意思が強固なものなら、
2人で行くって言うまで放すもんですか──
ジ「放せ…放せったら」
翠「イヤです!」
ギュウウウウウ…
ジ「痛い痛い!!…何なんだよその握力…」
翠「ふっふっふ…水銀燈を姉にもつ翠星石をナメてもらっては困るです」
ジ「だったら少しぐらい手加減しろ!」
──本当は私にもよく判らないんですが…。
ジュンが弱くなったのか、それとも翠星石が強くなったのか。
どうなんですかね。
でも…そんな事よりもっと大事なことがあるです。
翠「さ、行きたければ翠星石を…」
ジ「…」
翠「…」
乱暴なやり方になってスマンです…
さぁ…お前の口から言ってくれです。
「連れて行く」と。
ジ「…乗り越えろ!か。よし任せろ」
翠「はぁ?」
ジ「──しかしお前強いなぁ。なっかなか解けないや…」
翠「…」
…ブチッ
ジ「よいしょっ…ホントほどけないな…」
…ピキッ
翠「…」
ジ「くそっ…」
──こんちくしょお!!
翠「──お前を…連れて行くです」
ジ「あ?」
…電車が来たです。
ちょうどいいタイミングですね。
翠「乗るですよ──」
ジ「…」
こいつ…次に降りたらボッコボコに叩き潰して──
──あ、ありゃ?
何かラッキーなことに、この電車、ホームの端まで来やがったです。
しかも…めちゃくちゃ空いてるですね。
ジ「あ、これなら座れる…」
席に座ってる客も2、3人しかいねぇです…
凄まじいぐらいの空き具合です!
翠「おぉ!ちょうどそこの2人席が空いてるです♪さっさと乗るですよ♪」
ジ「あれ?何か急に…」
ドアが開いたです♪
何か幸先良いスタートが切れそうです~
翠「つべこべ言わずに、ほらほらぁ…」
ジ「てかお前いつまで僕の手を握ってんだよ」
翠「お前がホームと電車の隙間から落ちないようにするためです♪」
──ジュンと一緒に行きたいからです♪
だから…
ジ「誰が落ちるか!w」
翠「お前のことだから何が起こるか判らんですからね~
…ずっと前から変わらんです」
ほんのちょっとだけ不安なだけなんですが…。
ジ「お前こそ、昔っから寂しがりやのくせに…
だからこうやって繋いでんだろ?…幼稚園じゃあるまいし」
翠「──他にも理由があるですよ?」
そうです。他にもちゃんと訳があって…。
ジ「…」
別に謝らなくてもいいですから、せめて──
翠「…」
お願いです…。
ジ「……分かったよ。逃げないから──」