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どこまでも白くなった世界で、僕は彼女と対峙する。
純粋な世界――殺意や怒りなんか無く…純粋に、闘う為だけの。

右目に薔薇飾りを付けた彼女が大地を蹴り、僕に近づいてくる――。
僕も鋏を手に、跳ぶ――。

視界に映るのは、楽しそうに微笑む彼女だけ。

空も大地も、風も太陽も、何も感じない。
僕らだけの、闘いの為の世界。

彼女が僕の鋏を避ける。
僕は彼女の打撃を鋏で捌く。

感情が無くなっていくような錯覚を覚える。
それはまるで、心が全て凍りつくような…

でも、不思議と嫌な気分じゃない。
まるで眠るような、穏やかさすら感じる。

何度も打ち合い、何度もぶつかり合う…

そして―――唐突に、世界に色と音が戻った。

「―――てめぇ!蒼星石に何してやがるですか!!」



      17. What a Wonderful World
 

「…ずっとベッドの上での生活だったからね。腕が鈍ってないか、確認してたんだよ」
鋏を下ろした蒼星石は、せっかく心配してやった私に対し、こともなげにそう返してきた。

「でも!こいつは蒼星石に怪我させたヤツですよ!?」
蒼星石の傍らに立つ雪華綺晶に、敵意むき出しの視線を向ける。

「あれはそういう作戦だったんだよ」
そんな私に気付いてか気が付かずか…蒼星石はそう言いながら、私に近づいてきて…
「でも…ごめんよ? 心配かけちゃったみたいだね…?」
そう言い、そっと抱きしめられたら、こっちも言葉に詰まる。
「!!? ……ぅぅう…」
「そろそろ水銀燈が仕事を持って帰ってくる頃だし…戻ろうか」
そして、そう言い残してアジトの中に消えていく蒼星石の背中を、ただ見つめる事しかできなかった…。


(…蒼星石…変わっちまったですぅ…)
そう思う。間違いなく、そう感じる。
具体的にどう変わったのかは分からないが…

雪華綺晶と出会ってから。
蒼星石は…少し、雰囲気が変わった。

いつもと同じように優しく、時々甘えんぼうな所は変わらないが…
それでもたまに、どこか冷たい印象の目をする時があった。


(それもこれも…あの白薔薇ヤローのせいですぅ!)
少し遅れて蒼星石についていく雪華綺晶の背中を睨みつける…

 

―※―※―※―※―

別に依頼にそういうものが有るわけじゃないけど…
敢えて言うなら、今は『乾季』のようだ。

――『野犬退治』

水銀燈が取ってきた仕事は…正直、あまり魅力的とは言えないものばかりだった。
(…たまには…こんな事もあるよね…)
自分にそう言い聞かせる。

「この仕事は…そうねぇ…元手のかからない蒼星石にやってもらおうかしらぁ?」
水銀燈がそう提案してくる。
確かにそれなら、当面の糊口を凌ぐには理想的だと思う。
「新戦力の様子見もかねて…」その一言で、僕と雪華綺晶で向かう事に決まった。

「それじゃあ、雪華綺晶。先に準備をしてくるね」
そう言い、自分の部屋に用意を取りに行く。

雪華綺晶と二人での仕事。

別に、何の感慨も湧いてこない。

仕事だから、やる。それだけ。


…いつの間に僕は、こんなドライな人間になったんだろう?

 

―※―※―※―※―

廊下に立ち、用意を終えた蒼星石を見送り…
そして、それから少し遅れてやってきた雪華綺晶を捕まえた。

「てめぇ…なに勝手に蒼星石をかどわかしてやがるですか…」
壁に背中を預けながら、睨みつける。

精一杯凄むも…雪華綺晶はそれを意に介さないように、相変わらず微笑みすら浮かべている。
「かどわかすだなんて…私はただ、友達として接しているだけですわ」
「…とにかく…蒼星石に変なまねしたら、ただじゃおかねぇですよ…」
「ふふふ…肝に銘じておきますわ」


相変わらず優雅な足取りで立ち去る雪華綺晶の後姿を見る。
(何か…気に喰わんですぅ…)

何が気に入らないのだろう。
蒼星石を持って行かれたような気分?
必死に頭を振って、その考えを否定する。

「……」
答えは見つからない。
いや…見つかってるのかもしれないが、だからといってモヤモヤした気分は晴れるものではない。

「…気分転換に、買い物でも行くですぅ…」
いつまでも沈んでいてもしょうがない。
ここは一つ、パーっと買い物にでも行く事にした。

 

―※―※―※―※―

「どうしたんだい?翠星石に何か言われたのかい?」
移動の為の馬の準備をしながら、遅れてきた雪華綺晶に声をかける。

「いいえ。大した事ではありませんわ」
「……そう…なら良いんだけど…」

準備を終え、二人で出発する。

「翠星石は…姉さんは、ちょっと僕に過保護な所があるからね…」
「あら? それは、それだけ大切に思われてるという事ですわ」
「……」


大切に思われてる事。そんな事は、ずっと昔から知っている。
僕だって、翠星石の事は何より大切に思っている。
楽しい事も辛い時も、いつだって一緒に居られる大切な人。

でも…

雪華綺晶と闘い…そして見えた世界。
真っ白な、どこまでも純粋な世界。
不思議と落ち着く、悩みも苦しみも無い、純粋な、闘う為だけの世界。


(…僕にとって…本当に必要なのはどっちなんだろう……)

…分からなかった。
 

昔から、考え込むと抜け出せないのが、僕の悪い癖。

でも、そこから引っ張り出してくれる翠星石も、今は近くにいない。

「……急ごう…早く…仕事をしないとね」

そう言い、馬を走らせる。


何で急ぐんだろう。

少しでも早く帰って、翠星石に会う為?
それとも…少しでも早く、闘いの世界に身を投じる為?


答えが出ないまま、それでもひたすら荒野を往く。



―※―※―※―※―


「ふ~ん♪ふふ~ん♪ですぅ♪」
両手に買い物袋を抱え、歌を口ずさみながらご機嫌で町を歩く。
と―――
「お?素敵なお店を発見ですぅ~」
一軒の帽子屋が目に留まった。
 

チラッとガラス越しに覗いてみると…
「おお!?」
なかなか雰囲気の良いテンガロンハットが飾ってある。
「これは…きっと蒼星石にピッタリですぅ!」

新品のテンガロンハットをプレゼントされた蒼星石の顔を想像する…


――翠星石!こんな素敵なプレゼント…何だか悪いよ…
――な~に言ってるですか。大切な妹へ、せめてもの思いやりですぅ♪
――ありがとう…翠星石…
そう言い、蒼星石がそっと腕をまわしてきて――――


「ふふ…ふふふふふふ……」
知らない間に、にやけていたようで、周囲の、店員の視線が実に痛い。
「…なーにジロジロ見てやがるですか!」
そう言いテンガロンハットを引っ掴み代金を払うと、そそくさと立ち去る事にした。

買ったばかりの帽子を、とりあえず自分の頭にポフッと乗せる。
そして気が付いた。
「コレは…予定外の出費ですよ…」
財布の中身を確認する。

何でだろう。財布が軽くなると、何だか無性に切なくなる。

「とりあえず、銀行でもヤるですぅ」
強盗するつもりなんて、無論あるわけが無い。「預金を下ろしに行くです~」という意味だ。

 

―※―※―※―※―

野犬が来そうなポイントを探し、餌を撒いて相手が集まるのを待つ。

当然、こちらが待ち構えてるのは、その嗅覚で気付いているだろう。
だから、必ず群れで…必勝の陣形を整えてからやって来るだろう。
そして…そこを一網打尽にする。

何も、難しい事じゃない。
ただ…その時まで、待ち続ける時間を持て余すだけ。

「…君は…薔薇水晶のお姉さんなんだろ?」
周囲への警戒をしながら、雪華綺晶に疑問をぶつけてみる。

「ええ…血は繋がってませんけど」
「…何で…妹を置いて突然出て行ったんだい」
「……さあ…?忘れてしまいましたわ」
「…君でも…そんな見え透いた嘘をつくんだね…」
「あら?嘘をつかずにいられる程、私は強くなんてありませんわ」

「…ごめんね。詮索するつもりじゃなかったんだよ?」
「…ええ…分かっていますわ…悩んでいるのでしょ?お姉さんの事…」
「……」


 

…ずっと…闘うのは嫌いだと思っていた。
闘う事は怖いと、心のどこかで感じていた。
でも…
闘いの中で垣間見た白い世界。

気が付けば、僕の心はそこに囚われていた。

こんな僕は…翠星石の近くに居るべきではない…

そう思うと、僕は翠星石と目を合わせるのが怖くなった。
翠星石の事は大好きなのに…いや、大好きだからこそ…近くに居ると、心がズキズキと痛んだ。


僕は変わってしまったのだろうか?


…分からない

…でも…そんな僕の気持ちを悟られないように…僕は意識して、いつもより翠星石に優しく振舞う。

…賢い翠星石は、きっとそんな僕の変化にもどこかで気付いているだろう。


打算的で、好戦的で、卑怯な僕…

きっと、翠星石は僕の事を嫌いになる。

彼女に拒絶される事を想像しただけで、僕の胸は締め付けられる。
 

僕はその苦しみから逃げたかった…
戦いの中に…白い世界に逃げたかった…

何も感じない…色も音も、痛みすら無い世界に…

それが、何の解決にもならないと知っていても…



―※―※―※―※―

銀行に向かって歩いていると…不意に背後から声をかけられた。

「おお!義理姉さん!久々だな!!」
「??『ねえさん』?」

振り返ると…見たことの無い…いや…どこかで見た気がするが…思い出せない…。
とにかく、頭部がM字に禿げ上がった男がにこやかに手を振っていた。

「??」
「いやー…って、今日は蒼譲は一緒じゃないのか?」
「??」
「盗賊稼業から足を洗って、表の世界に出てみたら、貴様らがあまりにも有名なんで驚いたぜ!」
「??」
「最も俺様も、貴様達を追い詰めた男として、今では賞金首に恐れられる存在だがな!はーっはっは!」
「??」
「今も、この近くに居る連続強盗犯を探してる所だが…なに、この俺様にかかれば一瞬でケリがつくぜ!」
「…はて?……誰です?」
「!!!? まさか…このベジータ様を…自分の妹にプロポーズした男を忘れたというのか!!?」
 

…思い出した。チビカナと出会った時の変態だ。
「…ちょっとそこに立ってろです」
「?? お…おう…」
「―――とぉぉぉりゃぁぁぁああ!!!」
綺麗な放物線を描いて放たれたドロップキックが、ベジータの顔面に突き刺さる。

地面をのた打ち回っているアホをほっといて、銀行に入る事にした。

「…全く…私の蒼星石に手ェ出そうなんて…とんでもねぇヤローですぅ!」
ぷりぷりと怒りながら受付でお金を受け取り…

「……蒼星石…大丈夫ですかねぇ…」
何だか切ない気分が晴れないので、ロビーに置いてあった椅子に腰掛ける事にした。


何となく…何となくではあるが…
最近、蒼星石に避けられてる気がする。

いつもは滅多に抱きついてこないのに、最近は不自然な程にスキンシップを図ってくる。
いつもなら「行こうか」と言って手を取ってくるのに、最近はそれが無い。

ただの考えすぎかもしれないが…

何となく、蒼星石が遠くに行ってしまったように感じる。
私の前で、どこか無理をしてるような気がする。


「……蒼星石…どうしちまったですか……」
目元を隠すように、帽子をかぶり直す。
 

だが―――

それは致命的なミスだった。


気が付く原因となったのは、一発の銃声。そして聞こえる悲鳴。そして怒鳴り声。
「金を出せ!!抵抗するならぶっ殺すぞ!!」

顔を上げると、銃を手にした3人の男と、不幸な客の中でも特にツイてない一人…人質にされた小さな子供。

―――この近くに居る連続強盗犯を探してる所だが―――
先ほど出会ったアホの言葉を思い出す。

(…私としたことが…迂闊でした…!)

どこかの空気を読まない人間が、騒ぎに悲鳴を上げる――
それを聞き、銀行の外では人だかりが出来…――

(…こうなっちまえば…すぐに篭城戦になるですよ…!)
気取られぬよう、何気ない感じを装い、周囲に視線を向ける。
血だまりの中に倒れた警備員。震え上がり、腰を抜かした人々…
周囲は完全なパニックに陥っている。
(……強行突入なんかされた日には…無駄に犠牲者が増えるだけです……だったら…)


(私が…何とかするですよ…!)



 

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