「ん…」
目を開けると、岩の屋根が見えた。
少しの間ここは何処だろう、何があったんだろうと考えたが、すぐに思い当たる。ここは、昨日野宿に使った洞穴だ。
「あ、ジュン起きた?オハヨー」
顔の横から少女の声がしたので、そちらを向く。
「おはよう、アリス」
アリスと呼ばれた帽子のロゴが、キラリと光った。
二人が最初の国を出てから2日目の朝。昨日寝床に決めた洞穴から出て、大きく伸びを一つする。空は快晴。周りは傾斜が多い草原で、遠くには馬や牛も見えた。
「やー!いい天気!」
「うん。本当に」
そして、洞穴から下った場所に見える、賑やかな場所の方へ体を向けた。
「さあて、2つ目の国ね!」



第二歩「機械だらけの国」



―私は、君にも旅をして欲しいと思っているんだが、どうだい?

別に…何でもいいよ。よくわからないし

―そうか。なら、連れて行こう。君を私と同じ旅へ

それは、『     』から? 

―ああ。君と、君のメイデンに

…なにそれ?



洞穴があった丘の上から見えたその国は、前の国とは打って変わって実に活気に溢れた様子だった。
薄いのに固そうな城壁の中には沢山の家や店が並び、工場やよく解らない施設に伸びる煙突からはもくもくと白い煙が上がっている。遠くからでもその稼働音が聞く事ができた。
「はー、凄いわね」
「うん、凄い」
二人が丘を下ってたどり着いた城門は、完全自動式の無人検問線だった。
電子式のゲートの横に窓が開いていて『入国管理室』と銘打ってあり、マイクと電光掲示板が覗いている。
二人は声紋認証と滞在理由、滞在期間などを口頭でマイクに話すと、すぐに入国許可をもらうことができた。
「はー…凄い…わね…」
「うん…凄い」
ゲートをくぐった二人が見たモノは、沢山の露店やお店とそれに群がる客、他には洗濯や家事に勤しむ者達だった。
そこで、アリスが再び呆然と呟く。
「これみんな…ロボットなのね…」

『では、このプランでよろしいでしょうか?』
「あ、はい」
『それではジュン様、アリス様。ごゆるりとお過ごしください』
「あ、ども」
ジュンが、電子音で作られた声にたどたどしく答えていく。
「おおー、ジュン一人で宿が取れたじゃないのさ!」
「うん。でも、言われた通り答えただけだし」
「まーね。しっかし便利な国ねー」
アリスが感心したように言った。
二人は入国した際にはあまりの驚きで突っ立っていたのだが、目の前に『国内案内ロボット』なるモノが文字通り飛んで来るとさらにビックリして硬直した。
その後落ち着きを取り戻して、ひとまず宿を探してもらおうといくつかの条件を述べると、たちどころに検索を終了しいくつかの候補を示してくる。二人がその中から適当に選び、それじゃあと別れを告げようとすると、今度はタクシーまで呼び出してしまった。
お金はなるべく節約したかったが、宿代も運賃もやたら安かったので素直に運んでもらった。
たどり着いた宿でもロボットが迎えに来て、日数と部屋を決めると、これまたメイド姿のロボットに部屋まで案内される。部屋はとても広く、値段の割には信じられない程の豪華さだった。
「うーん、なんともいい国に来たもんね。いっそここに住んじゃおうか?」
そんな事を言ったアリスだったが、ジュンは『シャワー浴びる』とバスルームに引っ込んだ。
「ねーねージュンよ」
「何?」
シャワーからあがって湯気の立つジュンにアリスが言う。
「この旅ってさ、先を急ぐの?」
ジュンは少し考えて、
「別に」
「じゃあさ!まだお昼前だしこの国を見て回ってもいいと思わない?物価も安いし、色々楽しいと思うんだけど!」
「うん、いいよ」
「よし、決まり!さあ準備なさいジュンー!」
ジュンは少し首を傾げて、
「え、僕も行くの?」
その後ジュンはアリスに“各自の責任と役割”について20分程の講習を受けた。
部屋を出て宿のロボットに観光をしてくると告げると、早速『観光案内ロボット』なるものが飛んできた。
アリスが簡単に要望を伝えると、『それではこのコースに致しましょう』と二人を外へ案内し車を呼ぶ。だがその車がキラキラのオープンカーだったので、アリスが凄い剣幕で金はないぞ!と叫んだが、観光案内ロボットはあっさりと言った。
『この国の観光はすべて無料となっております』

「うん、ジュン。君、ここに住みなさいよ」
「ダメ…だと思う」
一通り回った後、アリスは至極真面目な声でそう言った。
あれから二人はオープンカーに乗り、この国のあらゆる施設を回った。その全てに専属のロボットが働いており、見た目通り活気づいた国だった。そしてそれを利用する代金も格安で、ジュンは食料から医療品にいたるまでタダ同然で手に入れる事ができた。
「いやあ、こんないい国があるのねー。ここに住んでる人が実に羨ましいわ…って、あれ?」
アリスが自分の言葉に首を傾げる。
「そう言えば…まだ人に会って無いわね」
「確かに」
ジュンも辺りを見回してみるが、動いている機械の他には確認できない。
「こんな賑わってる国なのに人が住んで無いわけないでしょうに」
アリスが案内ロボットに聞いてみても、自分は案内以外の事は解らないと言われた。
「前の国みたいに追放とか処刑とか…他は病気とか戦争とか?」
何気なく人が居なくなる要因を挙げていったが、ロボットはこの国にそんな歴史は無いと言う。
夕方になって二人は宿へと到着し、ロボットにお礼を言って別れた。
『お帰りなさいませ。この国はいかがでしたか?』
宿番のロボットに実に楽しかったと言った後、国民の事も聞いてみたが返事は同じだった。
「ならさ、宿の主人はどうしてるの?」
『宿の主人は私ですが』
「あー、じゃなくて…そう、アナタを雇った人と言うか作った人と言うか」
『私を雇われた御主人様はおります。また、私を作られた方も別におります』
「その人は今どこに?」
『御主人様は「出掛けるから後は頼む」とおっしゃられた後は帰宅なされておりません。製造者様は国のお城におられるはずです』
「アナタの主人が出ていったのはどれくらい前なの?」
アリスが再び尋ねて、
『およそ五年になります』
ロボットはさらりと答えた。

「何で居なくなっちゃうのかね~。こんなイイ国なかなか無いよ?」
夕飯を終えたジュンに日課の手入れをしてもらいながらアリスが言った。
「うん…明日、お城で聞いてみるよ」
ジュンが帽子をお湯で湿らせたタオルで優しく撫でるように拭いていく。時折アリスが『そこ!そこ…!』とか『んふぅ~』など無駄に色っぽい声を出していたが、ジュンは淡々と続ける。
「ふ~…お城ねぇ。あのロボットの制作者がいるんだっけ…まだいるのかなぁ?もしかして、その人もロボットだったりして!」
「かもしれない」
ジュンは素っ気なく答えた後、ようやく手入れを終えた。名残惜しそうなアリスをフックにかけて、自分も布団に潜る。
「お城の発明家かぁ。どんな人だろうね。楽しみ?」
暗闇の中でアリスが問うと、
「うん…おやすみ」
そう言って、ジュンは眠りについた。


『ヤホー、また来たよん』
『・・・』
『ふ~む、君はいつも一人でここに居るね。訳アリかな?』
『…ほっといてよ』
『ヤ~ダ』
『え?』
『どっか遊び行こう!ほら、早く立つ!』
『え…え?』


翌朝、また宿番に今度は城に行きたいと伝えると、あっという間にタクシーを呼んでくれた。
「望めば何でも手に入り、何でもしてくれる。ああ楽ちんなり」
ジジ臭いアリスのセリフが風に乗ってどこかに消えてしまった頃、二人はお城の前に到着した。
それは確かに城と言えなくもない建物だが、むしろ工場と言った方がしっくりくるものだった。
壁からはパイプが飛び出して煙を出し、ひっきりなしにガシャガシャとやかましい音を立て、明るい部屋もあれば火花や閃光が起きる場所もある。
「えっとなになに…?『ご用の方は勝手に入るカシラ』…?」
玄関と思わしき場所に行ってみると、そんな貼り紙が無造作に風に揺れていた。
「不用心な…」
少々呆れ気味に呟いたものの、昨日ロボから戦争の歴史は無いと聞いたのを思い出し、そして現在の街の状況を考えればそんなものかと思い直す。
「じゃあ入るよ」
「どうぞ。機械につまづかないよーにね」
城の中も外見と同じく機材満載の工場のようだった。その城内に一歩目を踏み出したところで、やはりロボットが飛んでくる。
『ご用件は?』
アリスが自分達は観光の旅人で、出来たらこの城の人と話しがしたいと言うとそのまま一室に案内してくれた。ソファーが2つ置いてあるだけの無機質な部屋だった。
『もうしばらくお待ちください』
それだけ言ってロボットは部屋を後にした。が、そのロボットが出ていくのと頭上からドスンという低い爆発音と共に高い悲鳴が聞こえるのが同時だった。
「・・・」
「・・・。まぁ、人はいるみたいね」

「いやーお恥ずかしい所を見られちゃった…いや、聞かれちゃったかしらー!」
爆発音からたっぷり30分たった後、その声の主がやってきた。体から湯気が出て首にタオルを巻いていたのは丁重に無視すりことにする。
そのダイナミックな登場を果たした女性は金糸雀と名乗り、二人を歓迎すると両手を振ってにこやかに挨拶をした。
「それにしても旅人さんなんて本当に久しぶりかしら。あまりにも驚いちゃったからTNT(トリニトロトルエン)を床に落としちゃって!危うくバラバラになるところだったかしら~!」
割れんばかりの笑顔で笑う金糸雀と『それは大変でしたね』と無表情で答えるジュン。その頭の上でアリスは少し引きつった笑いを漏らしていた。
「それでどうかしら?この国は。とってもいい場所でしょ?」
「はい。とても便利な国でした」
ジュンの言葉に金糸雀をちょっと照れくさそうに、
「カナの作品が役にたって良かったかしら~。本来はこの国の人のタメに作ったんだけど」
「この国の人のタメ?」
アリスが聞いた。
「かしら。実はカナはこの国の人間じゃなくて、昔はあなた達みたいに旅をしながらその土地にあったモノを作ったりする旅人だったの。それである時この国の人に助けられた事があって、お礼としてカナがいくつか持ち合わせてた道具を渡したら本当に喜んでくれて!」
金糸雀は両手を振り回しながら続ける。
「その後も色々作ったんだけどそれはもうお祭り騒ぎになるくらい有り難かられたかしら。元々この国には資源や家畜はたくさんあったんだけど、それを生かす知識と技術が無かったのね」
「それで、このお城に止まる事にしたと?」
アリスが聞くと金糸雀はにこやかに頭を縦に振った。
「カナもいつかは定住したいと思ってたから、カナからこの国に住まわせてほしい、その代わりこの国の為に働かせてくださいってお願いしたの。そしたら是非!って。やっぱり必要とされるのは嬉しいかしら」
「それからこの国の為に発明を続けたんですね」
「最初はカナが自分から作ってたんだけど、だんだんと向こうから『こういう物が欲しい』って言ってくるようになったかしら。仕事を楽にできるタイプが主流で、その後は娯楽性タイプの需要が増えたわ。『惚れ薬』なんてのも作ったり」
「ほ、惚れ薬!?」
アリスの上擦った声にジュンが不思議そうな顔をしている前で、金糸雀が饒舌に話し出す。
「薬と言っても実際はナノマシンと言った方が正しいかしら。恋愛感情は人間の生殖本能に組み込まれた原始的感情だから全て脳から出る化学物質に帰着するの。
このナノマシンは対象の体内に入れた後、使用者に別に渡してある外部装置を操作して、段階的に脳内物質を強制的に分泌させるかしら。『出会い』から『婚約』に至るまでに恋愛が成就するために、そのシチュエーションに分泌されるべき物質を事前予約しておくの。
そして使用者がそれに合った場面展開を促す事で相手に恋愛感情の自発を促し、時間経過と共に分泌する物質を切り替えてより自然な形で普通の恋愛に似せた状況を作る。
だからこのマシンはサポートとしての役割が大きいから洗脳とは違うの。だから需要も結構あって、成功率も八割を大きく超えているし、このマシンの使用が相手にバレてもその後上手くいったケースも五割以上あるかしら!」
頃合いを見て、アリスがジュンをそっと起こした。
「依頼や意見なんかはこのお城に直接来てもらってるの。あなた達は玄関の貼り紙は見たかしら?」
そこでアリスは玄関に来客用以外にもたくさんの貼り紙がしてあった事を思い出した。
「昔はちょくちょく依頼があったんだけど、最近は全然無いわ。でも依頼が無いって事は不満が無いってことでしょ?カナの作品がこの国の人々の役にたってるのは本当に発明家冥利に尽きるかしら!」
「ですよね…あれだけ便利なんだし、ここの国の人達は幸せですよね…」
「幸せ?」
アリスの言葉に金糸雀が反応した。
「幸せ…幸せ…あら?幸せ…」
「あの、どうかしました?」
「うーんと…“幸せ”って何だったかしら?」
「え?」
今度は今まで黙っていたジュンが反応した。
「カナは今まで色んな依頼で色んなモノを作ってきて、その中には“感情”を作る物もあったかしら。喜怒哀楽なんかは動物的で原始的なモノだから比較的簡単だったんだけど…そう言えば“幸せ”を作ってくれとは言われなかったわ」
金糸雀が目をつむって眉間にシワを寄せる。
「ええっと、しばらく使ってなかったから…確か“嬉しい”とか“楽しい”とか…そんな類いの『良い感情』だった気が…あなた達は幸せって何か解るかしら?」
「え!?えっと…その…」
アリスが焦る下で、ジュンは黙って足元を見ていた。質問した当の本人はそんな二人そっちのけで唸っていたが、突然立ち上がって叫んだ。
「そうだわ!今から作るればいいのよ!!」
「…作る?」
アリスが戸惑いながら聞くと、返答と言うより宣言といった様子で金糸雀が続ける。
「今作ってる『熱を使わないパンケーキ焼き機』より作り甲斐がありそうだわ!うん、そうするかしら!作ってやるかしら!」
「どうやってですか?」
ジュンが聞いて、金糸雀がすぐさま答えた。
「まずは“幸せ”な状況のサンプルを集めて分析するの。文書でも画像でもいいけれど出来ればマウスとかの生きたサンプルがいいかしら。その分析の結果『幸せの定義』を出せれば後はそれを人の体がそれに近づくためのマシンを作ればいいだけ!」
そう豪語する金糸雀の目には、既にあらゆるプランや論理過程が飛び交っていた。
「ごめんなさい二人とも!今からカナは早速研究に入るからおいとまするかしら!」
二人が席から腰を上げる前に金糸雀はこの部屋のドアに飛びつき、急に首をこちらに向ける。
「そうそう、旅の記念に二人にプレゼントがあるかしら!玄関に持っていってあるから受け取ってね!」
「あ、ありが…」
「さようならかしら~!」
エネルギッシュな退場をした発明家の後を、二人はしばらく呆然と見つめていた。

玄関に行くと案内してくれたロボットが小包をぶら下げていて、プレゼントですと言って渡してくれた。
ついでに宿までのタクシーを手配しましょうかと言われたので、思いの他疲れた二人はお願いすることにする。
アリスは城の玄関から国を見渡す。活気に溢れ、栄えた無人の国がそこにあった。
「わかんないなぁ…なんでみんな居なくなったんだろう」
「たぶん…」
「たぶん?」
アリスの問いに、ジュンは答えなかった。
ほどなくタクシーが来て二人はそれに乗って宿に向かった。途中、アリスが運転手に『止めてください!』と言って、ジュンにもタクシーを降りるように言った。
「どうしたの?」
「ほら、あそこ!人が居るよ!行ってみましょう!」
見れば、先程まで何かの交渉をロボットとしていたらしい男が自分の馬車に乗り込むところだった。
「すみませーん!」
「ん?…ああ、旅の人か。珍しいな。どうだいこの国は。いいところだろう?」
「ええ、まあ。でもよくわかりましたね?私達が旅人だって」
その男は事も無げに言った。
「この国の人間はもう居ないし、移民も受け付けてない。だからいるとしたら旅人くらいのもんなのさ」
「なるほどー。あれ、でもこの国って移民を受け付けてないんですか?」
今度はややはにかみながら言った。
「そりゃあお前さん。こんな国に移民なんざ受け入れたらあっという間に満杯になっちまうよ。それにこの国の発明家さんはこの国の人達の為だけにって言ってたしな」
「そんないい場所なら、どうしてこの国の人達は…」
「ん、その…な」
男が詰まったのを見て、ジュンが言った。
「もしかして、アナタはこの国の人では?」
「ああ…そうだ。六年前までこの国に居てな…今は隣の国にいて、この国と毛皮の輸出入を手がけている」
男の後ろにある馬車の荷台には羊毛が乗っていた。
「では、何故?」
「…俺は…いや、この国の人達は昔からよく働く奴らでな。運良くこの国は資源にも気候にも近隣の国にも恵まれた。だから大した技術がなくても努力で充分に補えてたんだ。だが…」
「金糸雀さんの技術が入ってきた」
ジュンが言って、男が重く首を振る。
「彼女を責めるつもりなんてこれっぽっちも無い。彼女は本当に俺達の為に頑張ってくれた。そのおかげで本当に便利になったんだ。ああ、その便利さに俺達が調子づいちまったんだろうな…あれもこれも機械に押し付けて…結局俺達は飯食って寝るだけで良くなったんだ」
「へえ?ずいぶん便利でいいじゃないのさ」
アリスが言うと、男は力無く呟いた。
「そうだな…まるで、天国みたいだったな。だけどな」
そして、アリスとジュンを見て、言った。
「天国には、まっとうに生きた死人しか居ちゃいけないのさ」


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

ある野球チームが試合に負けた。

強くなるためにナインは新しいグラブを買った。古いグラブはいらなくなった。

ある野球チームが試合に負けた。

強くなるためにナインは新しいバットを買った。古いバットはいらなくなった。

ある野球チームが試合に負けた。

強くなるためにナインは補強選手を連れてきた。

ある野球チームが試合に勝った。

ナインはその報告を聞いて喜んだ。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


ジュンはお礼を言ってその男と別れた。
『お仕事、頑張ってください』
『ああ、ありがとうな』
『一つ、いいですか?』
『何だ』
『今、幸せですか?』
『…去年に二人目の子供が生まれてな。元気な女の子さ。名前はサラ。まさに今の俺の生きがい…っと、あんまり言うと長女がぐれちまうからな!』
アリスはまだ聞きだい事があったようだが、ジュンがスタスタとタクシーまで歩いて行ったので黙ってついていった。
宿に帰ってから、アリスの提案でもう一度この国を見て回る事になり、例のオープンカーで昨日見切れなかった場所を見学した。
その一つ、国の端の斜面にある牧場でジュンは牛の乳搾りの体験学習をやった。正確にはアリスにやらされた。
ロボットの指導の元で、ジュンは恐る恐る牛の乳を手で覆うように搾っていく。
「わっ…!出た…」
「やさ~しくね~?ジュ~ン。女の子の大切なトコなんだから、やさ~しくやさ~しく」
「少し…黙ってて」
結果、絞りたてのミルクで作ったアイスと少しばかりの給料も手に入れた。帰りにアリスが『糞の匂いのする頭に乗せるな』と言うので抱えて宿に戻った。
シャワーをいつもより長く入り、夕飯を食べ、少し牛臭いアリスを丹念に洗っていく。
「ねー、ジュンよ。あの金糸雀って人…幸せを作れると思う?」
いきなりの質問だったが、ジュンはのんびりと答えた。
「無理じゃないかな」
「ほう、何ゆえ?」
「なんとなく」
そう言ったらえらくバカにされたので、ジュンも聞き返してみた。
「んー、私も無理だと思うな」
「どうして?」
「なんとなく」
今度は、二人で笑った。
夜もふけて、アリスはフックに、ジュンはベッドに潜り込む。そして、ジュンはアリスに聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「うん…幸せだ」 




一人の旅人がいました。背が高く、金髪で、器量の良い男です。そんな男がとある国を訪ねました。

『おじさん!おじさん!このロボを買わないかしら?とってもナイスなヤツかしら』

その男が丁重に断ると、ヘンテコなロボを差し出した女の子はぐずってしまいました。

『どうしてカナの作った物をみんないらないって言うのかしら…』

その男は女の子の頭を撫でながら言います。

『人の役に立ちたいなら、色々な人の事を知るといいと思うよ』 

女の子は目を擦りながら尋ねました。

『そうしたら…カナの発明がみんなの役に立つかしら?カナの作った物でみんなを幸せに出来るかしら?』

男は優しく頷いて、もう一度その女の子の頭を撫でました。

『ありがとうおじさん!カナ、頑張るかしら!もっと勉強して、もっと色々知って、沢山の人を幸せにしちゃうかしら!』

そう言って、ヘンテコなロボをを抱えた女の子は去って行きました。男はその姿を幸せそうに眺めていました。 

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最終更新:2008年05月10日 12:56