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今にも崩れそうな屋敷から脱出し…
脱出といっても、壊れた壁の穴から外に出ただけだが。

水銀燈はそこで煙草を咥え、愛用のオイルライターでその先を炙る。
そして…
薔薇水晶の横に立つオディールに銃口を向けた。

――こちらを嵌めようとした依頼人。
少なくとも、信用できる味方である訳が無い。

オディールを睨む水銀燈の視線と銃口の前に、薔薇水晶がスッと体を滑り込ませてくる。
「…銀ちゃん…待って…」

薔薇水晶は…例え姉が敵に与していたとしても、そんなに簡単に裏切るとも思えない。
それに、聞きたい事も山ほどある。
しかし…

水銀燈が答えを出しかねていると…
オディールが自分の足元に獲物であるショットガンを放り投げた。

「こうすれば、話くらいは聞いてくれるでしょ?」




   15.幕間へ



 
「…随分と独善的な考え方ねぇ…」
「…私なりの正論のつもりだけど?」

―――真紅といい、こいつといい…腹が立つわぁ…

そう思うも…
大切な仲間の頼みとあって、水銀燈はしぶしぶ銃口を下げた。

オディールはそれを見て取ると、視線で水銀燈達を誘導する。

その先には、焚き火を囲む巴と救出された『技術屋(マエストロ)』、その姉の姿…

(…あの『技術屋』…どこかで見た顔ねぇ……)
水銀燈はとりあえず、地面に横たわるショットガンを足で弾き上げ手に取り、その場へと向かった。


―※―※―※―※―


水銀燈は焚き火を囲みながら、翠星石に治療してもらった自分の脇腹を見やった。
…相変わらず、こういう時には誰よりも頼りになる。

そして…
『薔薇水晶の頼みだから、しゃーなしで治療してやるですぅ』
と言わんばかりの表情で雪華綺晶の治療を始めた翠星石に視線を向けた。
 

「うぅ…蒼星石に怪我させたようなヤツを、なんで私が治さないといけないんですか…」
「……お願い……」
「…そうまで言うなら…しゃーねぇですよ…適当にやってやるですぅ」
「……適当は…ダメ……」

…一応、あちらも何とかなりそうだ。タブン。

「さぁて…」
水銀燈は焚き火の中に煙草を指で弾き入れ―――

「でぇ…?話があるんでしょぉ…さっさと言いなさいよぉ」


オディールは巴と一瞬、視線を交わらせ…
そして、巴が静かに語りだした。

「どうして世界に荒野が広がったのか…知ってる?」
「戦争があったせいです…おじじとおばばから聞いたですよ」
翠星石が治療の手を休める事無く、答える。

「なら…何で戦争が起こったのか…」
「確か…『食料危機』ってやつかしら!ご本で読んだ事があるかしら!」
得意満面の表情で、金糸雀が声を上げた。

巴はそれに頷き…

「なら…―――」
「はぁい、それまでよぉ」
水銀燈の声が、巴を遮った。
 
「…そんなまどろっこしい事言ってないで…さっさと話しなさいよぉ」
不快感を隠さない声で、そう告げる。

だが、巴はそんな水銀燈に動じる様子は無く…それでも、静かに語りだした―――




―※―※―※―※―



巴が全てを話し終えた時…太陽はすっかり沈み、空には星が煌いていた。

「…簡単には信じられん話ですぅ…」
翠星石が小枝を焚き火に放り投げながら、呟くように言う。

パチパチと木の弾ける小さな音だけが、周囲に響いた。

 
~~~~~

前時代の天才科学者・ローゼン。
彼の創った、『環境制御マシン・Alice』
地球温暖化を阻止すべく作られた究極のシステム。

その利権を巡って起きた紛争。
紛争はやがて、大義名分を勝手に掲げた戦争になる。

そして…
戦火に巻き込まれ、暴走するAliceシステム。
それは本来の意図から外れ、上空に漂っていた雲を吹き飛ばした。

戦争とAliceにより荒野が広がり…文明は大半が灰燼と化した。

そして全てが焼かれた大地から、新たな世代が始まり…―――

~~~~~


「真紅と…私達はAliceを再起動させる為に長い間…ずっとAliceを守ってたんだけど…」
巴はそこで、眼鏡をかけた『技術屋』に視線を向けた。
「桜田君達が来て、やっと復旧の目処が立った時に……」

「町一つと、戦力の大半…この様子を見るとあなた達以外の全部かしらねぇ?
とにかく…コテンパンにやられちゃった。で、あってるかしらぁ?」
水銀燈が試すような視線を巴に向ける。
 
「…私が駆け出しの時…たまたま、その町に居合わせただけよぉ」

水銀燈は立ち上がって、焚き火から少し離れて座っていたジュンに声をかけた。

「…あの時のパッとしないガキが…よく生きてたわねぇ…?」
「ひょっとして…あの時の女の子か?」
「まぁ…もっとも、ずっと捕まってたのよねぇ…相変わらず冴えないわねぇ」
「…久しぶりに会ったと思ったら…いきなりソレかよ」

「あなたにも関係のある事みたいだし、今回の事は水に流して、これから改めて協力してくれない?」
「お断りねぇ」
背後から声をかけてきたオディールの提案を、水銀燈はバッサリと切ってのけた。

そして…空一面に広がる、水晶のように輝く星空を見る――
「………」

この連中に…特に、真紅とかいう鼻持ちならない人物の手伝いをする理由は、無い。

「でも…」
水銀燈は小さくそう呟く…

でも…駆け出しの時に訪れた町。
そこでの出会いと…別れ。
誰よりも借りを返したい相手に出会えるチャンス。

そして…いつものように、ニヤリと頬の端を持ち上げながら振り返った。
「報酬次第で、どうにでも動く。それが、荒野を寝床にする連中の長所よねぇ…?」
 
「次の作戦は、潜入した真紅から連絡が来てからだから…それまでには…」
巴の返答に、水銀燈は満足そうに片方の眉を持ち上げた。
「オーケェー…だったら…」
横目で治療され眠る雛苺と、包帯でグルグル巻きにされた雪華綺晶をチラリと見る。

「それまで、この二人は私が預かるわぁ…もちろん…文句無いわよねぇ…?」

「…!」
「な!?」
巴とオディールが顔色を変えて、立ち上がる。
水銀燈はそれを手で制し…
「心配いらないわよぉ…『姉妹、感動の再会』と……おチビさんの方は…私が鍛えなおしてあげるわぁ…」

水銀燈はそう言ったが…
『人質』…。二度と、嵌めとは思わせないように…。
その思惑がある事も容易に見て取れた。

「…もう…二度と騙さないから…雛苺だけは…!」
涙目になりながらそう訴えかける巴。
「ダメよ!雛苺は私のものよ!それに大怪我してるのよ!?」
必死に所有権を主張するオディール。

水銀燈はそんな二人をピッと指差し…
「でも…今のこの子じゃあ足手まといになるだけよねぇ?…それに…」
その指先を翠星石の方向へと滑らせる。
「腕の良い医者…それが今のこの子に一番必要…でしょぉ?」


 
―※―※―※―※―

翌朝…

何やら、晩くまで口論を交わしていた巴とオディールは…
見事としか言いようが無い程、やつれ果てていた。

「…水銀燈とは、口げんかしたくないですぅ…」
翠星石のチラリと漏らした本音が、全てを物語っている。

その一方で…

ほとんど寝てないとは思えない程、楽しそうな笑みを浮かべた水銀燈が、馬車の手綱を握る。
馬車の中には、行きより二人多い人数。

薔薇水晶と金糸雀に話をさせれば、きっとこの二人も、こっちの味方として動いてくれるだろう。

期間限定とはいえ…新戦力。
それも、かなり期待できそうな。

このメンバーで暴れ回る事を考えると、自然と頬が緩む。
全員の怪我が治り次第、憂さ晴らしに暴れるとしよう。

そうと決まれば…

「さぁて…さっさと帰るわよぉ……!」



 
―※―※―※―※―


「…ここで私達が頑張ると…きっと黒薔薇のお姉様も、私達に協力してくれますわ」
「うゅ…本当?」
「ええ、きっと」

水銀燈のアジトの医務室。といっても、翠星石の私室なのだが。
そこのベッドで、雪華綺晶と雛苺が会話していた。

「…それより、キラキー。もう怪我は大丈夫なの?」
「ええ。まだ少し痛みますけど…もう大丈夫ですわ」
「うゅ?…ヒナの方が大怪我だったのに、治るのが早いのよ?」
「……(治療してくださった方の…悪意を感じますわ…)」

そうこうしてる内に、ノックの音と共に扉が開いた。
入ってきたのは、浮かない顔をした薔薇水晶と金糸雀。

「…ごはんができたかしら…」
「………」

そう言う二人は、雪華綺晶と雛苺の前に料理の入った皿を置き…
「!?…これは?」
「…ぅゅ……」
その中身を見た雪華綺晶と雛苺は、そのまま固まってしまった。

「『水銀燈特製・ヤクルトシチュー』かしら…」
「…ごめん…きらきー……私じゃあ…止められなかった…」
 
消化に良く、栄養もありそうなシチュー。
一口サイズに切られた具材が、作った人物のちょっとした優しさを感じさせる。
だが…
ほんのりと上がる湯気から、何とも言えない酸味が漂ってきた…

「…これは…新手のイジメに見えるのですが…」
「残念ながら…カナ達と同じ料理かしら…」

呆然とする雛苺を置いといて、雪華綺晶はスプーンに掬ったそれを一口、口に入れてみる。

クリームシチューのような舌触りと、何ともミスマッチな甘み。
濃厚な香りが、甘みと酸味を伴って口に広がる。
熱で死滅した乳酸菌の哀しみが、舌を通して心に痛く響く。
多分…小動物くらいなら、倒せそうな味だ。

雪華綺晶はそれをゆっくり飲み込み…
「…あら?…意外とイケますわ♪」
誰一人として理解できない事を言った。

いや、言葉としては理解できたが…
脳がそれを理解する事を拒否していた。

唖然とする三人を気にしないかのように雪華綺晶は皿の中のシチューを胃に運び続け…

「?…どうなさいました?……食べないのでしたら、私が頂いちゃいますわよ?」
「うい…あげるの…」

その内、雛苺の皿にも手を伸ばしだした。

 
高級料理でも食べるように、乱れぬ手つきでシチューを食べる雪華綺晶を見て、薔薇水晶が呟く。
「…きらきー…相変わらず…食いしん坊さんだね…」


金糸雀は、そんな光景を見て…
(また…変な人が増えたかしら…)
ゲッソリとした表情の雛苺に視線を向ける。
(雛苺だけは…変な子にしちゃあダメかしら…!)

そして、金糸雀は雛苺を自分の部屋に保護しようと決意する。


『鉄屑集積所』『廃材置き場』『お宝部屋(金糸雀談)』などと呼ばれている、自分の部屋に。

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