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「おー、けっこう広い所じゃない」
「うん」
一本道が続いている山の谷から、一人の少年がひょっこりと姿を現した。
服はジャージのズボンにトレーナーというあからさまな私服なのに、靴だけは厚底のブーツを履いている。さらに大きなリュックを背負い、頭には服とは合わない綺麗なロゴの入ったつば付きの帽子を被っていた。
「んで、私達はどーすりゃよろしいの?」
少女が聞いた。
「分かれ道まで歩く」
それだけ言うと少年は歩き出し、まもなくその分かれ道に着いた。
「…コホン。んで、私達はどーすりゃよろしいのよ?」
「“二人で決めるんだ”って言われた」
「それだけ?」
そう言われたので少し頭を巡らせると、
「“その国のお城を尋ねなさい”って。アリス、“国”って何?」
溜息ついでに地図を出せと言われたのでリュックの横のポッケに差し込んだヤツを取って広げてみる。
「いい?ジュン。今私達がいるのがソコの…違う、もっと下!そう、その分かれ道。で、そこから道…ああ、その線の事ね?それが六本あるでしょ?それが目の前の道なの。そして!その道を進むと丸い印し、うんそれ。それが国よ」
一息ついて、またアリスが話し出す。
「でね?地図の上では丸だけど、本当はたくさんの人がいる大きい場所なのさ。ま、百聞は一見しかず!実際行ってみるのが一番だよ」
「…アリスは物知りだね」
「ジュンが知らなすぎるだーけ」
『ジュンが知らなすぎるだーけ』
「え?」
慌てて視線を上にやった。
「ん?何?」
「…ううん…なんでも」
不信に思いはしたが、アリスはとりあえず気にしない事にした。
「じゃあ私達はこの国を回って行けばいいわけね。さて、ジュン君。栄えある第一番の国はどこにしようかね?」
意外にもジュンは素早く遠くを指差した。そして、その方角には陰鬱な雰囲気の漂う国、そして城があった。
「…ねえ、ジュン」
「なに?」
不機嫌そうなアリスの声に、ジュンがぽつりと返す。
「普通、アレを一番に選ぶ?私なら絶対に最後に回すわ。いや、寧ろ行かないという選択肢さえ引き合いに出すところだよ?」
ジュンは黙ってアリスを見た。アリスはジュンが何を考えてるんだろーかと悩んだが、すぐに何も考えてない事がわかった。
「オーケー、行きましょう。その前に、どうしてアレを一番に選んだか。そのわけを教えてくれる?」
ジュンはこれまた素早く地図の一つの道を指差す。そこには『一番道路』とあった。
「…それだけ?」
「うん」
しばしの沈黙の後、諦めたようにアリスが言った。
「うん、私が悪かったわね。あ~、これからを思うと気が重いな~」
「僕も少し重い」
「な…!?私はそんなに重くないでしょー!!」
「耳が…痛い」
アリスが凄まじい声で叫び、ジュンが顔をしかめて耳を押さえた。
「そもそも!私のような別品を頭に乗せられるんだから、少しは感謝をしろー!」
「うん」
その気のない、加えて感情のない返事にジュンの頭の上の“つば”がしなっと垂れる。
アリスは、帽子だった。
「はぁ…まあいいわ。さて、と!それじゃあ気を改めて元気よく行きますか!」
「うん」
そして二人は、一番道路を進んで行った。 



第一歩「最も美しい女がいる国」



-どうだったかな?私の旅の記録は

うん。たくさん旅をしたんだね

-そうさ。数え切れない場所に行き、人に会った

ねえ、ローゼン?

-何だい?

どうして旅をしているの?

-…それはね、『         』からさ

ふーん



とりあえず、なんとか道は続いているようだった。
分かれ道のあった場所は丘と同じく明るくのどかな草原だったのに、その国に近づく程、辺りが暗くなっている気がする。
道の色、その道に沿って茂る草木、果ては空気さえも。
「うう~なんか出そうな雰囲気…ジュン、君ワリとヘーキそうね?」
「うん」
「そんな事言って~、本当は怖いんじゃないの~?」
「うん」
帽子のつばがしなった。
そんな道を二人はてくてくと歩いて行く。途中で休憩を入れたり、水を飲んだり、ご飯を食べたり、地図で距離を方位を確かめながら進んだ。すべてアリスが指示した。
ほの暗い辺りの景色が別人の意味で暗くなりかけた頃、その国を囲う城壁を見ることが出来た。とても登ろうとか壊そうとか思えない高さと迫力のある壁であった。
「あ、ねえねえジュン。人がいるよ」
「うん」
そこは、国の外周を囲う壁に作られた厳重な門。黒く、冷たく、重い。そんな人を寄せ付けぬような入口だった。
「あの」
「ん?何者だ」
漆黒の鎧を纏い、大きな槍を構えた二人の門番の片方が言った。
「中に入れてください」
あまりに直球だったのでアリスがあわててフォローに入る。
「あ、あのですね!私達旅をしている者でして、彼はジュンで私はアリス。入国許可をいただきたいのですが…って、もしもし?」
「あ…あ、ああ。いや、スマン」
アリスの声を聞くやいなや突然に固まってしまった門番だったが、しばらくすると動きだしてくれた。
「す、少し待っててくれ」
片方の門番が小走りに門の横の小屋に行き、誰かに連絡をとっていた。少しすると、小屋から顔を出して頷く。
「…構わん。入れ」
今度は先程とは違う門番がジュンの顔をちらりと見た後に許可をくれた。
「どうもでーす」
「どうも」
頭を下げ門を潜らせてもらい、門番から離れた位置まで歩いた時アリスがひそりと耳打ちした。
「あのね?国に入る時は今度からさっき私が言ったみたいにすること。いいわね?」
「うん」
「よろしい。…でも、厳重なわりには簡単に入れたわね。私には何か驚いてたけど」
後ろを振り返ると、再び門は固く閉ざされていた。

城壁の内部も予想を裏切らず、全体的に黒を塗したかのような国だった。家の壁から道、そこに咲く花や木まで黒っぽい色をしていた。
住民はジュンとアリスを一瞥しても、すぐさっきまでしていた事に戻った。といっても皆目を伏し目がちにして、働く者や地べたに座る者、何かをぶつぶつ話す人達しか居ない。
「先ずは宿ね」
アリスが適当な人に声をかけ、安宿を教えてもらった。ちなみにお金は最初の丘で『旅立つにはまず先立つモノを!』と言ってそれなりの量を持ち込ませているが、『倹約こそ旅の極意なり』とも言った。
気分が悪いのか元からなのか、顔色の悪い主人に案内された部屋は可もなく不可もなくといったまのだった。やはり、すべてのものが黒っぽい色だ。ベットのシーツはさすがに白かったが。
「ふ~。今日はもう遅いし、それに疲れたでしょ?お城に行くのは明日にしましょうね」
「うん」
部屋に入り突っ立っているジュンに「とりあえず座ったら?」と言ったらベットに腰掛けたまま動かなくなった。
視線を下げ、両手を力無くだらんと足に乗せ、背中を丸めて、そのままだった。
(瞑想…?)
なんてアリスが考えたのは一瞬で、やれやれと声を荒らげた。
「はい!まず私をそこに引っかけて靴を脱ぐ!んで服を脱いでシャワーを浴びる!キレイになったら夕飯食べてぐっすりお休み!」

律儀にアリスの言う通りの事をこなし、宿の夕飯を食べて帰ってきたジュンをアリスが呼び止めた。このままだと間違いなく寝てしまう。
「ねえ、ジュン。ちょっと気になる事があるんだけどさ」
「うん」
「君、この国で女性を見かけた?」
そこでジュンは布団に潜り込むのを一旦止めた。
「…見てない」
「やっぱり?どーしてだろう。普通国には男も女も同じくらいいるもんなのに。それに少ないどころかいないなんて…」
フックに引っかけてある帽子を、ジュンはじっと見つめている。
「住み分けってカンジでもなかったし…声もしなかったから隠れてるわけでもないのかなぁ。ジュン、君はどう思う?」
フックに引っかけてある帽子を、ジュンはじっと見つめている。ただし、今度はきょとんとした様子で。
「・・・」
「・・・」
それでもアリスは半ば意地で辛抱強くジュンが何か言うのを待ってみたが、ジュンがうつらうつらと船を漕ぎ始めたのを見て諦めた。
「ま、それも含めて明日お城に行きましょうか。ジュン?もう寝ていいよ」
「うん。…すー…」
こうして、ジュンの旅の一日目は終わった。


『うっ…ぐすっ…』
『ねぇ、君。君はどうして泣いてるの?』
『ひっぐ…お姉ちゃん…誰?』
『私?私は-』


なんだかんだで早めに床についたせいか、ジュンは早朝には目を覚ます事ができた。アリスの指示に従い、顔を洗って朝食をとり、仕度を整えた。
ついでに昨日頼めなかった帽子の手入れもお願いして、『寝る前にこの作業を必ず行うこと!』とも言っておいた。
「おや、もう行くのかい」
宿の玄関の所で主人が声をかけてきたので、これから城に行くとアリスが言うと、
「!…いや、大丈夫だろう。なんでもない」
アリスは少し考えてから、
「あの、この国は女性の方をあまり見かけないのですよね?」
「ああ…そうだな」
それだけ言って主人店の奥へと入っていった。
それから適当な人を捕まえて似たような会話をして城までの道を聞いた。泊まった宿からも十分見える場所にありはしたが、途中で妙に建物やら川やらがあり城の門まで行くのは一苦労だった。
それでもなんとか辿り着き、目の前にそびえ立つ城を見上げる。
「なんと言うか…暗~いなぁ」
「うん」
この国全般に言えた事だったが、壁は暗い色で染められ飾りも殆どない。辺りはお昼前だというのに薄暗く、明かりを照らすモノのもなかった。
ギイィ…
「お?」
しばらくその不気味な城を眺めていると、城門が勝手に開きだした。
「ふーむ、“入って来い”ってことかな?」
「・・・」
「でもさ、化け物とか居たらどうする?」
ジュンが口を開いた時、その門に響いたのは女性の声だった。
「あら、その心配は無用よぉ」
突然の声に驚きつつ音を手繰りに右手の階段に目を向けると、黒のドレスを身に纏った美しい女性が立っていた。
「旅のお客様なんて…珍しい事もあるものねぇ」

招かれた部屋は豪華絢爛、とまではいかなくともかなりゴージャスな作りだった。彼女が言うには接客間だというが、この部屋だけお城の雰囲気から浮いてる。
彼女は自分の事を『この国、そしてこの城の主であり女王』と説明し、名を水銀燈と言った。
「どうぞぉ」
「どうも」
ジュンは出された紅茶を一口飲む。
「どお?」
「美味しいです」
「そう」
淡泊な会話。二口目を飲んだ後に彼女の顔を見てみた。目は、こちらを向いてはいなかった。
「それで?御用件は?」
アリスが小声でジュンに『ねえちょっと、城に着いた後の事は言われてないの?』と聞き、ジュンが『うん』と答える。
「え、えっと…あ!そうそう、この国の事について聞かせていただければなーと…」
ゆっくりと、水銀燈の視線がこちらを向いた。
「何を聞きたいの?」
「その、この国に女性の方達は貴女以外で居ないんですか?」
水銀燈がのんびりと答える。
「そうねぇ…私以外だぁれも居ないわねぇ」
「理由を…教えてくれませんか?」
ジュンは黙って紅茶をすする。水銀燈はそこでまた視線を二人から外し、ゆっくり話し始めた。

「私が子供だった頃…私はね、この国で一番綺麗で美しくありたいと願ったの。誰よりも、どんな女性よりも。それで、私は王女だったからねぇ…それまでも色々としてきたけれど、王が死んで王位を継承した後で、この国で目立つ女を追放するよう命じたの」
「それで、女性全員を?」
「まさか。この私の美しさを妨げる可能性のある容姿を持つ者だけよ。そんなに多くはなかったわ。まぁ、逆らう輩もいたけどねぇ」
「その人は?」
「殺したわ」
ジュンのカップが空になり、脇の執事がおかわりを注いだ。
「そのお蔭で確かに私はこの国で一番美しくなった…けれど、私はあまり満足出来なかったわ。全ての男が私に近づいてくるワケじゃなかったのよ。
なんでかしらねぇ…でも仕方ないから、そういう男達が好きになった女も追放することにしたわぁ。その数と、歯向かう人数は前回の比ではなかったけれど」
「それでも、殺したんですか?」
「一人残らず。反逆する男もいたからついでにね」
「・・・」
「その後しばらくは国中の男達が私だけを見ていたわぁ…だけれど私は満たされない。それにどうしても時が経てば、また私以外の女を見る男が出て来るのよ。後は…」
続く水銀燈の言葉をアリスが制した。
「後はその繰り返し、というワケですね?」
「そう。ある時気付いたら、女はもう…私しか残ってなかったの」
水銀燈がこの部屋の大きなガラスから覗くことが出来る国の方を向いた。
「なのにこの城を訪れる男は日に日に減っていった…だから私は自分に一番似合う色、私が一番映える色だと思う黒の彩色を国中に施したりもした。まぁ、ムダだったけどねぇ」
アリスが小さく『なるほど』と呟いた。
「私は美しくなるために何でもしてきた…自分も磨き続けてきた…それなのに、それなのに…」
水銀燈がジュンを見て、笑う。
「ねぇ、旅人さん?私はあと誰を追放して、誰を殺せばいいの?」
「わかりません」
ジュンが即答したのにアリスは驚いたが、水銀燈は『そうよね』と呟いただけだった。 


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

野原にキレイな花が咲いていました。

女性はそれを摘んで自分の部屋に飾ります。

野原に部屋に飾ったものよりキレイな花が咲いていました。

女性はそれを摘んで自分の部屋に飾ります。

それを何度か繰り返した後で、また野原で部屋に飾っているものよりキレイな花を見つけました。

それは、最初に摘んだ花でした。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


執事がお昼の時間だと告げると、水銀燈は二人を誘い、二人もそれを受け入れた。
食事は素晴らしいものだったが、ジュンがナイフとフォークを上手く使えなかったので、アリスの指導の元、しどろもどろの食事となった。
食後のデザートが運ばれて来た時、アリスが水銀燈に尋ねた。
「あの…水銀燈さん。一つ、聞いてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「あのキッチンでさえ黒色なのに、どうして接客間だけ黒くないんですか?他人と会う場所なら一番黒くしないといけないと思ったんですけど」
水銀燈が目をつぶって、
「あそこは…メグの場所だから」
と答えた。
「メグ?」
「そう、メグ。いつも一緒に遊んだ私の唯一無二の親友。私はあの子にだけは勝てなかったわ…メグは何時でも、私より美しかったのよ…でも、死んでしまった」
「殺し、た?」
水銀燈が首を振る。
「いいえ、病気で。元々体も弱かったし…そういえば、彼女を好きだった男が後を追い掛けて自殺してたわねぇ…誰だったかしら」
その話しを最後に、昼食は終了となった。

近くを寄ったらまたいらっしゃい。こんなお城でよければ、と笑顔でわ言われ、二人はこの城を後にした。
時刻は昼過ぎで太陽は一番高く昇っているのに、やはりこの国は暗かった。
「はぁ、あの人も酷いことしたと思うけど…なんか可哀相だったなぁ。私が女の子だからかな?なら…ジュンはどう思うんだろ」
最後の言葉はアリスの一人言のようなものだったので、
「わからない」
と直ぐさま返事をしたジュンにかなり驚いた。
「あ…ああ、そうなんだ。ジュンは、わからないんだ?」
「うん。わからない」
その時、アリスはジュンの表情らしい表情を初めて見ることができた。
それからお店に行き、水や食料を買い足しておいた。地図によると、次の国までは結構な距離があるようだ。
「よーし、じゃあ仕度出来たし…早速行く?それとももう少しこの国に居る?ジュンはどっちがいい?」
ジュンはしばらく黙っていたが、
「行く」
と短く答えた。
「そっか。じゃあ行きましょう!」
暗い通りに、アリスの嬉しそうな声が響いた。 



一人の旅人がいました。背が高く、金髪の、器量の良い男です。そして、とある国を訪ねました。

男はそこで、道端で泣いている女の子を見つけました。

『そこの可愛いお嬢さん。どうして泣いているんだい?』

その少女は真っ赤にした目を男に向けて言います。

『私…キレイ?』

男は頷きました。

『ああ。僕は君みたいなキレイな女の子を初めて見たよ。だから泣いているワケを教えてくれないかな』

少女は目をこすりながら話します。

『私の好きな人が…私の親友を好きになっちゃったの』

『なら、もっとキレイになったらどうだい?』

男が言いました。

『国中の人が、君を好きになってしまうくらいにね』

女の子の表情がパアッっと明るくなっていきます。

『うん!私そうする!もっとキレイになって、この国で一番キレイになる!ありがとうおじさん!』

そう言って、女の子は走って行きました。黒いドレスの似合う女の子でした。

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