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ダストボックスのふたを開ける、鈍い音。
どさりと、その中へ何かを投げ込み、今度はダストボックスのしまる音。
路地裏。一本道を抜ければ、光溢れる繁華街ではあるが、その華やかさの分だけ、暗さが強調されているみたいだ。

きっと、人はこの暗さを死にたとえ、繁華街の煌きを生に例えるものかもしれない。
だが、ある人は煌きを仮初の生、暗さに全ての本質を見出すかもしれない。

そう、全てはまやかしだと……。





NE

第二話

「Voice」





この路地裏から誰が出てこようと、人は気に留めない。
見かけたところで、すぐ記憶の奔流に巻き込まれ、消えてゆくだけだ。

私は、さっきまでの暗闇から一転、この眩しさに目を細めた。
いくらこの仕事のために訓練していようと、生体反応だけはどうしようもなかった。
殺しをするとはいえ、中身は人間のままだ。

この人ごみの中、見知った人間を見つけ、つい顔の筋肉を緩めてしまう。
ついさっき、仕事をしたばかりだというのに。

殺して、解体した後は、鞄につめ、その鞄ごと指定されたダストボックスに廃棄する。
後日、その手の業者がごみとともに回収するのだ。
回収した後のことなんて知らないが、おそらく普通のごみのように焼却されるのだろう。
私は、殺した人間に対して、何の感情も抱くことはない。
これは、ただの仕事。言われるままにしたことだ。

そんな、一般には決して紛れこむことができないようなことを思っていると、向こうもこちらに気付いたのか、近づいてきた。


「よう、雛苺。珍しいな。朝も会って、こんな時間にも会うなんて。仕事終わったとこか?」
「そうなのよ、ジュン。ちょうどお仕事終わったとこなのよ。」
「そうか。夕飯もう食ったか?」
「まだなのよー」
「ならちょうどよかった。僕もなんだ。よければ一緒にどこかで食べないか?」
「いいのよー。じゃあどこにする?」
「そうだな。近くの居酒屋でいいか?あんまり遠くへは行けないしな」
「じゃあ、早く行こうよ。ヒナはお腹が減って、倒れそうなのよー。」

そうして、私たちは夕食を共にすることになった。
少し、いや、かなりの幸せを感じて。
そちら側の人間になれないことを、私自身知っているのに。


「とりあえず、生中2つ。雛苺もそれでいいいか?」
私は、無言でうなずいた。
「あの・・・、未成年の方には、アルコール類をお渡しできないのですが・・・」
と、注文を受けに来た、店員が遠慮がちに言った。
私は、ため息とともに、免許書を差し出す。
「申し訳ございません!」
「いえ、いいのよー。もう慣れたから」

ふと目の前を見ると、彼が腹を抱え、体をくの字に曲げながらも、笑いを必死にこらえていた。

「ジュン、ひどいの!」
私は店員に、未成年と間違われたことよりも、彼にここまで笑われたことに傷ついた。
「いや、ゴメンな。お前と会ったときのこと思い出しちゃってさ。
ホント、何も知らなけりゃ、子供にしか見えないもんな。口調もそうだしさ」
「む・・。ホントにひどいのよ、ジュンは。初めて会ったときに掛けた言葉、覚えてる?」
あれは、忘れることなんてできない。いい意味でも、悪い意味でも。

「『迷子か?』だったよな、確か」
「そうなのよ!続けて来た言葉が『もしかして家出?』だったのよ!」

彼はついに、笑い出してしまった。
「そりゃしかたないだろ!だってあの雨の中、笠もささずずぶぬれでいたんだからさ!
どこをどう取ったら、立派な大人のすることだよ!」
かなり苦しそうだった。笑いで。
そして、それを言われると、どうやっても返すことなんてできない。
いや、確かに私は、その日の天気を知ってて、笠も用意していたのだ。
だが、間違えて、傘を鞄に入れたまま捨ててしまった。その時にはまだ雨が降ってなかったんだもん。

そんなこんなを話しているうちに、注文しておいたビールが運ばれてきた。
そして、そのついでに、食べるものの注文もしておく。

「まぁ、とりあえず乾杯」
カンと、心地よい音。


「ホント、この国の政治って、ひどいよなぁ」
と、酔いも進み、私がキムチを食べていると、彼はこう口にした。
「というより、国自体がだな。政治の汚職、役所の怠慢。
 金を渡せば、無罪にできるような警察。
 それに、悪化し続けるスラム街の治安。
 本当にどうにかならないかなぁ、いや、できないかなぁ……」
私の返事も待たず、彼は続けた。
「みんなも、ただ馬鹿みたいに、何かが変わることを、ボーっと待ってる。
 若い世代は、政治に関心を向けなくなって、義務もついでに捨てた。
 それを、老人たちは、ただ嘆いて、批判するばかりで、何もその先を考えない」
まぁ、僕が言えてことじゃないけど。と付け加えた。
「識字率が上がった、とかでマスコミはわいわいやってるけどさ、
 それでもスカベンジャーとか、犯罪の発生率が増え続けていることに目も向けやしない。
 別段、スラム街の人間に差別意識を持っているわけじゃないけど、そういう人間もいるんだしさ。
 そうやって、悪いことは繋がってるんだから、どうにかしようと考えないのかねぇ」
と続け、
「2年前、議会ビルが爆破テロにあったけど、何かがあった時期でもないし、
 犯行声明も何もなかったから、結局何が分かるでも、何かが変わるわけでもない。
 どうなるんだろうね、この国は」


2年前、確かに議会ビルが爆破された。
しかし、私はそれがテロでも何でもなく、私の所属しているような組織の対立、抗争の結果だと聞いている。
殺し屋組織なんて、案外多くあるらしい。
ただ、私も、こんな世界にいながら、数のほどは把握できていない。
きっと、これからもすることはないだろうが。

そんな、重い話なんて、すぐに終わり、バカな話をした。
そうだ。彼には、そんな血なまぐさいものより、こういう明るい話のほうがあっている。

これはきっと、私の彼に対する願望なのだろう。


彼だけは、赤く染まらないでと……。


食事を終え、話も一段落付けたあと、店を出る。
彼は、奢ろうとしてきたが、割り勘で無理矢理通した。
別段、給料がいいってわけじゃないのに・・。


そして、同じ電車に乗り、他愛ない話をしながら、十字路にて別れた。
別に、明日も会うかどうかは分からないのに、
「また、明日」という言葉で、別の道を歩き出した。

一人歩く道で、今日のことを思い出す。
仕事については、靄がかかったかのように、何も思い出せず、思い出すつもりもないのだが、
彼との会話、出来事、全てをきれいに思い出すことができる。

そうして、降らないと知っている雨に打たれないように、電球の切れ掛かった電灯がちかちかと点滅し照らしている道を軽く走った。




DUNE 第二話 「Voice」了

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