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緑、緑、緑。
周囲を緑一色に満たされた空間。
充満する草いきれ、申し訳程度の木肌の茶色。
その中で、「そいつ」だけは異彩を放っていた。異彩を放ち過ぎていた。
鳥類を思わせる、短くそして致命的な色彩を放つ嘴。
漆黒の毛並み、それに混じりこむ漆黒の鱗。
とてつもない太さを誇る一対の前脚は、よく見れば「前脚として利用されている」、
背から生えた翼であることが見て取れよう。
そんなことが見て取れたところで、「こいつ」の犠牲者にしてみれば何の救いにもなりはしないが。
「こいつ」の漆黒の体色の中で、唯一凶々しい赤を放つ一対の器官……すなわち瞳が写し込む、3人の姿。
整った顔立ちの上から被られた兜。その隙間から金髪を覗かせる長躯の男。
軽装ながら、しかし人体の急所は強固に守られた鎧を着る少女。
その少女と同じ鎧を着込みながら、しかし更に幼い顔立ちをしたもう1人の少女。
前者の少女は、赤を基調としたドレスのような鎧下の着衣を震わせ、
そして後者の少女は、赤子じみた桃色の着衣を強く握り締める。
金髪の男性がこの場にいなければ、2人とも間違いなく恐怖のあまり錯乱を起こしていただろう。
むしろ「こいつ」を前にしたなら、大の男ですら恐怖にすくみ上がらない方がおかしい。
この漆黒の魔物を討ち果たすだけの力を、持っていなければ。
金髪の男は、盾をくくりつけた右手を振るい、それで「下がっていろ」という無言の意思表示を2人の少女に行う。
赤の衣をまとう少女は、恐怖に凍りついた喉を必死に震わせ、言葉を紡ぐ。
結局出てきたものは、引き攣(つ)れるような声にならない、声のみであったが。
桃色の衣をまとう少女は、泣き叫んだ。泣き叫んで、その男の名を呼んだ。
漆黒の魔物は、その前足として振るわれる翼を大きく振りかざした。
金髪の男は、気合の大音声と共に、魔物の懐に駆け出した。
金髪の男の着込む鎧に付けられたポケットから、手の平にちょうどつかめる大きさの玉が滑り落ちる。
金髪の男はその玉を掴み取り、漆黒の魔物に投げつける。
漆黒の魔物の姿が、白に染まった。
一瞬遅れて、魔物の背景たる森の木々すらも。
更に一瞬遅れて、頭上の木々の隙間から零れ落ちる青空も。
大地も。
地面の草も。
木々に絡みつく蔓も。
緑も青も茶色も何もかもが白に染まり果て――。
そこで2人の少女の意識もまた、白に染め上げられた。

気付いた時には、2人の少女は樹海の外の草むらに、その身を投げ出されていた。
その傍ら、2人の猫小人(アイルー)が必死に2人の看病を行う中、2人の意識は突如として復活した。
その2人のアイルー……
毛並みを上品な赤に染めた方がホーリエ、同じく毛並みを柔らかな桃色に染めた方がベリーベル。
そう名付けたことを思い出した2人は、再び意識を手放しそうになる。
樹海に遮られない真昼の太陽の日差しすら、2人のまぶたがまたも落ちることを防ぐことは出来ない。
不安そうに鳴く2人のアイルーが、新たに薬草を施そうとした時。
すでに2人の少女の瞳は閉じられていた。
苦しげな、けれども命に執着する気持ちを忘れない、くぐもった吐息だけがそこに残された。

それが、「ローゼンメイデン」第五子である真紅、そして第六子である雛苺と――
のちに「迅竜」ナルガクルガと名づけられることとなる、漆黒の怪物との邂逅の物語。

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