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一五0一時、盗賊アジト指令テント裏

(おい!俺達も早く発見場所へ向かうぞ!)
(駄目だ!車が全部やられてる!走るしかねぇ!)
(おい見ろ!回りにトラップを仕掛けた跡があるぞ!茂みは危険だ!山道へ向かへ!)
聞き慣れた銃声の後、敵の慌ただしい会話を聞いて蒼星石は少し笑みを漏らす。至極順調だ。もうすぐ奴らがここに来る。後は…
『ザザ…蒼星石、奴らが動き出しましたわ』
耳の無線に潜んでいる仲間の声が入る。
「ああ、わかってる。ニセのトラップも効果があったみたいだ。そっちの準備もいいね?」
『もちろんですわ。それで、金糸雀達へは?』
「連絡済みだよ。あとは皆を信じるしかないね」
蒼星石にもジュンが一人逸れている状況は知らされていた。恐らくそのジュンがローザ・ミスティカを見つけ、マフィアと真紅達が追っているというところか…。
『来ますわ』
その声に合わせ、双剣を引き抜く。
「よし。誰一人ここから先へは行かせないよ…!」


「あー!まったくあのチビ人間はどーしてこうあーなんですか!」
走りながら翠星石が愚痴を叫ぶ。だがそれも致し方ないことで、蒼星石からの連絡で知らされた場所は金糸雀のビーコンの及ぶ範囲の端であり、さらに敵の動きを見る限りジュンは現在自分達と反対方向へ進んでいるようなのだ。
「きっと翠星石がいつもジュンをいじめるから逃げられるのよ」
「なんか言ったですかチビ苺ー!」
「喧嘩は後!敵よ!」
前方には明らかにこちらを確認、迎撃しようと構えている敵の姿があった。
「マズいのだわ。これでは時間が…」
「真紅、私がやる…」
真紅の言葉を遮って薔薇水晶が前に出た。
「私が部隊を障害物ごと吹き飛ばすから…皆は進んで」
「貴女、まさか…!」
「エンジュリル…リミットブレイク、ブラスターⅡ!」
ガシャン!ガシャン!
氷の剣エンジュリルに搭載されている機能の中には制限付きのものがある。今使おうとしているものは周りから熱エネルギーを剣に吸収させ、元々の強力な冷気と合わせ爆発的な力を生む荒業だ。だが、吸収する対象には使用者も含まれるため…
「くっ…はっ…ガチガチ…」
「薔薇水晶!それ以上は危険なのだわ!」
「大…丈夫…いくよ…“クリスタルライト”…」
振り上げた剣身からまばゆい閃光が降り注ぐ。
「“ブレイカー”!!!」
キシャアアアアアアン!!
鋭い音と光、そして猛烈な衝撃波が剣の振りに合わせて辺りに飛び散る。一時的に発生した霧が晴れた時には、吹き飛ばされて気絶したか、あるいは冷気にあてられ動けなくなった者達が散乱していた。
「真紅!」
ついに意識を失った薔薇水晶を抱き寄せながら金糸雀がビーコンを真紅に投げる。
「薔薇水晶は私が見てるから、皆はジュンを追うかしら!」
「…わかったのだわ。頼んだわよ!」
「向かえが行くまで待ってるですよ!」
「気をつけてなの!」
所々で燃える木々や凍る木々がある異様な森を、三人は再び駆け出した。


一五一九時、サメ地区北部

「はあ…くっ…はあ…」
ガサガサガサ…
(何処だ!探せ!)
(まだ近くにいるはずだ!)
(向こうに回れ!海岸へ追い込むぞ!)
「くそっ…」
岩影で少し休もうとした途端にこれか…でもこのままじゃ奴らの言う通り、逃げ続けてもいずれ北の海岸へ追い込まれるだろうな。となると…
「逃げ切れない、か」
どうやらこの先には真紅達は居ないようだし、まさに万事休す。敵の雰囲気からすると見つかり次第殺されてしまいそうだ。やっぱり、素直に渡すしか…
『仲直り、出来るといいですね』
「…ッ!」
突然浮かんだのはあの子の顔。見捨てたという表現が合うかは解らないけど、本当に後ろめたい。彼女は大丈夫かな…いや、蒼星石達の話しじゃ大丈夫そうだけど…
「真紅…」
僕が彼等にローザ・ミスティカを渡してしまったら、彼女達は何て言うだろう。怒るだろうか?いや、きっと怒らない。ただ、仕方ない、しょうがなかった。そんな言葉を僕にかけるんだろうな…
「なんだよ、これ…」
僕はただただ周りの女の子に守られてるだけじゃないか。お荷物になってるだけじゃないか。役立たずじゃないか。あまつさえ、余計な危険に巻き込んでるだけじゃないか…!
「違う!」
僕はローズJ、誇り高い怪盗集団ローゼンメイデンのメンバーだ!このまま終わるなんて、僕が許さない!
考えるんだ…今の僕には何が出来る…今の僕には何がある…?手元にはデイザー一丁、高性能時計、薬品、筆記用具、山岳用具、そして…
「そうだ…これ…」
僕はソレをにぎりしめた。諦めるには、まだ早い。


「はぁ…はぁ…大分走ったじゃねーですか?」
あの後もいくらか敵に遭遇はしたが、不意打ちかつ一撃ノックアウトで黙らせてきた。
「そうね…ジュンが捕まってなければそろそろ…」
「皆止まるの!」
先頭を走っていた雛苺が声を上げる。茂みをかき分けた先には五メートル近い断層が聳えていた。とても素手で登れるような崖じゃない。さりとて、回り道する時間は…!
「ベリーベル!」
雛苺が叫ぶと彼女の両手から細い紐のようなモノが延び、崖の上の木に巻き付いた。
「二人とも、早く昇るの!」
「ええ!」
「了解ですぅ!」
雛苺が作った即席の梯子を二人は慣れた手つきで駆け上がる。
「さあ雛苺、貴女も早…」
チュン!
昇り終えた真紅が崖下の雛苺を呼ぼうとしたのもつかの間、その雛苺の頭上に鉛弾が飛んできた。
「敵が来たのね…いいわ!ここはヒナが止めるの!だから二人は先に行くのよ!」
「でも…!」
「真紅、時間がねーですよ!」
わかっている。その事実ばかりは、どうにもならい。
「くっ…気をつけなさい雛苺!」
「りょーかいなの」
ガサガサガサ!
二人が走り出したと同時に数人の敵が雛苺の周りの木々に身を隠しながら取り囲んだ。数もかなりいる。絶対に逃がさない、と言っているようだ。
「ふう、モテる娘は辛いのよ」
それでも雛苺は腰を低く構えると、あまり似つかわしくない不適な笑みを浮かべ、両手を前に突き出した。
「遊んであげるわ…おいで痩男!」


一五二三時、盗賊アジト山道前

『こちらローズ7です。殿方達は一旦車両や岩影に隠れたようですわ。動ける者は、ですが』
「ローズ4了解」
先程の交戦は奴らが山道に集まってきたところを奇襲し、足を中心に切り付け撹乱、それを雪華綺晶がサポートするという連携だった。蒼星石一人に臆する兵士達ではなかったが、森からの狙撃はいかんともしがたく一時的に身を隠したようだ。
「ふう、思ったよりてこずるな…」
やはり司令官のベジータが居るだけあってこのアジトに待機していた敵は質、量、装備ともに他のアジトより勝っている。恐らく朝に車で僕達を追い回したのもここの隊員だろう。
他のアジトへ分散させた者を探索班とするなら、彼等は強行班と言ったところか。何かトラブルがあった時にベジータの指揮の元力押しをする控え要員。だが生憎その指揮官は水銀燈が押さえているし、この道も僕らが通す気などない。
「ん…ローズ7。右から三番目の車両が見える?何かやる気だ」
『ええ。問題ありません』
遠くに見える動きから察するに、恐らく煙幕弾を撃ち込み、視界を塞いだ上で一斉に突撃するハラだろうか。だか彼女が大丈夫だと言うのだからそうなのだろう。なので草影から見守る事にする。
バシュ、スパーン!!ボフン!
(くそっ!ゴホッ、ゲホッ…!?)
案の定時を置かずして撃ち出されたはずの煙幕弾は突然撃ち手の目の前で破裂した。理由は無論、
「お見事」
『それほどでは』
これでまた時間が稼げる。今行われているハズの争奪戦に勝つにしろ負けるにしろ、彼等にはここに留まっていただくべきだ。
だがあまり時間が掛かりすぎるのは危険だ。ダミートラップの中には実際使う火薬式のモノも混ぜてはいるが、危険を侵して散り散りに走られてはどうしようもない。冷静に考えれば、こちらに辺り一面に罠を張るほどの持ち合わせなど無い事が解るからだ。
「頑張って、皆」
今日何度目かのセリフを口にする。足止め以外に出来る事など、離れた自分には祈るくらいしかない。


「マズイですね…もうすぐ北の沿岸に着いちまうです…!」
仲間を後ろに残している事に不安を覚えていた真紅も、翠星石の言葉に顔をしかめる。宝石と違って人は大きい。特に、隠れ潜む事に長けていない人物なら尚更だ。この辺りは確かに視界は悪いが隠れる場所と言うと限られてくるし、追う側がそれを知らぬわけもない。
「海岸にでも追い詰められていたら厄介ね…」
いや、ジュンと敵が対峙している所に踏み込めればまだいい方だ。自分と翠星石の力ならば十数人相手でも何とかなる。が、取り押さえられていたり、まして乗り物にでも乗せられてしまえば手が出せなくなってしまう。そうしたら…
「何か聞こえるです!」
再び翠星石の声で意識を頭の中から戻す。確かに木々の向こう側、つまり沿岸で何かが起きているようだ。何が起きている?決まってる!
「急ぐのだわ!」
「真紅!右!」
「くっ…!」
自分の声に重なった警告でも体は反応してくれた。放たれたリング状の捕獲機をなんとか伏せてかわす。が、もう戦っている余裕など微塵も…!
そんな事が頭を過ぎった時、翠星石が自分の武器を構えて叫んだ。
「オメーをこいつであそこまで吹き飛ばすです!後は何とかしやがれです!」
もはや是非もない。そんな事出来るかどうかすら気にしていられない。返事もしない。やるしか道はない。
「口径最大水圧最小!スィドリーム、モード大砲!」
おりゃあ!と翠星石が叫ぶのと同時に背中にとてつもない圧力がかかった。しかし、確かに体は凄まじいスピードで森の上へ、そして沿岸へと飛ばされる。意識が飛びそうな中、妙に間延びした時間の中で真紅は強く心の中で叫んだ。
(ジュン…!) 


一五三八時、ポイントゴルフ付近の山中。

正直、私は運がいいと思う。あんな至近距離での爆発でも、警部も私も重傷を負わず、更にある程度の時間逃げ続けられたのだから。実際みつ警部の傷はたいした事無かったが、私の方は右耳がまったく聞こえず、右足から出血もしていた。
それでも命に別状は無いのだから拾いものだが、追っ手に追い付かれるには十分過ぎる傷だったようだ。もっとも、全快でも逃げ切れたかは怪しいものだが。
(動くな!逃げても無駄だ!)
(抵抗すれば容赦はしない!)
(おいそこの男!早くこっちにこい!)
「くっ…」
成る程、確かにイタリアマフィアらしくイタリア語での脅迫だ。みつ警部にはイタリア語の心得は無いようだが、私は大学時代と就職してからも学んでいたのである程度なら聞き取れた。しかし、その内容が理解できない。何故私を…?
(おら!早くしろ!)
戸惑う私に痺れを切らせた一人が銃を構えながら私に近付き、服を掴もうと腕を伸ばした瞬間、
「柏流“壱式”…飛太刀!!」
(ぐはぁああ!!!)
突然、目の前の男が吹き飛んだ。
「巴ちゃん!!!」
私よりも早く警部が巴さんを見つけた。警部の視線を追うと刀を抜き放った頼もしい仲間の姿が確かに映った。警部の声が希望に満ち足た歓喜の声だったのも頷ける。私自信も、助かったと思ったのだから。だが-
(くそおおお!痛ええええ!!)
「なっ…!」
私はその有り得ない光景につい声を上げてしまった。まさか、巴さんの放つ斬撃を体にうけて、意識があるだなんて。私の記憶ではそんな人間は今までただの一人も居はしなかったのに。
しかし一時の後、私はその意味を知る事となった。
ブチン!
「ッ…ぁあああ!!!」
何かがはち切れるような音。耳をうつ悲鳴。そして、右手を押さえ倒れ込む巴さん。
「巴ちゃん!!!」
これほど声とは感情を表せるものか、そう思わせるほど警部の声は変わっていた。とても、先程と同じ言葉とは思えなかった。
だが同時にその言葉は同時に私を少し冷静にもさせた。そして私は悟った。現状は極めて絶望的で、危機的な状態だと。 

(てめぇ!)
(待て!)
一人がマシンガンの銃口を倒れ込み悲痛に震える巴さんに向けた時、私は叫んだ。そして続けて、
(わかった。行こう。だから撃つな)
そんな事を私は言ったハズだ。イントネーションはかなり錆び付いていて伝わるかどうか気をもんだが、様子を見る限り大丈夫のようだった。
「巡査…?」
その縋るような声に振り向く。会話の内容がわからないのだから無理もない。だから私は努めて冷静に説明した。
「聞いてください警部。彼らは私について来いと要求しています。従わなければ撃つとも。ですから、警部は巴さんを連れて逃げてください」
「なっ…そんなこと出来…!」
「警部!」
私だって警視庁特別捜査班の一員だ。マフィアに身柄を拘束されることがどういう事か知らぬわけではない。それでも。
「警部、こんな時だからこそ冷静になれと教えて頂いたのは警部です。これしか方法はありません。それに」
私が巴さんを見ると警部もそれに続く。向こうで巴さんが何か言ったように見えたが、それは声にはならず、続くうめき声に掻き消された。
「私達は巴さんに助けられ続けてきました。だから今回は私達が助けてあげなければ」
警部だってこの道の者だ。冷静になれば適切な判断は頭に浮かぶ。しかしなかなか顔を上げないのは理由があるからだ。そして、その理由は警部としては失格だ。けれども、
「私はいい上官を持ちました」
これだけは、伝えておきたかった。
(おい!)
(わかってる。今行く)
連中の元へ行くと手を縄で拘束される。その作業の途中で名前を呼ばれた。
「白崎巡査」
体の自由はきかないのて顔だけ向ける。
「上官としての命令です。私が…いえ、私達が助けに行くまで、絶対に生き延びなさい」
ここで無責任に『はい』と言える程、私は楽観主義者ではなかった。
「努力します」
それが、精一杯だった。
警部が巴さんに駆け寄るのを眺めながら引きずられるように移動し、車に無理矢理載せられた。もうここからでは二人の姿は確認できない。
どうか、あの二人が無事にこの島を出れますように… 


「くそっ!離せ!離せー!」
叫んでも無駄なことくらいわかってる。でも僕は、どうしても時間を稼がなくちゃいけない…!
結局、必死の逃走も彼らの数と技術の前ではたいした意味をもたなかった。もう少しは逃げ続けられると思ったのに…改めて自分の情けなさを痛感する。だけどせめて、せめて彼女達の姿を見るまでは…!
ドバーン!
ついに地面に押し付けられ、もう駄目かと悟った時にその音はした。何か、水が吹き出したような。そして…
『ジューーーーン!』
「真紅ーーーーー!」

状況は最悪に近かった。ジュンは既に取り押さえられ、叫ぶのがやっと。
「はああ!」
着地のついでに足元の男の首に蹴りを入れる。そしてすぐさま横に跳躍。ジュンの元に突っ込んだとこれで無意味なのは体が解っている。しかしかといってうまい打開策が浮かばない。相手の数も多い。銃もある。その攻撃を避けようとすればするほどジュンから離れてしまう。
「ジュン…!」
その本人はかなり暴れているようだった。何か叫んでいるのか。だがそれを聞く余裕すら与えてくれない。
それでもなんとか五人撃ち倒した所で車が飛び込んで来た。黒い色にスモークガラス。どう見ても連中の車だった。
「この…待ちなさい!」
車に詰め込まれていくジュン。その瞬間、真紅は無謀にもジュンのもとへ一直線に走りだした。普段なら考えもしない行動に自分自信驚きながらも砂地を翔ける。ただジュンの姿だけを瞳に映して。そうしなければ、もう二度と会えないような気がしたから。だが、
チュイン!
「あっ…!」
無意識の回避行動。足が地面を蹴り、あと数歩の距離だったジュンから遠ざかった。体に染み込んだ反射は、その体の持ち主を意識とは関係なく守ってくれた。鍛えられた怪盗の体は、本人の意志など尊重してはくれなかったのだ。
「真紅!」
そう叫んだのかもわからない。強引にドアが閉められ、ほんの一瞬で車は走りさってしまった。そして残されたのは、動かない数人のマフィア達と、呆然と立ち尽くす真紅だけとなった。


一五四三時、盗賊アジトテント前

「ふぅ…」
残り少なくなった弾を込めながら一息つく。そろそろ残り時間が少なくなってきた。まったく楽しい時間は早く過ぎるとは良く言ったもんだが、あまりのんびりしているとこの国から出られなくなっちまう。
しかし思えば、司令官の立場になってからはまともな撃ち合いをした記憶がない。あるとしたら牽制か威嚇くらいだ。こういう場に餓えるのも無理もないってモンだろう。
さて、残りの弾でどうやり合うかを思案してるとひょっこり部下が顔を出してきた。続くハンドシグナルを読む。やるやれ、どうにか回収できたらしい。冷や冷やさせるぜ。
おっと。やるべき事はやらにゃあな。
「聞こえるか銀嬢!どうやら楽しい舞台も幕引きのようだぜ!あと一時間ちょいで首都厳戒令も解除されるだろう!急いで逃げた方がいい!じゃあな!」
反応は無い。だがこれで銀嬢には大まかな事態はつかめるはずだ。後はそこいらで伸びてる部下を引きずりながらとっとと退散するだけか。案外それがかなり大変そうだ。
実際、彼女達にゃ悪いとは思う。だがまぁ、これもビジネスなんだ。そして俺もお前達もプロなんだ。それがこの世界の在り方だ。わかるだろう?なあ、銀嬢よ。

ベジータの方から終わりを告げた。それは則ち、奴らがローザ・ミスティカを手に入れた事を意味する。
「・・・」
時計を見る。時間が無い。五時までにはこ国を出なければならない。追い掛ける時間は、残されていない。
「こちらローズ1。ローズ4、応答を」
『こちら…ローズ4』
「チームβに連絡、現状を報告せよと伝えなさい。それから、私達のチームの車の座標を教えてそこに集まるようにと」
『ローズ4、了解…』
蒼星石の声は重く、暗かった。なら真紅やジュンはどんな顔をしてどんな声を出すだろう。考えるだけでひたすら気が重い。
「はぁ…おばかさん…」
この作戦を考えたのはこの私だ。全ての責任もまた、私にある。予想外の出来事など、言い訳にすぎないというのに。
しかし、それでもきっと彼女達とジュンは己の非力を嘆くだろう。期待と信頼を裏切ってしまったと後悔するだろう。リーダーにとって、部下のそんか姿を見るのは一番辛い事とだとは知るはずもないのだろうけれど。
いっそ『貴女の作戦ミスだ』と言ってくれればどんなに良いか…と心の中で歎きつつ、水銀燈は車のある場所へと歩き始めた。


「真紅…」
翠星石の声に、真紅は反応しなかった。
ただ夕方になり吹き出した風が、ゆらゆらと彼女の髪を撫でた。こんなにも小さい真紅の後ろ姿を翠星石は初めて見た気がする。
「みんな、無事かしら」
金糸雀が薔薇水晶を担いで森から出てきた。雛苺も一緒だ。途中で合流したらしい。とりたてて怪我もないようだ。だが-
「私達も平気です。でも、ジュンは…」
それ以上言わなくていい。そんな雰囲気が三人から漂ってきたので翠星石も口を閉じた。
「私の…せいなのだわ」
ぽつり、真紅が誰に言うでもなく呟く。その表情は伺えないが、彼女の背中が全てを語っているようだった。
『ザ…ザザ…こちらローズ4。誰か応答願う』
そうだ…仕事はまだ終わっていない。
「こちら…ローズ3です」
『現状を報告して』
「…ローズ2、3、5、6、は軽傷、ローズ7も自立歩行は出来ませんが問題ないです。ローズJは…」
真紅の背中が視界に入り、続く言葉が出てこない。駄目だ、報告は簡潔に済まさなくてはならないのに。
『ローズJは?』
「…ローズJは奴らに連れて行かれました。恐らくローザ・ミスティカも一緒…」
「待つのよ」
突然の雛苺の声にその場の全員がそちらを向いた。砂地に屈んでいた雛苺が立ち上がるとの手には小さく、くしゃくしゃな紙が。
「023.123.05.816…」
雛苺が読み上げる数字は、彼女達が使う時計に搭載されている座標を表すもの。そして、
「ローザ・ミスティカ…」
真紅の肩が僅かに揺れた。
翠星石がその真紅の肩を抱く。
「真紅。オメーさんの下僕はオメーさんが考えているよりずっとずっと優秀みたいですよ」
「でも…それじゃあ直ぐに隠したのがバレ…」
言い終わる前に雛苺も気付いたようだ。そう、今のジュンの手元にはソレがある。朝、車の中で翠星石から渡された、本物そっくりのローザ・ミスティカのレプリカが。
「こちらローズ3です。訂正があるです。ローズJはマフィアに連れ去れましたが、ローザ・ミスティカは無事でした」
『…了解。じゃあ金糸雀に車の場所を聞いてそこに集合するように』
「ローズ3、了解です」
更新を終える。見ると、今度は金糸雀が真紅の横に立っていた。
「真紅、ジュンの体の発信機があるかぎりどこまででも追えるかしら。私ももっと高性能なビーコンを作るわ。だから…」
翠星石は再び真紅の背中を見る。それは、既に、いつもの真紅の背中だった。
「ええ…必ず取り戻すのだわ。こんなにも優秀なメンバーなんですもの…」


午後2時。日本。東京、墨田区のとあるカフェ。

カラン、コロン。
「いらっしゃいませ」
ドアの鈴がレトロな音を鳴らし、店員が負けないくらい趣のある声で迎える。しかしその客はそれらに全く興味がないようで、おもむろに店内を見渡した。客が一人、テーブル席に座ってコーヒーを飲んでいるだけだ。
「・・・」
その客は黙って歩きだし、客が一人既に座っているテーブルの向かえに腰を下ろした。空いてる席ならいくらでもあるし相席を断りもしなかったが、そこに座る客もまた、それを当然のように受け入れた。
「ご注文は」
「紅茶をお願いするわ。ストレートで」
「かしこまりました」
そう注文する客は、黒を基調としたタイトなスーツ姿に大きなサングラスをしている。そして何より、流れる美しい銀髪が印象的だった。
「まず先に、結論をききましょうか」
と、その銀髪の客の前に座る女性が尋ねた。こちらの服装はベージュと黒を合わせたミニスカートのスーツだ。こちらも眼鏡をしており、黒髪を後ろで結っている。
「問題点と検討の予知はいくつかあるけれど…」
話し始めた女性の前に紅茶が置かれる。サングラスを外し、それを一口飲んだ。
「…いいでしょう。協力させていただくわ」
そう言われた女性は、笑いもせず、ただ頷いてみせた。そして、
「ご協力感謝します。ローゼンメイデン総指揮官、水銀燈」
「こちらこそ。警視庁特別捜査班、草笛警部」
名乗り合った二人は、ゆっくりと固い握手を交わしたのだった。

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