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冬が終わりを告げ、 春の息吹が吹き始める2月の終わり。白い息と共に、 若干年寄り臭いセリフを口から吐いた。
「うーん……今日も疲れたですぅ」
天まで届きそうな伸びも一つ。疲れですっかり縮こまった背筋が、 ぐいと引っ張られる感触。
その何とも心地よい感触に浸っていると、 後ろから声が聞こえてきた。
「待ってよ、 翠星石」
振り向くと、 パタパタと双子の妹が駆けてくるのが見える。赤いマフラーと栗毛色のショートカットが揺れて、 どことなく可愛らしい。
「蒼星石が遅いだけなんですぅ」
そう少しからかってから、 視線を周りに移してみる。
空は、 赤とも黒とも判別のつかない夕暮れの終わりを告げていた。
その下では、 野球部がせっせとグラウンド整備に勤んでおり、 不意に「青春」の二文字を連想させる。
「ふぅ……そんなに急かさなくても……」
いつの間にか蒼星石はこちらに追いつていたが、 走り疲れたのか肩で息をしており、 顔が少し赤い。マフラーを緩めて胸元に風を送りこんでいる。
それがまた何とも艶っぽいが、 当人はこの絶妙な色気を自覚していないようだ。まったく、 男女を問わず変な虫が沸くワケである。

「こんな可愛い妹を、 あんな変態ヤローどもには渡さねーです」
拳をギュッと固めてまでの決意は、 思わず口に出てしまっていたらしい。蒼星石が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
な、 なんでもないですぅとごまかして、 二人で帰途に就くことにする。
蒼星石はまだどこか納得のいかない様子だったが。



「あ、 あれ双子座だよ?」
急にそんな事を言い出した蒼星石のほうを見ると、 すっかり暗く染まった空を指差している。
その指をなぞるように視線を移すと、 いくつもの星の瞬きが見えた。

やはり冬は空気が澄んでいるからか、夏に見るそれよりもハッキリしている。だが、 見えるのは様々な光り方をする星達だけであり、 その中から、 自分達と同じような双子の姿を象る星座がどれなのかは、分からなかった。
「よく分からんですぅ」
「ほら、 あそこに見える一番光っている星あるでしょ?あそこが頭で……」
すっかり説明モードに入ってしまった蒼星石を止める手段は存在しない。
なんだか小難しい説明を半分ほど聞き流しながら、 ぼんやりと星を眺めていた時だった。



「何してるんだ?翠星石に蒼星石」
不意に後ろから声が聞こえてくる。どこか繊細で、 どこか優しい声。
そうこれは――大好きな人の声だ。
パッと後ろを振り向くと、 眼鏡をかけた少年と……綺麗な金髪の少女がいた。
「ジュン!……と真紅ですか」
喋り方に気持ちが現れていたらしい。金髪の少女はクスリと微笑むと「あら、いたら悪いかしら?」と言い、 すぐにすました顔に戻る。この金髪の少女は、 こちらの心の内を読んでいるのだろうか。

「べ、 別にそういうワケじゃねーです。でも女の子と一緒に帰ろうなんて、 ジュンには100年はえーです!」
ここで彼につっかかってしまうのは、自分の悪い癖だ。どうしてもっと素直に、 焼きもちくらい妬けないのだろう。
「はぁ?なんだそりゃ。別に同じ家なんだから良いだろ、 帰るタイミングも一緒だったんだし」
半ば呆れた顔で答える彼を見ていると、心臓がギュッと痛む。そして余計に素直になれない、負の連鎖だ。

「そんなの関係ねーです!ジュンごときが調子に乗るなです!」
「なんだと、この性悪女!」
そうやってお互い睨み合うが、 これはいつもの事で、 たいてい横槍が入る。
「まぁまぁ、 二人とも落ち着きなよ」
「二人とも大人気ないのだわ」
精神年齢が圧倒的に大人な二人に言われては、 私も彼も言い返せない。
私が「べー」と舌を出すと、彼は口をとんがらせてそっぽを向く。それで口喧嘩は終了だ。


その後は、 結局途中まで四人で帰る事になった。
私としては、 このまま彼を真紅と二人っきりで帰らせたくはないし、 何より彼と帰れるのだから大賛成だ。
ちょくちょく口喧嘩の再戦を繰り返しながらではあったが、 彼の家までの帰り道は楽しく、 いつまでも帰れなくても良いとさえ思えるほどだった。



「じゃあまた明日な。翠星石、 蒼星石」
「二人とも、 また明日なのだわ」
楽しい時間ほどすぐ過ぎるとは、 よく言ったものだ。
彼の家の玄関から漏れる光が少しずつ細くなって、 ガチャンという音と共に、 その光は見えなくなった。
扉が閉まるまで手を振った後は、 少し寂しい気持ちで家路を急ぐ事にする。


「もう少しジュン君と一緒にいたかったんでしょ」
急に蒼星石がそんな事を言うものだから、 思わずつまずきそうになってしまった。
「そ、 そんなことないですぅ!なんで翠星石があんなチビ人間と!」
必死で反論しようと蒼星石のほうを向くと、 ニヤニヤしながらこちらを見ている。顔が赤くなるのを感じ、 思わず顔をうつ向かせた。
「ふふ」
クスクスと蒼星石が笑っているのが分かる。どうやら妹のほうが、 一枚や二枚上手らしい。
ため息を一つ吐き、 今度は上を向いてみた。いくつもの星達が、 先ほどと変わらずに輝いている。
相変わらず双子座の位置は分からない。でも冬の空に映る星々は、 いつになくキレイだった。

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