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なんとか家にたどり着いた私は倒れ込むようにベッドに沈んだ。

なんでこんな事になってしまったんだろう。
今も耳には翠星石の叫びが残っているようで…

―わ、私には好きな人がいるです―
―お寒い水銀燈とは違うです!―

私を動かすこととなった彼女の言葉を思い返す。
まさかそれがジュンのこととは思わなかった。

あらためて自分が恋にどれだけ無関心だったかを思い知る。
友達の恋にすら私は興味を持っていなかったのだから。

よくよく考えれば気付けたはずだった。
佐田君の顔すら知らなかった私が、ジュンの顔と名前を知っていたのは
翠星石が彼に突っ掛かる姿を見たり、彼の話題をたびたび聞いたからに外ならない。

―チビで、メガネで、本当にどうしようも無いやつです―
―だけど、笑うとちょっとだけ…可愛かったりするです―

なんということをしてしまったのだろう。
私は絶対に間違ってはならない相手にチョコを捧げてしまったのだ。

でも―

だけど――

もう私の恋も止められはしない。
私は恋することをやめられない。 

そう―

だから――

私は彼を信じてみる。
彼の選ぶものを信じてみる。

明日のデートに彼が来てくれたなら。
私は誰を敵にまわしても構わない。

二人で…

二人で恋をしていく。



―――CRASH DAY―――



昨日はついに連絡をとることはしなかった。
どう声をかけていいのかわからなかったからだ。

けれど今日、この場所に来てくれるなら話は別だ。
彼が来てくれれば、本当の気持ちを伝える勇気を持てると思う。 

トクン トクン トクン

あの時以来、止まってしまったようだった心臓が確かに高鳴っている。
約束の時間はあと少し。

トクン トクン トクン

今になって少し弱気な心が持ち上がり、
不安が思考を覆い尽くすような感覚。

トクン トクン … ドクン

「ジュン」

彼の姿が視界に入った。
急激に目頭が熱くなるのがわかる。

信じてよかった。
これで私は勇気を持てる。
安堵をもって私は彼の到着を待つ。

「水銀燈…待った?」
小さく微笑んで彼は言った。

「全然待ってないわぁ」
私も精一杯に微笑んだ。

「君に渡したいものがあるんだ」 

そう言って鞄から小さな袋を出してくる彼。
プレゼントだろうか?

私は少し面食らった。
昨日の事をまずは語り合うと考えていたからだ。

「あらぁ…なにかしら」
訝しがりながらも受け取って袋を開いてみる、
そこには青い包装紙に包まれた四角い箱。

見覚えがある。

「どうして…」

どうしてこれを私に渡すの?
これは紛れも無く私の贈ったチョコレート。
開封された痕跡もない、あの時のままの姿。

「知っていたんだ…これは僕にじゃないって」
「判ってたんだ…ただ間違われただけだろうって」
「だけど、チャンスだと思った。」

私は彼を見れない。
視線はチョコレートに向けられたまま… 

「これを逃したら、君に告白する勇気なんて一生わかないと思ったから。」
「そしてそれは…君の優しさに付け込むことになった。」

震える指先を抑えるためにチョコレートの包みを強く握りしめる。

「楽しい時間の中でどこか不安だった。」
「君が間違いをいつか…」
「いつか正そうとするんじゃないかって…」

「ならいっそ正す時が来たら、きちっとリセットできるようにと思って」
「それをそのままの形で残しておいた。」

優しい口調で彼は全てを告げ終えたらしい。

リセットできるように?
何故だろう、激しい哀しみが私を包みこんだ。

「…そつき…」
少しの沈黙の後ようやく言葉を発することができる。

「うそつき!」
それは彼に対する憤りの言葉。 

「食べたって言ったじゃなぁい!」
「美味しかったって…言ったじゃなぁい!」
「何が!手づくりなんて気付かなかったよ!」
「開いてすらいないんじゃなぁぃ!」

強く、彼を睨み付ける。

「始まりは確かに間違いで、そこには確かに嘘があった…」
「でも私は付き合ってから、貴方に嘘をついたことはないわぁ」
「貴方を信じて!貴方に恋をしていった!」
「何ひとつ嘘じゃなかった!」

ジュンの表情がどんどん曇っていく。
それでも私は止まらない。

「ジュンは私を信じてはくれなかったのね…」

「リセットなんて必要なかった!正すような間違いはもうここにはなかったのに…」
胸を押さえるように、チョコを握る両手を引き寄せる。

「このチョコレートは、確かに貴方への想いに変わっていたのに!」

「こんなものぉ!!」

私は手にしていた包みを地面に勢いよく投げ付ける。

身体中にチョコレートが砕ける鈍い音が響く。
それは私の心の砕ける音でもあったのかもしれない。

心の砕ける、その冷たい残響と呆然とするジュンを残したままに…私は走り出した。

もう何も見たくない、もう何も聞きたくない…

ただ全てから逃げ出すように、私は走り続けたのだった。

               つづく

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