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<あらすじ>

時は戦国の世。備前国に「薔薇乙女」と呼ばれる8人の姉妹がいた。
天下統一の野望を抱く長女・水銀燈は、戦国大名となって上洛を果たし将軍・足利義輝の信頼を得る。
しかし将軍の弟・足利義秋の陰謀により本願寺、織田などの強大な勢力に包囲されてしまう。
四方を敵にまわしての悪戦苦闘が続く中、足利将軍家との決別の時は迫っていた。


<本編に登場する主な史実武将>

○細川藤孝(ほそかわ ふじたか/1534~1610)
細川家の養子となり足利義輝、義昭に仕えた。後に「幽斎」と号す。武芸に優れ、和歌や茶道にも通じ文化人としても名を残す。
巧みな処世術で足利・織田・豊臣・徳川の四時代に生き、さらにいずれの天下人にも重用された稀有の才人であった。
本編では薔薇乙女たちと良好な関係を築く。特に真紅と親交が深く、時にアドバイザー的役割も担うことになる。


――永禄八年九月。

雛「今年は久しぶりの豊作なのー!」
銀「そう、よかったわぁ……去年はヒドかったからねぇ」
収穫の季節を迎え、水銀燈の領内は例年以上の賑わいを見せていた。
しかし、薔薇乙女家を取り巻く状況はいっそう厳しいものになっている。
水銀燈は前月に陥落させた石山本願寺を改修して「石山城」と改め、ここを臨時の本拠として摂津に留まっていた。
薔薇乙女たちの運命を一変させる報せがこの地に届くのは、この後まもなくのことである。

京都、二条城。
将軍・足利義輝とその弟・左馬頭(さまのかみ)義秋の前で、幕臣たちにより畿内の戦乱の収拾策が話し合われていた。
が、議論の中心は徐々に勢力を拡大する薔薇乙女家への警戒論へと傾いていく。
幕臣A「左中将殿は本願寺を占拠し、摂津全域を手中にされた。これで京周辺の要所は全て左中将殿の支配下となってござる」
幕臣B「これは由々しきことではござりますまいか。畿内を治めているのはもはや幕府ではなく薔薇乙女家ということに……」
水銀燈の脅威を説く幕臣の意見に、他の幕臣たちもいちいち頷く。
(これは驚いた……幕臣の多くが水銀燈殿を警戒の目で見ておるとは。左馬頭様の調略はここまで進んでいたか)
多数を占める水銀燈脅威論を前に、明智光秀もなかなか反論する機を見出せない。
義輝「皆、左様に思うか……しかし、ここまで幕府の威信が回復したのも左中将の働きあってこそではないか。違うか? 兵部」
細川藤孝「御意にございまする」
義輝に意見を求められ、兵部大輔・細川藤孝が静かに答えた。
藤孝は茶の湯を通じて真紅や雪華綺晶とは懇意の間柄であり、光秀と同じく水銀燈に対しては親しみを寄せる者である。
藤孝「左中将殿の勢力が増しているのは事実なれど、それが幕府にとって悪しきこと決めつけるのは性急かと存じます」
光秀「拙者も兵部殿に同意致しまする。左中将殿は未だ幕府に対し背くような動きを見せたことがござらぬではありませぬか」
義秋「これは十兵衛とも思えぬ言葉よ。既に水銀燈は将軍家に背いたも同然ではないか」
すかさず藤孝に同意し場の空気を変えようとした光秀だが、直後に義秋に釘を刺されてしまう。
義輝「義秋、左中将が既に背いておるとはどういうことぞ?」
義秋「兄上。水銀燈が近江出兵の許可をしつこく求めたのはあの者の私欲より出しこと――」
ここぞとばかりに持論を展開し始める義秋。
義秋「その証拠に水銀燈は近江を我が物とし、幕府に返還する意思は欠片ほども見受けられませぬ。そは摂津にても同じこと」
光秀「しかしながら――」
義秋「さらにあの者は京に近い伏見に新たな城を築き始め、果てにはこのような物まで畿内にばら撒いておりまする」
義秋は懐中より一枚の書状を取り出し、義輝に手渡した。
義輝「これは……!」
義秋「畿内の大小名及び国人衆に参集を呼びかける書状にございます」
そこには「いざという折にはこの水銀燈のもとに集い、ともに京へ攻め上るべし」と認めてあった。
義輝「この『いざという折』とは……」
義秋「決まっておりましょう。あやつが幕府を倒し、天下を我が手に収めようとする時にござりまする」
光秀「馬鹿な!」
普段温厚な光秀が思わず叫び、場は一気に騒然となった。
義輝「信じられぬ……あの左中将が左様な企みをするとは到底考えられぬ」
義秋「兄上はあの者を信用しすぎですぞ。このままでは三好一党の二の舞……早々に討伐令を下されるべきかと」
光秀「お待ちくだされ! その書状が本物であるという確証がござりましょうや?」
義秋「確かな筋より手に入れし物じゃ。よしんば偽物だとしても、もはや水銀燈の叛意に疑いの余地はないわ」
このあと光秀、藤孝の必死の抗弁も実らず、遂に評議は水銀燈討伐と決した。
将軍である義輝といえども、この議論を独断で覆すことは不可能であった。

この後畿内、中国、東海、北陸の諸大名に水銀燈討伐令が発せられ、幕府も独自に追討軍を編成し始めた。
数日後、この決定は松永久秀の急報によって水銀燈の知るところとなる。
銀「そんな……上様が、あの義輝将軍が、この私に討伐令を……!?」
さすがの水銀燈もこの報せには動揺を隠し切れなかった。
雪「おそらく公方様の本意ではないと思われますわ。明智殿の申された通り、左馬頭様の企みに乗せられたものかと……」
銀「おんなじことじゃなぁい!? 将軍家を、義輝公を相手に戦うなんて……」
水銀燈の落胆ぶりは雪華綺晶も見たことのない程のものであった。
義輝は水銀燈に格別に目をかけ、いつも好意の目をもって接してくれていた。
それは武家の冷厳な主従関係とは明らかに異なるものであった。
久秀「水銀燈様、左様に肩を落とされますな。むしろ好機とお思いなされ」
銀「好機ですってぇ……?」
傍らに控える松永久秀の言葉に、水銀燈の目の色が変わった。
久秀「御意。討伐令が出された以上、誰憚ることなく幕府を滅ぼせる……名実ともに天下を取るまたとない折ではありませぬか」
銀「弾正、アンタって奴はぁ……!」
雪「弾正殿、口が過ぎましょうぞ!」
薔「言って良いコトと……悪いコトがある」
久秀「水銀燈様! 以前拙者がお耳に入れし言葉は覚えてござるか?」
銀「はぁ……?」
久秀「欲する物が目の前にして、我慢するのは毒にござります」
銀「あぁ……そういえば翠星石から聞いたわねぇ」
久秀「拙者は三好家に居た頃より、貴女様が天下を欲しておられると
     拝察いたしておりました。ゆえにこの弾正、その夢を叶えて差し上げたい一心で粉骨して参った次第」
(ああ、そぉゆうコト……)
その言葉に、薔薇乙女家に臣従した久秀の本心の一部がようやく見えた気がした水銀燈であった。
同時に上洛以来ひた隠してきた己の野心を見透かされていたことに、言いようのない気味悪さも感じていた。
銀「確かに私は、天下を取る為に京に上ってきたわぁ。でもそれは私利私欲じゃない。戦を終わらせ、新しい世を築くためよ」
久秀「しかし京に旧態依然の幕府がのさばっていては、その新しい世も開けますまい」
銀「そんなコトは分からないわぁ。義輝公が将軍ならあるいは……そう思って戦ってきたのよぉ」
家臣「申し上げます! 槙島城に幕府軍およそ四千五百が接近中とのことにございます!」
銀「ちっ……」
雪「姉上、こうとなっては幕府勢を切り防ぐほかはありませんわ」
薔「降りかかる火の粉は、払わなきゃ……」
銀「そぉね……きらきー、ばらしー、雛苺は槙島城へ向かってちょうだい。弾正は大和に戻り、織田勢を迎え撃つのよぉ」
雛「承知なのー!」
久秀「はっ。一命に代えても大和を死守して見せまする」

この後、雪華綺晶、薔薇水晶、雛苺は三千五百の兵を率いて山城国槙島城へ急行。
幕府軍四千五百を籠城戦で迎え撃ち、城を守りきることに成功した。
一方松永久秀は大和国多聞山城に入り、三千七百の軍勢とともに籠城。
鉄砲隊を巧みに操り、伊勢から攻め寄せた織田軍七千五百に手痛い打撃を与え敗走させる。
銀「ふぅ……当面の危機はなんとか凌いだようね。でもこれからいったいどうなるのかしら……」

――永禄八年十月。

細川藤孝は密かに京を脱し、真紅のいる播磨国姫路城を訪れた。
紅「まぁ、これは兵部殿。かようなところへわざわざお越し下さるとは……急いで茶の湯の用意をさせましょう」
藤孝「あ、いや、真紅殿。せっかくなれど左様なゆとりはござりませぬ」
藤孝は幕府より諸国に発せられた水銀燈討伐令の書状を見せ、現在の洛中の情勢を簡潔に説明した。
事情を知ってさすがに青ざめる真紅。
紅「なんてこと……それで、水銀燈はどうしたのです?」
藤孝「討伐軍の第一陣は撃退された由。今左中将殿の所へは十兵衛殿が密かに参り、密議をしているはずでござりまする」
紅「そうですか……それを伝える為にわざわざお運びを?」
藤孝「左中将殿は上様の為に並々ならぬ働きをされたお方。その方の窮地とあれば見過ごせませぬ」
紅「当家のためにそこまで……かたじけないのだわ」
藤孝「いや、こたびのことは幕府の決定を覆せなかった拙者の至らなさゆえ。せめてもの罪滅ぼしと思うてくだされ」
翠「そうです! だいたい将軍のために命がけで戦った私達が、なんで討伐されなきゃならんのです!?」
藤孝「……面目次第もござらぬ」
蒼「よしなよ、翠星石。細川殿も明智殿も、僕達のために頑張ってくださったんだよ」
申し訳なさそうにうなだれる藤孝。
ジ「で、これからどうするんだ? 幕府の討伐令が下った以上、ただでは済まないと思うけど」
翠「決まってるです! 今すぐ全軍を率いて京に取って返し、水銀燈と合流せねばですぅ!」
藤孝「あ、いや待たれよ。それはいかがなものかと存ずる」
翠「はぁ!? 何なんですいったい?」
藤孝「今貴女方が京へ向かえば事態はややこしくなりかねませぬ」
紅「どういうことですの? 兵部大輔殿」
こほん、とひとつ咳払いをした後、藤孝は続けた。
藤孝「こたびの討伐令はひとえに左馬頭様の画策によるもの。今貴女が軍を率いて京に戻ればいよいよその術中に陥りまする」
現在水銀燈は幕府の命を受けた諸国の軍勢と交戦中であり、そこへ真紅が西国から軍を差し向ければ京を挟撃する形となる。
そうなれば薔薇乙女家が幕府に対し叛意を明確にしたと受け取られ、事態の収拾が不可能ともなりかねない。
くわえて安芸の毛利、出雲の尼子など西国の諸勢力が手薄になった備後・美作方面を狙って動き出すということも考えられた。
蒼「なるほど……」
金「じゃあ、どうすればいいのかしらー!?」
藤孝「ここは踏みとどまり、西国の守りをいっそう固められよ。その間に拙者と十兵衛殿がなんとか幕府の方針を変えてみせまする」
巴「そうね……幕府との決定的な決裂を避けるにはそれがもっともいい方法かも」
ジ「確かに、今はそうするほかなさそうだな」
藤孝の提案に、姉妹達もうなずいた。
藤孝「では拙者は京へ戻り、十兵衛殿と談合のうえ公方様を説得いたしまする」
紅「兵部殿。よろしくお頼み申し上げますわ」
その後真紅は藤孝を城内で歓待し、翌日、京へ出立する藤孝を祈りを込めて見送った。
あくまで将軍家を重んじ幕府を助けた上での「天下」を望む真紅としては、幕府との全面戦争は何としても避けたいのであった。

その頃、水銀燈は完成したばかりの伏見城にいた。
明智光秀が訪ねてきたのは紀州で勢力を盛り返した門徒衆が和泉国に侵入し、その討伐のための軍編成に忙しい時である。
光秀「見事な普請にござりますな。感嘆いたし申した」
雪「まぁ、明智殿。せっかくのお越しになんの用意も……姉上もまだ戻ってはおりませぬ」
光秀「左様でござったか……いや、あまり大っぴらにこちらへ伺えば他の幕臣に睨まれますゆえ忍びで参ったのでござるが」
雪「クスクス……そういえば明智殿はいつもお忍びでいらっしゃいますものね」
光秀「お恥ずかしゅうござる。そして拙者が参るときは左中将殿はいつも戦支度じゃ(´・ω・`)」
つい愚痴っぽく言ってしまった光秀を見て、雪華綺晶が再び忍び笑いを漏らした。
光秀「こ、これは失礼……」
銀「あらぁ? きらきーったら、こんな昼間から十兵衛殿と密会してるのぉ?」
光秀「Σ(・∀・|||)ゲッ」
雪「まぁ姉上、密会だなんて……///」ポワァァン
光秀「そっ! そのようなコトは断じてッ……はは、あっはっはw 左中将殿もお人の悪い……というか、いつお帰りに!?」
銀「あぁ、なんとか和泉の方は鎮められそうだからさっさと戻ってきたのよぉ。でぇ、何の用? 随分久しぶりな気がするけど」
光秀「は、はっ。お久しゅうござりまする。さっ左中将殿にはお変わりもなく……」
二条城内では幾度も顔を合わせていたが、このように二人が改まって対面するのは播磨守護職就任の折以来である。
こうしていざ水銀燈を目の前にすると、なぜか話しづらい光秀であった。
光秀「ゴッホン! ……こたび幕府よりいでし討伐令についてでござる。左中将殿におかれましてはなにとぞ御自重願いたく――」
銀「自重しろですってぇ? 当家はもう討伐軍と交戦してるのよぉ?」
光秀「本願寺や織田との戦なれば是非もござらぬ。しかしながら、幕府の直属軍とはなんとか衝突を避けていただきたいのです」
銀「ふぅむ……言いたいコトは分かるけどねぇ。要は左馬頭の思うツボってコトでしょ?」
光秀「御意。拙者、細川兵部殿とともに上様に翻意を促す所存ゆえ、それまでなにとぞ御自重くだされませ」
銀「仕方ないわねぇ……わかったわぁ。アナタが幕府を上手く動かせるコトを信じて、足利軍には極力手を出さないことにしましょう」
光秀「はっ。かたじけのうござりまする」
銀「私とて上様に刃を向けたくはないしねぇ。ただし、ひとつ条件があるんだけどぉ」
光秀「条件、と申されますと……?」
水銀燈の瞳が、妖しく光った。

(はぁ……)
重い肩を引きずるようにして光秀は伏見城を後にした。
これから義輝と義秋を説得しなけらばならないという重責に加え、水銀燈から示された条件が重く圧し掛かる。
(どのような条件かと思えば、『万が一幕府と決裂したら、責任とってこの私の家臣になりなさぁい』などと申されるとは……)
水銀燈の家臣になるということは即ち将軍家を見限るということであった。
松永弾正ならともかく、義理堅い光秀がそのようなことをすんなりと承諾できるはずもない。
その件についてはしばしご猶予を、と頼み込むほかは無かった。
(確かにあの御方にお仕えできるならしてみたいものだが――)
なんとなく自分で自分をど壺に追い込んでいるような気がしないでもない光秀であった。

数日後、光秀は藤孝とともに二条城に上り将軍義輝に面会を申し入れた。
即座に了承され義輝に目通り叶った二人だが、義輝の傍らには弟の義秋がしっかりと控えていた。
光秀「コホン……上様。本日は折り入って申し上げたき儀ありて罷り越した次第。ついては――」
義秋「なんじゃ、儂は居てはならぬと申すか?」
光秀「あ、いや……」
義秋に機先を制せられ、あっさり同席を認めてしまう光秀。
義輝「今日は二人そろって何事じゃ。苦しゅうない、申してみよ」
藤孝「さればこたびの左中将殿討伐の儀についてでござる。織田軍は松永弾正の奮迅の働きにて敗れ、戦況は芳しくありませぬ」
義輝「うむ、そのことは余も耳にしておる」
藤孝「左中将殿も上様に刃向かうは心苦しい限りと思いまする。されば、このあたりで一度和睦をされてはと――」
義秋「おう、それよ。儂もそれを考え、兄上と談合しておったところなのじゃ」
あっ、と光秀は思った。
義秋「無論、無条件で和睦するわけには参らぬ。されば、水銀燈は近江、摂津、大和、河内における所領を
     幕府に差し出すこと。代わりに水銀燈には新たに築いた伏見城周辺を所領として与える。これが和議の条件じゃ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる義秋。
義輝「……」
義秋「なお、そちたちが水銀燈のところへ出向くのは無用ぞ。すでに使者を遣わしておるからの」
(これで幕府は終わった……)
光秀の表情から血の気が引いていった。
義秋が幕府に返還すべしとしてあげた国はいずれも畿内の要所であり、しかも水銀燈が実力で切り取った国々である。
あまつさえ新たに与えるとした伏見城周辺は既に水銀燈が押さえており、今さら幕府の承認を得てもいかほどのことも無い。
このような和睦案を水銀燈が知れば、もはや何の躊躇いも無く軍勢を率いて二条城に攻め寄せるであろう。
水銀燈と幕府との決裂が決定的になったといえる瞬間だった。

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