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《とあるふたつの出逢いの地での出来事》




 ガタン、ゴトン。




「――あの時と、同じですね。二両目の、一番右端の此の席で、こうして向かい合って座ったんですよね」

「ああそうだな。凡そ半年前か…時の経過と言う物は早いものだな。何と言うか、時間とはゴムみたいにぐにゃぐにゃしているよな。一瞬が永遠に引き延ばされたり、今の様に永い時が一瞬に縮こまったり。其れも、決まり切っている訳では無く、気紛れな事此の上無い」

「…まあた、気障な事を言ってやがるですね」

「――ははは。また、だな。流石、浮浪人と言った処か」

「口まで達者になって、本当に気障な浮浪人ですぅ」

「はは、そうだな」

「…………」

「…………」

「…随分、荷物少ないですね」

「…………
 ――ああ、ふと君に逢いたくなってな。居ても立ってもいられず、電車に乗って仕舞った、という次第さ」

「…………」

「…もう、迷わない。逃げも隠れもしない。もう、自分に臆病になるのはやめだ。
 少々、長くなるかも知れんが、聞いてくれるか?」

「……はいです……」

「有難う。
 ――とある男の話をしよう。
 其の男は、自分に――自分の心に――感情を制御する機械を埋め込まれていたんだ。感情を表に出さない様に。自分の気持ちを、相手に悟られない様に。そう、機械によって制御されていた。
 何時からだったかは、よく覚えていないそうだ。昔からの様な気もするし、案外最近の話なのかもしれない。矢張、分からない。
 ――そうやって、彼は過ごしてきた。
 ある日、彼は電車に乗った。其処で相席した女性と、つい話し込んで仕舞ってな。何と、彼は涙を流していたんだ。
 どうやら、其の機械が変調を来した様だった。其の後もな、事在る毎に感情が表に出る様になって仕舞った。
 彼は、惑っていた。何故、機械が正常に動いてくれないのか。何故、電車で相席した程度の関係である彼女が、足繁く自分のもとに来てくれるのか。全く以て、解らなかった。
 そして、唐突に別れは訪れた。彼女はとある日、出し抜けに彼のもとに来る事をやめたのだ。
 彼は其れから、苦悶の日々を送る羽目になった。――そして、彼は気が付いたのだ。機械の異常は、其の女性が原因だったと言う事を。其の機械は『埋め込まれて』いたのでは無く『自ら埋め込んで』いた事を。そして、彼が其の女性を、好いていた事を。
 然し、気付いた処で今更どうにか出来る事では無し。彼は、悔やんだ。彼女に逢いたくとも、何処に居るのか皆目見当も付かず、逢えずに居た。
 ――夢を、彼は見た。夢の中で、誰かに彼は導かれた。逢いに行く様、言われたんだ。
 そして、こうやって――彼は、彼女に漸く逢う事が出来た」

「…………」

「…翠星石」

「はい…」

「…独りにさせて、済まなかった」

「…………」

「…もう、君の事を独りぼっちにはさせん。僕が、君の傍に、付いて居るから。だから――」

「…………」

「僕と、共に歩いて欲しい。君が疲れた時は、僕がおんぶしてやる。まあ君がおんぶするのは、ちょっと頂けないが。
 …絶対に、最後まで君を連れて行く」

「…………」

「――全く、そう言う台詞まで格好付けるんですか。
 …本当ですよ。女を待たせるなんて、最低の野郎です。――何れだけ、待ったと思ってるんですか。
 私だって…独りで生きてゆこう。そう思ってたですよ。でも、私には無理だった。
 いくらみっちゃんが――ああ、一緒に住んでいる私の親戚です――、一緒に居ても、あの呉服屋の事が頭に染み付いて、取れねえんですよ。のりさんやおばさん、其れに――」

「…………」

「私だって、逢いたかったですよ。でも、私から去って行ったのに、のこのことやって来れる訳、無いじゃないですか。
 そんな気持ちになったらね、彼処の川に行くんですよ。あの川は、綺麗です。水も、どうやら飲めるみたいですしね」

「…彼処の、川?」

「え…だって、ジュンも見た――ああっ、仕舞ったです!」

「……矢張か」

「ううっ、誘導尋問なんて卑怯な真似すんなです!」

「隠れてこそこそしている方も似た様なものだ。だが、どうしてそんな真似を?」

「だって…」

「…だって?」

「此処で、話がしたかったんですもの」

「…………
 …ふっ、はは。そうか、成程な。確かに其の通りだ。あんな寒い処で話をするのも上手くない話だ」

「…そうじゃ無くてぇ…」

「ああ、分かってるよ。想い出の、場所だものな。僕らが初めて出逢った、大切な場所」

「…………」

「――なあ。話、逸れて仕舞ったな。もう一度、言わせてくれ。矢張、ちゃんと言わなければいけないのだろう」

「…………」

「僕と結婚して欲しい」

「…………」

「…返事を、訊かせてくれ」

「…………
 やっぱり、こうもはっきり言われると、参っちゃうですねえ。
 しゃーないですね。おめぇみたいな浮浪者には、私みたいなお目付け役が居ねぇと何を仕出かすか分かったもんじゃ無いのです。
 ――私が疲れた時は、ちゃんとおんぶしてくれるですか?独りで、先に行かないですか?」

「ああ。約束する」

「分かったです。私も…ジュンと、一緒に居たいです。ジュンと、一緒に歩いてゆきたいです」

「…有難う……」

「…………」

「…………」

「……ふふっ、あははっ」

「……はは、はははっ。
 ――おい、泣いているぞ?」

「…え?――わわっ、本当ですっ!
 …そう言うおめぇも、涙を流してますよ?」

「…何?――わわっ、本当だ!」

「…ふふっ」

「何だよ」

「別にぃ、です」

「そうか。…あ、そうだ――はい。此れで涙を拭くと良い」

「あっ……」

「…もう、返さない必要も無いだろう?」

「…おめぇも、持ってたですか。――はい。私も返すですよ。
 確かに、お互いもう返さなくても…もう大丈夫ですね」

「…ああ、大丈夫みたいだな」

「…お帰り」

「お帰り、か。悪かったな、長いこと返さずにいて」

「や、良いですよ。
 ――きっと、此のふたつのハンカチーフは釣糸みたいなもんだったんですよ。私とジュンのたましいを繋ぐ、大切な役割が有ったんですよ」

「……釣糸、か。てっきり赤い糸の事を言うと思ったが…矢張、何とも君らしいな」

「…馬鹿にしてるですか」

「いんや。だから『君らしい』と言ったじゃあないか」

「…ふん、どうだかです。
 ――其れに、赤い糸だと巻く事が出来ねぇじゃないですか。唯繋がっているだけじゃ、意味が無いじゃないですか」

「…確かにな。――前言撤回しよう。意外と君は女の子らしいのだな」

「ああっ!今度こそ馬鹿にしたですね!?」

「さあな」

「…ううぅ…もう怒ったですよ。絶対許さないのです――」




 しん、しん、しん。




「――わあ…久し振りです…懐かしいなあ」

「そうだな」

「へえ…雪化粧した光景もまた良いですね。綺麗です」

「――なあ、翠星石」

「何ですか?」

「君に見て欲しい物があるんだ」

「えっ…まさか!」

「や、予め言っておくが、別段期待する物では無いよ」

「ええー…何だ、違うんですか」

「はは、悪いな」

「良いですよ。其れで、何なんですか?」

「――巴の写真だ」

「えっ……」

「見せていなかったからな。矢張、君には一度見せておかねばならん気がしてな」

「…私も見てみたいです、巴さんの写真。蒼星石に似てるんですよね?」

「ああ。似ている」

「へえ、其れは、楽しみです――」



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「――あれ、おかしいな?」

「どうしたんですか?」

「写真が無い。いつも此の引き出しの中に入れている筈なんだ」

「どっかに置き忘れたんじゃねぇですか?」

「そんな筈は無い。此の部屋から外に持ち出すなんて滅多に――」

「あら?ジュン君帰ってきてた――」

「あ…ええと……た、只今です」

「――翠星石ちゃん!」

「わっ、ちょっと!抱き着くなです!」

「良かった…良かった…!心配してたんだからぁ…」

「のりさん…」

「…良かった、元気そうで…」

「…有難うです」

「――なあ、水をさすようで悪いんだが、姉さんは巴の写真、知らないか?」

「えっ?のりさんは知らない筈――」

「そうよ!ジュン君に訊きたい事、其れだったのよ!巴ちゃんって、誰なのかしら?」

「――何だと?」

「だから、巴ちゃんって――」

「何言ってるんだ、姉さん?つまらん呆けは止めにしろ」

「のりさん、知らないって言ってたですよ?」

「何?そんな事在る筈無いだろう。幼馴染みだぞ?」

「でも、確かにそう言ったですよ?」

「…何か可笑しいぞ…」

「…本当に、のりさんも顔見知りなんですよね?」

「当然じゃないか。生まれた頃からの付き合いだぞ?幾らお惚けな処の在る姉さんだって、  の事なんか……」

「……へ?」

「…何だ?  の名ま……
 ――言えない!名前が、言えない!」

「名前が言えないって…何意味の解んねえ事を言ってるですか」

「なら…お前も言ってみろ」

「はあ!?言えるに決まってるじゃねえですか、  さん……ええっ!?」

「な、だろう?何が一体どうなっていると言うのだ…」

「…ひ、ひいっ!怖いですぅ!」

「な、何だ!しがみ付くな!」

「だだだだ、だってぇ…きっと、幽霊の仕業なのですよ!ジュンに怨みを持った奴の復讐ですよ!」

「幽霊……まさか…
 おい、翠星石!出掛けるぞ」

「…い、嫌ですぅ!こんなに危険なのに外に出るなんて…」

「…彼女が呼んでいる。恐らく、君の妹も」

「えっ…  が――えっ、  の名前迄!」

「矢張か。さあ、早く行くぞ。僕は、彼女にもう一度墓地に来る様に言われていた。きっと、何か解る筈だ」

「…分かったです。しゃーないから、ついて行ってやるですよ」

「――ちょっとぉ、さっきから何二人でこそこそと…」

「済まん、姉さん。行く処が出来たので出掛けてくる」

「あっ、ちょっと――」



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「――ど…どうなっている…墓が、  の墓が消えている…」

「ええっ…何か気味が悪いですよぉ…」

「君の妹の墓はどうなっている?」

「――ああっ、名前が無くなってるです!おじじとおばばの名前だけになってるです!」

「…………」

「ジュン……」

「…おい、聴こえているんだろう?さっさと訳を話してみたらどうなんだ?」

『…参ったなあ。君は何でもお見通しだな』

「――  !」

「…さっさと姿を現したらどうなんだ」

『…何か、犯罪者みたいな物の言われ様だな、ふふっ。分かった、ちょっと待ってて――』

「――うっ、体が!眩しいです…」

「おい、どうなっている!」

『暫しの辛抱だよ、二人共――』
 
 
 
 
 さら、さら、さら。




「――うっ…此処は何処ですか…」

「此処は…あの川か?」

「うん。そうだよ、ジュン君」

「…蒼星石…」

「…久し振り、姉さん」

「――そ、蒼星石っ!」

「――待って、姉さん!僕の体には触る事は出来ないんだ!」

「えっ……」

「そう。貴女は私達に触る事は出来ない。御免なさい。
 …久し振りね、桜田君」

「…そうだな。こうして面と向かって話すのは、凡そ八年振りになるか」

「そうね。でも、全然実感が湧いてこないの。此方は時間の経過という概念が無いに等しいから」

「…………」

「蒼星石…」

「…御免、姉さん」

「どうやら、此方では君達の名前を声に出す事が出来るみたいだな。
 ――どういう事だ。説明してくれないか。包み隠さず、全て」

「…分かった。でも、本当に話して仕舞って、構わないかい?」

「…ああ、構わない――」

「嫌ですっ!」

「おい、翠星石…」

「どうせまた下らない話なんですよね?だったら訊きたくなんか無いです!」

「…………」

「……話してくれ」

「……分かった。
 そうだな。何処から話したら良いのやら…」

「何処からでも構わない」

「嫌…止めてです…」

「じゃあ、君達の周りに起こった異変について。あれも全部僕らの仕業。そう、彼等の『箪笥』の、僕等の記憶が在る部分。其の引き出しの取っ手を、外したんだ」

「…何故だ…」

「僕等に関する記憶は、君達にとって、邪魔だから」

「……邪魔だって?」

「そう、君達二人にとって。君達二人は、此の先必ず、僕等の事を思い出す。そうすると、悲しんで仕舞うだろう?」

「…………」

「そんな想い出なら――悲しみしか生み出さない様な想い出なら――いっその事、無くして仕舞えば良い。在り来たりな表現だけど…無に帰せば良いんだと思う」

「…………」

「……何、さっきから勝手な事を抜かしてやがるですか、蒼星石」

「姉さん…」

「悲しい想い出は、要らないですって?我侭な事言うんじゃ無いです!想い出と云うのはそんな甘くて優しいもんじゃ無いのですよ!楽しい事、辛い事、幸せな事、悲しい事、どれもこれも同じ位大事なのです。確りと『箪笥』の中に、仕舞われるんですよ。
 其れなのに、蒼星石との想い出を、悲しいと決め込んで、終いには無かった事にするなんて…そんなの、独り善がりですよ!
 どうして、蒼星石との想い出が悲しいだけな訳在るですか!私は、そんな風に思った事、一度も無いですよ。そりゃあ、辛くて悲しい事だって在ったですよ。でも、楽しい想い出の方がずっとずっと沢山在るんですよ!
 其れなのに…そんな事したら…そんな想い出まで、全て無くなっちまうじゃないですかぁ……」

「…翠星石…」

「うっ…ううっ……
 私は、絶対にそんな事はさせないです。悲しい想い出は消したいなどと言っている癖に、こうやって私を悲しませるのは厭わないんですか?」

「…………」

「…なあ、蒼星石――巴もだ。どうせ君も同じ考えなのだからな。
 悲しい想い出とは、そんなに良くない事なのか?君達にとって、要らない物なのか?
 そんな事は無いだろう。巴、僕は君との想い出を、一度たりとも要らないなどと思った事は無いぞ。君との想い出は、全てが大事なんだ。
 そう、想い出と云うのは、総てが合わさって初めて想い出と成り得るのだと思う。ジグソーパズルの様に、一つのピースが欠けたら、駄目なんだ。仮令、其の部分が無くとも形は保ってられるとしてもだ。だから、どれも大事なんだ。
 其れを君自身が捨てて仕舞うなんて、余りに悲しい事ではないか」

「…………」

「僕は、生きると云う事は、そうやって器にパズルのピースを埋め込んでいく作業だと思うんだ。器は、無限に拡がっていく事が出来る。ピースは、無限の形、数が在る。僕等は、其の無限のピースを拾って、繋ぎ合わせて形を作り、『箪笥』に仕舞い込むのだ。
 完成は不可能だ。
 しかし――矛盾しているのだが――其のパズルは、常に完成しているとも言えるのかも知れない。だって、完成形が存在しないのだから。一人一人、どういったパズルを作っていくのかは全く異なるのだろうから。
 しかし、既に形を成しているパズルからピースを抜き去ると、途端に其のパズルは未完成になって仕舞う」

「…………」

「だから…そんな事はしないでおくれよ。僕等にとって蒼星石も巴も、大切な想い出のピースなんだ。欠け難い、代え難い、大切なピース」

「…………」

「……桜田君、有難う。そう言ってくれただけで嬉しい。でも…もう、遅いの。私達は、余りに変えすぎた。今更、元には戻せない」

「…何故だ」

「御免、ジュン君」

「…何故だと訊いている」

「…君の気持ちは、偽りの無い、本当の気持ちだ。君の発する言葉から、ひしひしと伝わってくる。
 僕等も、君の気持ちに応えたい。今はそう思っている。でも…一度やってしまったことは、取り返せない。
 現に、此方じゃない、あっちではもう、僕等は存在しない存在になっている。名前すら、無いんだ。
 ――器も、無くなった」

「…………」

「だから…御免なさい」

「…謝るな」

「謝れです」

「…………」

「私をこんなに淋しくて悲しい思いにさせた事、謝るです」

「…………」

「そうしたら、そうしたら――もう…許してやるですから……」

「姉さん――
 …御免、御免よ姉さん!ぐっ…僕は、僕は……」

「…分かってるです。私だって子供じゃねえですから、其の位分かるですよ。蒼星石がどんな思いで此処迄やってきたか。
 巴さんも、私とジュンの事を、どんな思いで見てきたのか。私達の事もきっと、貴女達のお陰なんですよね。尤も、こんな事を私が言うのは貴女に失礼なんですけどね」

「…翠星石ちゃん…」

「悲しいけど、泣いてばかりはいられんのです。
 ――ほら、何時迄泣いているですか、蒼星石?」

「…………
 うん、そうだね。もう泣かないよ。…ふふっ、まさか君の口からそんな言葉が出るなんてね」

「当たり前です。私は貴方の姉なんですから」

「ふふっ、そうだね…そう、僕のお姉さん」

「そうですよ?私は世界一の妹を持つ姉なのです」

「なら、僕は世界一の姉を持つ妹だね」

「ふふっ…そうですよ。誇りに思うです」

「うん、誇りに思う。――大好きだよ、姉さん」

「ええ――大好きです、蒼星石」

「…………」

「――なあ、巴」

「何かしら?」

「君達は、此れからどうするんだ?」

「そうね…
 ――旅を、続けるのかな。ある人に会ってね、此の世界には扉が在って、此処に居る人は其れを探さなきゃいけないらしいの。人によって、直ぐに見付かったり、或いは永遠に探し続ける人も居るみたい。本人はそんな事は露も知らないのだろうけど」

「そうか…早く見つかると良いな」

「そうね」

「…………」

「…………」

「――手を」

「えっ」

「手を、出してくれ。握手しよう」

「でも」

「いいから」

「…分かったわ。――はい」

「…………」

「…嗚呼。伝わる、貴方のたましいが」

「僕もだ。確りと、伝わってくる。君は、不確かなんかでは無い。確かに、『在る』」

「…そうかな」

「そうだよ」

「……ふふ、不思議ね。桜田君にそう言われると、そんな気がしちゃうわ。
 ――好きよ、ジュン」

「僕も――」

「駄目」

「えっ」

「貴方には…あの娘が居るでしょう?きっと、拗ねて口を利いてくれなくなるかも」

「はは、確かにそうかもな。彼奴は直ぐ拗ねるからな」

「ええ。
 ――あの娘を、大事にしてね」

「分かってる」

「約束よ?」

「ああ、約束だ」

「破ったら、針千本だからね」

「ああ。分かった」

「――貴方に、逢えて良かった。もう、何回目なのか判らないけど、やっぱり良い言葉よね」

「ああ。
 言葉にはな、たましいが宿るんだ。きっと、此の言葉には幾千幾万の想いが、乗せられているんだ」

「…『おもい』ね」

「…おもい?」

「そう。沢山の『想い』が詰まっているから、『重い』の。だから、こんなにも良い言葉なのよ」

「…素晴らしい洒落言葉だ」

「ふふっ、褒められちゃった」

「ははは」

「…巴さん?」

「何かしら?」

「ジュンは、私が確りと躾けてやるですから、心配するなです」

「おい、躾けるって…」

「分かったわ。びしばしやって頂戴」

「合点承知ですっ!」

「…………」

「ふふ、大変そうだね、ジュン君」

「はあ…」

「――さて、そろそろ君達は帰らなきゃいけないみたいだ」

「もう…か。早いな」

「…まだ、居ちゃ駄目なんですか?」

「うん。君達は結構長い間此方に居るんだ。早く戻らないと、風邪引いちゃうよ」

「…そりゃあ、上手くないな」

「うん」

「…………」

「…………」

「…達者でな、二人共」

「君達も。…多分、君達があっちで目覚める頃には、既に――」

「言うな」

「…分かった」

「…ジュン、翠星石ちゃん」

「何だ?」「何ですか?」

「さようなら」

「…………
 ――ああ、また」

「えっ」

「またね、です」

「…………」

「…じゃあ、さようなら。お迎えが来たみたいだね」

「くっ――蒼星石、巴!」

「何――」

「君達は、器を失ってなどいない!……僕と、翠星石の中に、『箪笥』の中に、ちゃんと………だから……――」




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「――……」

「……うっ…」

「…気が付いたか、翠星石」

「此処は、ジュン…って、ええっ!?なな、何でおじじとおばばの墓の前に居るですか!?」

「全くだ…さっぱり分からん。気が付いたら僕も君も寝ていたんだ」

「…お参りに来てたですかね…」

「ううん、分からん。一体何があったんだ?その前の事も良く覚えていないんだ。君と電車で逢って、其れから…」

「…何ですか?」

「其処からが分からん」

「ふうん…ま、何でも良いんじゃねえですか」

「……何と楽観的な…」

「…何ですか?馬鹿にして――くちゅん!」

「おい、大丈夫か…風邪引いてないか?」

「だ、大丈夫ですよぉ…」

「そうか。よし、変えるとするか。もう夕暮れだ」

「…………」

「…何だ?引っ付きやがって」

「…おめぇが寒いだろうと思って、私の体温を特別に分け与えてやろうとしてるんじゃねえですか」

「……其の艶かしい表現は止めろよ」

「う…五月蝿いです!言った後に気付いて今凄く恥ずかしいんですから!」

「はあ…まあいい、帰るぞ――」




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《とあるふたつの出逢いの地での出来事》

おしまい。
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