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『水銀燈の憂鬱』


水銀燈は悩んでいた。
すらりと伸びた長い手足。
せせらぎの如く、さらさらと流れる銀髪。
位置、形状ともに、幾度も幾度も丹念に丁寧に調整を施されたかのごとく、
完璧な出来栄えとなっている顔のパーツたち。
そして豊かなふくらみを見せるバストに、きゅっとしまったウエスト。
男が見ようとも、女が見ようとも、憧れ、羨む、ナイスバディ。
人当たりもよく、勤勉であり、努力家。
『天は人に二物を与えず』というが、それは嘘なのだろう。
彼女の姿を見たものは、一人残らずきっとそう思うことになる。
彼女の目を除いては。

「絶望的だわぁ・・・」
水銀燈は鏡を覗き込む。
自分の事ながら、美人と言われて差し支えないだろうと思われる顔。
だけれど、人とのコミュニケーションの窓と言われる目が。目が。
凛とした、と表現するには凶悪すぎるつり目。
ぎろり、と鏡から彼女自身を睨み返すのは、憎悪さえ感じる三白眼。
そして、彼女の紅色の瞳が、さらにそれに拍車をかける。
『天は人に二物を与えず』と言うけれど。
どうやら神様というのは結構気前がよくて。
余計なお世話、と取れるものも与えているようだ。
案外、世界はバランスが取れているらしい。

例えば、ある女子生徒がハンカチを落としたとしよう。
そして心優しい優等生の水銀燈が、女子生徒にハンカチを拾ったとしよう。
水銀燈は女子生徒のために優雅に腰をかがめ、ハンカチを拾う。
育ちのよさが伺える、隙のない、美しい動作である。
「これ、落としたわよぉ」
水銀燈としては、相手を怖がらせないようにして、精一杯の笑顔を作り、女子生徒の肩を叩く。
「え、ありがとうございますかしら」
女子生徒は朗らかな笑顔を向けて水銀燈に振り向く。
しかし、女子生徒は表情を凍らせ、顔を真っ青にしたのち、今度は顔を真っ白にする。
そして水銀燈の手から乱暴にハンカチを奪い取り、一目散に駆け出していってしまう。
「やっぱり私の目って、怖いのかしらぁ」
水銀燈は俯く。

女子生徒は、何を思って水銀燈からハンカチをひったくって逃げ去っていったのか。
こんな感じであろう。
『こ、この人は上の学年で一番のならずものとして名高い、
 す・・・水銀燈先輩かしら! 初めて見たけど、何この異様な迫力!
 背中から黒いオーラが噴き出しているのがうっすらと見えるかしら!
 目! 目つきがやばいかしら! 口元も歪んで・・・笑ってる!? 笑ってるの!!?
 きっとハンカチを拾ってやったって恩を売ってカナから搾り取れるものは搾れるだけ搾って、
 散々利用した挙句ぽいって捨てちゃう邪悪な計画を練っているような表情かしら!
 この人と会話しちゃったらきっと一生ついて回られてしまうかしら!』
妄想終了。

無論、水銀燈はヤンキーなどではない。むしろ一番なのは成績である。
一生利用しようなどとも考えていない。一瞬優しくしたいだけである。
こんな感じで、水銀燈が毎朝、毎休み時間、ひとりで一生懸命練習している笑顔ですら、
実際に使ってみれば凶器以外の何物にもならない。
そういうわけで、友達もいない。
今日の休み時間もトイレにこもりきり、笑顔の練習。
トイレには人っ子一人、蟻んこ一匹入り込まない。
水銀燈の姿を見ただけで、生徒たちは、距離が遠かろうが、我慢しきれなかろうが、
別棟の、もしくは上か下の階のトイレに駆け込むことになる。
「いつまで経っても、慣れないわぁ・・・。ひとりっきり」
一人、鏡の中の凶暴な人相と会話をする。
その様子は、やっぱり、何か洗面器に恨みでもあるかのように呪詛を吐き出しているように見えた。


練習で書いてみた。反省している。
続き? 書きません。

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