81:クリスマスな保守を致しましょう
「――あら、カラオケなんてものまであるのね」
「歌っちゃいなさいよぉ、めぐぅ。貴女、歌好きでしょぉ?」
「私も、水銀燈からそう聞いているのだわ。めぐ先生、一曲聞かせて頂けない?」
「マイクは此方に。――そう言えば、雛姉様もお歌好きでしたわよね」
「ほとんどが即興の鼻歌だけど、ね。――雛苺、何か歌ってみる?」
「うゅ?うんっ、ヒナ、沢山歌うのよ!」
「――ふふ、じゃあ、皆で順番に歌いましょうか。じゃ、まずは水から」
「誰が『水』よぉっ。と言うか、言いだしっぺは貴女なんだから――」
「はい、銀の持ち歌。ほらほら、早くマイク持って」
「だぁから! ――~~♪―― って、『薔薇獄乙女』!?あぁもぉ、やってやるわよぉ!」
「………なぜか、微妙に水銀燈に苛つきがきたのだわ………何故………?」
「次は私?えーと……… ――~~♪―― 『聖少女領域』、ね。わかったのだわ」
「そぉ言えば、真紅ぅ。貴女、この前抜けがけして二人っきりでお茶会してたで――あ、逃げるなぁ!」
「あら、『コッペリアの棺』。ワタクシ、宜しいでしょうか?――頂きますわね」
「うに?羊さんの歌なの?」
「コッペリアのひっつっじ♪………雰囲気台無しだから、歌っちゃだめよ、雛苺?」
「次はヒナなの!ほら、巴も一緒に、ね?」
「え、あ、私は………うん、じゃあ、雛苺の声に合わせて歌うね」
「巴様も奇麗なお声ですのに………。――『ピアニィ・ピンク』ですね、癒されますわ、姉様」
「さあぁ、次は貴女よぉ、めぐぅ。もう言い逃れは――って、また私の持ち歌ぁ!?」
「はい、灯、マイク。――私は聞いているだけでいいの」
「水銀燈、さっさと歌うのだわ。――………でも、どうしてです、めぐ先生?」
「――私はね、沢山一人だけで歌い過ぎたの。だから、今は他の誰かの歌を、沢山聞いていたいのよ」
「――解りました、先生。――水銀燈、私にもマイクを回すのだわ!」
82:クリスマスな保守を致すわよぅ2
「ったく、さんざ騒ぎまくって帰りやがって………」
「まぁまぁ、皆、賑やかで楽しそうだったからいいじゃない」
「それは………そうかもだけど。だけど、片づけ位………」
「あら、真紅ちゃん達は手伝ってくれたわよぅ?」
「………大人連の半分が沈んでたってのが問題だよな」
「ふふ、歩けなかったものね。柴崎先生が槐先生の車で送ってくれて助かったわ」
「また暫く頭が上がらないんだろうなぁ。――それはともかく。なぁ――」
「んぅ、なぁに?」
「いや、そんな大した事でもないんだけど、なんとなく気になったと言うか………」
「うん、お姉ちゃん、わかる事ならなんでも言うわよ?」
「んー………その、姉ちゃんくらいの年なら、クリスマスは『皆で…』って言うより――」
「うぅ、それはお姉ちゃんが異性に縁がないって言ってるのぅ?」
「いや、器量は悪くないんだからそんな事は――じゃなくて!」
「――うふふ、ありがとぅ。――『じゃなくて』?」
「………やっぱり、その、誰か………『特定の人と』楽しみたいんじゃないのかなって」
「んー………まず一つ。貴方が言う『特定の人』――恋人は、お姉ちゃんにいません。えへん」
「んな事で威張るな。――『まず』って事は他に?」
「ええ。――勿論、お姉ちゃんも『愛しい人』と過ごすのも楽しいと思うわ。
だけど――」
「………うん」
「今は、『大好きな人たち』と過ごす方が、お姉ちゃんは楽しいと思ってるの。
………えへへ、子供っぽいかしら?」
「………いや。――なんで僕達は姉弟なのかなって」
「え?………んーと。――だ、駄目よぅ!?お姉ちゃん達は血が繋がってるのよ!?あぁでも」
「考えてそーいう結論か!?――そうじゃなくて、考え方が僕と全然違うんだなって思ってさ」
「そんなに難しい事じゃないと思うわ。そうね――今日、もう昨日かな。楽しくなかった?」
「………いや。その、なんだかんだ言って、楽しかった………と思う」
「ふふ、でしょ?そう思うのなら、やっぱり、私達は姉弟よぅ――さ、お片付け、頑張りましょぅ」
83:滑稽な保守を致す…2
「――二度目の…『束縛』の契約を交わしても、貴女様はその程度ですの、赤薔薇様?」
丁寧な、しかし、嘲りを隠そうともしない声に、真紅は動かない身体に鞭を打って、立ち上がる。
自らに対する嘲りならば、受け入れよう―だが。
だが、契約――そして、契約を交わした相手までも貶めるその言葉は、許せない。
「私が貴女より弱い事は認めるわ、白薔薇。
だけど………『絆』の契約を嘲ったのは、改めなさい」
傷だらけの身体で、言葉だけは毅然と言い放つ。
それが、自分の為に危険を顧みず手を差し伸べてくれた『従者』への礼儀。
白薔薇――雪華綺晶は、口に弧を描き、続ける。
「ふふ………ですが、その無意味なモノの所為で、他の薔薇様達は抜け殻になってしまわれましたわ。
モノ言わぬ、ただの人形に――ふふふ、あははは、喜劇ですわ、滑稽ですわ、薔薇様方!
――さぁ、貴女様も『ただの』人形になってしまいなさい!」
哄笑と共に突き出された腕から放たれる、無数の氷の刃。
咄嗟に反応しようとする真紅――だが、身体は動かず。
傷だらけの体躯は更に傷つき、衣裳の端々も切り刻まれていく。
漏れ出そうになる苦痛の声を押し戻し、見上げた瞳に映ったモノは――殊更に大きな、氷塊。
(避けられないっ)「あはははははははははははははっっっ」
真紅が見上げた、その時。
雪華綺晶が勝利を確信した、その瞬間。
氷塊は、粉々に砕け散った――突如として現れた、真紅を取り巻く苺轍によって。
そして――真紅を包む、六つの淡い光と輝きを放つ糸。
「是が………是が『絆』の力よ。白薔薇、さぁ――!」
「ふ、ん…その様な脆く醜いモノ、打ち砕いて差し上げますわ、赤薔薇様――終幕を迎えましょう!」
―――――――――――――――――
「………………という夢を見た。………………哀しかった」
「なっがい前振りだなぁ………。――まぁ気にするなよ。お前ら、仲いいんだし、な?」
「私………ばらしーの出番が、微塵もなかった………!」
「そこかよ」
84:甘ぁい保守を致すなの
「ゆぅきやこんこん、あぁられやー、こんこん――♪」
「おぉぉぉぉ、なんで偶々外出した時に限って雪が………さむい………」
「ふぅっては、ふぅってはっ、ずーんずん、つぅもるぅー――♪」
「ダッフル引っ張り出してきて良かった………なかったらもっと寒かっただろうし………」
「やぁまもぉ、のーはらもぉ、わぁたぼうし、かぁぁぶりぃぃ――♪」
「………えーと。そこの全力で動揺歌ってるの」
「かぁれき、のこらぁずぅぅ、はぁながさぁぁぁくぅぅ!――♪」
「一昔前のロボットアニメの歌い方だよなぁ………。なぁ、雛苺」
「ゆぅぅきやぁ、こんこ――♪」
「二番にいくなぁ!?――ったく、もう少し静かに歩けよ」
「うゅ、貴方が『寒い』って言わないなら、静かにするの」
「………………さむ」
「あぁぁぁられやぁぁぁぁ、こんっこんっっ♪」
「わかった悪かったから、拳いれて歌うな………」
「寒い寒いって言ってると、余計に寒くなっちゃうのよ。勿論、聞いている方も」
「その割には、お前は薄着だよな」
「………えへへ。ちょっと、お洋服の選択を失敗しちゃったの」
「しょうがないなぁ………ほら、コート。僕は下にセーターも着てるし………」
「うぃ?でも、ずぅっと寒い寒いって言ってたの。寒いの、ヤじゃないの?」
「お前が風邪引く方がもっと嫌だ。――や、その、柏葉や雪華綺晶に何されるかわかったもんじゃないし」
「ん。――でも、コートは借りなくていいのよ」
「寒いんだろ?だったら、遠慮せず――」
「――『遠慮せず』、潜らせてもらうの。んしょ………二人羽織で暖かいのよ」
「わ、おぃ!?――あーもぅ、確かに暖かいけどさ………」
「くっついてると、もっと暖かく出来るのよ――こうやって、なの――(ちゅ」
「ん――まだ、寒いぞ。もう少し暖かくしようか?」
「ヒナも、そう思ってたのよ。――もっと、もっと、暖かくして欲しいなの」
85:大掃除な保守を致―すですぅ ―すんだよ
「さぁ!年末年始を奇麗に迎える為にも、張り切ってやるですよ!」
「………って言っても、自室だけなんだけどね」
「うぐ。………でもですね、他の所はおばばがやっちまったのですよ」
「『やっちまった』って言うか、普段からきちんとしているから――」
「ほとんどする事がなかったのですよねぇ………。恐ろしいおばばですぅ」
「いや、見習おうよ。それが理想なんだし」
「ま、まぁまぁ、それは置いといて。――さっさと始めるですよっ」
「んー、まずは………BGMを決めましょう。何がいいですかねぇ、やっぱり、アップテンポな」
「いや、何でもいいから、始めようよ」
「なんと!?BGMは大事ですよ!?やる気が変わってくるですぅ」
「そうかもしれないけど、さっきから大分選曲で迷ってるじゃないか」
「ぅ………では適当に、早めの曲をかけて、と。準備完了ですぅ」
「ひやぁ!?わ、わ、あぅぅ………」
「………(てきぱきてきぱき)」
「ぇぅ………ぅあー………きゃー!?」
「(てきぱき)………煩い。何をそんなに紙っぺら読んで騒いでるの?(ひょぃ」
「へ?――わ、こら、読むな、読む――!?」
「『傍にいて欲しいです。――大好k』」
「きゃーきゃー!お、音読はもっと止めるですぅ!?」
「渡せなかった手紙、だね。こういうのだと素直なのにね。くすくす」
「て、てめぇ………!血を分けた妹とは言え、数々の仕打ち、もう許さんですよ!」
「じゃ、どうするのかな?ボクはそういうの書いた覚えは――」
「『えたーなるふぉーすぶりざーど。相手はs』」
「わ、わーわー!?か、返せぇ、ボクの黒歴史ノートっ!?」
「結局、あんまり進まなかったですぅ」「誰の所為だと思ってるのさ!?」
86:大掃除な保守を致 ―す… ―すかしら
「………お休みの日に、ごめんなさい」
「うぅん、気にしないで薔薇水晶。カナ達も一息ついた所かしら」
「そーそー、それに、ばらしーちゃんのお招きなんだから、喜んでお引き受けするわよ」
「みっちゃんは変な所でフットワークが軽すぎるのかしら」
「あっはっは。そういうカナだって御誘いがあってから片付けのスピード、上がってたわよ?」
「ぅ。だって、槐先生は用事があっていないって………。薔薇水晶だけじゃ大変だろうし………」
「んと………二人とも、………ありがと」
「ふふ、その笑顔に応える為にも、頑張らないとね。――さぁ、始めるわよっ!」
「まずは槐先生のお部屋から、かしら?」
「ん。私の部屋はボスだから………お父様の部屋を、前哨戦に………」
「何がどうボスなのか気になるけど………あらま、意外と片付いてるわねー」
「うん、お父様の部屋は、まだ綺麗。――ぁ………机の引出しは開けちゃ駄目だ………って」
「ソーナンダー(がら)」
「速攻かしら!?」
「………わはー、ばらしーちゃんの写真が小奇麗に並べられてるわー」
「………おとーさま………恥ずかしい」
「(――奥にあるのは………黙っていた方がよさそう………ね)」
「で、次はばらしーちゃんの部屋………って、これはなかなか………」
「床がほとんど見えない………薔薇水晶、今度、普段のお片付けも一緒にやるのかしら」
「ぁぅー………。い、いつもはもうちょっとマシ………っ、探しものしてたから………!」
「わかるわぁ。――何探してたのかな?」
「………んと、ゲーム。沢山シリーズがあるから、まとめておこう………て。………コレ」
「わ、懐かしい!私が学生の時にも出てたわよ、コレ」
「えと、えと、こっちのが一昨年出たので、あれが去年………手に持ってるのが、今年。………する?」
「ばらしーちゃんのお招き以下略。私の頃は『運命のRPG』とか言う、訳わかんないジャンルだったわ」
「――って、さり気にド壺に嵌らないで!薔薇水晶も嬉しそうに起動しないのかしら!?」
87:大掃除な保守を致 ―すなの ―しますわ
「年の瀬で忙しい時なのに………お手伝いに来てもらってよかったの、雪華綺晶?」
「はい、巴様。我が家は………その、いつも人に任せているので………」
「雪華綺晶の家は大き過ぎるのよ。あんなに大きいと、何日も掛っちゃうの」
「そう言えば、そうだったね。………あれ。ちょっと待って。………いつも?」
「はい………。ですので、余りお掃除の仕方とかわからなくて………お役にたてるかどうか」
「――ん、わかった。大丈夫、指示は出させてもらうから」
「それじゃ、お片付けを始めるのよ♪」
「おっかたづけ~、おっかたづけぇぇぇ、今日はぁ、みんなでおかたづけぇぇ――♪」
「ふふ、姉様、お楽しそうですわね」
「ええ。何でも、楽しそうにこなそうとするのが雛苺の良い所だと思う。………ただ」
「うゅ、………昔読んでた絵本が出てきたの。うーー………」
「あら、あらあら………もくもくと読書を………」
「………集中力が散漫になりがちなのが、悪い所。もぅ………」
「………いかがいたしましょう?」
「うん、こっちに注意を促すわ。――ね、雛苺?」
「うぃ………ちょっと待ってなの、あ、こっちにも懐かしい本があるのっ」
「雛苺。――ゲームをしましょうか?」
「………ゲーム………なの??」
「ええ。三人で、一番頑張った人が一等賞のゲームよ」
「一等賞………うぃ、ヒナ、頑張るの!」
「因みに。一等賞の人には、おやつのうにゅーが二つ」
「頑張るの!ヒナ、とってもとっても頑張るなのっ!」
「………巴様、人使いの才がおありな様で」
「えへへ~、一杯頑張った後のうにゅーはとっても美味しいの♪」
「皆頑張ったから、うにゅーは皆二つずつ。――美味しいね、二人とも」
「なるほど………初めからそのおつもりでしたのね。お掃除も完璧――感服致しましたわ」
88:大掃除な保守を致しましょう
「はぁい、こんにちは~。冬休みで冬眠してる貴方の部屋にぃ十代女子二人と二十代じょ―あいたっ」
「そういう風に挨拶する意味と必要性を教えてほしいわね、銀の字」
「………頭抑えてるから、無理だと思うのだわ。お邪魔するわね」
「――問答無用だな、めぐ先生もお前らも。いいけど、掃除してるから遊べないぞ?」
「あら、だったら………丁度よかったじゃない、二人とも」
「「どういう意味?」」
「ポイントアップのチャンスって意味」
「………ま、まぁ。一人暮らししてる私がちょっと本気出せばぁ………!」
「………別に、そういうのが目的ではないけれど。学級委員として、整理整頓は義務。
――見せつけてあげるのだわ………!」
「………おーい、三人とも、入らないのか?」
「――すぐに使わないモノはぁ、段ボールやクリアケースに纏めるのよぉ」
「へぇ、確かにこうすると、場所を取らないな」
「――似たような大きさ、同じ系統のモノは棚に一つにしておきなさいな」
「お、ぐちゃぐちゃだった書棚が綺麗に。見やすくていいな」
「結構片付いてきたわね。――後は」
「この微妙に必要か否か分り難いものねぇ。――ちょっと、めぐ、案の一つでも出しなさいよぉ」
「………クは――なさい」
「一応年長者なんだからぁ、少しは役にぃ………へ?」
「ジャンクは捨てなさい」
「じゃ、ジャンクゥゥ!?で、でも、いつか使うかもしれないしぃ………っ」
「使わなさそうなモノは、結局使わないの。必要ないの。在る意味がないの――おわかり?」
「………めぐ先生、さり気に怒っているのだわ」
「若干、微笑みが浮かんでるのが空寒いな。――って、水銀燈、黒ポリ袋に埋まっていくなぁ!?」
89:大掃除な保守を致そう
「………メールで『すぐ来い』………と急かされてみれば………」
「お、槐先生、良く来てくれた。装備はそこだ」
「そこだ、ではありません。用件はなんですか、結菱先生」
「ふむ。………私の格好を見てわからないかね?」
「その現実から目をそ向けたいのですが。………何故、おさんどんさんの様な」
「はっはっは、家を任せている家政婦さんが帰郷してしまってな」
「………帰らせて頂きます」
「おぉ、哀れな老人をこの広大な空間に一人で残すと言うのかね」
「微塵も哀れと思いませんが。………致し方ない、少しだけ手を貸しましょう」
「………結菱先生。書棚から、古い写真が見つかったのですが」
「ん、どれ。――ふむ………懐かしいモノを見つけたな」
「この方が、先生の弟殿、ですか。そして、一緒に映っている女性が」
「――うむ、弟………二葉の婚約者だ。いや、だった、だな」
「………お会いになられないのですか?此方の女性は、今も………」
「もう、そういう歳ではないさ。私も。恐らく、彼女も」
――君はどうなのかね。枯れるには早かろう?」
「私は………どうなのでしょうね。自分では、判断が付けられない状態です」
「いい訳だな、その言葉は。それとも、まだ迷走を続ける子供かね、槐君」
「………くく、言葉が辛辣なのは、己と重ねているからですか」
「過去の、な。――まぁいい。さっさと終わらせて、………ふむ、成人指定ビデオでも借りてみるかね」
「枯れていたのではないのですかっ!?――と言うか、中学生や高校生じゃあるまいし」
「はっはっは、最近のは様々な趣向があるそうだぞ。ほれ、君の好きな――」
「若 奥 様 ☆――はっ!?」
「よぅし、先生頑張っちゃうゾー」
「く、所詮男二人では終われなんだか。すまない、槐先生。遺憾だが、鑑賞会は中止だ」
「そも本気だったのですか!?」
90:年始の保守を致 ―すのだわ ―すわぁ
「明けまして――」
「おめでとぉ。………毎年思うんだけど、年が明けるのって目出度いの?」
「慣用句に難癖つけるんじゃないのだわ」
「だってぇ、別に私は目出度くも何ともないし。――まぁ、振袖はちょこっと嬉しいけど(くるん」
「そうね。ふふ、紫地の着物が、銀色の髪によく映えて――」
「――ぁん、胸………襟元が崩れてくるぅ??」
「………ふーん」
「その点、貴女はきちっと着こなしてるわねぇ。流石と言うか」
「ほー。………何がどう流石なのか、私の目を見て説明してくれるかしら、水銀燈さん?」
「え、え?こういう儀礼的?と言うか、作法?みたいなのは、よくできてるなぁ、ってぇ………」
「………そう。私の短慮だったのね。気にしないで」
「………??――そう言えば、めぐや巴も上手よねぇ。私も奇麗にきこなしたいわぁ………」
「………(ぴきぴき。――さっき言っていた事だけれど」
「胸?」
「違う。――『年が明けるのって目出度いの』って。
あぁいう風に言いだしたのは、西暦1001年頃が起源らしいのだわ」
「へぇ、どうして?」
「当時、疫病や天災が毎月の様に起こっていたの。だから、人々は、
『次の年もなんとか迎えられた』っていう事で、『明けましておめでとう』と言いあったのだわ」
「うぅん、なるほどぉ、納得できたわぁ」
「そ。でも、みんなには言わない方がいいわよ?」
「どうして?こう言う話って、ふとした時に――」
「今適当に作った、でっちあげだもの」
「………………し、真紅ぅぅぅ!(がぅがぅ」
「さーて、今年の甘い保守シリーズは、
『真紅、三国の覇者になる』『みっちゃんの恋物語』『巴、大人になる』の三本でお送りするのだわ」
「も、もう騙されないわよぉ!(がるるぅぅ」