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「急ぐですぅ!お宝が無くなっちまうですぅ!」
遠くに見えてきた建物を指差し、翠星石が喚く。

その施設を遠目に見ながら、蒼星石が言う。
「こんな大きな建造物が今まで見付からなかったって…デマ掴まされたんじゃあないよね?」
それには、遠くを見つめたままの薔薇水晶が答えた。
「…多分…デマじゃない…」
スッと、ある一点を指差す。
薔薇水晶の指差す先に視線を向けてみると…
「なるほどね…」
蒼星石が納得して声を上げた。

『見付からなかった』訳ではなく、『見付けたけど誰も帰って来れなかった』
その証拠に…そこには盗掘者『だったもの』が風に吹きさらされていた…


   7.本当の武器は

 
馬を止め、周囲を警戒しながら建物に近づく…

盗掘者達を物言わぬ体にした何かが、この施設には潜んでいる…
そして、それほどの警備を敷くからには…かなりの実入りが期待できる。

もっとも…先人達の様子を見るに、リスクも過剰に高そうだが…。

先頭を行く水銀燈と蒼星石が、施設の扉の前で屈みこむ。
そして水銀燈が銃口で扉を押すと…
それは音も無く開いた…。

扉はその鍵の部分だけが、綺麗に焼き切られていた…。

そして扉の奥に広がる光景に…二人は息を飲んだ…。

そこには…完全に原型を留めてない、大量の機械の破片が台風が過ぎた後の如く散らばっていた…。

「…硝煙の匂いがする…。どうやら先を越されたようだね…」
「…」
地面に落ちている薬莢を一つ拾い上げる。
…まだ少し熱い。…そんなに時間を開けられた訳ではなさそうだ…。
「おこぼれ頂戴みたいなみっとも無い真似は嫌よねぇ…。急ぐわよぉ…!」
水銀燈の合図で、全員が施設内部へと突入した――

―※―※―※―※― 

周囲を警戒しながら進むも…拍子抜けするほど、何も起こらず時間ばかりが過ぎる…。

その時、背後で機械あさりをしていた金糸雀が声を上げた。
「ちょっといいかしら?
ここにある機械…全て戦争前の時代に作られた軍事用の機械かしら…。
たしか…『BU-3型』…。ピエロの形をした小型の人型兵器かしら」
途端に水銀燈の目つきが猛禽類のように鋭くなる。
「…よく知ってるわねぇ…」
金糸雀が胸を張って、鼻高々という表情で答える。
「みっちゃんがお金無くて買えなかったお陰で、カナは百科事典を丸暗記したかしら!」
「…でぇ?」
「このパーツは『技術屋(マエストロ)』に超絶激レアお宝品として、高値で売れるかしら!
このジャンクパーツはお宝の山かしら!!」
「ふぅん…」

そこにきて金糸雀は、自分のテンションとは逆に険しい顔をしている水銀燈に気付いた。
「…どうかしたかしら?」そう聞きかけて…いつになく鋭い視線で宙を睨む水銀燈の姿を見…
無粋な詮索は諦める事にした。

金糸雀がゴソゴソとジャンクパーツを拾い集める間、仕方なしに行軍を止める。
先程から急に機嫌の悪くなった水銀燈はポケットから煙草を取り出し、それを咥え――
突然、バッと全員の方に片手を突き出した。

全員が動きを止め、水銀燈が見つめる方向に目を凝らす…

不意に何か丸いものが転がってき……そして爆発した――!! 

「…ちぃッ!」
同時に、柱の陰や廊下の角に身を潜め爆風をやり過ごす。
「先行してる、例の3人組の仕業ですか!?」
「どうだろう…きっと…いや、情報を信じるなら、それしかないだろうね…」
そのままの姿勢で、敵の第二撃を待ち構える…
が…それは襲ってこず――『タッタッタ…』と廊下を走る音だけが聞こえてきた…。

―※―※―※―※―

その施設の内。水銀燈達より、奥に進んだ地点…。

「どうしたの雛苺。貴方にはしんがりを任せた筈だけど?」
駆け寄ってきた少女に、金髪がそう声をかけた。
「大変なのー!誰かやって来たの!!」
雛苺がそう答える。
「まさか…彼等の関係者?」
金髪の女は目つきを鋭くして尋ねる。
「…分からないの…。咄嗟に『ベリーベル』を投げて逃げたから…」

金髪は視線を背後に広がる廊下の闇の先に向ける。

「どちらにせよ…お引取り願う事になるのだわ」

―※―※―※―※― 

五感を研ぎ澄ませながら、水銀燈達が廊下を走る。
おそらく…まだそんなに遠くには行ってない筈…
「不意打ちなんて…しっかりお礼はしなくちゃあねぇ…!」

廊下を走り、十字路が見えてくる。

どちらに逃げたか…そう考え、一瞬、十字路の中心で足が止まる。
――その一瞬が明暗を分けた。

十字路の天井に張り付いた、団子のような物…
あれは…
先程、廊下の先から転がってきた物と同じ――

「散りなさい!!」

水銀燈の声と同時に四方に飛ぶ。
――その刹那、爆音。
――崩れる天井。

―※―※―※―※―

… 

どうやら、何とか反応が間に合い、生き埋めは免れたが…
振り返ると…廊下は完全に瓦礫に塞がれている。

水銀燈は足元でグデーっと倒れていた翠星石を助け起こす。

塞ごうとしたのは退路か、進路か…。
とにかく、してやられた…。

しかし…悔しがるのは、後にする。

「…聞こえるぅ…?」

瓦礫に向かって声をかける。

程なく…かなり聞き取りにくいが、声が返ってきた。

「カナは無事かしらー!!」
「こっちも大丈夫。薔薇水晶も…。…翠星石は…?」
「心配しないでぇ。私と一緒にいるわぁ」

全員無事な事にホッとするが…戦力が分断されたのは痛い。
しかも…
戦闘に出る事のほとんど無い金糸雀が一人、というのも非常にマズイ。

水銀燈は少し唇を噛み…指示を出した。
「…残念だけど、一旦出直しよぉ。
各自、適当にお金になりそうな物適当に拾って、脱出ルートを探しなさい。…表で会いましょうねぇ」

―※―※―※―※― 

まさにおっかなビックリ、といった感で金糸雀は廊下を歩く…。

「うぅ~…心細いかしら…」

なけなしのお小遣い ――最も、分け前は公平に貰っており、一人で浪費した結果だが―― で買った、
手の中に収まる程の大きさのデリンジャーを鞄から取り出す。

…撃った事があるのは、空き缶位。それも、十発に一回、掠るかどうか程度の精度。
銃器を作るのは得意だが…扱うのは、また別の話。
「でも…何も無いより、ずっとマシかしら…」

デリンジャーを握り締める。
(…こんなに重い物だったかしら…)
小型の銃にも関わらず…その手に圧し掛かる重みはまるで、巨大な鉄塊を思わせる。
銃を持っている。そう意識するだけで、肺が締め上げられ、呼吸が苦しくなる。
(これが…銃の「重さ」…って事かしら…)

ゴクリと唾を飲み、精一杯の勇気を振り絞って、出口を探す為に静かに足を進める…。

数歩毎に足を止め周囲をキョロキョロと観察し、曲がり角の度に怯えながら耳を澄ます。
物音が聞こえる度にその方向に銃口を向け、ありもしない気配を感じてはその場に伏せる。

何度目かの曲がり角と、何度目かの壁の軋む音に出くわした時…
ついに最後の勇気も底をついた。

「…ぅぅ…ぐす…ひぐ…」
その場に塞ぎこみ、精一杯声を殺しながら涙を流す…。 

やっぱり怖いかしら…帰りたいかしら…
カナにはこんな事、初めから無茶だったかしら…

涙を流す事により、少しは感情も落ち着きパニックに陥る事は何とか回避できたが…

諦めとも絶望とも取れない悲しみが勇気を完全に覆い隠した。
もう…立ち上がる気力も失われた…。

みっちゃんの所に帰りたい。
優しいみっちゃんに会いたい。
カナに色んな事を教えてくれた、みっちゃん…。

寂しさに、止まっていた涙が再び溢れてくる。

(みっちゃんも…誘拐されたとき、こんな気分だったのかしら…)

記憶が走馬灯のように広がる。

一緒に色んな機械を作って、色んな実験をした。お金は無かったけど、充実してた。
ある日突然、みっちゃんが誘拐された。助けようとして、一人で潜入した。
そこで、水銀燈と出会った。
そして決意した―― 

決意した――?
何を――?

「カナは…カナはみっちゃんを守りたいかしら…
カナは…もう…何も出来ずに泣くのは嫌かしら…!」

金糸雀の瞳に勇気が蘇る。

手にしたデリンジャーを見る。

唯一の武器。

いや、違う。

「カナの一番の武器は…ココかしら…」
指でトントンと頭を叩いた。

―※―※―※―※―

デリンジャーに装填されてる弾丸を一つ取り出し、手馴れた仕草で解体する。

手元に残った弾頭と信管、そして火薬。

火薬を少量、地面に落とす。
そこに信管を使って火をつける。
小さな音と共に、廊下が一瞬、少しだけ照らされる。

金糸雀は身じろぎもせず…呼吸も止めて、その様子に見入る。 

無煙火薬とはいえ…それでも少量の煙が立ち昇り…暫くして、少し揺れた。

(風が動いてる…。つまり、どこかに出口がある。ないしは、誰かが居る…という事かしら…)

考えを巡らす。

相手は例の3人組である可能性が高い。
その内の一人は、発破を使う。二人は不明。
発破使いは、最初の時、二撃目を放たずに逃走した。つまり、戦闘にはそんなに自信が無いという事。
それとも、報告の為に逃げたのか…?
いや、報告を考えるなら、不意打ちを狙う真似はしない。自分達の存在がバレるから。
つまり発破使いは、弱くて臆病。
そして…入り口の惨状を見るに…残る二人はそれを補って余るほどの戦力…。

「誰が潜んでるか分からない限り…慎重に越した事は無い…かしら…」

何一つ解決してはいないが、現状を理解する事により、かなり恐怖心は薄れた。
気が付けばいつの間にか、手に持つ銃もずいぶん軽くなった気がする。

先程と同じように進む。
だがその足取りからは、先程の過剰な怯えは無い。

進む内…丁字路に差し掛かった。

再び、火薬を使い、煙を起こす。
煙が揺れる…先程と同じように…。 

(結構進んだのに、揺れ方が変わってないかしら…つまり…誰かが居る、という線が濃厚かしら…)

煙の揺れた方向を見つめる。

(逆方向に行けば…今なら、見つからずに移動できるかしら…!)

足音を殺し、丁字路を左に曲がり廊下を駆け抜ける。

―※―※―※―※―

廊下を一目散に駆け抜けると…その先は分厚い鉄の扉で塞がれていた。

扉に耳を当て、息を殺す…
くぐもって聞こえにくいが、確かに風の音がした。

(ここが出口かしら!)

勢いよくドアノブを捻り、全身で扉を開ける――
が、扉は開かない…

鍵がかかってるのかと確認するが、その様子は無い。
さらに注意深く、扉を調べる…
蝶番が完全に錆び付いていた。

何とかこの扉を吹き飛ばせないかしら…。
頭の中で、残りの弾薬を計算する。
その途中で…薄暗い廊下の背後から、誰かがこちらに走る足音が聞こえた… 

金糸雀は周囲に身を隠せそうな場所が無いかと目を走らせるが…
近くには何も無い。
最も近くの部屋か何かを探すにも、恐らく、発見前にこちらが見つかってしまう。

手持ちの道具を考える。
デリンジャーが一丁。弾丸。非常食。拾ったジャンクパーツ。方位磁石。
周囲の状況を確認する。
薄暗い廊下。開かない鉄の扉。身を隠す時間も場所も無い。進む事も退く事も出来そうに無い。

相手は走ってるせいで注意力が落ち、気付いたのはこちらが先だろう。
なら先手を打って攻撃すべきか?
違う。
相手の強さが不明な上、運良く相手に命中しました、なんて都合の良い事は起きないだろう。


足音は次第に…確実に近づいてくる…。

(勝ち目は、限りなくゼロに近いかしら…でも…やらなきゃ確実なゼロかしら…!)

金糸雀は意を決し、行動を起こす。

弾丸を手早く慎重に、音を立てないように解体する。
中に入っている火薬で、地面に小さな山を作る。
持てる弾丸の全てで…時間の許す限り、そうする。

相手もこちらに気付いたのだろう。
足音がピタリと止まった。 

(今かしら!)

信管を叩きつけ、小さな山となった火薬を一気に爆発させる――
瞬間――
カメラのフラッシュより強力な閃光が薄暗い廊下に走る――

「抵抗は止めるかしら!カナの銃はもう狙いをつけてるかしら!」
弾丸の入ってない銃を構え、ハッタリを飛ばす。
「暗い廊下に目がなれてたせいで、今の光で視力が一時的に弱ってるかしら…勝ち目は無いかしら…!」
前半は本当だが…後半は全くの嘘。
心から、ハッタリが通用する相手であることを祈りながら言う。
「…ゆっくり…両手をあげて、こっちに歩いてくるかしら…」

―※―※―※―※―

薄暗い廊下から、ゆっくり姿を現したのは――

金糸雀はその相手の姿に度肝を抜かれた。

子供といっても過言ではないような、小さな少女。

銃を持つ手を下げ、慌てて駆け寄る。
「はうぁ!ご、ごめんなさいかしら~!驚かせちゃったかしら!?怪我はしてないかしら!?」
叫びながらその少女の顔や頭をペタペタ触る。

相変わらず怯えた目をしている少女に、金糸雀は声をかけ続ける。
「ごめんなさいかしら…てっきり、悪い奴が来たのかと思って、びっくりさせちゃったかしら…」 

その言葉を聞き、少女も少し警戒の色を薄めて、声を発した。
「うゆ…あなた、怖い人じゃないの…?」
金糸雀は胸を張り、答える。
「もちろん!かしら~!カナ達は『自由を愛する気さくなチームよぉ』かしら!」
受け売りの言葉を、さも自分の事のように誇らしげに言う。
その言葉に少女も、安心したようにホッと息をつく。

「とりあえず、ここは危険だから、どこか出口を探すかしら!…どこか知らないかしら?」
そう言い、少女の手を取る。
「うゅ…。ヒナも出口を探してる所なの」
「ヒナちゃん、って言うかしら?カナは金糸雀と言うかしら~」
「雛苺なの~!」
「雛苺、一緒に探すかしら!カナから離れないようにするかしら!」
「うい!お友達ができて、ヒナとーっても嬉しいのー!」
お姉さんになった気分で、凛々しく額を輝かせる金糸雀。
危機感無く無邪気に、楽しそうに答える雛苺。

金糸雀は鉄の扉を一瞥して言う。
「この出口は、錆び付いてて開かないかしら…。でも、どこかにまだ出口があるはずかしら…」
すると雛苺が意外な答えを返してきた。
「うい!それならヒナに任せるの!」
そう言い雛苺は、扉に向かって走っていった。

分厚い鉄の扉に、何か細工をする雛苺を見ながら、金糸雀の頭に疑問がよぎる。 

――何故、こんな所に…誰にも発見されなかったはずのこんな場所に、子供がいるのか。

細工が済んだのか、雛苺が数歩、扉から離れる。

――3人組の一人は、戦闘が不得意で臆病。

扉から煙が音も無く上がり…そして…扉が音を立てて倒れた。
「吹き飛ばせばいい、ってもんじゃないのよー」
雛苺が誇らしげに声を上げる。

――そして…発破を使う…

―※―※―※―※―

火薬で扉の接合部分だけを焼ききった雛苺は振り返り…自分に向けて両手で銃を構える金糸雀を見た。
「カナリア…?どうし…」
「あれは、あなただったかしら!…どうしてカナたちを襲ってきたのかしら!?」
疑問の声は、金糸雀の叫びに遮られた。
「…うゅ……その…ごめんなさい…誰か来たと思って…怖くって…」
雛苺は目に涙を溜めながら答える。
「…お友達になれると思っていたのに…残念かしら…。武器を全て床に下ろすかしら…」
偽らざる本音と、生きるという意志。それらに悶えながらも、金糸雀は言い放つ。

雛苺はそっとカバンを下に置き、ポケットから、例の大福のような形の爆弾を床に置いた。

それを確認し、金糸雀も銃口を下げる。
「雛苺…どうして…」
だがその問いかけも、雛苺の呟くような声に遮られる。 

「カナリア…ごねんね…」

瞬間――
二人の中心、その足元から、眩い閃光とすさまじい轟音が響いた――!

「――ッ!?フラッシュグレネード!?」

光と音による、非殺傷性の爆発。
それにより金糸雀は一時的にとはいえ、完全に視力と聴力を奪われ――

そして…
かろうじて視界が戻ってきたとき…

開いた扉と、外の世界。
もう…雛苺の姿はどこにも見えなかった…。


「…とりあえず…水銀燈達は無事かしら…」
呟き、合流地点に向かう――。

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