私は、美しいものが好きだ。
愛らしいものも好きだし、完璧なものも好きだ。
私は全知全能に憧れる。
純真無垢な少女に憧れる。
時の流れにはむかいたい。
きっとそれは至上の幸福。

全知全能の存在。
命を作り出す存在。
私は、神になりたい。

私はまたいつものようにアトリエを出る。
無論、私に声をかける人間はいない。
今日も、人形は動かなかった。
当たり前だ。
動くわけがない。
それでも、やはり期待してしまう。
この、私が生み出した人形が動き出したならと、絶えず夢想してしまう。
私はいつか朽ち果てる。
しかし、もし私が作った人形が動き出したなら。
永久に私を語り継いでくれるだろう。
いつか、それこそ死ぬ間際でもいい。
人形が動き出してくれたら。 

「こんにちは。窓からあなたのアトリエを拝見させていただきました。素晴らしい人形ですね。」
…思考を中断されるのは、睡眠を中断されることと等しく不快だ。
「もちろんだ。私が作ったのだから。」
「けれども、やはり所詮は人形。
 決して動き出すことはないのです。」
「……当然だ。
 しかし、幼き女神とはこのことだろう。」
「女神?はて、ならばなぜ大人の女性の人形を作らないのです?
 わざわざ幼子ばかりつくらなくともよいでしょうに。」
「私が作りたいのは美しいものなのであって、主ではないし、全能者ではない。
 ましてや支配者でもない。
 人々が崇めてはならないのだよ。」
「なるほど。しかし、大層な自信ですね。
 自分が作れば人々が崇めると。」
「当然だよ。」
「けれども、先ほども申しましたようにあくまであなたが作るのは人形。
 けして命を持ちません。」
「わかってる!さっきから何度も!何が言いたい!」
「私が人形達に命を吹き込んであげましょう。
 私はこう見えても、錬金術師なのですよ。」
「何?」 

「賢者の石の合成に成功しましてね。
 いえ、少し違うものですのでローザミスティカとでも呼びましょう。
 賢者の石の一歩先のものです。
 もちろん命の水を作ることもできますよ。
 とはいえ、永遠の寿命などわずらわしいだけ。
 社会の役に立てる気など毛頭ありませんし、名誉もいりません。
 ならばせめて神の真似事をしてみたいのですよ。
 命を吹き込むに値する器を見つけて、命を与える。
 夢のようではないですか。」
「…嘘ではないのか?」 

「いえ、まさか。これがそれ。ローザミスティカです。
 あなたの作った人形に命を吹き込むことのできるものです。
 まあ、おそらく砕かなければ入りませんが。」
「おもしろい。では、私のアトリエへ行こう。
 君はそこでさらにローザミスティカを作ってくれ。
 なに、私の技術があれば砕かなくとも人形にそれを入れる方法が見つかるさ。
 そうとも、人形を人に変える事もできるに違いない。
それこそ、普通の人間に。
 私の理想の彼女達が滑らかな体で活動する。
 ああ、なんとすばらしい。
 さあ、早くいこう。
 制作と研究に取り掛からなくては。」
「はい。あなたの仰せのままに。」
きっと、これはうまくいくだろう。
人形は動く。
命を得る。
人に転生する。
成長し、恋もするだろう。
理想が時に喰われるのは心苦しい。
が、その対策はまた考えればいい。
私は、父親になるのだ。
理想達の。 

「こうして、私の師匠はばらすぃーの友達7人を人間にしたんだ。
 私は技を盗んで、ばらすぃーをつくったのさ。」
「お父さん、脳に蛆が湧いたの?」
「いや、真実…」
「シロアリ駆除よんでおいたよ。
 与太話もほどほどに。
 耳から直接駆除剤流し込んでもらってね。じゃ!」
「え、そんな、ちょ、ええ、やめてよ、あんた達何!?うぎゃぁぁぁぁぁ!」

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最終更新:2008年01月27日 22:03