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さら、さら、さら。




「――此処は、一体何処だ?確か…夢か?いや、其れにしては随分――」

「やあ」

「――うわあっ!」

「ふふ。そんなに驚かなくても良いじゃないか」

「そう言われてましても、後ろから急に呼ばれたら、誰だって、――………」

「………ん?どうか、したのかい?」

「……あ、いや、何でもない。何でもないですよ」

「ん?そうかい。――こんにちは。いや、おはよう、になるのかな?」

「あ、ああ。…こんにちは」

「ふふ。君がこんにちは、と言うのなら、きっと『こんにちは』なのだろうね。改めまして、こんにちは――」




《とある小川での出来事》




さら、さら、さら。




「――あの、此処は、何処でしょうか?」

「ご覧の通り、小川の在る処だよ」

「いや、そうでは無くて…」

「ふふ。此処が何処だろうと、構わないのでは無いかい?」

「まあ、確かにそうではありますが…」

「なら、良いじゃない。僕はこの場所、結構気に入ってるんだけどな。――この小川の水、とても美味しいんだ。飲んでみないか?」

「…………
 確かに、綺麗な川ですね。どれ、飲んでみるか。…――」

「…どう?」

「……ぷはぁ」

「……ふっ、あはは。そうそう。やっぱり、『ぷはぁ』ってなるよね?」

「ええ。冷たくて、美味しい。思わず『ぷはぁ』って声が漏れてしまいますよ」

「そうだよね。僕もこの水を飲むと、いつも声に出しちゃうんだよ。
 ――…ぷはぁ」

「ははは、本当ですね」

「……ねえ、君。歳も近い様だし、お互い気を使わずに話そうよ。敬語は、使わないで欲しいな」

「はは、そうか。では、しゃーないので、気兼ね無くいかせて貰うよ」

「…普段から、そんな口調なの?」

「いやいや、ははは。――つい最近、似たような事を女子に言われたものでね。其の娘の――口癖だ」

「へえ、そうなんだ――」



さら、さら、さら。




「――ところで、君はどうして此処に?」

「それが、僕にも良く判らないんだよ。気が付いたら、此の川の前で寝ていた、という次第さ」

「へえ、そうなのか。――気が付いたら、か。其れなら――」

「…どうか、したかい?」

「…や、気にするな。こっちの話だ」

「そう。――それにしても、誰かに逢うのも、随分と久しいなあ」

「…そうなのか?」

「うん。此処を訪れる人は、あまり居ないからね。
 ――此処では、時の経る塩梅が、良く判らないんだ。今は一体何時何分なのか。この水を最後に飲んだのは、一体どれ位前の事だったのか。だから、君の前の人が此処を訪れたのが何時なのかも、判らない」

「…其れはまた不便な話だな。時計が無いとは、中々大変だな」

「ううん、そうでも無い、かな。ゆるりと過ごす事が出来るからね。これはこれで、案外楽しい物だよ」

「…そうか…」

「うん…」

「…………」

「…………」

「――此の辺りは、何時もこの景色なのか?」

「…どうして?」

「いや、何と無く、な。何と無く、この侭では無いような気がしてな」

「御名答。その通りだよ。此処は、姿を変える。蓮華草が咲いたり、芝生が生い茂ったり、雪が降って辺り一面白銀の絨毯が広がったり。
 ――でもね、この川と樹は、変わらないんだ。ずっと、此処に在るままなんだ」

「へえ、此の樹もか。…力強い樹だな」

「それでね、他の人が来ると、辺り一面に真っ赤な彼岸花が咲くんだ」

「………な、何だって!?そ、それなら僕は…まさか…」

「ふふ。冗談だよ。案外引っ掛かり易いんだね、君」

「…はあ、なんだ…――ん?」

「どうかした?」

「いや――はは、ちょっと既視感がね」

「既視感?」

「いや、それもこっちの話だ」

「――君は随分と、そっちの話の多い人だな」

「いやはや、済まない。――話す必要も無い様な些細な独り言なものでね」

「そう…何だか――いや、いい」

「…………」

「――君は、この場所は好きかい?」

「ううん…どうだろうか。確かに、とても綺麗だ。こんな景色、見た事無い。だが…」

「…ん?」

「――物寂しく、感じる。虚ろ、と言ったら良いのかな。とにかく、そんな感じだ」

「そう…」

「…………――」




さら、さら、さら。




「――君が最後に逢った人とは、どんな人だったんだ?」

「大勢で来たよ。どうやら皆戦死した人達みたい。軍服を来ていた」

「そうか…其の人達の表情は、どうだった?」

「様々だよ。――晴れやかな顔、悲哀に満ちた顔、苦虫をかみつぶした様な顔。様々だった」

「そうか……何だか、なあ」

「――君は今、どんな気持なんだい?」

「うーん…――世界は狭い、かな」

「……ふふ、どういう事だい」

「秘密だ」

「そうか。ふふ…」

「君は」

「えっ?」

「君は、一体どういう気持ちなんだ?」

「ううん、そうだな…
 ――よく、分からないや」

「分からない?」

「うん、分からない。独りで居るのは、さみしい。でも、こうして沢山の花に囲まれて居ると、独りも悪くない、って思えてしまうんだ。でも、君の後ろ姿を見付けた時に、心がとても弾んだ。
 ――やっぱり、さみしいのかな、って。その気持ちがぐるぐる、頭を廻り続けるんだ」

「そうか…ちゃんと、言えてるじゃあないか」

「えっ?」

「君の、気持ち。ちゃんと言葉に表せているじゃあないか。きっと君は、色々な思いが駆け巡っているから上手く言えない、と思っているのだろうが、それらは全て君の気持ちだ」

「…うん。そうだね。君の言う通りだよ。君って、何処と無く詩人っぽいね。
 僕はいつも今みたいに物事の答えは『ひとつ』じゃないといけない、と思ってしまう性質の人間でね。こういうの、堅物、って言うのかな?」

「君はとても堅物のような人には見えないんだがな」

「はは。そう言ってくれると、嬉しいなあ。――」




  さら、さら、さら。




「――逆に訊くけど、君は何処からやって来たの?」

「うーん…何処だったかな?解らん。覚えていない」

「そうなの?此処に来る人は大概何処から来たのか憶えているものなんだけど。君はやはり、特別だ。
 ――君は、死んでいない。君は未だ器が死んでいないんだ」

「と、なると――此処は、たましいの世、ということで宜しいのかな?」

「まあ、粗方合っているよ。此処は、器の世を終えた人の来る処なんだ。そう、僕は死んじゃった人」

「…………」

「ふふ、そんなに黙り込む必要は無いよ」

「いや……どういう事なのだろうか、と思ってな。こういう事もあるのか。全く、不思議なものだ、たましいという奴は」

「たましい、か…
 僕は今、きっとたましいだけの存在なのだろうね。そして、此処も。たましいのみで創られた世界。君が此処を虚ろだ、って言ったのもその所為なのかも知れないな、多分」

「でも、君はちゃんと此処に在るじゃあないか」

「それは、どうだろう。もしかしたら、僕は君の創り上げた幻想の人間なのかも知れないよ?――これじゃあ、余りにも不確かだ。器の在る君とは違う」

「…そんなさみしい事、言わないでおくれよ。君は君だ。器が在ろうと無かろうと、今、確かに君は此処に――いるんだ。そして僕は君を『君』だと、そう思っている。これだけでは、まだ不十分なのか?僕は、これだけで十分だと思うのだが」

「――うん、そうだね。…そうだよね。
 …ふふ、何だか、君に勇気付けられるのって、くすぐったいな。――ありがとう」

「あ、いや、別にそんなつもりでは…」

「もう、それでいいの。余計な後付けは要らないよ?」

「あ、はい…」

「よろしい。――それにしても、君が元の場所を思い出せないのは何故なんだろう?」

「確かに。…一体、僕は何処からやって来たんだ?全く思い出せないのも、不可思議な話だ」

「ううん…生憎、僕は君の事をよく知らないからね。――そうだ、もし良ければ、君の事を教えてくれないかな?それが君の記憶を取り戻す手助けになればいいかな、と思って」

「ふむ、確かに。そうだな――」




さら、さら、さら。




「――そして、『今日』――本当に今日なのか判らないので、便宜上『今日』にしておこうか――僕は電車に乗ったんだ。目的は無かったのだが、何の気無しにふらりと乗ってしまったんだよ。其処で……――」

「……其処で?」

「ええと…その…とある女性に、出逢ったんだ。相席してな。其の人と暫し話をした」

「どんな話?」

「他愛無い話さ。何処に行くかだの、山が切り崩されて嫌だだの――そんな塩梅だ」

「そう。その時、何かあったの?」

「そうだな…浮浪者、と其の女性に言われたんだ」

「ははは、そうなんだ。確かにその格好じゃ、仕方がないか」

「うっ…同じ事を彼女にも言われてしまった…」

「…えっ、そうなの?御免、怒らないで!」

「はは、其の程度で怒る様な癇癪持ちでは無いよ。――後は、そうだな…」

「他にも何か、あったのかい?」

「――知り合いに、逢いたくなった」

「――誰なんだい?」

「…先程はまだ言ってなかったのだが、とある幼馴染みの女性だ。戦争で亡くした」

「そう、なんだ…じゃあ、――君とは、どんな関係だったんだい」

「えっと…それは、その……」

「――ああ、好きな人か。――ふふ。そんなに顔を赤くしなくても良いじゃないか」

「な…べ、別に赤くなど…」

「ははっ。墓穴、掘ってるよ。――全く、僕の姉にそっくりだ」

「え…――君の、姉?」

「うん。双子の姉さ。君みたいに気丈に振舞って、墓穴を掘る人だったよ」

「…………」

「どうしたんだい?」

「や、何でもない。――なあ」

「何?」

「…良かったら、君の姉の事、話してくれないかな?」

「えっ…」

「――あ、嫌なら構わない。済まなかった」

「いや、良いよ。寧ろ、話しておきたいな。
 ――僕はね、想い出とかそういう物はね、頭の中の『箪笥』の中に仕舞われてあるんじゃないか、って思うんだよ」

「えっ――」

「そしてね、ずっと想い出を仕舞いっ放しにしていると、想い出が埃を被ってしまい、引き出しも壊れ――何れその事を忘れ去ってしまう。そんな気がするんだ。だから――」

「――だから、たまには掃除をしないといけない、…のかな?」

「…ああ。そうだよ。だから、君にも付き合って欲しいな」

「ああ――構わない」

「そう。有難う。それじゃ、――」





 さら、さら、さら。




「――僕らは、小さい頃からよく苛められていたんだ。この眼の所為さ。僕は右が緑色をしているんだけど、姉は逆なんだ。どうやら、この眼が苔が生えてる様に見えたのだろうね。苔の双子って言われていたものだったよ。
 姉さん――御免、姉さん、って読んでも良いかな――姉さんは、いつも僕を助けてくれたんだ。怒鳴り返して、男子とも互角に戦って、そして次第に僕達の事をからかう人もいなくなっていったんだ。
 ――でも、姉さんも平気だった訳じゃない。下手したら僕よりも、とてもとても傷付いていたのかも知れない。
 偶にね、何も言わずに家を飛び出す事があったんだ。後を追ってみたら、近くの小川に居たんだ。
 其処の小川の畔にはね、大きな樹があったんだ。其処で、泣いていたよ。思い切り、泣いていたんだ。その姿が、余りにも脆く見えてね。平素は気丈に振舞っていても、その内は硝子の様に脆く、壊れ易い。
 いつも護って貰ってばかりじゃ、いつか彼女は壊れてしまう。僕もその頃から、立ち向かうようにしたんだ。これが意外と効いたのか、その頃から徐々に減っていったんだ」

「…………」

「ある日、姉さんと父が田舎の親戚の家に行く事があったんだ。僕はその日風邪を拗らせちゃって、母と留守を任されたんだ。
 ――その日はね、何故か警報が鳴らなかったんだ。気付いたら僕は倒れた箪笥と壁の隙間に居たんだ。隣には母が倒れていた。周りは火の手が上がっていて、僕は足が挟まっていて、動けなかった。熱かった、とても。段々、感覚も無くなってきてね、意識も薄れていったんだ。すると、近所の方々が皆で助けに来てくれたんだ。
 幸い、母も僕も助けられたんだけど、火傷が酷くて、動けなかった。仕方が無いから、焼け残ったカーテンで担架を作って、近くの広場まで運んでくれたんだ。僕はもう、意識が朦朧としていて、姉さんの事しか頭に無かった。姉さんの安否の事ばかり考えていた。
 ――姉さんは、来てくれた。僕も姉さんも互いに、大丈夫で良かった、って言ったんだ――尤も、僕は声が出せなかったし、口も動かなかったんだけど――本当に安心したんだ。そうしたら、ふっ、と体が浮いて。刹那、体が何処かへ運ばれる気がして、気が付くと此処に居たんだ」

「……そうか……そうだったのか…――
 君の姉さんは、本当に優しい方なのだな。最期の最期まで、君を見捨てる事は決して無かった。君の事を最期まで愛していた。そう、思う。僕と違って――」

「そう…君がそう言うのなら、きっとそうなのだろうね」

「ん?どうしてだ?」

「だって、君の言葉には、たましいが込もっているもの。君の気持ちも、この言葉に込もったたましいによって僕に伝わってくる。君の言霊が、僕のたましいを優しく包み込んでくれる。――そんな気がするんだ」

「成程。確かに、僕にも君のたましいが伝わってきている。君の姉に対する想いが、とても強く、痛い程強く伝わってきている」

「そう?
 ふふ、言葉って、良いね。こうして面と向かって、言葉を伝える事って、大事だと思うんだ。やっぱり、直に気持ちを伝えられるからかな」

「そうだな。文で気持ちを綴るのも良いが、こうして言葉を声に乗せるのも良いものだ」

「君と僕は、気が合うなあ。でもね、姉さんは、面と向かって話すのが恥ずかしいから、言葉を綴る方が好きらしいけど」

「そうか、成程。そう言えば、似た者同士だったものな――」




 さら、さら、さら。




「――ねえ、君。そろそろ、お別れの様だよ」

「えっ?何故だ?」

「君の、足。見て御覧」

「…うわっ、消えてる!?」

「どうやら、君の器が君を呼んでいる様だね。君は戻らなくちゃならない、もと居た世界に」

「そうか……君とも、お別れか。長いようで、短いな」

「そうだね。でも、出逢いなんてそんな物でしょう?唐突に出逢いは訪れ、また唐突に別れも訪れる。
 そしてもう、逢うことは多分二度と無い」

「そうだな…一期一会、と言ったら在り来りになるが、そんな物なのだろうな」

「そうだね…
 でも、この出逢いには必ず意味が有るんだ。僕はね、総て物事には意味が有ると思うんだ。意味の無い事なんて、無い――それこそ、虚ろじゃあないか」

「この邂逅の意味、か…ううん…」

「ふふ。いずれ、判るんじゃない?今は未だ分からない事でも、時が経って顧みてはじめて、気付く事だって有るさ」

「…ああ。そうだな。じゃあ、この問題は保留だ」

「ふふ。分かったら教えてね。
 ――ねえ、君。伝言を、頼めるかい?」

「ああ、別に構わないが…誰にだ?」

「ええとね…
 『来てくれて有難う。逢えて、良かった。僕の事は忘れて、君の好きな様に生きておくれ』
 って。――ああ、姉さんに、伝えてくれ」

「……分かった。君の言葉、確かに預かった。…だが、僕は君の姉さんに逢っていないのかも知れないのだぞ?」

「ふふ、別に構わないよ。何でだろうね、君はやはり姉さんと逢っている。逢っていないとしても、きっと逢える――そんな気が、してならないんだ」

「そうか…成程、それならばきっと、大丈夫なのだろうな。はは」

「うん。――宜しく、頼みます」

「ああ、分かった。必ず伝える。君の――姉さんに」

「有難う。…ねえ、君。その伝言はね――君宛の伝言でもあるんだよ」

「えっ…」

「御免ね。僕、嘘、ついてた。君に逢うすこし前にね、女の人に逢ったんだ。何処と無く、僕に良く似た人だった。
 その人も、色々な事を話してくれた。…君の話と寸分も違わなかった。暫く話をしていたら、急に彼女が黙り込みだして、涙を流したんだ。どうしたのって訊いたら、彼女の想い人が、彼女に話し掛けてきたみたいで。暫く泣き続けていたよ。
 そうして、彼女は此処を去っていった。久し振りに声を聴いたら、安心したって。そして、彼女に伝言を頼まれたんだ。まだ生きている人に伝言だなんて、可笑しな事をするものだなあ、って思っていたのだけれど…きっと彼女は、その人が直ぐに此処に来る、と分かって居たのだろうね。
 ――そして、君が此処に来た」

「…………」

「…………」

「…彼女は」

「えっ」

「彼女は――どんな表情だった?」

「優しい、表情だった」

「そうか…」

「…………」

「彼女は」

「…………」

「彼女は――何処へ、行ったのだろうか」

「さあ。僕は判らない」

「そうか。――天国なんて陳腐な考えだが、彼女には天国に、居て欲しいな…」

「僕は天国、在ると思うよ。今頃きっと、楽しくやっているさ。笑っていると思う」

「そうだな…笑っていて欲しいな。ずっと、笑っていられるように――僕は、祈り続ける」

「ふふ。君は、優しいのだね。表には出さないのだけれども、君のたましいは、とても優しいのだよ?」

「ははは。そんな事初めて言われたよ。そうかなあ…
 ――だが、これはせめてもの、償いだ。彼女を見捨てた僕の唯一出来る、御祓だ」

「そんな、彼女はもう君の事は――」

「いや、良いんだ。此れは僕自身に対する罪の、御祓なんだ。だから――」

「…………」

「――君は、これからどうするのだ?」

「そうだな…僕は此処がそれなりに気に入ってるんだけど。
 ――旅に、出てみようかな。此の世界にも、きっと沢山のものが在る。確かめたいんだ。この眼で、確かに此処に在る、と言うことを。――もし彼女に逢ったら、その時は君にも教えてあげるよ」

「ああ。…楽しみにしているよ」

「…………」

「…………」

「君に」

「ん?」

「君に、逢えて良かった」

「そうか。僕もだ」

「君は」

「ん?」

「これから、どうするんだい?」

「そうだな…取り敢えず、店をもっと繁盛させなければな。――戦争の所為で、屋台骨が散々蝕まれてしまったのだが、最近漸く持ち直したところでね。これからもっと頑張らなければいけないんだ」

「そう…――お嫁さんは、欲しくないのかい?」

「えっ…いや、今は全く…それに…」

「ふふ…君は律儀な人だ。――大丈夫、彼女の許しは得てる」

「――え?な、何の事…」

「僕は、そのハンカチーフの持ち主と、幸せになって欲しい。
 ――そのハンカチーフ、大事にしておくれよ。それは彼女が大事にしていた物だ」

「え…――い、いつから!?――う…眩しい――」

「――ふふ。君に逢う前に、実は姉さんにも逢っていたんだ。――君と姉さんは、とてもお似合いだ。ああ見えてね――とても淋しがり屋なんだ。誰かが付いていないと、彼女は直ぐ淋しがるから。だから――姉さんを、宜しく頼む――
 ……………………」




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「――…う。
 此処は…そうだった、電車の中だったか…
 何だったのだろうか。夢――では、無いのか…それにしても、不可思議な邂逅だったな…
 伝言、任されてしまったなあ…もう逢うつもりなど全く無かったのに。――あ、ハンカチーフを返さなければならないのか。ならば、序でにでも良いか…
 全く…昨日の今日であの写真の娘に逢うとは…運がよいのか、悪いのか。――宜しく頼む、って言われてもな…まさかあの娘と……って、何を考えているんだ僕は。阿呆か。
 ……あ。駅、過ぎてる。…まあ、いいか。もう少し――」




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 ガタン、ゴトン。




《とある小川での出来事》

おしまい。

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