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ここは京都の外れ、静かな山間にひっそりとたたずむ山荘。
茶室に一人籠り、茶を喫している真紅の姿があった。
上洛を果たした際、真紅は和歌の第一人者・細川藤孝よりこの山荘を譲り受け別荘とした。
以来、忙しい日々の合間を縫ってこの山荘を訪れ、茶の湯を楽しむのが真紅の楽しみとなっている。
紅「戦の後の一杯のお茶……このひとときが一番落ち着くのだわ」
自らたてたお茶を味わいつつ、安息の時間を噛みしめる。
紅「ふぅ。さて……」
真紅の脳裏に浮かんだのは、先日雪華綺晶を招いた際に彼女が残していった言葉であった。
雪「次は是非、ばらしーを呼んであげてくださいな。きっとあの子も喜びますわ♪」
ええ、わかったのだわ――
軽い気持ちでそう返事をし、早速本人にもその旨を伝えたのだが……
紅「不安なのだわ……」クルクル
約束の刻限が近づくにつれ、真紅の気持ちはどんよりと曇っていった。
薔薇水晶は合戦では負け知らずの猛将であり、敵方からは「紫鬼(しき)」と呼ばれ恐れられる程であった。
しかしながら、和歌に堪能で茶会にも慣れている雪華綺晶と違い、薔薇水晶の作法はまったくの未知数。
それ以前に、彼女は姉妹の中でも最大の問題児として家中でも噂されているのである。
紅「不安なのだわ……」クルクル
同じ言葉を二度呟いたことにさえ気付かず、真紅は愛用の茶碗「放絵」を掌の上でくるくると回し続けていた……

そして、「その時」がやって来た。
馬蹄の音が物凄い勢いで山荘に近づいてきたかと思うと、今度はけたたましいいななきが響き渡る。
鞍から飛び降りたのは、不思議な光をその隻眼にたたえた少女――
紅「来たわね……」
意を決して立ち上がる真紅。
薔薇水晶の愛馬は、男でさえ乗りこなす者のない暴れ馬として有名であった。
門に向かってつかつかと歩み寄る薔薇水晶。
門前で足音が、止まる。
薔「ガラガラッ…………たのも~」
間の抜けた声に危うくコケそうになったものの、真紅は辛うじて踏み止まった。
紅「よ、よく来てくれたのだわ……」

〇本日の客人:薔薇水晶

紅「さ、まずはお茶を」つ旦
薔「……イタダキマス」旦⊂
紅「……」
薔「……」ズズー
紅「……」
薔「……ニガイ('A`)」
紅「あ……いつもの癖で濃茶を淹れてしまったのだわ。ごめんなさい、今淹れなおすわね。茶菓子でも食べて待っていて?」
薔「……」モッキュモッキュ
紅「……」コポコポ
薔「……」モッキュモッキュモッキュモッキュ
紅「……」カチャカチャ
薔「……」モッキュモッキュモッキュモッキュモッキュモッキュモッキュモッキュ
紅「……食べ過ぎなのだわ。いくらなんでも」
薔「だって、雪華姉が……『この前は和歌に夢中で大食い属性を忘れてましたから、私の分まで食べて来て♪』って……」
紅「姉のキャラクターまで補完しなくてもいいのだわ。それとも、あの四次元胃袋を貴女が再現出来るとでも?」
薔「……無理」モッキュ
紅「では程ほどになさい。はい、新しいお茶なのだわ」つ旦
薔「……アリガタキシアワセ」旦⊂
紅「……」
薔「……」ズズー
紅「……今度はどう?」
薔「……オイシ('∀`)」
紅「よかったわ。今度は飲みやすい薄茶にしてみたのだけれど……お口に合ったみたいで、何よりなのだわ」
薔「……お父様の……味が、する……」
紅「……!」
真紅に茶の湯の基本を教えたのは父であったが、家中でもそれを知る者は少ない。
薔薇水晶が茶の味からそれを感じ取ったことに心から驚嘆し、また感動する真紅であった。

紅「ねぇ、薔薇水晶……貴女には茶の湯の素質があるかもしれないのだわ。今からでも習ってみる気はない?」
薔「……」
紅「……」
薔「……やめとく」
長い沈黙の後、薔薇水晶はただ一言呟いた。
紅「どうして? 茶の作法は他の文化にも通じるし、精神の鍛錬にもなる……ひいては、合戦の役にも立つのだわ」
薔「……濃茶は、苦手('A`)」
紅「(ノ∀`)アチャー」
本格的に茶の湯を学ぶとすれば、薄茶ばかりを飲んでいるわけにもいかないであろう。
薔「それに……」
ぎこちない手つきで茶碗を置き、薔薇水晶は言う。
薔「それに……今から、私がどんなに頑張っても……お父様の味は、出せない…………」
紅「え……?」
薔「お父様は……私が五つの時に、遠くへ行ってしまった…………私は、お父様の御顔さえ、ほとんど覚えて……ない」
紅「……そうだったわね」
「放絵」に描かれた薔薇の紋様を見つめ、ひとつ大きな溜め息を吐く真紅。
薔薇水晶は幼い頃、他の姉妹とは別の場所に預けられて育った。
彼女の記憶の中の父は、他のどの姉妹よりも希薄でおぼろげな像にすぎないのである。
薔「私は、真紅のお茶が、好き。……お父様に、また会える気が、するから。だから、真紅のお茶が飲めれば……それで、いい」
紅「そう……」
目頭に熱いものが浮かびそうになるのを、真紅はすんでのところでこらえた。
たとえどれほど名の知れた茶人の褒め言葉であっても、これほど真紅の心を震わせることは出来ないだろう。
薔「また、来ても……いい?」
紅「ええ、もちろんなのだわ。お父様に会いたくなったら、いつでもいらっしゃい」
薔「……ウレシ('∀`)」

馬蹄の音が、遠ざかっていく。
紅「お父様、か……」
薄紫の羽衣を纏った少女の後姿を見届けると、真紅は静かに障子を閉ざした。

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