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街灯の無い浜辺沿いの夜道を、バイクが疾走する。潮風が肌にまとわりつく。
薄暗い林に着く。バイクを止め、走って林を駆けていく。
彼女が、其処にいつものように佇んでいることを信じて。
暫く走り続け、「秘密の場所」に着く。彼はそこをそう呼んでいた。 

「翠星石──」 

彼女の姿は、無かった。 

「・・・・そりゃ、そうだよな・・・・・」 

彼女がいつも座っている気に腰掛けた。
「そういえば、俺が先に来るのって初めてだな・・・・」
木に、何か書いてあるのを見つけた。

バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、遅い、遅い、遅い、遅い、遅い、
別のところには、
チビ、チビ、チビ、チビ、チビ、早く来い、早く来い、早く来い、早く来い、 

「アイツ・・」 

次からは、もっと早く来よう。・・・・次なんて、あるのだろうか。 

「くっ・・・・」 

もう───駄目か──
帰ろうと思い、立ち上がろうとしたら、後ろから、何かが来る気配がした。
振り返ると、──────── 

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ジュンの家までは、そんなに遠くなかった。
ジュンの部屋の前に立つ。インターホンを押す。──返事はない。 

「やっぱり、いねぇですか。」 

何か酔いが醒めたような感じがした。
自嘲する。
そんなドラマみたいに物事が上手くいくわけ無い、と。
蒼星石の所に帰る気は無かった。───あそこにでも、行こうですかね。

もう、陽はすっかり落ちて、当たりは月光に支配されていた。砂浜沿いを歩く。

「何で、波がないですかね?」 

暫く歩き、例の緑地公園の入り口に着く。 

「あれって・・ジュンのバイク!?」 

驚いてバイクに近づく。間違いない。彼のだ。
彼に逢える。翠星石は力の限り、走った。 

「──ジュン─────ジュン─────」 

茂みを抜けた先の砂浜の傍にある木に、
彼がいた。
やっと見つけた。
顔が歪む。彼の元へと向かう。彼の顔も歪んでいた。そして、────

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振り返るとそこには、チャームポイントである長い髪と緑色の左目に緋色の右目。
「似合ってる」と僕に言われて以来お気に入りの、薄い緑のワンピースに身を包み、
彼女が立っていた。 

彼は、色を取り戻していた。 

「翠星石・・・・・・」 

目の前の視界がぼやける。鼻がツンと痛い。彼女が駆け寄ってくる。 

「・・・・・・・ジュン!!」 

立ち上がった彼の胸に思いっきり飛び込んできた翠星石をジュンは支えきれず、
よろめいて後ろの砂浜に倒れ込んでしまった。 

「・・バカァッ!アホ!チビ!スカポンタン!」 

顔をジュンの胸に埋めながら、ポカポカとジュンを叩く。シャツが涙で濡れていく。 

「オメェは大馬鹿者なのです!翠星石を、こんな目に遭わせやがって・・・・
 翠星石は・・・・ずっと・・ジュンの事を・・・・」 

咽びながら叫ぶ翠星石。叩いていた手は、ジュンの首へと回る。 

「ああ。・・ごめん。ごめんよ・・
 お前がいない間、ずっと僕であって僕でない気がしてた。
 全く違う人間なんだ。もう、僕は翠星石がいないと僕じゃなくなってたんだ。
 でも、今更戻せる勇気もなくて・・・・」 


「気づくのが遅過ぎるのです。
 翠星石にとってだって、ジュンがいねぇと、壊れちまいそうで
 ・・生きた心地がしなかったですよ・・
 ジュン・・淋しかった、ですよぉ・・・・」 

翠星石を抱く腕の力が強くなる。 

「・・・ああ。でも、もう迷わないよ。」 

顔を上げる翠星石。 

「翠星石。」
「何ですか?」
「明後日は何の日か、覚えてるか?」 

翠星石の顔が、パァッと明るくなる。 

「・・・・ジュンこそ、覚えてるですか?」
「初デート記念日だ。」 

笑い会う二人。そして二人はキスをした。
互いを確認し合うように。もう、二度と離れることの無いことを誓い合うように。
糸は、全て巻き取られていた。
一本の赤い糸を巻いていた二つの糸車は、互いにぴったりとくっついていた。 

「──なぁ、翠星石。」 

ジュンは木に寄り掛かって、翠星石はジュンの膝の上に頭を乗せ、横になっていた。 

「何ですか?」
「お前、ここ来たらいつもこの木に何か書いてんのか?」
「・・・・あーっ!見たですね!?・・このオバカッ!」
「あでっ!顎をグーで殴るこたないだろ、グーで!」
「うるせーです!これは勝手に覗いたジュンへの罰です。」 

そう言って、そっぽを向く翠星石。
ジュンは翠星石の髪をそっと撫でてやる。
拗ねた翠星石をなだめる手っ取り早い方法だ。 

翠星石の目線の先には、あの灯台が見える。遥か遠くの海に向けて光を放っている。 

「・・ジュン?」
「何だ?」
「気付いたです。実は、翠星石とジュンは、ずーっと、一緒にいたんですよ。」
「どういう事だ?」
「秘密ですぅ。」
「何でだよ?教えてくれたっていいじゃないか。」
「教えたところで、ニブチンのジュンには感受性豊かな翠星石の話は理解できんのです。」
「・・・・あっそう・・」
「・・・・ジュン?」
「ん?」 

腰を上げ、ジュンの胸にもたれる。 

「好きですよ。翠星石は一生お前にまとわりついてやることに決めたです。」
「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ。」
「ふふふ。・・・ジュン?」
「何だ?」
「──海が、綺麗ですね。」


波は、確かに砂浜に届いていた。
砂浜もそれに応えるように、くっきりと波の跡を残していた。

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