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『保守かしら』
2007年8月21日 入道雲もこもこ

真紅が人形を点検してもらっていたのは槐さんのところ。
真紅にお願いして、見せてもらってきたかしら。 

槐さんのお店で見せてもらった真紅の人形はホーリエって名前。
メイドさんの服を着た、女の子。ちょっと気弱そうだけれど、一生けんめいな感じのする子。
「きれいな子ね」
ってカナが言ったら。
「まぁね。こんな人形よりも私のほうが美しいけれど」
だって。あんまりにもすらっ、と言うから、カナもすらっと「そうよね」って答えちゃった。
真紅は本当にホーリエのご主人様みたい。
ホーリエはきっと、どこまでも真紅について行くんじゃないかしら。 

その時、おねえちゃんが来たかしら。
「金糸雀もここに来てるから、ちょうどいいと思って」
槐さんとカナでちょうどいい。そしてなによりおねえちゃんの少し疲れてテレてる声。
閃くものがあるかしら。
「あらぁ、他にお客さんがいたのね」「…どうも、ごきげんよう」
おねえちゃんと真紅が挨拶してる隙に、隠密乙女カナはおねえちゃんの車に行ったかしら。
やっぱり助手席に置かれていたのは、人形のかばん。屋根のない車でよかったかしら。
そういえば、かばんを持ってみんなの所に戻ったらばらしーちゃんに服の袖をつかまれたわ??
「どうしたの?」って聞いても答えてくれなかったかしら。

すぐ「みんなに見せて頂戴」っておねえちゃんに言われて、台の上にかばんを開けたのよ。
 中に入っていたのは、髪の毛が緑で、ロールしてて、黄色いドレスを着ているお人形。
「カナかしら!?」
「ふふ、そうねぇ」
その時、袖がもっと強くつかまれたかしら。
「カナお姉さまじゃないです」
ばらし-ちゃんの低くてはっきりとした声。
「よくわかったわねぇ」っておねえちゃんが言って、「薔薇水晶も人形がわかるようになってきたかな」槐さんも嬉しそう。

真紅は静かに紅茶を飲んでた。 
 カナにはやっぱりよくわからなかったかしら…。
槐さんとおねえちゃんが説明してくれたけれど、つまりはカナを土台に「予感」とか「閃き」とか「目に見えないものを見ようとするイメージ」を足したものなんだって。
わかるのは、「金糸雀」はカナよりも伏目がちで、蒼星石が7月の廊下で見せた表情とか、人形を見るときのおねえちゃんや槐さんの雰囲気にちょびっと似ていること。
キラキショウの時と変わらず、おねえちゃんは凄かったんだけれど、自分がモデルなのが恥ずかしく
って、なんにも言えなかったかしら~。
なんだか「金糸雀」を見るたびに、テレちゃう。 

それからはおねえちゃんと槐さんの難しい人形のお話。真紅はすぐに帰っちゃって、カナはばらしー
ちゃんと遊んでたかしら。 

帰り道、おねえちゃんの車で話を聞いたかしら。
おねえちゃんは「金糸雀」を展覧会のメインで出展するつもりなんだって。
「キ、キラキショウのほうがいいかしらっ。」
恥ずかしいんだもん。
けれど、おねえちゃんはちょびっと黙り込んだ。
「キラキショウはまだお父様に近いのよ。アリスとは一つの完璧なのだとしたら、本当はなにもいらないんでしょうけれど。
私はまだそこまではたどり着いていないわ。だからあなたに手伝ってもらったのよ――」
ここでおねえちゃんは一度言葉を切ったかしら。
「嫌だった?」
カナがおねえちゃんに真剣な声で話し掛けられたのははじめて。
なんでかしら。この時おねえちゃんが泣きそうに見えたのは?
「ううん、嫌じゃないわ。おねえちゃんはお父様に挑戦するのかしら?」
カナが聞いたら。
「そうよ」
「怖くない?」
「この道を歩き、アリスを目指すと決めたときから覚悟はしてたわ」
今度はカナがちょびっと黙った。
「カナはおねえちゃんの役に立てることはとっても嬉しいかしら」
考えたけれど、やっぱりこんな言葉しか浮かばなかったかしら。
「そう、ありがと」
おねえちゃんのいつものそっけない声。
おねえちゃんは遠い目をしてた。あの時おねえちゃんは何を考えていたのかしら? 

ねぇ、ピチカート。
おねえちゃんはお父様と同じ人形師。
おねえちゃんの目標はお父様と同じアリスを作ること。
おねえちゃんは同じ道を進むものとして、お父様に挑戦するのね。
偉大なお父様と同じ道のりを歩み、お父様すらたどり着けなかったアリスを作り出そうとしている…。




2007年8月24日

人形展の設営はできる限り人形師とボランティアだけでする予定。
「イベント会社の人間への依頼は必要最低限で。後は私達でやろう」
だいぶ前に槐さんの雁の一声でそう決まってたかしら。キョロローキョロロー♪
予算がないからとはいえ、これでカナも人形展を手伝うことができるかしら。

そうそう、今日は蒼星石が家に来たかしら。
遊びに来たのかなーって思ったんだけど、おねえちゃんに用事だったかしら。
「僕にも会場の設営を手伝わせてほしい」だって。
「一葉のおじいさんの許可はとってるの?」
おねえちゃんが聞くと。
「これは僕の意思です。おじい様は関係ありません」
蒼星石がきっぱりと言ったかしら。
「だだをこねたら、おじいさんが困るでしょ」
「人手が少しでも必要でしょう?」
「それはそうだけどね…。一葉のおじいさんがこの人形展をあんまり歓迎してないことは知ってる?」
カナは知らなかったかしら。ちょびっと驚き。けれど蒼星石の表情は落ち着いてた。
「知ってます」
おねえちゃんが、ちょっとため息。
「ま、見学程度はさせてあげるわ」
「ありがとうございます。水銀燈さん。でも一つだけ。おじい様をからかうような呼び方はやめてください」
「固い子だわぁ」
おねえちゃんは面白そうに唇だけで笑ってた。

人形展を手伝えるだけでも嬉しいのに、さらに蒼星石も参加するなんて…今からわくわくしてくるかしら。

 





2007年8月25日

蒼星石も車に乗って、人形展の会場にいざ出発。
しばらくしたら車が止まって、「金糸雀このかばんを持って先に下りて」っておねえちゃんに頼まれたかしら。
カナが渡されたかばんを持って車を降りたけれど、おねえちゃんと蒼星石は下りてこなかったの。
「どうしたの?」って聞いたら「金糸雀…あなたこの前ヴァイオリンの稽古をさぼったらしいわね。」
「あぅ…それは」なんとかごまかそうと思ったんだけれど「みっちゃんにも確認済みよ」おねえちゃん
に笑顔でとどめをさされたかしら。
おねえちゃんは時々笑いながら怒る。これ以上言いわけしたらアイアンクロー炸裂まちがいなしだったわ…。

「じゃお願いね」
おねえちゃんがカナの後ろに向かって声を掛けたかしら。
「はい…まかせてください」
誰かがうっとりした声で答えて、カナの肩に手が置かれたかしら。
蒼星石はすまなそうにしていたけれど、車はあっさり行っちゃった。
振り向いたら、後ろの人は音楽の先生だったかしら。車のほうを見ながら、
「水銀燈先輩…今でもカッコよすぎです…」
だって。いつもと声が全然違うから、びっくり。
先生はカナの視線に気付いたら咳払いをして、いつもの調子で怒ったかしら。
「あなたは不真面目すぎますっ!せっかくコンクールの地区本戦まで残ったんでしょう。少しはがんばってみなさい」

やっと家に帰ってこれたわピチカート。
おねえちゃんはまだ帰ってきてない。きっとみんなで準備中なんだわ。
練習なんてだーいっ嫌いかしらぁー!

 





2007年8月25日

本日二度目の日記かしらピチカート。
晩ご飯を食べるために部屋を出てたら、家の中にキラキショウが居たの。
最近人形展前の準備で、色々物が動いてたから、キラキショウもそうやって移動してたみたい。
玄関近くに居たから、おねえちゃんは最後までキラキショウを連れて行くかどうか迷ったんじゃないかしら?
カナと同じでキラキショウもあと一歩で人形展の会場に行き損ねたんだわ。そう思ったら
「あなたもお留守番?」
って話しかけてたかしら。

せっかくだから、晩ご飯の話し相手になってもらったかしら。
ざぶとんを三枚くらい重ねていすに置いて、カナと向かい合わせに座ってもらって。話したのはやっぱり人形展のこと。
お互い残念かしら、とか。ああもぅ…きっと大変だけどみんな楽しく作業をしてるに違いないわ。とか。
なんだか会話をしているような気分になって、気付いたら1時間も話してた。
おねえちゃんは人形を作るときに『魂を込める』ってよく言うけれど、キラキショウは本当に生きてるみたいね。
キラキショウは人形展にあんまり興味がなさそうだったけれど、カナが色々話してたら少し興味を持ってくれたかしら。
なんちゃって。

どうせおねえちゃんも帰ってこないし、今日はキラキショウと一緒に寝ようっと。



2007年8月26日

朝起きたらキラキショウがいなくてびっくり。
寝ころんで落としちゃったのかと思って慌てて、ベッドの下をのぞき込んだりしたけれど、 やっぱりキラキショウはいなくて、冷や汗が出てきたかしら。
でも、よく見たら枕元におねえちゃんのメモが置かれててほっとしたわ。
【勝手に動かしちゃだめよ】
おねえちゃんが朝早く戻ってきてたみたい。それでキラキショウを片付けたのかしら?
「ななななえええええ、どどどうしよう」とか言って損しちゃった。

今日も一日先生と練習。楽しくないかしら~。
というか先生に限らず練習で上手く弾けても、あんまり楽しくないのはなんで?

うぅ、一人の家はやっぱりちょびっといや。
おねえちゃん今日も帰ってこないよね…。 




2007年8月31日
 
 生まれて初めて5日連続でヴァイオリンの練習をしちゃった…。
30日とお昼で宿題と部活の作品を超特急で仕上げ。ねじと基盤がちょびっと余ったかしら。
後はおねえちゃんたちに見つからないように、帽子をかぶって人形展に潜入してきたの。
 人形展で飾られていたのは、キラキショウだったかしら。飴細工みたいな網の上に座って笑ってた。
一緒にいたときよりもきれいだなーって見てたら、わしっ、と後ろ髪をつかまれて頭がかくんってしちゃった。
 「なにしてるのかしらぁ?」
あれはカナの声真似だったのかしらぁ…?
「来ちゃだめって言ったでしょ」
「宿題も作品も終わらせてきたもん」
「しょうのない子ね」
おねえちゃんがちょっとため息。
けどカナを追い出したりはしなかったかしら。
それからカナは
「金糸雀はどこにいるのかしら?」
って聞いたんだけれど、そしたらおねえちゃんが低い声で
「あの人形は壊れちゃったのよ」
だって。
「そうなのかしら…」
カナがしゅんとしたら。おねえちゃんはしゃがみこんでくれた。
「けど、ほら見て。キラキショウが立派に代役を果たしてくれているわ」
おねえちゃんはカナの頭をキラキショウのいるところに向けたの。
キラキショウのいるところは人がよく立ち止まってた。それだけキラキショウがみ力的ってことよね。

「やっぱりおねえちゃんの作品はすごいかしら!」
「ま、私の手にかかればざっとこんなもんよ」
おねえちゃんは、いつもどおりの強気でちょっとおどけた感じ。
それからしばらく、おねえちゃんとたくさんの人形を見てたかしら。
最後に槐さんのヘンゼルとグレーテルを見たら、もうおしまい。
 おねえちゃんがカナの頭に手をぽんと乗せたかしら。
「金糸雀、おねえちゃんは忙しいから先に帰ってなさい」
「はいかしら」
そう言って、カナは出口に向かい始めたんだけれど。
おねえちゃんのかつん、かつん、っていうさびしそうな靴音がそうさせたのかしら。
ふいに「金糸雀」を紹介してもらった時のおねえちゃんが泣きそうな顔を思い出したの。
振り向いたら、おねえちゃんはもうだいぶ離れてた。
「おねえちゃん!」 
お姉ちゃんは平気そうに笑ってたんだと思う。けれど振り向かずに手をひらひら。
「大丈夫よぉ。」
 あの時、カナは急に不安になったのよ、ピチカート。
まるでおねえちゃんがもう帰ってきてくれないみたいに思えたかしら。
もちろんそんなわけはなくって、明日には帰ってきてくれるんだけれど。
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