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今日は土曜。
突然の話だった。
主治医の先生から、今日の様子次第で明日退院許可を出すか決めるという話が出た。
食欲も凄まじい勢いで回復してきているので、点滴も今日から外した。

退院が決まりそうということで、ロビーの公衆電話でねーちゃんの携帯に電話を入れた。
だが、やはり電話に出ない。高校の部活で忙しいんだろう…
念のために留守電にメッセージを残して、電話を切った。

翠星石たちの家にも電話を入れた。
ちょうど翠星石んとこのお母さんが出てきて、
僕の退院を(まだ決まってないけど)喜んでくれた。
それでお見舞いに来て下さるらしい。本当に感謝の気持ちで一杯だ。
翠星石は待ちきれずに先に出発したらしい。相変わらず行動が早い。
その電話の向こうで馬鹿騒ぎしてる声が混ざってきたけど、
例のおてんば4人衆か?
相変わらず元気にやってるみたいだな。
……。

──ふっ。

~~~~~

午前10時半。空に綿雲が浮かんでいる。
6人部屋だが、周りを見渡す限り誰もいない。
みんな引き篭もりじゃないんだな…
僕はカーテンから顔を引っ込めた。

しっかし翠星石はいつ来るんだろうなぁ。
さっきの電話からそれなりに時間が経ったと思うんだけど…。

う~ん…。
よし、あと10秒で来るな。きっと。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…

翠「じゅ~ん♪」
ジ「おぉ!」

しょーもないカウントダウンが見事に当たり、思わず声を上げた。
満面の笑みを浮かべた翠星石のお出ましだ。

翠「きゃぁっ!ジュンですジュンですぅ~」

メチャクチャはしゃぐ翠星石。
持っていたカバンをベッドに投げ捨て、わっと僕に抱きついてくる。

翠「じゅ~ん~♪今から退院するですよ?」

気が早い…w

ジ「いや、まだ退院許可は出てないんだってばw」
翠「なっ…」

途端に翠星石は僕を解放した。

翠「…」

急に石化したかのごとく、微妙な表情で固まる翠星石。
あれ?さっきのはツッコミ待ちじゃなかったのかな…

ジ「…」
翠「…」

何で空気が停滞するんだ…?
ど、どうしよ…何か言わないとな…

ジ「あ、そうじゃなくて、明日にでも退院許可が出そうな雰囲気では…あるよ」
翠「…なぁんだ、それを早く言えです」

翠星石の顔がほころんだ。
ふぅ…。

そして翠星石はさっき放り投げたカバンの中から袋を取り出した。
本屋で貰うようなビニール製の袋だ。

ジ「何それ?」
翠「ちょ~っと退院祝いで渡そっかなぁって思ってたものです…」
ジ「へぇ!翠星石が?」

ちょっとからかってみた。

翠「ちっ、違うです!」

──いつも通りだった。

翠「こ、これは、水銀燈の置き手紙で…」
ジ「で、翠星石が買ったんだ…」
翠「うぅ…」
ジ「ね」
翠「そ、そうですよッ!」

翠星石の頬がたちまち緋色に染まっていった。

ジ「開き直ったな?」
翠「えぇそうですとも」

そう言い放つや否や、その袋を僕に押しつけた。

翠「あ、あげるです!」
ジ「中身は?」
翠「水銀燈にでも聞きやがれ!です」
ジ「?」

だがしかし、僕には心当たりは無かった。
とりあえず、袋の中からそれを取り出した。

ヤングジ○ンプだった。

ジ「…」
翠「きゃっ…」

初めて目にするが、こっちも思わず頬が緩む…

翠「これ、これを読むですッ!」

翠星石が僕に一枚の紙切れを突き出した。
僕はそれを手にとり、読み上げた。


   翠星石にお願い

   退院間近のジュンに「ヤングジ○ンプ」でも買ってあげなさい
   コンビニにでも売ってるはずだから。
   きっと喜ぶと思うわぁ(はぁと) 
                        水銀燈

 
僕はハッとした。

ジ「あ…」
翠「この置き手紙の通りに買いに行ったんですよ!?」

女ひとりで買いに行ったお前は勇者だ。

翠「それがまさか、こんな表紙の雑誌を買うことになるなんて…」

そらそうだ。表紙に水着の子がデカデカと載ってるんだからな…。

翠「中二病の子ってこんなものが欲しくなるんですねっ!」

中二病?…水銀燈も同じ事言ってたな。
僕ってそれで入院したのかな──

翠星石の頬は燃え盛る炎のように赤く染まり、
口調がますますヒステリック気味になってきた。

翠「じゃあお前に聞くです」
ジ「おぅ…」
翠「お前は本当にコレが欲しかったんですか?」

何時に無く真剣なまなざしで僕を見つめる翠星石からは
いかにも苦労して買ってきたんだぞ!というオーラが感じ取れた。

ジ「…あ…」
翠「…」
ジ「…うん」
翠「──抗議してくるです」
ジ「え?」
翠「何か久々にしてやられたです!
  こういうのはジュン自身がこっそりと買うべきものです!」
ジ「そういう問題かよ」

バシッ!

ジ「痛っ…」

翠星石のビンタが飛んできた。

翠「普段から翠星石や水銀燈のバスタオル姿を見ても飽き足らず、
  いよいよ雑誌に手を伸ばすまでに至りましたか!」
ジ「…」

──正直、何とも言えないのだが、
そのあたり、翠星石は鋭く察してくる。

翠「まぁいいですよ。お前自身も“ヤング”に格上げですかッ!?」

そうして翠星石はツンツンしながら病室を出て行った。
僕はあまりにあっさりと終わってしまった面会に深く溜め息をついた。

ジ「これが日常か…」

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