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一二三七時。東ティモール。風、南東微風。波、穏やか。天気…
ズダダダダダ!
バン!バンバン!
ヒュ~…ドゴーン!!
…晴れ、時々弾丸。


ロケット弾が地面をえぐり、そこに飛び込んだ車が横転する。あわよくば1、2台玉突きに…とも思ったが、そう何度も同じ手は食わないようだ。
「あと四台ですわ!」
玉切れになったランチャーを放り投げて雪華綺晶が叫ぶ。
「重火器はあと何か残ってるのぉ!?」
「今のが最後かしら!」
「ああもう!いい加減起きてくださいばらしーちゃん!」
「はひほへふ~…」
「気をつけて!もうすぐカーブだよ!」
五人を乗せた車はガラスは全て砕け散り、フレームも穴だらけになりつつもなんとか荒れ地を疾走していた。もっとも、大破転倒していないのは蒼星石の腕前の賜物であったが。
「ちっ…仕方ないわねぇ…こんな場所で使いたくはなかったけどぉ…」
一撃をかまされた時こそ頭に血が上ったものの、状況の悪さと経験がそれを静めていた。そして今、彼女の手が腰のソレを握りしめ…
「仕事よ“メイメイ”!ローズ8、右から二台目いくわよぉ!」
ジャキン!
車のサンルーフからのり出した彼女の両手に握られていたもの、それはまるで漆黒の翼を連想させる拳銃であった。
スタタタタタタタ!
銃声と呼ぶにはあまりに軽い音。しかしそこから放たれた弾丸は防弾のフロントガラスに拳大の穴をこじ開けた。
「今!」
バシュッ!
水銀燈の掛け声より早く、雪華綺晶はオディールの外付けの煙幕弾をその穴へ放り込む。それが車内で破裂し、運転手の視界を奪ったところで、
「曲がるよ!皆捕まって!」
キキキキキキ!…ボッチャーン!
「随分綺麗に飛び込みましたわね。車から出られると良いのですが」
「ふふっ、せっかくだから海水浴でもしていきなさぁい」
怪訝顔の雪華綺晶をよそに、カーブに気付けず海へと飛び込んだ車にゴキゲンな視線を送る水銀燈であった。

「そんな余裕かましてるヒマないかしら!もう第一ポイントに着いちゃうわ!」
「あらま、それは大変ねぇ」
ここに襲撃があったのだ。これから行こうとしていた盗賊のアジトなどとっくに占拠されているに決まっている。そんな場所に飛び込んだらあっという間に穴開きチーズにされてしまうだろう。
スパン!バチンッ!
「くっ…ガラスもタイヤも私の弾では抜けませんか…。どうします!?このままで…は…」
指示を仰ごうと水銀燈の方へ振り返った時に雪華綺晶が見たもの。あれは狩人の目…獲物を前にした絶対強者の笑み…!
「あの…お姉様?まさか…」
「ふふっ、心配なら援護なさぁい。それじゃあ…」
手元の二丁拳銃に軽くキス。そして、
「飛ぶわよぉ!!」


『連中の車はポイントBを通過!』
車内の無線で本部に連絡してやる。
くそっ!こっちは10台近い連隊だってのに、今じゃ3台!ボスは適当に遊んどけと言っていたが、これじゃあ俺の腹の虫が収まらねぇ!こうなったらいっそ…
「おい、あの銀髪の女…まさか…」
「あ!?いいからお前は黙って運転して
ろ!」
まったく、どいつもこいつもだらし無ぇったら…
バン!
『はぁい♪』
「・・・は?」 


スタタタタタタタ!…バンッ!ギギァアア…
フロントガラスに“張り付いた”まま、左右の車のボンネットに向けて連射。その弾は正確にバッテリーを貫通し、エンストを起こさせた。
下を見ると、車内の二人が間抜け面でこちらを見上げていたのでとりあえず一言言ってやる。
「じゃ、M字ハゲによろしくぅ」
スタタタタタタタ!バカンッ!
今度は自分が張り付いている車に叩き込み、跳ね上がったボンネットを利用して再び空へと舞い上がり…
ストン。
「ただいまぁ♪」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「な、なによなによぉ!?褒めこそすれ、なんで皆そんな目で私を見るのよぉ!」
「…水銀燈。君、こんな稼業辞めてサーカスに入ってみたら?ブレイクできるよ、きっと」
「右に同じかしら」
「はぁ?今みたく火の輪に飛び込むってわけぇ?どうせ飛び込むなら弾膜の方がマシよぉ」
「だろうね」
皆が一息ついた頃、バックシートの一部がもぞもぞと動き出した。
「う…う~ん…あれ?この車随分通気が良くなったね…何かあったの?」
「ばらしーちゃんは気にしないで結構ですわ」
目立った損害は無し。とりあえずは切り抜けたようだ。それを確認してから蒼星石は近くの茂みに車を止めた。
「さて、これからどうするの?」
「そうねぇ…とりあえず、真紅達が気になるし…金糸雀、無線機でチームβに連絡してみて頂戴」
「多分…無駄かしら」
無線を掴んだまま金糸雀が重々しく答えた。
「悲観的に物事を見るんじゃないの。そんな簡単にくたばる賜じゃないのはあなたも知ってるでしょう?」
それでも金糸雀は暗い声で答えた。
「…無線機、チームβのもここにあるかしら」
「…は?」

整理整頓の基本。それは、“同じものは一カ所にまとめる”事。
「…ジュン君、頑張って整理したんだね…」
どこか遠い目をしながら蒼星石が呟いた。
「これがおわったら、“整頓”と“装備”の違いを教えないとダメねぇ…」
「かしら…」
ここぞとばかりに整頓に精を出したであろうジュンの姿を思いつつ、大きなため息をついた一同であった。



同時刻、サメ地区南部。チームβ。

「死ぬぅ!死んじゃう~!?」
「あー!やかましいですね!叫ぶ体力があるなら応戦しやがれです!」
「僕はこんな無茶苦茶な銃撃戦をするなんて聞いてないぞ!?ケサンに来た覚えもない!」
「ベトナムにしては…くっ…木々が多いのだわ!」
「知、る、か!早く安全な場所まで…!」
「ジュン、頭上げると危ないのよ」
「うひぁ!?」
今、僕達は車に乗り細い山道をよろよろと四苦八苦しながら移動していた。でも、こんな場所でスピードを出せるハズもなく、あっという間に歩兵らしき奴らに囲まれてしまっている。
真紅はなんとかまともに走れる道を捜しながら運転、翠星石と雛苺は周りの奴らにマシンガン等で応戦。そして僕は車の隅で縮こまっている。が、いきなり足元を弾が穴を空けたので仕方なしにシートの上で丸くなる。
「どうですか真紅!?抜けられそうですか!?」
翠星石が残り少ない弾倉(僕がチームαの方に多く詰め込んだせいだと物凄く怒られた)に焦りつつ叫んだ。
「難しいのだわ…下手すると…え!?」
ガサァッ…がくん!
「くっ…!」
「うわああああ!?」
茂みを抜けた先は、まさかの急斜面だった。


ガタガタガタガタ…
斜面を滑るように進みながら進んでいく。いや、落ちていく。
「くぅ…!この!ふん!」
言う事を聞かないハンドルに手こずりながらも、なんとか転倒だけは避けるように踏ん張る。
「くぅ!?舌噛みそーですぅ!」
「なら喋らないのよ!…真紅!あと少しで茂みに突っ込むのよ!」
ガサガサバキガサ…ばしゃーん!
「はぁ…はぁ…なんとか止まったわね…」
窓から抜け出た雛苺が状況を知らせる。
「前輪が川の沼地に埋もれちゃってるの。これはもう走れないのよ…」
ガサガサ…。何かが近づく物音。
「くっ…しつこい男は嫌われるのよ!雛苺!車に戻りなさい!」
音の方向へ拳銃を向ける真紅を翠星石が止めた。
「真紅…そんな銃じゃ足りねーですよ…」
「でももう銃器は…ああ、そうね。じゃあここは貴方に任せるのだわ。雛苺、チューブの先を川へ」
「はいなの~」
先程までの苦しい表情とは一変、いつもの“性悪”な笑みを浮かべてサンルーフから乗り出す翠星石。
「さぁお前等!散々翠星石達を追いかけ回したバツをくれてやるですぅ!“スィドリーム”!モード散弾!食らえですぅー!!!」
ダババババババババ!
如雨露型の“水式機関砲”から射出される圧縮された水弾が辺りに撒き散らされ、草木はもちろん岩すらも吹き飛ばしていく。流石にこれには手が出せないのか、向こうからの攻撃の様子は無い。
「ふぅ…流石、水辺の近くでの戦闘で彼女に敵う者はいないわね。では今のうちに私達は…あら?」
辺りを見渡す真紅。それに習う雛苺。そして、ある事に気付いた。
「ジュンは…何処?」
「…ここに居ないなら…きっと坂道を下る時に振り落とされたの…」
「ッ…!」
今は遥か頭上の崖を見上げて、真紅にしては珍しい悪態付きで苦々しく呟いた。
「あのバカ…!」
ドバババババババババ
「オラオラオラー!さっきまでの威勢はどうしたですかー!?とっとと尻尾巻いて逃げやがれですぅー!」



同時刻、中央サメ地区の森林の一角。

「警部!こっちです!」
「わっと!」
襲い掛かる銃弾に身を屈めながら凹地に飛び込む。
「・・・」
遅れて巴さんもやってきた。三人とも大きな怪我をしていないのは奇跡としか言いようがない。巴さんが居なければ私は初弾で祖父と祖母の顔を拝んでいただろう。
「まったく…!なんなんですか奴らは!?この国はあんな重装備ゲリラがうろついてるんですか!?」
「違うわね。この国の人間なら注目すべきは首都の演説。国の一大事に宝捜しする輩はよそ者だけよ」
淡々と私の歎きに近い問いに答える警部。む…少し取り乱していたようだ。こんな時こそ落ち着かなくてはいけないとこの人から学んだではないか。
「…それで、どうするんです?これじゃローザ・ミスティカどころじゃないですよ?」
「う~ん…出来れば一旦引きたいんだけど…」
チュイン!
「うひっ!」
耳を掠めた弾に慌てて身を小さくする。 こんな場所にいては命がいくつあっても足りやしない。
「巡査?どっちがマリアナ地区(西側のインドネシアとの国境沿い。盗賊のアジトとは逆の方角)だかわかる?」
「へ?コンパスは…」
「うん、落としちゃった」
いいタイミングで銃声が止むもんだから、なんとも言えない沈黙が流れる。
「ど…どうするですかー!それじゃ戦闘区域から出るどころかど真ん中に飛び込む事だって…!」
「む~、どうしたもんかね~」
太陽でも拝めるならまだ救いようがあっただろうが、残念ながら上を見ても草葉しか臨めなかった。
「まぁ、最初とは違って連中は私達を殺す気も無いみたいだし…とりあえず逃げ回るしかないかなぁ」
警部の言う通り、今では威嚇射撃のような雰囲気であった。そのせいか巴さんも刀を納めている。まあ、確かに…ここは連中の誘導に素直に乗っかるのが…
ミチ…
「…え?みち?」
ミチミチ…
「何の音?繊維が切れるような…」
ミチミチミチミチミチミチ…
「この足場、蔦で出来てます。…川の上に」
ブチン!!
「うひゃあああ!?」
「きゃああああ!?」
突然の足場の崩壊になす術なく落ちる二人と、
「…あ」
なんなく別の足場に跳び移った巴さん。
ザババババ…
みつ警部にしがみつかれながら水に流され、ああ…もう一度不死屋の大福が食べたかったなぁ…なんて思っていた私であった。

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