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薔薇乙女家族番外編 その七
~時計塔屋敷~

真っ直ぐで平坦な廊下が続く中、いくつもの扉が散らばっている。屋敷の見取り図を把握しているわけではないから、どれがどこに続くのかがさっぱり分からない。この期に及んでも相変わらず手探り状態である。
物陰から突然黒猫が飛び出してきたり、ネズミの大群が素通りしたり、ムカデが落ちてきたりと、肝を冷やされる。その都度に物音が響くから彼女達に見つからないかと不安になる。
闇雲に扉を開けていたらマネキンが並んだだけの部屋や、壊れた人形が真ん中に横たわっている散らかった子供部屋(ズダボロではあるが、ベッドにおもちゃがいっぱいあった)、埃だらけで使われた様子の無い寝室等に行き着いた。
そしてそれぞれの部屋でまたも災難に見舞われた。
マネキンが並んだ部屋では突然マネキンの首が落ちたり、倒れたりする程度で済んだが、あとの二部屋が大変だった。
子供部屋に入った時の事だ。中は長い間使われた様子が無いみたいだが、埃の積もる中で一つの光る物を見つけた。それは一言で簡潔に言うならば、狂気の光だった。
光り物の正体は人形の眼…洋風人形だ。こういう物が埃被っているとなおさら不気味に見えるのは何故だろうか。
そんな悠長な事を考えてたら、一つの嫌な話を思い出してしまった。
人形というのは、その名前の通り人を形作っている。物によっては愛玩動物を模している物もあるが、それらの形は魂が入り込みやすい形質なのだ。
少し昔の心霊特集で見たが、その番組ではある日本人形の髪の毛が年々伸び続けているという事を紹介していた。
人形の髪の毛が伸びるなんて!
タレントやゲストは大層驚いていたが、何も珍しい事ではない。人形は魂が宿りやすい物だから、そのくらいの事は普通に起こり得る。
僕の仕事場の知り合いに人形愛好家の女の子がいるのだが、彼女の保有する人形の髪の毛も少しずつ長くなっているとの事だった。何ヶ月か適当な頃合を見て、ハサミで毛先の手入れをしていると何時だかに話していた。
酔っ払いの席での話だったから特別頭に置いておく必要もないかと思っていたのだが、ここで思い出したという事は何かが起こる前兆ではないかと予感した。
だがその時にはもう既に遅かった。
「…扉が開かない…?!」
さっきまで開いてた扉が突然堅く閉ざされてしまい、ノブをいくら捻ってもビクともしない。完全に閉じ込められたと額に焦りの色が表れるのを感じた。

…♪……♪…♪………♪…♪
やがて、どこからか拙いピープ音が流れ始めた。
部屋を見回す。扉を背に視野を広げて死角を無くそうと試みる。
カタカタ…。
その物音に素早く反応し、神経を荒立たせる。さっきまで自分が手にとって調べていたあの人形だ。
…リとルジょん…ふろム…ズィ…キャァアアッスゥる……♪
不快な歌声が頭に直接響いてくる。耳を塞いでも全く意味が無い。
………………♪
何を歌っているのかが分からない。日本語ではないみたいだが…英語の歌か?
人形がふわりと浮き上がった。その周りに転がっている小道具もいくつか人形の周りに浮いて、その内の一つが右手に備わった。
キラリとそれを輝かせてニヤリと見つめてきた。
ナイフだ。ナイフの切っ先をこちらに向けてじりじり詰め寄ってきている。
「マジかよ…」
それを言い終えるか否か…。
「hehehehehehehehe!!」
人形が急加速して接近してきた。弾丸の様なそれを回避できる程の運動神経は僕には持ち合わせていない事を瞬く間に思い知らされる。
「!!…………っぐ…ぁ…」
ナイフを…突き立てられた。
腹部に痛みが走り、屈みこんでしまう。みぞおちの辺りをやられたらしい。手を刺された箇所に当てて、痛みを抑えようとする。
人形は浮いたままこちらを見下ろしている。床に崩れた僕を嘲笑っているみたいだ。追い討ちもトドメも刺そうとはしない。
ふと、違和感がある事に気づいた。
刺された割には…痛くない?
手が血に濡れていない。よく見たら刺されたはずの箇所には血の滲んでいる様子も見られない。
「hehehehe!hehehehe!」
人形がナイフをいじって…刃が柄の中に引っ込んでいる。ギミック・ナイフ(おもちゃのナイフ)だったのか。
人形はまんまと引っかかった僕を見て大笑いしてた。途端に猛烈に腹が立った。
「こいつ……!」
足を捕まえて、遠心力をつけて床に思い切り叩きつけてやった。頭がグシャ!と音を立てて木っ端微塵に散った。
…チャリン……。
頭が弾けた時、欠片に混じって何か光る物が跳ねた。鍵だ。人形の頭の中に隠されていたみたいだ。
どこの鍵だろうか。とにかく道が増えたのは良い事だ。ズボンのポケットに入れる。
うふふ…。

「?…今のは…」
うふふふ…こっちに…こっちに来てぇ…お父さまぁ♪
聞いた事ない声だ。水銀燈でも蒼星石でもない。
「誰だ?!どこにいる!」
しかし、いくら叫んでも声はもう聞こえなかった。
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子供部屋を後にし、その次に寝室にやってきた。そこはベッドに鏡くらいしかない寂しい部屋だから早々に立ち去ろうとしたところにまたあの声がした。
ふふふ…お父さま…。
自分の周囲に視線を回す。やはり人も影もない。
お父さま…お父さまぁ…早く来てぇ…。
声しかしない。一体誰がどこから話し掛けて…。
「!!」
視線がそれに釘付けになった。
鏡の中に女の子が映っている。彼女は鏡の中からこちらを眺めていた。
「ようやく見つけてくれたぁ♪」
「…誰だ?」
彼女はにんまりと笑って答えた。
「雪華綺晶。お父さまの娘…三つ子姉妹の三女…会いたかったぁ♪」
雪華綺晶…日記にその名前が書かれていた。彼女が雪華綺晶なのか。
これで悪魔の三つ子全員に出会えた…というわけか…。
「お父さま♪雪華綺晶は寂しかったよぉ」
グンッ!
「ぅああ!?」
突然鏡に引き寄せられた!?
ガダン!
鏡にぶつかる!
ガゴッ!
「うふふふ…お父さまぁ♪」
痛みは…無い?
目を開けると、鏡の中に頭だけ突っ込んだ形になっているのに気づいた。鏡の中は黒い空間になっていて、雪華綺晶が顔に手を添えてきた。
「愛しい愛しいお父さま。この日が来るのをどれだけ待ち望んでいたか…」
それだけ言うと、彼女が口付けをしてきた。
「お父さま…星の揺りかごへ…雪華綺晶はそこでお待ちしております」
星の揺りかご…?何の事だ。
「see you again☆」
雪華綺晶がウィンクした途端に視界が高速で回転した。鏡から弾き出されて床に突き転がされた。
おもむろに起き上がって鏡を覗いてみても、僕の顔が映り込んでいただけだった。一体何だったのだろうか…。
痛む腰を引きずってその寝室も後にした。
どうやら闇雲に部屋に入るのも危なさそうな感じだ。今はこの像を必要とする部屋に狙いを絞った方が良さそうだと思った。
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…ガチャン。
子供部屋にあった鍵が閉ざされた扉を開いた。
中には大きな祭壇、床には星を描いた魔方陣があった。
すかさず携帯を開く。書斎の壁画にあった儀式の様子からして、時を固着させた儀式はこの部屋で執り行われたのだろう。
携帯の時は十三時十分から全く動いていない。時間を凍らせた儀式がこの部屋で…。
小さな像を取り出して、祭壇にある小さな窪みに置いてみる。すると床にある魔方陣の真ん中が開いて空間ができた。梯子が闇の底にまで続いてる。
魔方陣は星を描いてる。
星の揺りかご…星の下に「揺りかご」が…?
どちらにしたって今更後には引けない。僕は意を決して闇へと身を投じた。

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