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   ~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~ 

     ♯.12 「 記憶 」 -stairway to heaven-
 
 
 
 
―※―※―※―※―

「薔薇水晶、ちょっと来てごらん 」
「お父様、これはなんです? 」
父から手渡された小さな小瓶を両手に持ち、小さな女の子はその両目をキラキラと輝かせた。

「これはね、お父さんと同じ名前の木から作ったお薬だよ 」
そう言う父は、薔薇水晶の頭を優しく撫でた。
「お父様、すごい!! 」
屈託の無い笑顔でそう言いながら、薔薇水晶は満面の笑みを浮かべた。


薔薇水晶は、母親を知らずに育った。
それでも、何も不満は無かった。
優しく、聡明で、とても大きな父。
彼の愛情を一身に受け、薔薇水晶は幸せに日々を送っていた。

父の仕事は次世代エネルギーの研究、らしい。
詳しい事は分からないし、それを聞く時間があれば、そんな事より父に甘えた。
『お前達の未来の世界を作る為の研究をしてるんだよ』
口癖のように聞かされたその言葉だけで、十分に満足できた。


父は仕事で遅くなる事が多く、その為、一緒に食事を取れる朝食が一日で一番好きな時間だった。

「お父様、今日は早く帰ってこれる? 」
朝食の時、薔薇水晶は決まってこう質問した。
「そうしたいけど、最近研究も大詰めでね… 」
父の答えに、薔薇水晶の顔が曇る。
その表情を見て、父は朝食を中断し、薔薇水晶の傍に寄る。
「だったら、こうしよう。
もうすぐ研究もひと段落するから… そうしたら、休みを取ろう。それも長めの休みを。
それで、二人で旅行でも行かないか? 」
「ほんと!? 」
薔薇水晶の顔が、途端に明るくなる。
「ああ、本当だとも。なんてたって、お前達の未来を作る研究だからな。
上手くいけば、うんっと長い休みがとれるぞ 」
髪を撫でながら、父の顔もほころんだ。

―――――

「どうです?先生 」
槐は装置を見つめる男に声をかけた。
「… 液状では、不安定すぎる… 何とか結晶にする事が出来れば、もっと効率的に行くのだが… 」
男が見つめる先には ―― 赤い液体が静かに揺らめいていた。

「グリセリンだって科学の前に結晶になったんですし、きっとできますよ 」
そう楽観的な声を上げながら、一人の女性が部屋に入ってきた。

「草笛君… そんな適当な事では… 」
槐は呆れ気味にそう呟いた。
そんなのお構い無しに、草笛みつは続ける。
「あら、だって、私がここに来てから1年程しか経ってませんけど、それでも、
理論の完成からここまでこぎ着けたじゃあないですか。きっといけますよ 」

槐は軽くため息をつき ―― それから装置の中の液体に目を移した。
「そうだね… あの子に明るい未来の世界を見せる為にも、何とかして… 」

―――――

「ねえ、お父様が『先生』って呼んでる人、どんな人なの? 」
薔薇水晶が朝食のテーブルでそう尋ねてきた。

薔薇水晶の朝は早い。
少しでも長く父と過ごす為に、自然とそうなった。
毎日の研究で夜も遅い。寝る間も惜しい生活。そう考えたらたまったものじゃあないが…  
槐にとって、楽しそうに動き回る薔薇水晶を見る事は、何をするより元気が湧く事であった。

「そうだね… 」
槐は朝食の手を止め、少し考えながら言う。
「すごい人だね。尊敬に値する人だよ。
巷じゃあ『現代の錬金術師』なんて言われてる、すごい科学者でね。
でも、いつか先生を超えてやる事が目標だよ 」
薔薇水晶は眠そうに両目をしぱしぱさせて、それでも父の話を熱心に聴いている。
その様子を見て槐は、優しい笑顔を浮かべた。
「そう言えば、先生にも薔薇水晶と同じ位の娘がいたはずだ… 
きっと仲良くなれるんじゃあないかな? 」

―――――

研究はそれから、難航した。
どんなに高い圧力を加えても、どんな温度変化でも、結晶にすることは出来なかった。

寡黙に何かを計算する師の後姿。背中合わせに装置とにらみ合う槐。

そんな光景が暫く続いた。

―――――

「お父様、今日は早く帰ってこれる? 」
薔薇水晶のいつもの問いかけに、槐は最近ずっと同じ答えしか返せないでいた。
「そうだな… 実験が上手くいけば、晩御飯までには帰ってこれるんだけど… 
どうも、なかなか上手くいかなくてね 」

愛する娘の期待に答えられないばかりでは無く、槐は最近目に見えてやつれてきてた。

薔薇水晶にとって、愛する父のそんな姿を見るのは、辛い事だった。
それでも ――
父と過ごす時間はやはり、何事にも変えがたい、幸せな時間だった。

何とか父を元気付けようと、知恵を絞る。

「そうだ! 私、お父様の大好きなシチューを作って待ってる! 
帰ってきたら一緒に食べよう?
遅くても今日は、頑張って起きてる! 」

思わぬ嬉しい申し出に、槐は内心、とても心が躍った。
「そうだね… それなら今日は頑張って、早く帰れるようにしないとな… 」

その答えに、薔薇水晶は、嬉しそうに満面の笑みで頷いた。

―――――

何度目の実験だろう。

研究所では、超低温状態で高圧を加える試みがなされていた。

赤い液体が湛えられているゲージを、窓越しに睨む槐とその師。

どうやら… この実験も大した成果を挙げられないかもしれない…
そんな考えが頭をよぎった瞬間 ―― 
研究所が揺れた。

「じ――地震!? 」
草笛みつが、悲鳴のような声を上げる。

装置にどこか、不具合が出たらしい。
部屋に響く警報を止める為、槐が操作パネルのキーを叩く。

彼の師は… 揺れる中、食い入るように赤い液体を見つめていた。

… 

何とか揺れも収まり、事故にも至らず済んだ。
安堵に息を漏らす声が聞こえる。
その時…
震える声で師が何かを呟くのを槐は聞いた。

「ついに… 完成した… ローザミスティカ… 」

聞こえるか聞こえないか程の、小さな呟きだった。
それでも槐と草笛みつは、その声をはっきり聞いた気がした。

見ると、先程まで超低温におかれていた液体が ―装置の停止で常温に戻り―
小さく音を立てて、結晶へと固まっている。

それらが全て終わり ――
装置の中には、拳ほどの赤い宝石が誕生した。

興奮に震える手で、師がそれを掴み取る。

科学の瞬間に立ち会った興奮か、槐の体も震える。

「先生! 僕にも見せてください ―― !! 」
そう言い、返事も聞かず、師の手から宝石を掴み上げ ―――


その瞬間、目も眩む程の閃光が周囲に広がった ――― 


―――――

「♪~♪~ 」
薔薇水晶は、足りない身長を補う為に小さな台の上に乗りながら、料理を作っていた。
少し味見をして、ついつい顔がにやける。
今日のシチューは大成功。父の帰りが待ち遠しい。
振り返って、時計を見る。
まだ夕方。
けど、お仕事が上手くいけば、早く帰ってこれると言っていた。
父の喜ぶ姿を想像しながら、薔薇水晶は再びシチューをかき混ぜた。

その時 ―― 玄関のチャイムが鳴った。

「 ♪ お父様! 」
嬉しそうにそう叫ぶと、玄関に向かって駆け出していった。

「お父様! 」
言いながら、勢いよく扉を開ける。

「… あなたは… だぁれ…? 」
そこには見知らぬ男が立っていた。

―――――

ローゼンと名乗った男は、丁寧に、話をした。

次世代エネルギーの研究。
思わぬ実験の成功。

そして ―――

実験中のトラブルにより、
父が死亡したと。

「槐君は… 大きな力と反応して、可能性の平行空間―nのフィールド― へと飛ばされたのだろう。
私達にはどうすることも出来ない… 残念だが… 」
「帰って! 」
男の言葉をさえぎり、薔薇水晶が小さく言い放つ。
「帰って 」
もう一度そう言うと、扉を勢いよく閉めた。

静寂が広がった。

父が死んだなんて… 信じられない。信じたくない。

そのままリビングに行き、うつ伏せになるように机に突っ伏した。



いつの間にか、眠っていたようだ。
朝日と鳥の囀りが聞こえる。
気が付けば、自室のベッドに転がっていた。

(きっとお父様が運んでくれたんだ! )
そう思い、勢いよく飛び起き、父の部屋に行く。

「お父様! 」
部屋の扉を開ける。

しかし…
そこには主をなくした部屋が、静寂と共に広がっているだけだった。

「お父…様…? 」
そんな… まさか…
「お父様が… 死んだ…? 」

途端に膝の力が抜ける。

倒れるようにその場に突っ伏し、薔薇水晶は泣き崩れた。

彼女の嗚咽以外、聞こえるものは何も無かった…。



自分の部屋に戻り、ベッドにうつ伏せになり、泣き続けた。

体が全て涙になったのではと思うほど、涙が流れ出た。



泣いて眠り、泣きながら起き、そして泣き続けた。
いつまでも…いつまでも、薔薇水晶は涙を流した。



喚くように泣いていたのが、いつしか静かに涙を流し続けるだけになった。

父と共に過ごした頃がまるで嘘のように、その顔からは表情が消えていた。



どれ位、そうしていただろう。
最早、日にちの感覚など無くなっていた。

どんなに悲しくても、お腹はすく。
こんなに悲しくても… 生きてる限りは訪れる空腹感に、薔薇水晶は一層の悲しみを覚えた。
情けなくさえ思えた。

このまま、泣きながら死んでしまおう。

そう思い、いつまでも泣き続けた。





どれ程、そうしていただろう。
どれだけの涙を流したのだろう。

不意に、何か良い匂いが漂ってきたことに気付いた。

その香りの誘惑より、薔薇水晶にとっては疑問の方が強かった。
(誰か…いるの…?)

止まらない涙を流しながら、階下へと足を運んだ。


その原因は、すぐに分かった。

リビングのテーブル一面に、フルコースかと思しき料理が、大量に置かれていた。

薔薇水晶には空腹感があったが… しかし、それより死の決意は強かった。

料理には手をつけず、辺りを見渡す。
「… 誰か… 居るの…? 」
薔薇水晶の声に答えるものは、無かった。

その時 ――
薔薇水晶は、誰かの笑い声を聞いた気がした。

「… … だぁれ…? 」
声の方に足を進める。

(ふふふ… )

キョロキョロしながら、声の主を探す。
声は徐々に近くなる。

(ふふふ… ふふふ… )

「… … そこにいるの…? 」
そう言いながら、扉を開ける。
そこには ―――

全身を映せるほど、大きな鏡が置いてあるだけだった。

「… … 誰か、居るの? 」
薄暗い部屋の中に、そう声をかける。

(ふふふ… )

不意に鏡の中の自分が笑った。

驚いて、自分の頬に手を当てる。
笑っていたのは… 他ならない、薔薇水晶自身であった。

呆然とする薔薇水晶を他所に、鏡の中の薔薇水晶が喋りだした。
(こんにちわ… ばらしーちゃん…。それとも、初めましてかしら? )

動いているのは、紛れも無く自分自身の口。
にもかかわらず、その声は見知らぬ女性のものであった。

声は続ける。
(私は、雪華綺晶。もう一人の、貴女自身…。
私は貴女で、貴女は私… )

鏡の中で、不意に彼女 ―いや、私…?― は薔薇の飾りを手にする。

(さあ… これで涙をお隠しなさい… )

いつの間にか、薔薇水晶の手にも薔薇飾りが握られていた。

そして ―――
導かれるまま、その飾りを左目につける。

すると ―――
とめどなく流れていた右目の涙だけが、スッと止まった。

鏡の中。左右逆に映り、右目に薔薇飾りをつけた自分が囁く。
(さあ… お父様の書斎に行きましょう… )
「… … 書斎に…? 」

父の書斎。
そこは、薔薇水晶にとっては不可侵の聖域であった。
父が薔薇水晶のすることを咎めるわけは無かったが…
薔薇水晶自身が、父の研究の足を引っ張る事を恐れ、そう決めたのだった。

(ええ… きっとそこには、お父様の研究についての事が残っている…
きっと… お父様を助ける方法が… 蘇らせる方法が、ありますわ… )

死者の蘇生。
かって、どれ程の人間がそれを望み、叶わぬ夢に絶望したきたことか…。

薔薇水晶の表情が、ピクリと動く。
それを見て、鏡の中の自分がニヤリと笑う。

(そうと決まれば、軽く食事をしていきません?
私、もうお腹ペコペコですの… )

「… … そんな時間は… 無い… 」
薔薇水晶は、その声を一蹴する。

鏡の自分は、一瞬残念そうな顔をしたが… 
(なら、『交代』していただけないかしら?
大急ぎで食べてしまいますわ… )
そう言うと、薔薇飾りをもう片方の目にそっと移し変えた。


―――――


「もったいない気もします… 」
残念そうに呟く草笛みつを無視して、ローゼンは…
ローザミスティカの結晶を砕いた。

そして、そこには小さな赤い宝石が7つ残るのみとなった。

ローゼンが言う。
「これだけの大きさになれば… 空間を歪める程の力は無いはずだ。
この破片は… 一つは君の研究に役立てたまえ 」
そう言うと、ローザミスティカの破片を1つ、草笛みつに渡した。

「スポンサーである手前… 結菱氏の所にも提出する必要があるな… 」
そう言い、2つを拾い上げ、ケースに仕舞う。

「私も… 未練がましいとは思うが、研究用に一つ貰って行くよ 」
そう言い、ポケットに宝石を1つ入れた。

「… あまり一箇所に集めるわけにもいかないし…
私の古い友人なんだが、その一族は代々、剣術と護身術の才がある…。
彼らにこれを見張ってもらおう 」
そう言い、2つを脇に寄せる。

「そして… 」
最後に残った一つを見る。
「… 槐君は… 遺骨も残さずに逝ってしまった…
せめて…遺品として、彼の娘に渡してやってくれ 」
そう言い、最後の1つを草笛みつに渡した。

「先生が、直接行かれては…? 」
草笛みつの言葉に、ローゼンは悲しそうに首を振った。
「私は… 彼女に嫌われてしまっている。
それに… 私にはその資格は無い 」

そして、草笛みつの目を正面から見据える。
「科学者には、生み出したものへの責任がある。
それを放棄した時、科学の倫理も崩壊する。
槐君の事は… 私のミスだ。私があの時止めていれば、こんな結果にはならなかった 」
そう言うと、静かに帽子をかぶった。

「私はここを去る事にしたよ 」


―――――


『素晴しいですわ… 』
雪華綺晶の声が聞こえる。
薔薇水晶は父の書斎に入ったものの…
そこにあるほとんどの意味が分からず、雪華綺晶に捜索を任せることにした。

「… … どういう事? 」
雪華綺晶の指示に従い、ノートをめくりながら、聞く。
『お父様は… 宇宙の全ての可能性を…
世界を創る事さえ可能な程の力の研究をなさっていたのですわ 』

―世界を創造する―
そんな事に、薔薇水晶は興味が無かった。
重要なのは、父が帰ってくるか。それだけだった。

そんな薔薇水晶の意図を汲んでか、雪華綺晶が続ける。
『これさえあれば、お父様を蘇らせる事も可能です。 ただ… 』

そう言い、手の中の赤い宝石を見つめる。

父の後輩と名乗る女性が、遺品だといって届けてくれた小石…。

『この大きさでは、少々、力が… 』

雪華綺晶の言葉に、薔薇水晶は肩を落とす。

そして何気なく窓の外に目をやる。

そこには …
いつだったか、父の死を告げに来た男と…
彼に手を引かれるツインテールの女の子が遥か遠くに見えた。

「… … お父様… 」
その光景に、薔薇水晶は無意識にそう呟いた。

すると ―――
雪華綺晶の声が聞こえた。
『あの子は… ばらしーちゃんがこんなに悲しんでるのに、平然と笑ってる…
あの子の父親が… ばらしーちゃんのお父様を奪ったというのに、ね… 』

そして囁くように言う。
『酷い子ねえ… ふふふ… 絶対に許されないのにね… ふふふ… 』

いつの間にか外を眺める薔薇水晶の目には …
激しい憎しみの炎が宿っていた。




―※―※―※―※―




薔薇水晶は、自分の手の中にあるローザミスティカを見つめる。
4つ…
そして、目の前に立つ真紅と翠星石を見る。
3つ…

ここに全てのローザミスティカが揃った。

薔薇水晶はそっと目を閉じる。
「 … … お父様… もうすぐです… 」

金色の目を見開き、真紅達に飛び掛る。

「早いッ! でもッ! 」
蒼星石が叫び、前に出る。
真紅も一拍置き、飛ぶ。

蒼星石が横に鋏をなぎ払う。
それを避けた瞬間の薔薇水晶目掛けて真紅が拳を飛ばす。

しかし …  
真紅の拳は、空しく宙を切っただけだった。

「以前より… 早くなってる!? 」
真紅が驚きの声を上げる。

「きゃぁ! 」
悲鳴に振り向くと、翠星石の足元で水晶の飛礫が床板を抉っていた。
「翠星石! 」
そう叫び、蒼星石と真紅が翠星石に駆け寄る。

身を寄せ合って互いを守る真紅達…。

ドン!と鈍い壁を蹴る音が洋館に響く。
その度に、薔薇水晶の速度は爆発的に上がり、今や一本の線のようにさえ見える。
動きを捉える事は、最早不可能な速さにまでなっている。

そして… その速度に乗せて、こちらに飛礫を飛ばしてくる。

「どうやら… 壁を蹴った反動で、どんどん加速してるみたいだね… 」
蒼星石が、四方から飛んでくる飛礫を叩き落しながら言う。

「ここは… 彼女のホームグラウンド、ってわけね…。
このままじゃあ… なぶり殺しにされてしまうのだわ…! 」
「何とかして、この屋敷から逃げるですぅ! 」
「でもどうやってぇ? …簡単には出してくれなさそうよぉ… 」

その時、金糸雀が一歩前に出た。

「海辺に強襲揚陸艇―ピチカート5― を呼んどいたかしら…。
そこまで皆、一旦逃げるかしら… 」

そして、強張った笑みを浮かべる。
「カナが… 時間稼ぎ位するかしら…! 」

「無茶よ! 金糸雀!! 」
真紅が叫ぶ。
しかし金糸雀は… 作り笑いを浮かべたまま答える。
「皆がいたら、出来ない戦い方があるかしら…。 
上手くすれば、見せ場は全部、カナが頂きかしら 」

真紅は金糸雀の顔を見る。
恐怖の表情は浮かんではいたが… 強い決意をその目の奥に感じた。

「… 一足先に向かってるのだわ 」
真紅はそう言うと、水銀燈の手を握った。
「チビカナ… 無理はするなですぅ… 」
翠星石もそう言うと、水銀燈につかまる。

「ピチカート!! 『失われし時へのレクイエム』起動!! 」
金糸雀がそう叫ぶと、彼女の傍らに浮いていた機械から、衝撃派のように何かが広がった。
薔薇水晶がガクンと地面に着地する。
「今かしら!! 」

金糸雀の合図と共に、水銀燈が翼を広げる。
そして… 真紅と翠星石を抱え、扉の上のステンドグラスを割りながら表に飛び出した。
蒼星石もそれに続く。


真紅達の居なくなった洋館。

金糸雀は、ゆっくりと起き上がる薔薇水晶を見ていた。
「前回の失敗から試行錯誤の末、超音波に指向性をつけたかしら…
その分、威力は落ちたけど… あなただけを、狙い撃ちかしらっ! 」

薔薇水晶は、ふらつきながらも金糸雀に言う。
「 … … あなたとは… 戦う理由が無い… そこを退きなさい… 」
「カナにはッ! 」
金糸雀が涙を浮かべながら叫ぶ。
「カナには有るかしら! あなたが来たからみっちゃんは…! 」

金糸雀の顔を見て、薔薇水晶は一瞬、少し悲しそうな顔をした。
しかし…
再び金色の瞳を向けると、駆け出し、壁を蹴り加速しだした。

指向性をつけたお陰で、自分は何とも無いが、狙いをつける必要がある。
しかし… 
薔薇水晶の速度は次第に、金糸雀の目では追いきれなくなってきた。

そして ―― 薔薇水晶がピチカートを破壊しようと迫った瞬間 ―――

「ピチカート! 限定 ― リミッター ― 解除かしらッ!! 」
金糸雀が叫んだ瞬間、見えない音の壁が全ての方向を襲った。

その威力は ―― 屋敷が震える程の衝撃を放つ。

そして…
金糸雀と薔薇水晶が、まるで巨人に叩き潰されたかのようにその場に倒れた。

「これが… カナの最後の おとっとき…かし…ら… 」
金糸雀はそう言うと… ニヤリと笑い ―― そのまま気を失った。

薔薇水晶も地面に倒れたまま… もう体を動かす事が出来ないで居た。
「 … … これは… きらきー… 」
辛うじて、そう呟く。
声が聞こえる。
(なあに? ばらしーちゃん? )
「 … … お願い… 」
(ふふ… わかりましたわ… )

突然、薔薇水晶の指先から、茨の形をしたワイヤーが伸び…
それはピチカートを絡め獲ると、そのまま壁に叩きつけて破壊した。



「 … … ありがとう… きらきー 」
(ふふふ… )
薔薇水晶は、二三度頭を振ると、割れたステンドグラスから飛び出し、追跡を開始した。



―――――


真紅と翠星石を抱え、高速で飛ぶ水銀燈と、その下にピタリと付いて走る蒼星石。

「どどどーするですか!? あんな奴、勝てっこないですぅ! 」
翠星石が、ジタバタと喚く。

蒼星石が走りながら、言う。
「金糸雀の言うように… 海に行こう。 僕に考えがある。
海だ…。 海を目指そう…! 」
 
 
 
 
 
 
                         ♯.12 END

 

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