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   ~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~ 

     ♯.11 「 雪華綺晶 」 -predator- 




「とりあえず、ゴタゴタが済むまではしゃーねーですから家に泊めてやるですぅ 」
翠星石の言葉に甘える形で、真紅と水銀燈は暫くの間、薔薇屋敷に世話になることにした。

そして、巴の下に帰ってきた雛苺の話から、雪華綺晶の居所が分かった。
海辺にある、子供達には『お化け屋敷』と呼ばれる、朽ちかけた大きな洋館だった。

「あいつは、ローザミスティカの借りがあるですぅ! 」
「そうだね。僕達の手で取り戻さないと 」
「二人だけじゃあ心配なのだわ。 私も行くわ 」
「あらぁ、真紅が行くのなら、私も行くわぁ。 止めたって無駄よぉ? 」
「真紅の話だと、雪華綺晶と薔薇水晶は必ず繋がってるかしら。
自分でも薔薇水晶に会ってどうしたいのかは分からないけど… カナも連れてって欲しいかしら 」

それぞれ、思惑は違えど、その決意は固かった。

「となると、問題はいつにするかね 」
真紅の言葉に、翠星石が答えた。
「ちんたらして、私の家まで壊されたらたまったもんじゃねぇですぅ。
早速、明日にでも乗り込むです! 」


そして、その夜…


「ねぇ真紅ぅ… 本当に付いて行っていいの?
私は… もう一人で歩く事も出来ないし… きっと足手まといになるだけよぉ… 」
いつになく沈んだ顔で水銀燈は言った。
「あら、いつになく殊勝な考えね。 でも、水銀燈… 」
真紅が優しく水銀燈の肩に手を回す。
「あなたの機転は、二度もこの私を救ってくれた。
それは、あなたにしか出来なかった事。 もっと自信を持つのだわ 」
いつになく優しい真紅に、つい顔がほころぶ。
「ありがとう、真紅 」
小さく、そう答えた。


―――――


今にも落ちて来そうな程、空は何所までも青い。

「いざ! 出入りですぅ~! 」
翠星石が、まるでマシンガンを持つかのように如雨露を肩にかける。
「姉さん… 出入りって… 」
蒼星石が苦笑いしながら大きな鋏を持つ。
「そうね。私達は無法の徒ではなく、正義があると信じて進むのだわ 」
真紅が拳を二、三度握り締める。
「さぁて… 」
水銀燈が車椅子から空を仰ぐ。
「出発かしら~! 」

誇りの為、
信頼に答える為、
そして、友の為 ――  

5人は海辺の洋館を目指した。


―――――


海辺に佇む一軒の古い洋館。
そこは人が住んでるとは思えない程、荒れ果てていた。
窓の大半は、ガラス割れているか、板が無造作に打ち付けられているだけだった。

町の音が、とても遠く聞こえる。
実際の距離以上に、先程までいた世界との距離を感じる。

真紅と蒼星石が身を屈め、偵察から戻って来た。

「窓から覗いた限りでは… 誰かは居るようだけど、人影は見当たらなかったよ 」
「こっちも同じなのだわ。 それに、侵入出来そうな所は全て板や鍵で閉じられているのだわ 」

どうしたものかと、5人で物陰に潜みながら互いの顔を見合う。
その時 ―― 
洋館の扉から、カチリという音がした。

真紅と蒼星石で、再び偵察に向かう。

真紅がドアノブに手をかける。
蒼星石が隣で油断なく鋏を構える。
扉がゆっくり開いた ――

暫くして、蒼星石から合図があり、全員が扉の前に集まった。

扉の先には ―― 薄暗く、陰鬱な空気が澱んでいる。
誰かが固唾を飲む音が聞こえる。

「とりあえず… 手分けして探すかしら? 」
「いや、時間はかかっても全員で動いた方が良い。 バラバラの時に襲われたら大変だからね 」
蒼星石が落ち着いた声で答える。
「そして… その場合、最も注意しなくちゃあならないのは罠の存在だ 」
「でも、相手は私達が来る事を知らなかった。 屋敷に罠を仕掛ける時間は無かったはずだわ 」
「雪華綺晶…彼女の存在を除いては、ね 」



真紅と蒼星石が先頭。翠星石がしんがりを勤め、注意深く洋館に侵入する。

どうやら、先程の扉は勝手口だったらしい。
暫く進むとそこは、キッチンだった。
外観からは想像できない程、そこだけは清潔に保たれていた。

キッチンの扉を開け、さらに進む。

すると ――

上部にステンドグラスの嵌め込まれた正面玄関。そのロビーホール。
二階へと続く大階段を背にして ――

雪華綺晶が立っていた。


真紅と蒼星石が、後ろの者を守るように立ちふさがり、構える。
翠星石がその横に並ぶ。
「オマエ! 盗んだローザミスティカを返しやがれです! 」

雪華綺晶は翠星石の問いかけに一切の興味が無いかなような表情を返し ――
そして、不意に笑った。

今まで見たことも無いような、まるで深淵に見つめられるかのような笑い。

それを見た瞬間 ――

全員の視界が不意に闇に包まれた。


―――――


「ここは…? 」
辺り一面に漂う、白一色の世界。
「さっきまで… 雪華綺晶が居たはずなのに… 」
突然の光景に、真紅は戸惑った。
ハッとして、辺りを窺う。
「蒼星石! 翠星石! 金糸雀! …水銀燈!? 」
しかしその声は、なんの反響も残さず、溶けるように消えていった。

「ここは… 」
再びそう呟いたとき、背後に足音が聞こえた。
(!!)
足音の主を振り返り、真紅の動きが止まる。

「お…父様…? 」

真紅の父はそのまま真紅に歩み寄り、その目の前で立ち止まった。

「真紅。 私の娘。 もう、諦めて帰ってきなさい 」
(これは…幻覚なのだわ… )
「そう。 たしかにこれは幻覚かもしれない。
しかし… 諦めるべきかもしれない、というのは、偽らざる本心だろ? 」
(何を… )
頭では理解していても、目の前の父の姿に真紅はただ立ち尽くしていた。

「お前は… 巴の時も… 薔薇水晶の時も…
勝てるはずだった。にもかかわらず、結果として敗北した 」
(お願い…止めて頂戴…! )
「心の弱さ… 迷い… 真紅、お前は弱い 」
(!!)

それまで、体術に関しては、真紅には大きな自信があった。
どんな大会に出ても、負けたことは無かった。

しかし … 
真剣勝負。命をかけたやりとり。
そんな中で、思うように体が動かない瞬間がある。
顔にこそ出さないが、それは真紅の中で焦燥感として燻っていた。

最も気にしていた事を言われ、真紅は ――
まるで人形のような硬い表情になる。

「無理をせず、私の下に帰ってきなさい 」
父はそう言い、真紅に手を差し延べる。

そして ――

真紅がその手にそっと、自分の手を重ねた。

「たとえ… 幻でも、お父様の姿を見て決心が付きました 」
真紅が重ねた手を離す。
その目に、先程までの怯えや迷いは無い。

「私は… もっと強くなりたい。 でも… それは、力だけの事ではありません。
迷いと見られようと、弱さとなろうと… たとえ、それで倒れる事になろうと… 
私は皆を大切にしたい… 私の周りの皆に、笑顔で居て欲しい。
   私は ――― 」


―――――


金糸雀が気が付くと、そこは ――
研究所だった。

「そんな… 研究所はあの時に… 」
状況が全く理解できない。
私は夢でも見ているのだろうか…。

その時、プシュと音を立て、扉が横にスライドした。
そしてそこに立っていたのは ――
懐かしい顔。
二度と会えないと思っていた顔。

何かを考えるより先に、弾かれるように、飛びついていた。

「み゛っち゛ゃん゛~ 」
涙で上手く喋れない。
それでも… 二度と放すまいとしがみつく。

「どうしたのカナ? 怖い夢でも見たの? 」
みっちゃんはそう言い、優しく撫でてくれる。

みっちゃんは、もういない。そう理解し、納得したつもりだったが…
それでも手を放す事が出来なかった。

「泣いててもカナは可愛いなぁ 」
みっちゃんが嬉しそうに目を細め、その手で髪を撫でてくれる。

みっちゃん。
時々、ほっぺを熱くて痛くしてくるけど、いっつも優しくしてくれた。
研究ばっかりで、少し肌は荒れていたけど、誰よりも魅力的に見えた。
予算分配なんて単語、知りそうに無い人だったけど、とっても賢かった。

もう会えないと思ってた、みっちゃん。

その腕の中で、金糸雀はいつまでも泣いていた。


どれ程の時間そうしていただろうか。

金糸雀の涙を拭き、みっちゃんが屈んで目線の高さを合わせて言った。
「ねえ、カナ。 ここで何もかも忘れて、皆の事も忘れて、また二人で研究しましょ? 」
そして金糸雀の頭をそっと撫でる。
「カナが居てくれたら、もう何も必要ないから… 」

金糸雀は、まだ目に残る涙を自分の手で拭う。

「みっちゃんのお申し出、とっても嬉しいかしら…
でも ―― 」
決意した筈なのに、涙があふれてくる。
「カナはみっちゃんに教えてもらったかしら。
大切な人を、大事にする事を。
   だから ――― 」


―――――


「 ―― 翠星石? どうしたんだい、急にボーっとして 」
気が付けば心配そうな表情で蒼星石が覗き込んできてた。
「はい?あれ? …蒼星石? 」
その声を聞き、蒼星石が顔をほころばせる。
「ちゃんと前見て歩かないと、また電柱にぶつかるよ? 」
「ななな何言ってやがるですか! 」
咄嗟に、そうごまかす。
(はて? 一体何が起こってるですか?)
二人で町を散歩しながら、そう考える。
すると、不意に視界に影がかかる。
何だろう。 そう思い見上げると ――
頭上のビルから、巨大な鉄骨が降って来る――!

慌てて横に飛び、何とかそれをかわす。

舞う砂埃の中 ―― 蒼星石の姿が無い。

(まさか!!)
そう思い、鉄骨を見下ろす ――

地面と鉄骨の間から、血が地面に広がる。

急に気分が悪くなる。
吐き気がする。
心臓が痙攣したかのように脈打つ。
声が出ない。
視界がぼやけるように、意識が遠のいた。



「 ―― 翠星石? どうしたんだい? 急にボーっとして 」
蒼星石が心配そうな顔で覗き込んでくる。
「そそそ蒼星石! 大丈夫ですか!? 」
そう叫び、蒼星石の頭を掴み、グルグルと見回す。
「痛い! 痛いよ姉さん 」
蒼星石は困惑顔で叫び声を上げる。

…とりあえず、なんとも無いようだ。
安堵に胸を撫で下ろす。

「全く… 翠星石は乱暴なんだから… もっと女の子として ―― 」
そう注意する蒼星石の背後に ――
肩越しに、猛スピードでこちらに突っ込んでくる車が見える。

「危ないです! 」
そう叫び、蒼星石の手を掴み、横に飛ぶ。

すんでの所で、避ける事ができた。
今度は、蒼星石も一緒に。
そう思い、地面に倒れたままの蒼星石を見る。
そこには ――
肩から先を車に千切れ飛ばされた蒼星石が横たわったいる。

(これは…夢です… )
気分が悪い。
(一体…何でこんな悪夢を…)
眩暈がする。



「翠星石? どうしたんだい? 急にボーっとして 」
そう言う蒼星石の顔にハッとする。
「ちゃんと前見て歩かないと ―― 」
「蒼星石! 」
翠星石の突然の叫びに、蒼星石は言葉を止める。

「これは夢です…。 そう分かってます。
それでも… 蒼星石が怪我したり… 死んでしまったりするのは… とても悲しいです 」
翠星石の言葉に、蒼星石がニコリと答える。
「だったら、君が僕を守ってよ 」
翠星石は泣きながら首をふる。
「本当は… ずっとここであなたを守ってやりたいです…
嘘だと分かっていても… 守ってやりたいです…
でも…
やっぱりここは、幻です…
私がここに居る間に、本物の真紅や水銀燈や金糸雀や…
何より、本物の蒼星石がピンチかもしれんです…
   私は ――― 」


―――――


辺り一面、鏡で覆われた世界に、蒼星石が立っていた。

「これは… 幻を見させられているのか…? 」
呟く。
「幻と分かれば… 怖がる事は無い 」
自分に言い聞かせるようにそう言い、歩き出す。

一面鏡で覆われた迷路のような世界。
迷わないように壁に手を当て、進む。

やがて、足音の反響から、広い所に出たのが分かった。
何か仕掛けて来るなら、ここだろう。
そう思い、中心とおぼしき所に進む。
注意深く、辺りを見渡す。
鏡に映った自分以外、何も見えない。

その時、鏡の中の自分がニヤリと笑った気がした。

「ありがち…だね… 」
そう呟き、鋏を構える。

鏡の中から、蒼星石がもう一人、鋏を携えて出てきた。

蒼星石は、鏡の中から出てきた自分自身を見て、不意に双子の姉妹の翠星石を思い出した。
それは ―― 目だ。
鏡に映った瞳は、翠星石のそれと同じ色だ。
鋏を強く握りなおす。
「彼女の為にも… 負けられないね… 」
呟き、走り出した。

蒼星石の振り下ろした鋏を、相手は開いた鋏で受ける。
そのまま力任せに弾き上げると同時に、斬りつけてくる。
鋏でそれを受け止め、そのまま横に薙ぐ。
だが相手も同じように鋏でそれを防ぐ。

二人同時に、一歩後ろに飛ぶ。

にらみ合う、二人の蒼星石。

蒼星石の頬に冷たい汗が一筋流れる。
(パワー、スピード、癖までしっかりコピーしてるみたいだね… でも… )
対峙する、鏡に映った自分を見る。
汗一つかいてない、落ち着いた表情だ。
(『心』があるのは、僕だけだ…! )
再び、同時に駆け出した。

鋏を開き、左右同時に攻める。
しかし、鏡の自分はそれを、同じように鋏を開き止める。
そして鋏を閉じると、顔目掛けて突きを放つ。
蒼星石の髪が数本、宙に舞う。
首を曲げ突きをかわした姿勢のまま、鋏を振り下ろす。
鏡に映った自分自身の服の端が千切れ飛ぶ。

風を切る音。金属同士の激しい衝突音。
鏡の世界に、それだけが響いた。

互いに決定打の出ないまま、時間だけが過ぎていった。

しばらくして …
蒼星石は肩で息をしながら、無表情に落ち着いた顔をする自分自身をみつめる。
(どうやら… 長期戦は不利みたいだね… )
相手は呼吸を乱すどころか、汗一つかいてない。
蒼星石は力を振り絞り、鋏を握りなおす。

全ての力を込め、ものすごい勢いで突進する。

そして蒼星石の放った渾身の一撃は ――
敵の鋏により、止められていた。

が、その力は思いのほか強く、鏡の蒼星石が、グラリとバランスを崩す。
しかし、同時に後ろに飛びのきながら、鋏を横に切り払った。

蒼星石の脇腹に、鋏がめり込む。
「くッ…! 」
ミシミシと嫌な音が聞こえる。

しかし蒼星石は、そのまま片手で脇腹に食い込んだ鋏を押さえつける。

「僕なら… あのタイミングで絶対に斬りつける…
そしてこの時が… 僕の鋏が止まる瞬間なんだ… 」
苦しそうに、それでもハッキリとした声で言う。
言うと同時に、残った片手で鋏を振り下ろした。

縦に両断された蒼星石の影は… そのまま光の粒になって消えてしまった。

その光景を見た後、蒼星石が膝をつき倒れる。

体を捩り、仰向けに寝転がり、脇腹を押さえる。
… 内臓は大丈夫そうだが… 骨にはヒビが入っているかもしれない。
それでも…窮地は脱した。
安心感からか、少し顔がほころぶ。


突然、足音がした。

慌てて身を起こし、その方向に視線を送る。

あまりの光景に、我が目を疑う。

一人、二人… 六人の蒼星石がそこには立っていた。

蒼星石は少し深呼吸をし… 意を決したように立ち上がる。

鏡に映った6人の自分を睨みつける。

「君達には負けられない…。僕は翠星石を… 皆を助けに行かなくちゃいけないんだ。
君達は… この蒼星石が、庭師の鋏でお相手しよう…!!
   僕は ――― 」


―――――


「真っ暗ねぇ… つまんなぁい… 」
体が溶けてしまいそうな程、黒一色の世界で、水銀燈が水に浮くように漂っていた。

やっぱり… 足は動かない。
とりあえず、流れに身を任せるようにそのまま漂い続けるしかなかった。

暫くの間、漂流するように過ごしていると…
何かが光りながら、こちらに近づいてきた。

「何かしらぁ? 」
ローザミスティカだった。

「何でこんな所に…? 」
呟き、手を伸ばす。
その指がローザミスティカに触れた瞬間、頭の中に声が響いた。

―残念ながら、今の医学では―
この声は… 覚えている。
私が一生歩けない事を伝えた医師の声だ。
他にも ―― 矢継ぎ早に様々な声が頭に響く。
―あなたが生まれたせいで、あの人とも離婚できないのよ―
―仕事で遠くに行く。…仕送りはするから、お前はここで好きに暮らしとけ―
両親の声も聞こえる。
色んな人間の声が頭の中にガンガンと反響する。
―死んじゃえばいいのに―
―この出来損ない!―
―クスクス…ねえ、あの子…―
―なんで生まれてきたの―
― ジャンク ―

「嫌ぁぁああ!! 」
叫びながら両手で耳をふさぐ。

ローザミスティカから手を放した瞬間、頭の中の声はピタリと止んだ。

それでも水銀燈は、身を小さくしながら震え続けた。

「なんなのよぉ… 皆して… 」
涙ながらにそう呟く。

不意に背中に温かい感触が触れる。
振り向くと ―― 
真紅が背中を優しく抱きしめてくれていた。

「大丈夫なのだわ…。 ローザミスティカに触らなければ、あの声は聞こえない 」
真紅が囁く。
「あんな石の事は忘れましょう… 私がずっと傍にいてあげるのだわ… 」
真紅が体重を預けてくる。

水銀燈はそっと真紅の手に自分の手を重ね ――
そして、そっと真紅の手をほどいた。

「ありがとう… 私達が始めて会った時の事、覚えてるぅ? 
ねぇ真紅ぅ… あれは勢いで言ったけど、我ながら良い言葉だと思うわぁ… 」
そう言い、再びローザミスティカに手を伸ばす。

「   私は ――― 」


―――――


「私は、自分自身を貫ける強さを持っていたいのだわ! 」

「カナは、皆に優しさを伝えていきたいかしら… 」

「私は、皆を守ってやりたいですぅ! 」

「僕は… 自分自身を乗り越える勇気を手に入れる! 」


「私は… 絶対に希望を失いたくないのよぉ! 」


その瞬間、それぞれを包んでいた異空間が、ガラスを割るように砕け散った ―― 


―――――


倒れるように眠る5人を前に、雪華綺晶がニヤリと笑った。
「偽りの… 悪夢の中で、その心はバラバラと… 粉々に… 砕け散りなさい… 」
そしてその笑顔に一層の狂気を宿らせながら一歩前に踏み出す ――

その時、真紅がゆっくりと起き上がった。

真紅だけではない。
5人全員が、静かに起き上がる。

予想外の光景に、雪華綺晶の表情が一瞬曇る。

5人が立ち上がり、雪華綺晶を睨みつける。

「人の心を弄ぶ… 私はあなたを許さない… 雪華綺晶! 」
真紅がそう言い放ち、一足飛びに前に出る。

「くッ!! 」
雪華綺晶は小さく呻くと、その手から茨のワイヤーを四方に広げた。

だが ―― 
そのワイヤーは目にも留まらぬ速さで、全て真紅の左手に掴み取られている。

そして ――
真紅は高速で雪華綺晶に詰め寄ると、そのまま握った右手で顔面を殴り飛ばした!

鈍い音が響き、雪華綺晶の体が宙を舞い ――
グシャっと音を立て、地面に落ちた。

勢いよく階段に吹き飛ばされ倒れた雪華綺晶に、真紅が声をかける。
「立ちなさい。
あなたへのお仕置きは、こんなものじゃあ済まされないのだわ… 」

そんな真紅の声を聞いてないかのような虚ろな瞳で、天井を見ながら雪華綺晶は立ち上がった。

空虚な眼差しを、ステンドグラスに移す。
「ごめんなさいね、ばらしーちゃん。失敗してしまいましたわ 」
うわ言のように、呟く。

「申し訳ありませんけど…『交代』して頂けるかしら? 」
そう言うと、目を閉じた。

おもむろに、右目の薔薇飾りを外す。

そして… 外した眼帯を左目につける。

薄いピンクだった髪の色が、徐々に薄紫色へと変わっていく。

ゆっくり目を開けると、金色の右目が鋭く輝いている。

その変化が全て終わった時、そこには …

薔薇水晶が立っていた。
 
 
 
 
 
                            ♯.11 END
 

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