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   ~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~

     ♯.7 「 金糸雀 」 -heart of gold-




 
(―君は、やはり研究を続けるのか ―)
白衣の男が立っている。

「はい。このまま無駄にしては、彼も浮かばれないと思いますし…。
それに、あれだけ小さく砕かれれば力もかなり弱まって安全な範囲でしょうし 」
答える私の声も、随分と若い。

(― … そうか ―)
男は白衣を脱ぎ、立ち去ろうとする。

「先生は… やはり、研究を辞めるおつもりですか… 」
その背中に声をかける。

(―私にとって… ローザミスティカの研究は…
成功させた事が、何よりの失敗だった。そう思う ―――― )


―――――


(昔の夢を見るのはいつ以来だろう …。)
気が付けば、いつの間にか研究所の机に突っ伏したまま寝ていた。

机のうえには、よだれで小さな水溜りが出来ている。
それを、着ている白衣の裾でゴシゴシとふき取る。
時計を確認する ― 8時20分。実験の予定時間までは、まだ余裕がある。

(とりあえず、顔を洗って… )
そう考えていると、プシューという音と共に部屋の扉がスライドした。

「みっちゃーん! ついに完成したかしらー! 」
ハイテンションな叫び声と共に、ブカブカの白衣を着た女の子が駆け込んできた。
「みっちゃん! ついにピチカートの新作が完成したかしら! 」

そう叫ぶ女の子の傍には、玉子のような形をした、鞠程の大きさの機械がフヨフヨ浮いている。

「飛び級でMITも卒業した、才女・金糸雀にかかれば、こんなものかしらー! 」

キラキラとした眼差しで見つめてくる。
(―あぁ… もう… かゎいーなぁ)
無意識の内に手が金糸雀に伸び ―

「あぁ! もう! カナは可愛いからぁぁぁああ!! 」
叫びながら金糸雀のほっぺに自分の頬をすり寄せる。

「むぎゅう!? み、みっちゃん、ほっぺが摩擦熱でまさちゅーせっちゅ!! 」
「あぁ! そうやってジタバタする姿もかわいいぃぃ!! 」



人心地つき、金糸雀のほっぺが真っ赤になった頃、金糸雀の持っていた機械に目を移す。

「へぇ… これが…。やっぱりカナはすごいわね 」
「カナにかかれば、こんなものかしら! 」
金糸雀は、鼻高々といった様子で胸を張った。

「本当に賢いし… 可愛いし… あぁ! 可愛いからぁぁああ!! 」
「みっちゃん!? お、落ち着くかしらぁぁぁ!? 」



金糸雀は、両方のほっぺを真っ赤にしながら、発作(?)の収まったみっちゃんに話しかけた。

「と、とりあえず… カナの研究は一段落したかしら。
午後からはみっちゃんの研究をお手伝いするかしら! 」

そう言い、部屋の隅 … 実質は部屋の半分近くを占めている装置を見る。

「ありがとう、カナ。私も頑張らなくっちゃね。
放射能も出さず、廃棄物も出さない、半永久エネルギー。
カナ達の未来の為にも、絶対に成功させないとね! 」
そう言いながら、みっちゃんは金糸雀の頭を優しく撫ぜる。

巨大な装置の中心では、赤い宝石が静かに輝いていた。


―――――


「入力値、クリアかしらっ! 」
「出力も安定… 装置にも異常なし…
ふぅ。どうやら上手く行きそうね。しばらく様子をみましょう 」
モニターに噛り付いていたみっちゃんは、そう言い椅子にストッと腰掛けた。

机の上のコーヒーを取り、すっかり冷めた黒い液体をすする。
「カナも疲れたでしょ。何か飲んで ― 」

その時、天井のスピーカーから突然、来客を告げる音が鳴った。

「誰かしら? 今日はお客さんは来ないはずだけど… 」
みっちゃんは、訝しげに首を傾けた。

「警備装置―ピチカート1―、映像を出すかしら」
金糸雀がそう言うと、モニターに玄関の様子が映し出される。

そこには… 左目に眼帯をした、薄紫色の髪をした少女が立っていた。

「このコは… 」
「みっちゃんの知り合いかしら? 」
そう言い、みっちゃんの顔を見ると、少し青ざめている。

モニターの少女は、カメラに気が付くと、そこに向かって手を伸ばした。
すると、少女の胸に下がったブローチが光り ―
次の瞬間、モニターは砂嵐を映すのみとなった。

大急ぎで状況を確認する。
「そんな… ロビーが吹き飛ばされてるかしら… 」

「薔薇水晶…? そんな… まさか… 」
青い顔をしたみっちゃんが、数歩後退る。

何がなんだか分からないが… みっちゃんの顔色を見るに、只事ではない。
「ピチカート1! 隔壁を封鎖するかしら! 」
警備装置に、そう指示を出す。

遠くで重い扉が閉まる音が聞こえた。

振り返り、立ち竦むみっちゃんを元気付ける。
「こんな時の為に、カナは色々と発明してきたかしら!
それのもう、隔壁を展開したから大丈夫かしら。 」

そう声をかけた瞬間、部屋が揺れ ― 警報が鳴り響いた。
振り返り、モニターをチェックする。

「そんな… 隔壁まで破られてるかしら!? 」

振り返ると、みっちゃんは部屋の中央で震えながら立ちすくんでいる。
金糸雀は、ゆっくりと唾を飲み込む。

「こんな時の為に… カナがいるかしら…!
ピチカート4! 行くかしら! 」

そう叫ぶと、浮遊する機械を連れて部屋から警報の響く廊下へと飛び出した。


―――――


廊下の中央で仁王立ちする。
数メートル先には、隔壁。
研究室に行く為には、必ずここを通らなくてはならない。
その地点で、待ち受ける。

鈍い音が何度も響き ― 目の前の隔壁が水晶の柱のような物で破られた。
眼帯の少女、薔薇水晶と対峙する。

「あなたは何者かしら! なんでこんな事をするのかしら! 」
招かれざる客人を指差し、金糸雀が叫ぶ。

金糸雀の問いかけに、薔薇水晶は無表情に答えた。
「 … … あなたは… 関係ない 」

そう言い、金糸雀に向かって足を進ませる。

「お引取り願うかしら…!
ピチカート4! 『沈黙のレクイエム』起動! 」

金糸雀がそう叫んだ瞬間、彼女の横に浮かんでいた機械から一陣の風が吹き ―

そして突然、薔薇水晶が地面に膝をつき… 力なくその場に倒れた。

その様子を見て、金糸雀は満足したように高笑いをする。
「ほーっほっほ! 才女・金糸雀の作った最新兵器かしらっ!? 」

勝ち誇った顔で、なおも笑い続ける。
「人間の可聴域外の音を大音量で流して、その衝撃で気を失わせる恐怖の攻撃かしら!!
まいったかしら?
ほーっほっほっほ ―――  ほぁあああ!? 」

気が付くと、薔薇水晶だけでなく、金糸雀自身も廊下に倒れこんでいた。

「ピ、ピチカート4、攻撃を中止かしら… 」
かろうじてそう伝える。

「カ… カナまで倒してしまうとは… なんとも恐ろしい兵器かしら… 」
ゆっくりと立ち上がる薔薇水晶と目が合う。

「 … … 」
「て… 」
「 … … 」
「転進かしら~!? 」

そう言い残し、脱兎の如く駆け出した。


―――――


廊下の中央で、仁王立ちに構える。
数メートル先の曲がり角を睨みつける。

そこから ― 薔薇水晶が姿を出した。

ビシッと指を刺し、金糸雀が叫ぶ。
「さっきは思わぬ不覚をとったかしら! 今度はそうはいかないかしら! 
逃げるなら、今のうちかしら! 」

そんな金糸雀を無視するかのように、薔薇水晶は歩きだす。

「ぅう~ … いい度胸かしら! もう手加減はしないかしら! 
ピチカート3! 『終わりなき砲撃(カノン)』起動! 」

金糸雀がそう叫ぶと、彼女の横に浮いていた球体にカシャンと小さな穴があき …
そこから、無数の弾丸が飛んできた。

無表情な顔の薔薇水晶に、一瞬驚きが見える。
だが、すぐに状況を把握し、今来た曲がり角に身を潜めた。

廊下の影に飛びのき身を屈めている薔薇水晶に声をかける。
「弾切れを待っても無駄かしら~。
この『終わりなき砲撃』は、空気を固めて撃ってるから、弾切れは起こさないかしら~。
今すぐ、回れ右して帰れば、見逃してあげるかしら~ 」

勝利を確信し、口の横に手を当て、これ見よがしに笑う。
「ほーっほっほっほ! ほーっほっほっほ! 」

そう高笑いしていると、突然、横の壁が派手な爆発を起こした。
そして … 舞う砂埃の中から、薔薇水晶が出てきた。

「そ… それは、『回れ右』じゃあなくて『回り道』かしら… 」

薔薇水晶の金色の瞳と目が合う。

「 … … 」
「て… 」
「 … … 」
「転進かしら~!? 」


―――――


一際激しい爆発音と、ガラガラと落ちてくる天井の破片。
そして、音の変わった警報で、みっちゃんは我を取り戻した。

「この音 ― まさか! 」
そう叫び、ローザミスティカの取り付けてある装置に駆け寄る。

モニターを覗き込むも、どこもかしこも真っ赤で目に痛い。

「そんな… こんな事って… 」

必死に状況を把握する為、キーボードを操作する。

その時、プシュという音と共にドアから金糸雀が駆け込んできた。
「みっちゃん… ごめんなさい。失敗しちゃったかしら…。 
ってこの警報は? 」

「今の衝撃で、装置が壊れたみたい。
ローザミスティカのエネルギーが異常な流れ方をしてる… 」
そう言うとみっちゃんは、装置のケースを開け、ローザミスティカを取り出した。

「そして… どうやら、流れ出たエネルギーが残留してどこかに残ってるようね。
このままじゃあ… 暴発しちゃう… 」
「そそそそんな!ははは早く脱出するかしら~! 」
思いがけぬ一言に、金糸雀は大慌てで答える。

「… ええ… そうね… 」
みっちゃんは沈んだ声で答えた。

2人で金糸雀の開発した脱出ポッドに向かう。
みっちゃんは、金糸雀にローザミスティカを手渡し、中に押し込む。
そしてポッドに乗らず、未だ外で何かの操作している。

脱出ポッドから身を乗り出し、金糸雀が叫ぶ。
「みっちゃん! 早く乗るかしら! 」

突然、みっちゃんが抱きついてくる。

「みっちゃん! そんな事してる場合じゃあないかしら! 」

だがそれは、いつものように激しく頬をすり寄せてくるものではなく… 
慈しむように抱きしめるものだった。

「みっ…ちゃん…? 」
いつもと違うその様子に、思考が止まる。

「ごめんね、カナ。 大人って、これで結構大変なのよ… 」
みっちゃんはそう言い、金糸雀の頬を優しく撫でる。

「装置に残ったエネルギーは、この町を吹き飛ばす程のものなの…。 
誰かが、無効化しなくっちゃ、ね 」
そう言い終えると、静かに手を離し ― 
ハッチを外から降ろした。

「みっ…ちゃん!? みっちゃん!! 嫌! カナも一緒に…ッ!! 」
涙が止まらない。
分厚い鉄の扉を、何度も打ち付ける。


「カナは優しいし… それに… やっぱりかわいいなぁ」

ハッチが完全に閉まる直前に見えたみっちゃんの顔は ―
泣きながら微笑んでいた ―


鈍い衝撃と共に、脱出ポッドが射出された。

その中には …
身を丸くし、泣きじゃくる金糸雀 … 。


―――――


警報が鳴り響く中キーボードを叩き続けていると、背後から足音がした。
振り返らずに声をかける。

「何をしに来たの? 薔薇水晶。 … 復讐? 」
「 … … 」
「心配しなくても、ここはもう… 」

みっちゃんがそう言うと同時に、膨張したエネルギーで天井が崩れだした。

「ここにはもう、何も無いし、誰も居ない… 貴女も早く脱出しなさい。
貴女のお父さんも… 貴女がここで死ぬのは望んでないと思う」

「 … … ありがとう… 」
その一言を小さく呟くと、足音はコツコツと遠ざかって言った。

警報の音。
天井の軋む音。
キーボードを叩く音。

装置がミシミシと嫌な音をたてる。

「ふぅ… やっぱり… 完全に無効化は出来ないみたいね…
どう頑張っても、ここは消し飛んじゃうかな… 」
呟き、椅子にもたれかかる。

「あーあ。 恋も美容も捨てて研究に打ち込んだ結果がこれかぁ… 」

そっと、目を瞑る。
金糸雀と過ごした日々を思い出し、知らずに微笑む。

警報が鳴り響いているにも関わらず、不思議と静かだと感じた。

「でも… カナに出会えたんだし、ね 」

警報の音と天井がいびつに歪む。

「あ… 今度の休み、カナの服見に行く約束だったっけ… 」



閃光が広がった ――。
 
 
 
 
 
                         ♯.7 END
 

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