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   ~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~

     ♯6. 「 巴 」 -chivalry-




真紅と2人、手を繋いで町外れに向かう。

「今度も、厄介なのがくるのかしらねぇ 」
水銀燈の問いかけに、真紅は余裕の表情で答える。
「いいえ、今回は大丈夫なのだわ。なにせ… えらく腕の立つ人物が持っているのだし 」

どれ位歩いただろう。真紅が立ち止まった。
「着いたのだわ。ここよ… 」

真紅に案内されたそこは… 古い外観の道場だった。
何か看板がかかっているが、随分な年代物だ。
そこに書いてある文字は、流暢すぎて解読できない。
真紅が大きな扉を叩く音が静寂の中に響く。
しばらく待つも ― 何の返事も返ってこなかった。

「おかしいのだわ… 今日訪ねる事は知らせてあるのだけど… 」
嫌な予感がする…。
そう思い、互いに見つめる。

そして… 門に手をかけると、それはあっけなく開いた。

「鍵も開いているし… どういう事かしら…
私から離れないで、水銀燈 」
真紅が握る手に、少し力が入る。

言われたとおり、真紅の手をギュッと握り返し、庭に入る。
美しく手入れされた純和風の庭園だが… どこか物寂しさが漂っている。
綺麗に保たれているのだが、人の気配があまり感じられない。

コーン、コーンという音だけが響き、それが逆に周囲の静けさを強調する。

「真紅… あれ… 」
水銀燈が囁き、指差す。
「… ええ」

静かに水銀燈が指差した方向には … 
道場の格子戸の隙間から、ロウソクの火が揺れているのがちらりと見える。
足音を殺しながら、静かに道場に近づく。
そして、そっとドアを開け、中を覗き込む。
道場の中心に、袴姿の少女が座っていた。

「巴! 返事が無いから心配したのだわ! 一体 ― 」
驚きの声を上げ、真紅が駆け寄ろうとした時 … 
「来ないで! 」
駆け寄ろうとした真紅は、その一言で立ち止まる。

「とも…え…? 」

戸惑う真紅を真っ直ぐ見据えたまま、巴は静かに立ち上がった。

「雛苺が… さらわれたの…。
私が預かっている2つのローザミスティカ、そして真紅…
貴女のローザミスティカを持って来ることが開放の条件と言われたわ…」
小さく、消え入りそうな声で巴が語りだす。

「そんな…! 」
真紅の表情が一気に青ざめる。

「… 私にとって雛苺はとても大切な存在だし… どんなに考えても、これしか方法は見つからなかった」
そう言うと巴は腰に下げていた刀を抜き、下段に構えた。

「そんな! 巴! 本気なの!? 」
「冗談で… あなたに剣を向けられないわ 」
「でも! 他に… 他にも雛苺を助ける方法だって! 」

真紅の問いかけに、巴は袴の襟を少しずらし、肩を見せた。
そこには― 痛々しく巻かれた包帯と、うっすらと血の跡が滲んでいた。

「私には… 無理だった…。だから… 私と戦って! 」
そう叫ぶと、刀を上段に構えなおし、真紅に向かって走り出した。

咄嗟に水銀燈の手を離し、身構える。
巴の刀が振り下ろされ ― 紙一重で横に飛び避けるが、髪の毛が数本、パラパラと斬られ散った。

真紅は距離をあけ、少し切り取られた髪を手に取った。
「レディーの髪の毛に何てことしてくれるの、全く… 」

そして巴の方に振り返る。
「やるしか…ないの… 」

「ごめんなさい… 」
そう言う巴の目には、それでも、迷いの無い強い光が宿っていた。

そして … 真紅は静かに拳を固め、半身に構える。
その真紅を見て、巴も刀を中段に構えなおす。

「… ありがとう 」
「礼には及ばないのだわ。雛苺とローザミスティカ…。お互い、大切なものの為に戦いましょう 」
ほんの短いやり取りの後は、水を打ったような静寂が再び広がった。


少しの距離をあけ、無言でにらみ合う。
空気すら動きを止めたかのような静けさが周囲を支配する。
鹿威しの乾いた音が響く。
同時に2人は動いた。


巴が袈裟切りに刀を振り下ろす。
真紅は横に飛びそれを避ける。
巴目掛けて真紅が拳を飛ばす。
巴は体を捻り上腕で受け止め、そのまま横一文字に刀を振るう。
真紅がしゃがんでそれを受け流し、そのままの姿勢で水面蹴りを放つ。
巴はジャンプして蹴りをかわす。そして上空から刀を振り下ろす。
体を半回転させて避けた真紅は、その回転の勢いで裏拳を放つ。
刀の柄でそれを受ける巴。そして、そのまま下から上方へ刀を斬り上げる。
真紅は後ろに飛び、それを避ける。



再び距離が開き、再び静寂が戻ってきた。

「やっぱり… 強いわね 」
「あなたこそ、かなりの腕なのだわ。それ程の腕なのに、どうして… 」
「言ったでしょう。私にとって雛苺は何より大切な存在なの 」
微妙に会話は成立してない。
そして… 会話でどうにか出来る次元ではすでになかった。


「負けるわけには…いかない」
そう言うと巴は ― 刀を鞘にしまい、低く構えた。

「… それは…お互い様なのだわ… 」
真紅も拳を握りなおし、静かに構える。


静寂の中、コーンという音だけが聞こえる。
息をするのも躊躇うような緊張感が漂う。
 コーン。
真紅と巴は、じりじりと距離を詰める。
 コーン。
2人の動きが止まり、空気までもが、止まる。
 コーン。
まるでそれが合図であるかのように、同時に動いた。

巴の指が刀を掴み、真紅の拳が動き ―
そして、激しい衝突音が響いた。


一瞬の交差の後、巴が静かに口を開いた。
「リーチの長さ… 剣と素手…
そんな圧倒的不利をものともしない程の格闘センス… 」

真紅の体がグラリと揺れる。

「でも… 最後の最後… 貴女には迷いがあった… 」

真紅が倒れる音だけが、静けさの中に響く。


「真紅ぅぅうう!! 」
水銀燈が叫びながら倒れている真紅に這い寄る。

「大丈夫、死んではいない…。峰打ちだから… 」
消え入りそうな小さな声で、巴が水銀燈を諭す。

声を無視して、真紅を揺する。しかし…
完全に気を失っているのか、うめき声一つ漏らさない。

「真紅ぅぅ… 」
軽いパニック状態に陥りそうな予感が体を駆け巡る。
泣きながら真紅に覆いかぶさっていた。

すると ―
真紅の胸のブローチが赤く輝きだした。

「これは… ローザミスティカ…? 」

ブローチを握り締める。
真紅を中継して流れ込んでくるのとは比較にならない、大きな力が湧いてくるのを感じる。

「ごめんなさいねぇ、真紅。少し借りるわぁ… 」
そう言い、真紅の髪を撫で、立ち上がる。
「その石を渡しなさい。… 貴女じゃあ私には勝てない」

そう言ってきた巴の目を静かに見つめる。

「あなたも真紅も、大切な何かの為に戦った…
だから… 私だけ逃げるわけにはいかないのよぉ」

手にしたブローチを強く握り締める。
体中の血が沸騰し、爆発してしまいそうな程の力が湧いてくる。
その感覚に、思わず身を丸くする。
それでも抑え切れない程の奔流が体内を駆け巡り ―
それは体を突き破り、翼のような形で背中に生えてきた。

「… そう」

水銀燈の姿に驚きもせず、巴は静かに刀を抜き、静かに構えた。

(さっきの真紅との戦いを見る限りでは、とんでもない相手みたいねぇ…
派手に啖呵切っちゃったけど、どうしようかしらぁ…)
威嚇がてら、不敵な笑みを浮かべてはみるものの… 名案はそう簡単に浮かんでこない。

考えをまとめるより先に、巴が一足飛びに切りかかってきた。

「きゃっ! 」
突然の事に、思わず首をすぼめる。

すると― 翼から無数の羽が弾丸のように飛び出した。

「くッ!? 」
喉の奥で小さなうめき声を発し、巴の突進が止まる。

一瞬躊躇したものの、それでも巴は羽根を全て刀で打ち払う。
そして、勢いそのままに水銀燈に切りかかった。

水銀燈の頭上に、鈍く光る刃が振り下ろされる…。

しかし ― その刃は水銀燈を捕らえる直前にピタリと止まった。

刃の先には水銀燈の手と ― そこに握られたローザミスティカ。

「切れないわよねぇ…? だってこれは私たちにとって、とぉっても大事な物ですもの。
そして… 」
ニヤリと笑うと、水銀燈は翼の先をスッと巴に向けた。
「この距離で避けられるかしらぁ? 」

巴はゆっくり目を瞑り ―
静かに刀を鞘に収め、低く構える。

「試してみる… 価値はある… 」
小さく巴が呟いた。


沈黙。

そして ―

羽根と刀が交差した。


―――――


「 ―んくぅ … ねぇってばぁ … 真紅ぅ!」

水銀燈の声で我に帰る。
首を横に向けると、涙目の水銀燈と ― 肩を押さえて壁に寄りかかる巴が見えた。

「すい…ぎんとう…? 」
ハッキリしない意識でそう声をかける。

ぼんやりと答えると、水銀燈が乱暴に自分の目をゴシゴシ擦ってた。

「もう… お寝坊さんなんだからぁ…。全く、いつまで寝てるのよぅ」
少し目を腫らしながら悪態をついてくる。
「あら… 心配してくれたの? 」
意識はまだ泥のように重いが、精一杯微笑んでみせる。

「ば…! 誰が心配なんてするもんですか!このおばかさぁん! 」
散々悪態をつく水銀燈に苦笑いしながら、上半身を起こし、巴の方を見る。

「ローザミスティカは… そこの神棚の奥に一つと… もう一つは雛苺が持ってるわ… 
私はもう動けない… だから… 今更こんな事言えた義理じゃあないかもしれないけど… 」
痛みに顔を少し歪ませながら、巴が真紅を見つめる。

その言葉に、真紅はうなずく。
「ええ。雛苺もローザミスティカも、必ず私が取り返してみせるのだわ」

それを聞き巴は、少しやつれた顔をしながらも、安心したように微笑んでみせた。


―――――


「今回はあなたが居なかったら危なかったのだわ…
事情が事情だけに、あげる事は出来ないけど… これはあなたが暫く持ってなさい」

真紅にそう言われ、手渡された神棚の奥のローザミスティカ …
それを握りながら、水銀燈は背中の翼でパタパタと嬉しそうに海岸を飛んでいた。

「ふふふ… 空を飛ぶのって、とぉってもたのしいわねぇ」
そう言い、少し遅れて歩く真紅を振り返る。

「全く… こんな所を他人に見られたら、鳥と間違えられてハンターに撃たれてしまうのだわ」
はしゃいでいる水銀燈を横目でチラチラ見ながら、真紅は呆れたように言う。

「鳥とは失礼じゃなぁい… 天使さん、って言ってよぉ」
「そんな真っ黒い羽の天使なんか居るわけないのだわ」
「なぁに? 羨ましいのぉ? ふふふ… 」
水銀燈は、楽しそうに真紅の周りをパタパタと回る。

「とにかく… 目立たないように、もっと低く飛ぶのだわ」
「はぁい 」

(まったく…。 でも、こんなに喜んでくれると、こっちもうれしいのだわ… )
どんどん高く飛んでいく水銀燈を、真紅は微笑ましげに眺めた。

だが暫くすると、水銀燈はパタパタと真紅の方に舞い戻ってきた。

「ねぇ、真紅ぅ。向こうにおっきな玉子が転がってるんだけど… 」
「玉子? 」

水銀燈の指差す方向に2人で歩いていくと …
そこには人間ほどの大きさの玉子のようなものが浜辺に打ち上げられていた。

「本当に… 大きな玉子なのだわ… 」
「でしょぉ? …コレ、食べれられるのかしらぁ?」
「さあ、どうかしら。あんまり美味しそうじゃあないけど… 」
「クジラの卵かしらねぇ…? 」
「 … クジラは卵を産まないのだわ」
「 … し、新種かもぉ… 」
視線を泳がせながら、水銀燈がポリポリと頬を掻く。

遠巻きに観察しながら、玉子の周囲をグルグル回る。

「ダチョウ… にしては、大き過ぎるわねぇ」
「もし鳥なら、翼もあることですし、きっとあなたを母親と勘違いするのだわ 」
ニヤリと水銀燈の背中に生えた羽を見る。
「嫌よぉ… 父親もわからない、未婚の母なんてぇ… 」
水銀燈は羽を小さくして、モジモジした。


すると突然、ガシャンという機械的な音と共に玉子から煙が噴出し ―
玉子の上部がゆっくり持ち上がった。

その音に驚き、2人して顔を見合わせる。
そして、その中を恐る恐る覗きこむと ―

「これは… 食べられなさそうねぇ… 」
水銀燈が、小さく呟く。
(あなた… 本当に食べる気だったの!?)
真紅は出かかった言葉を何とか飲み込む。

玉子… ではなく、何か機械的な球体の中には …
白衣を着た、一人の女の子が身を丸くして眠っていた。
 
 
 
 
                          ♯.6 END
 

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