※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

  



   ~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~

     ♯2.「 真紅 」 -crimson blow-




「さ、遠慮せずにぃ。上がっちゃってよぉ」 

そう言い、家まで送ってくれた真紅を玄関に上げる。 
お邪魔します、という真紅の礼儀正しい声が響く。

「ふふふ…ここは私一人で住んでるから、気を使わなくても大丈夫よぉ」
「え…ご家族は? 」
「仕事でみぃんな、海外に行っちゃったから」

そして自分の足を―動かない足を一瞥した。

「こんな娘と離れられて、あいつらもせいせいしたでしょうし… 」

(とんでもないコンプレックスの持ち主なのだわ。ついつい付いて来てしまったけど…)
重くなりそうな空気を止める為、真紅は無理やり会話を続ける。

「でも一人で暮らすのも、大変でしょうに… 」
「そうでもないわよぉ。1週間に一度、食材や必要な物を配達してくれるサービスもあるし。
それに私、料理はこれでも結構得意なの。何かご馳走するわよぉ? 」

そう言い、屈託無く笑う。
(でも、悪い人間じゃあなさそうね)
その笑顔を見て、真紅もつられて笑う。

「そうね…紅茶を頂けるかしら? 」
「ちょっと待っててぇ 」

暫くして、水銀燈がティーポットとカップをカチャカチャ鳴らしながらテーブルに来た。
紅茶の良い香りが漂う。
(足が不自由で大変でしょうに… )
そんな事を考えながら、その姿を眺めた。

「はい、どうぞ。誰かにお茶出すなんて無かったから、緊張しちゃったわぁ 」

勧められるまま、紅茶を一口飲む。
葉も市販の一般的なもので、水も普通の水道水の味だったが、不思議な温かさのある味だった。
―おいしい。―
真紅は素直にそう言い、柔らかく微笑んだ。

「ところで、真紅は何をしにこの町にきたの? 」
一息つき、水銀燈が聞いてくる。
「ええ…お父様に…お使いを頼まれて来たのだわ」
「ふぅん… 」

(お使い、ねぇ…)
そう思うが、それより気になる事がある。
テーブルに肘をつき、猫なで声で質問をする。

「ところでぇ…一体どんな魔法を使って私の足を動かしたのぉ? 」

一瞬、真紅の視線が泳ぐ。
しかし…観念したかのように、ポケットから小さな赤い宝石を取り出した。

「この石には…不思議な力があるらしく…おそらく、そのせいなのだわ…。
そして… 」 

真紅は赤い宝石を水銀燈の指先に当てた。
赤い宝石が静かに光だし―
よく見ようと顔を近づけようとすると、真紅は宝石を手元に仕舞ってしまった。

「この石は、持ち主を選ぶのだわ…。
きっと…私を中継して、その力があなたに流れ込んだせいなのだわ」
「じゃあ、私がその石を持てば… 」
「ええ…でも… 」

そう言うと真紅は、赤い石を両手で包むように持った。

「これはお父様から預かったものだし…それに、常に肌身は離さず持っているように言われているの。
あの公園の男も…これを狙って来たと言っていたのだわ。
水銀燈…あなたには悪いのだけど… 」
「なるほどねぇ… 」

―譲ってもらうわけにもいかないようだし、どうしようかしら。
そう考えた時、あるアイディアを思いつき…
つい、顔がにやけてしまう。

「ということは… 」

そう言い、真紅の手を掴む。
すると―
公園の時と同じように、自分の足で立つ事ができた。

「ということは…歩きたい時は、真紅と手を繋げばいい、ってことよねぇ」
「え…? 」
「やっぱり、私たち友達になりましょうよぉ?
素敵じゃなぁい?友達と手を繋いで散歩とかするのも」

真紅は…一瞬ビックリした表情をして、その後小さくため息をつき…
それでも―最後には微笑みながら答えた。 

「やれやれだわ…やけに物分りの良いと思ったら…どこまでも強引な子ね…
よろしく、水銀燈― 」


「そうと決まれば、連絡先の一つもおしえてくれなぁい? 」
ティースプーンをカチャカチャと指先で弄びながら、水銀燈が尋ねた。
真紅は少し困った顔をして ― 
「実は… そうしたいのだけど、急いできたから宿もまだ… 」

そんな真紅の表情とは対照的に、水銀燈は身を乗り出し、嬉しそうに言う。
「だったらぁ、ここに泊まってかなぁい? 今なら三食付で、とぉってもオトクよぉ? 」

子供のようにキラキラ輝かせたその目を見て、真紅は…
ため息と共に、少し微笑んだ。

 
―――――


『この部屋を使ってくれてかまわないわぁ。
ふふ…それとも、寂しかったら一緒に私の部屋にするぅ? 』

そう嬉しそうに笑いながら水銀燈に案内された部屋の中で、真紅は手紙を読んでいた。
父から託された手紙。
それを読み終え、ベッドに少し寝転がる。
そして―意を決したように起き上がり―部屋を出た。
向かった先は―水銀燈の部屋。
ドアの前で息をすっと吸い込み、静かにノックをする。

「なぁに? 」

可愛らしい声で返事が返ってくる。
ドアは開けず、壁越しに要件を伝える。

「その…明日、昔の知り合いに会うのだけど…も、もし明日暇ならで良いのだけど…
その…一緒に来ても…構わないのだわ…」
「…寂しいのぉ? 」

部屋から、嬉しそうにクスクス笑う声と返事が返ってくる。
一気に顔が赤くなる。

「そ! そんなこと! 寂しくなんてないのだわ! 」
「へそ曲げないで。冗談よぉ。 そうね…ご一緒させていただけるかしらぁ? 」
「さ、最初からそう言えばいいのだわ」

気が付けば耳まで真っ赤になっている。
―ドアを開けなくて良かった。
そう思いながら、部屋に戻ろうとした時、声をかけられた。

「ねぇ、真紅」
「何かしら? 」
「おやすみなさぁい」
「ええ…おやすみなさい」

いつの間にか微笑んでいる自分に気が付く。
どうも私は、この子に弱いようだ…。

暫く、ドアを眺めた後― 
うるさくならないよう、静かに自分の部屋に戻った。




                              ♯.2 END
 

|