※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

薔薇乙女家族番外編 序章
~時計塔屋敷~
※本編とは一切繋がりはありません。

大陸よりぽつんと独立した島国、日本。
日本は四季の風が巡る国で、春には桜が咲き誇り、夏は花々が輝いて、秋には紅葉で彩られ、冬には空から白の結晶が舞い下りる、そんな平和な国。
しかし、普段が平和であるせいかその裏に隠された闇の因子にはなかなか気付く事ができない、どこか危機意識のない国でもある。
物語は、この日本のとある家族のもとに、彼女がやって来る所から始まる。
…桜田。
表札にはそう書いてある。それを確かめると私は全身に鳥肌が立ってきた。嗚呼、ついにこの時が来たのだと胸に感激を噛み締める。ようやく大好きな人の所に着いた。
震える指でインターホンを鳴らす。中からパタパタと駆け足して来るのが分かる。
「はい…」
やがて、玄関が開かれて愛しいあの人が顔を見せた。あの時から何も変わってないあの人の顔…懐かしさに涙が出そうになった。
「…水銀燈!?」
「覚えていただいてた様で、光栄だわぁ、ジュン君♪」
私の顔を見て驚いているジュンを両手で抱きしめた。幸せな温もりを直に感じて、私は幸せの絶頂に浸る。
だが、そこに私の見たくないものが出てきた。彼の後ろからこっそりと顔を覗かせている小さな娘だ。私は彼に訊いた。 

彼は答えた。あっさりと、少し照れ笑いしながら紹介してくれた。彼女は娘の翠星石というそうだ。
そしたら他の娘達もやってきた。金糸雀、真紅、雛苺…どの子もみんな「私の知らない人間」との愛の結晶らしい。私はいきなり打ちのめされた。
勿論、ジュンは女の子に好かれる事が多い人だから、もしかしたらと思ってはいたが、現実はなかなか残酷なものである。
私はそれを悟られぬ様、笑顔で包み隠す。
話をしていくと、奥さんは少し前に亡くなったという事が分かった。好都合だ。私はにやりと心で笑う。事故だか病気だかは忘れたがどうでも良い。邪魔者がいないというのが重要なのだ。
彼に、今度私の家にみんなで遊びに来ないかと誘った。時期は所謂冬季長期休暇で、私がこの時に訪問したのもこれが狙いだった。
彼は娘達をぐるりと見回して、意見を訊く。異議なしの答えに彼も快く了解してくれた。
…まずはこれで良し。私と彼は日程を決めて後は適当に茶をいただいてお暇することにした。
帰り道、私は壊れた人形の様な笑顔を浮かべていたのをカーブミラーで見た。まだ喜ぶのは早い。これからが大切なのだ。
頭の中で図面を引いて各所の点検をする。抜かりは無いはずだ。準備はできている。
「うふふ…約束の日が楽しみだわぁ♪」
口の端を釣り上げて、一人ほくそ笑む。
その笑顔を知る者はいない。
-----

約束の日。僕達は水銀燈の案内で彼女の自宅へとお邪魔した。まさか水銀燈がこんな立派なお屋敷に住んでいたとは思わなかった。娘達が両手を振り回して喜んで、水銀燈はそれを見て微笑む。
しかし…と、僕は辺りを見回す。ここは山中を深く入った所。木々が生い茂っている様は青々としている…というよりも、毒々しい緑だ。屋敷自体も結構古い事もあって、本音を言ってしまえば不気味な雰囲気を醸し出している。
不気味と言えば、この屋敷には天を突かんばかりの大時計を掲げている時計塔がある。だが聞く事によるとその大時計はずいぶん前に何らかの原因で壊れてしまい、完全に活動を停止してしまったとの事だ。
この屋敷の象徴とも言える物は十一時五十九分を指したまま凍りついている。それは時計ではなく、屋敷が死んだ時間だと思うのは僕の気のせいなんだろうか。
何だろう、さっきから背筋が冷えて仕方がない。ここらは日当たりが悪い上に、天気が曇りだからだろうか。
くしゃみを一つ、顔をひしゃげると水銀燈が中へと進めてくれた。
屋敷の扉は悪魔の口…地獄の一日が始まった。

|