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「ただいま~…」
両手に大量の荷物、顔に重度の疲労を携えて安ホテルに戻る。
「あらジュン、随分遅かったのね」
そんな僕の様子など梅雨にも気にせず、涼しい顔で雑誌を読んでいらっしゃる我が主。
「ああジュン、帰ったですか。ちゃんと新聞と新刊雑誌は買えたですか?」
「なんとかな…てか、いきなりポルトガル語喋れって無理があるだろ!?」
「あら、ティトゥン語は嫌だと言ったのは貴方よ?」
「当たり前だ!何だよその舌噛みそうな名前の言語は!?何の呪文だよ!?」
ここ、東ティモールに着いたのは昨日の朝方。こちらの空港に着くやいなや、いきなり流暢なポルトガル語を披露しやがった三人に目を丸くし、『ジュン、貴方ポルトガル語も話せないの?』と呆れた真紅に一般人とはどういうモノかを語るハメになった。
それでも一日かけていくばくかの会話表現を覚え、早速買い出しへとパシられる僕だった。通貨が米ドルだったのが唯一の救いだよ、まったく。

「ふう…とりあえず情勢は予想通りと言ったところね…」
ペラペラと僕にはちんぷんかんぷんの新聞を読み、一人納得する真紅。
「まぁ、政府認可の情報がどこまで信用出来るかは微妙ですけどねー」
雑誌を流し読みしてソファーにねっころがる翠星石。
「でも金糸雀達からの連絡と大きく矛盾する所はないのよ。ただインドネシアからのエネルギー供給の推移が…」
ノートパソコンの前でそね外見に似合わない専門用語を連発する雛苺。
そして僕はと言えば、部屋の隅で買ってきたバナナをかじっているだけだ。まぁ外交政治云々は僕は門外漢。だけどこうしてボーっとしてればいずれ…
「…ジュン、暇なら紅茶を湧れて頂戴」
「はいはい」
さぁ来たぞ。予想通りの催促だ。そしてここからが、僕の戦場になるのだ…


「警部~まだなんですか~?」
「情けないぞ巡査!私がお前くらいの歳にはだな…!」
「説教するならこっち向いたらどうです?」
「ぐ…うわーん!巴ちゃーん!巡査がイジメル~!!」ぎゅ~
「・・・」ガクガク
国境を出てはや3時間。目的地の町を目指して歩いていたハズだったのだが…
「わっ!見て見て巴ちゃん!でっかいトカゲ!」
「…カメレオンだと思います」
なぜか秘境探検に変わっていた今日この頃。皆様はいかがお過しですか?こちらは帰り道すら解らぬ遭難状態です。激しく不安です。
「だから私は地元の人に聞けばよいと…」
「も~ロマンの無い男だね~君は。地図を頼りに目的地を目指すのが外国旅行の醍醐味なのよ?」
「この世の何処に“世界地図”片手に旅をする人がいますか!!」
「あー、あー、聞こえな~い。巡査?過ぎた事をねちねち掘り返すのは良くないぞ~?ねー、巴ちゃん?」
「・・・」コクリ
「…はぁ」
事の発端は、学生時代にかじったポルトガル語を使いたくてたまらない警部が地元の雑貨屋で地図を買った事にさかのぽる。私の反対も聞かず、意気揚々と店員に“地図が欲しい”と言ったところ、見事オセアニア全域を網羅した地図を手に入れたわけだ。
インドネシアの国境を越え、徒歩30分程の町を目指そうとして地図を開くと…文字通り米粒サイズの東ティモールがお目見えしたのだった。

「んん~?随分太いウナギがいるぞ~?」
ジャングルに…鰻?
「って!!!それアナコン…」
ズパァアアン!…どす~ん。
私が言い終わる前に、巴さんがその大蛇を見事切り倒していた。
「お手柄よ巴ちゃん!ちょうどお腹も空いたし、コレお昼にしましょう。火おこせる?」
「了解です」
何処からともなく『火おこしキット』を取り出して火点けにかかる巴さんと、大蛇を三枚に下ろしていくみつ警察。何と言うか…満喫してますね…
そして何かが激しく間違っている気がしつつも、黙ってお皿を用意する私だった。 



「だから違うと言っているでしょう!?」
「だから何が違うんだよ!?」

今まで何百回と繰り返した不毛なやりとり。やれやれ…どうやら今回も我が姫君はお気に召さなかったらしい。
「これでも十分美味しいのよ」
「真紅も粘るですねぇ…」
そう、この二人が言うように僕の紅茶スキル(?)ははっきり言ってプロレベルにまで達しつつあるのに…
初めの頃はそれは大変だった。なぜかこの娘は僕が神懸かった紅茶を湧れられるものだと固く信じていたらしく、僕が『ティーパックでしか飲んだ事がない』と言うと異常なまでに落ち込んでしまった。
あんまりにも惨めなので、僕がつい『頑張って練習するよ』などと口を滑らせたのが運の尽きで、それからというもの地獄のレッスンが開始されたのだった。まぁその甲斐もあって、我ながらなかなかイケる紅茶を出せるまでになったのだが…
「いいこと?味や香りの話しでは無いの。飲んだ後に残るインスピレーションやその先にあるモノの話しなのよ」
…と、アマデウス・真紅はおっしゃるのです。たいした芸術家であらせられるのは解ったから、
「一体、僕はどうすればいいのか説明してくれ」
「だからそう…もっと紳士的で…気高くて…クールだけれど…内に熱いものを秘める…」
…果たしてコレが紅茶の説明だと解る人間が何人いるだろうか?もし解るヤツがいたらここに来い。変わってやるから。
「そう…だから…くんくん…そうよ!くんくんのような紅茶を湧れるのだわ!!」
「・・・」
僕は生まれて初めて女性を本気で叩きたいと思った事をここに記しておく。

いっそドッグフードでも混ぜてやろうかと思案しといると、雛苺と一緒にパソコンを見ていた翠星石が呆れたように言ってきた。
「コラそこの二人。紅茶芸術の話しは終わりにして、仕事するですよ仕事」
「何かあったの?」
ふぅ、ようやく真紅もビジネスモードに入ってくれたようだ。
「金糸雀達からの通達なの。『明日の昼には入国できるから、この座標ポイントまで拾いに来てかしら』なの」
「ここは…サメ地区の南海岸ね。ではこの近くに宿をとっておきましょう。ジュン、移動の準備を」
「あいよ」
僕は手際よく荷物をまとめていく。やっぱり僕はドンパチよりこういった雑務の方が向いているな。乱雑なものがすっきり収納されていく様は見てて悪くない。
「…向こうに着いたら、時間の許す限り特訓するわよ」
「…あいよ」
ま、これもタスクの一つだと諦めるべきか。行き掛けに真紅達が軽い聞き込みを済ませ、僕たちは首都を後にした。


一方その頃。

「きゃー!湖よ!よっしゃ~泳ぎましょう巴ちゃん!」バッ!
「お供します」バッ!
「服の下に水着って…ていうか二人とも!あの魚影が見えないんですか!?」
「ん?ああ、粋のいい魚ねー。それが?」
「ピラニアですよ!!…て、巴さん!銛なんて何処にしまってたんですか!?」
シュパン!
「ピラニア…とったどー」
「わっ!巴ちゃんすご~い!食べよ食べよ~♪」
「あ、なんかもう…どうでもいいです…」


「ベジ兄貴」
「ん、どうした?」
「検問の監視カメラに、それらしき人物が確認されたとの事です」
「…そうか。だがヤツらも大会前には動けまい。部下達は予定通りに配置につかせろ」
「はっ」
面倒だな、と思うと同時に体の一部が熱くなるのを感じる。それはまた、久しく感じていなかったモノで…
「ふん、俺もまだまだ錆ついちゃいないようだな。くくく…」
慣れた手つきで腰のホルダーからリボルバーを引き抜き、激鉄を起こした。 



それぞれが自分達の思惑通りに事をすすめ、迎えた大統領演説当日の朝。

一○五五時、ローゼン陣営逃走セーフハウス。

「よっと…」
ドサッ。頼まれていた荷物を整頓して二台の車に載せる。乗る人数も多いのできちんと整頓しなければ入らないのだ。
「あらぁ、キレイにできたじゃないの」
着替えをすませた水銀燈がやってきた。彼女が着ているのはあの船で見たタイトな防護スーツ。正直、目のやり場に困る(真紅の時は全く平気だった)。
「まぁ、こーゆーところで役に立たないとな。…でもこんな装備必要あるのか?随分な量だけど」
「ん~、まぁ使わないに超した事はないけれどねぇ。どうにも“匂う”のよ…」
いわゆる、玄人のカンというヤツか。まぁ僕には熱帯気候特有のじめじめした匂いしかしないんだけどね。
「水銀燈、皆準備出来たのだわ」
「首都の方も予定通りだよ」
「そう…それじゃあチームα、チームβそれぞれ乗車!機材チェックを済ませて待機!そして厳戒令発令と同時に出発よ!」
水銀燈の良く通る声が響き、僕等は車に乗り込んだ。


「ありがとうございましたー!」
「あの、ホントご迷惑を…」
「いやいや、構わないさ。お礼なんだから。じゃあ元気でな」
いやはや、旅は道連れ世は情けとは良く言ったものだ。たまたま夕飯狙いに巴さんが獣を仕留めたところ、人が襲われている最中だったらしく命の恩人になってしまった。
礼をさせてくれと言うので泊まる場所を探していると話すと、是非うちに来てくれと進められ夕飯までいただいてしまった(ちなみに、先程の獣は硬くて食用には向かないとの由)。
「詳しい地図や盗賊の隠れ家なんかも教えていただきましたし、帰りにお礼をしたいものですね」
どうやら僕達は、さ迷い歩いているうちに計らずも目的地近くに来ていたようだ。お世話になったあの家があった場所が中央サメ地区のやや南に位置していたので、東に向かって探索すればアジトをまわる事が出来そうだ。
「まったくよね。にしても今回は巴ちゃん大活躍よね~。帰ったら何か奢って…」
バッ!
みつ警部が言いかけたところで巴さんが左手を伸ばし『止まれ』と指示する。そして右手は、腰の刀に添えられていた。
「ッ・・・!」
私達の気が一気に引き締まる。観光気分で来てはいたが、きちんと武器は携帯していた。ここは日本ではない。治安もお世辞にも良くはなく、何が起きるか解らないのだから。
沈黙が流れた。始めはローゼンメイデンか?とも思ったが、違う。彼女達なら我々を見たら避けるハズだ。だが、今我々を囲んでいる(私には気付けないが)者達は私達を“観察”しているのだ。
「警部…私の後ろに…」
巴さんと二人でみつ警部を挟むように立つ。そして、私が懐に手を入れた瞬間…

スパーンッ!!


ザー、
『報告、南東海岸でローゼンメイデンと思われる二台の車両を発見。追跡を開始します』
簡易指令室にこもった声が響く。無線での部下からの交信だ。彼女達が動き始めたか…ふむ、そのコースで行くといきなりココで鉢合わせちまうな。
「…よし、挨拶代わりに遊んでやれ。ただし殺すなよ」
『了解』
簡単に指示を出して無線を切る。さて、と…俺も準備をしておくか…
「ベジ兄貴、エリア13で不信人物三名を発見したと。武器を所持している模様」
「エリア13?」
うろ覚えの番号を地図で確認する。俺達の作戦エリアのすぐ傍だった。この辺りは監視を配置していたハズだが…一体どうやってここまで近付いたんだ?
「…ローゼンメイデンじゃないんだな?」
「はい。男1、女2。徒歩でいたところを見ると、現地の盗賊か何かかと」
「面倒だな…とりあえず威嚇でもしてお引きとり願え。抵抗するようなら、まぁ…場所が場所だしな。三人まとめて冥土に送って差し上げろ」
「…了解」 



一二一九時、サメ地区南東海岸部。

「あじ~…」
さっき貰った今回のローザミスティカのレプリカをいじくりまわす。冷たくて心地良かったソレもすっかり生暖かくなってしまった。
「ダレてねーでソイツをしっかり頭に叩き込むですよ!それが終わったらしっかり探せです!」
「探せっつってもなぁ…」
双眼鏡を覗いてもただ木々が映るのみ。車もスピードを出しているのでサッパリだ。
「まぁ、まだ金糸雀の読んだポイントからは離れているけれど、その付近に着いたらゆっくり走らせるから真剣に探すのよ?」
運転席に座る真紅が前を向いたまま言ってきた。僕等は助手席に雛苺が乗って真紅のサポート、僕と翠星石が後部座席で左右後方の探索というスタイルである。ちなみにチームαの運転手は蒼星石で、今は右側(海岸側)に並走している。
「ですよ。だから今はこの地形に目を慣らすくらいの事しやがれですぅ」
「ん~、了解~…ん?」
ぼーっと双眼鏡を覗いていた僕だったが、レンズに何か黒いものが見えた気がした。
「(気のせいか…?いや、あれは…)真紅、車だ!黒い車がいる!」
「車ですってぇ!?」
真紅よりも早く隣の車のサンルーフから水銀燈が乗り出して叫んだ。
「何処にいるの!?」
「いや、今は曲がり道で見えなくなってるけど…直線に出れば見えるハズだ!」
翠星石も僕の横に並んで双眼鏡を構える。
「この辺で通るのは軽トラくらいのもんですからね…ジュンの目がガラス玉じゃなければ…」
ろくに舗装されていない悪路に揺られながらも必死にレンズを覗く。そして道が直線になり遠くまで見えるようになった時、先程は微かに見えた車が今度は車種まで解るくらいに接近して現れた。黒いベンツだ。…いや、まて、それよりも…!
「ア、RPG(ロケット弾)ッ!?」
「真紅!」
「蒼星石ぃ!」
「ッ!!!」バッ!
僕が叫ぶのと翠星石、水銀燈がドライバーに警告するの、二人が回避行動に移るのと狙撃手が撃って来るのがほぼ同時だった。
シュルルル…ドカーンッ!!!!
着弾したのはちょうど二台の間辺りだった。真紅は左にハンドルを切り、車と海岸に挟まれている蒼星石はアクセルを踏み込むしかなかった。しかし狙いが思ったよりも手前だった事でチームαは無事に回避出来たのだが、
ガタガタガタガタ
「だぁあああああ!?」
「くっ…!?」
チームβ、僕等の方はルートを外れ、鬱蒼と木々生い茂る未開の山道へと飛び込んでしまった。


「みんな!無事!?」
蒼星石の叫び声に各々が答える。
「どうにかへばりついてるわぁ…」
「私も平気ですわ!でもばらしーちゃんがノビてます!!」
「キュ~…」
「おでこ打ったかしらー!!」
爆発時、1番近い位置にいた薔薇水晶が爆音と衝撃で軽い脳震盪を起こしていた。
「それで!?どうしますか!?」
「真紅達はとりあえず置いておくとして、まずはあのおバカさん達を何とかする方が先ねぇ…」
「どんどん増えてるかしらー!?」
金糸雀が叫ぶ通り、道を外れた真紅達は追わずに次々と視界に現れてこちらを追跡している。十台近くいるだろう。
「ヤッちゃってもいいんだけどぉ…どうせ他もいるだろうし、下手に連中の神経を刺激するのは得策ではないわねぇ…」
他の三人に比べて随分と落ち着いて話す水銀燈。だが、これは彼女が冷静だからではなく…
「でもぉ…“おいた”の事叱ってあげないとねぇ…死なない程度に骨の2、30本でも砕いてジャンクにしてやるわぁ…」
「水銀燈…かなりキてるね…」
「かしら」
「ローズ8ぉ…おバカさん達をまずは同じ目に合わせてやりなさぁい!!死なない程度に臓物ぶちまけてやるわぁ!!!」
「…了解ですわ」
そんな無茶な…とは思いつつも、女性が持つにはあまりにごっついソレを構える雪華綺晶だった。 

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