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「ジュン?
  復帰して、初めてのデュエルのあなたには悪いけどぉ──」


水銀燈と僕の視線が、交錯し、かすめ。 衝突する。
お互いを、敵として認める。
お互いのライフを奪い合い、陥れんとし、滅ぼしあう。
そう。 いつの時も。 いかなる場合でも。 デュエルとは。


「私は勝つわッッ!」


そういうものなのだ。


薔薇乙女が遊戯王するえすえす。
#2.降臨のF・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)


──はいそうですかと、むざむざ敗北する気など、僕には毛程もない。
水銀燈の、研ぎ澄まされたナイフのような瞳を、威圧するように睥睨しながらも、
 僕の胸中では、闘志が。 鋭気が。
  ──決闘者-デュエリスト-としての冷静さが、静かに、軋むように覚醒していた。


「水銀燈。 悪いがその言葉──」


デッキトップに舐めるように掌を這わせ、手札を──5枚のカードを掠め取るようにドローする。
丁度5枚のカードを視認した僕は、自らの感覚が今尚衰えていないことを確認し、ほくそ笑んだ。


「そっくりそのまま返すぞ」


──虚勢か? 虚勢だ。
しかし、虚勢であって虚勢ではない。
その手に剣を持ったとき、人は昂り、兵となる。
そう。デュエリストにとって、ドローしたカードは、剣に他ならない。
それは僕とて同じ事。 恐らく、水銀燈も。
僕の旨に勘付いた水銀燈が、鼻で笑いながら、返した掌を僕の方へと差し出した。


「ふふふ。 良いカードだったのねぇ? 先行、どうぞぉ?」


──凍りつかせてやる。



「ドロー」


何を引いたとして、僕のこのターンの行動は決まっていた。
恐ろしいまでの引き。 思わず我が目を疑う程のものだったのだ。 僕の初手は。


「まずは、手札の“X-ヘッド・キャノン”を召喚だ」


<X-ヘッド・キャノン
★★★★・光・機械族・ATK1800/DEF1500>


「X-ヘッド・キャノン……? ジュン、まさかあなた──」
「まぁ見てなって」


唖然とする水銀燈を制し、僕は更に続ける。


「魔法カード“おろかな埋葬”を発動だ」


<おろかな埋葬
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。>


──僕は、手札をテーブルに伏せ、はやる気持ちを抑えながらも、焦らず。
しかし、確実にデッキの中からカードを選び、墓地ゾーンへと置く。
一見すると全く意味の無い効果に思えるこのカードも、次への布石なのだ。
そもそも、このカードゲームに於いて“墓地”は“第二の手札”と呼ばれる程に重要なもの。


「そして僕は、デッキから“Z-メタル・キャタピラー”を墓地へ送る」


しかし、やはりただ墓地へカードを送るだけならば、その意味は無に等しい。
──ならば、どうすれば墓地を生かすことができるのか?
それをこれから証明しよう。 僕が、このカードで。


「更に、カードを一枚セットし──」


このカードだ。 このカードで、先程の“おろかな埋葬”で埋めた種を、芽吹かせる。
──水銀燈が、有り得ないとでも言うかのような表情で、僕の一挙動一挙動を見つめていた。
それもその筈だ。
僕が先程から使用しているカードは、実戦ではまず見ることのないカードなのだ。
というのも、この系統のカード──アルファベット+ロボットのパーツ名から構成される、このカードは、
 そもそも“実現したらいいな”という、実戦で運用することが難しい、言わば“ロマン”。
勿論、他のカードとの組み合わせによっては、その成功率は上がるが、
 多くのデュエリストは、わざわざそんなことをしなくても、
  デッキを圧迫しない、単独で強いカードを使う。
だが僕は違うのだ。真紅に、気付かされたのだ。
「デュエルは、個性をぶつけ合うものだ」と。


「永続魔法“前線基地”を発動だ」


<前線基地  永続魔法(発動後、墓地へ置かれず場に残るカード)
自分のメインフェイズに1度だけ、
手札からレベル4以下のユニオンモンスター1体を特殊召喚できる。
この効果は1ターンに1度しか使えない。>


ここで、“ユニオン”について確認しておこう。
“ユニオン”とは、簡単に言えば「合体するモンスター」のことであり、
  特定の状況下で、他のモンスターと合体することにより、
   そのモンスターに何らかのステータスを与えることができる役割のことである。
因みに、今、僕の手札には“Y-ドラゴン・ヘッド”という、
 このカードによって召喚することのできる“ユニオン”のモンスターが存在している。


「これにより、手札から“Y-ドラゴン・ヘッド”を召喚だ!」


<Y-ドラゴン・ヘッド
★★★★・光・機械族・ATK1500/DEF1600
1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして
自分の「X-ヘッド・キャノン」に装備、または装備を解除して
表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で装備カード扱いになっている時のみ、
装備モンスターの攻撃力・守備力は400ポイントアップする。
(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。
装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、
代わりにこのカードを破壊する。)>


これにより、通常ならば毎ターン一体ずつしか召喚することができない“モンスター”を、
 僕は高速で場に二体、先行の1ターン中に揃えたのだ。
──そして、このターンドローしたカードをセットし。


「これで僕のターンは終わり。 さぁ、水銀燈、お前のターンだ」



「ドロー」

──うふふふ。 ちょっと驚いちゃったけど、これではっきりわかったわぁ。
ジュンの、異常なまでの手札消費。
手札の犠牲を厭わずに、モンスターを展開する、その戦法。
間違いない。 ジュンのデッキは。


「モンスターを一体裏守備で召喚──」


【VWXYZ】。
V・W・X・Y・Zの記号を冠すモンスターを中心に構築されたデッキ。
そのファンデッキ色は強いけれども、型にハマったら手がつけられないわね。

「ターンエンドよぉ」


私の考えが正しければ、あの伏せカードは恐らく。



「ドロー」

──やはり僕は、ドローの女神様に好かれているようだった。
今引いたカードは“砂塵の大竜巻”。
フィールド上の、魔法・罠ゾーンに置かれたカードを一枚、ピンポイントで破壊するカード。
普通ならば、相手に有利に働く永続魔法や永続罠を破壊し、突破口を開くための手段だが、
 僕は水銀燈のデッキに眠る、恐らく水銀燈のデッキの核であろう、
  あるカード群の効果に狙いを絞り、使用する。
しかし、今はまだダメだ。 まだ、水銀燈の場に、“サイバー・ダーク”は来ていない。

「リバースカードオープンッ! 罠カード“ゲットライド!”」


水銀燈の口元が微かに歪んだ。
──予想通りってか? 構うもんか!
さっき、何となく買ってしまった、方向性も収録カードもわからないパックで当てたカード。
その効果を聞いて、恐れることなかれ。


<ゲットライド!
自分の墓地に存在するユニオンモンスター1体を選択し、
自分フィールド上に存在する装備可能なモンスターに装備する。>


先程、おろかな埋葬で送ったカードを、墓地から、魔法・罠ゾーンに置く。
そう。 “Z-メタル・キャタピラー”を、“Y-ドラゴン・ヘッド”にユニオンする!


<Z-メタル・キャタピラー
★★★★・光・機械族・ATK1500/DEF1300
1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに装備カード扱いとして
自分の「X-ヘッド・ キャノン」「Y-ドラゴン・ヘッド」に装備、
または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で装備カード扱いになっている時のみ、
装備モンスターの攻撃力・守備力は600ポイントアップする。
(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。
装備モンスターが戦闘によって破壊される場合は、
代わりにこのカードを破壊する。)>


X・Y・Zのモンスターが、フィールド場に集結した。
これが何を意味するか、水銀燈はわかっている。
わかっている、筈なのだ。
しかし、何故か水銀燈は微笑みを絶やさず、
 じっとこちらの手を見つめ続けている。
──いいだろう。 その顔、恐怖に歪めてやる!


「お前は勿論知っているだろうが、
  X・Y・Zには、ユニオンだけではない合体機能が備わっている!
   フィールド上に存在する、X・Y・Zのモンスターをゲームから除外し、
    ──現れろ!“XYZ─ドラゴン・キャノン”!」


あの頃、僕は、これで真紅を倒そうと思っていた。
あの頃の僕が、それ程までに信頼していたカード。 切り札。
──これで僕は、負けない。


<XYZ-ドラゴン・キャノン
★★★★★★★★・光・機械族・ATK2800/DEF2600
「X-ヘッド・キャノン」+「Y-ドラゴン・ヘッド」+「Z-メタル・キャタピラー」
自分フィールド上に存在する上記のカードをゲームから除外した場合のみ、
融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。
このカードは墓地からの特殊召喚はできない。
手札のカードを1枚捨てる事で、相手フィールド上のカード1枚を破壊する。>


ロマンの結晶。 その、強力無比な能力。
それでも尚、水銀燈は笑顔のままだった。


「うふふ。 こわぁい」


今、手札を捨てる効果は使わないのが得策だろう。
僕の手札にあるのは“砂塵の大竜巻”。 そして、
 “コンビネーション・アタック”という強力カード。
砂塵の大竜巻を場に伏せ。
そして、挨拶代わりに裏守備モンスターを破壊する!


「カードを一枚セットし、
  “XYZ-ドラゴン・キャノン”で、裏守備モンスターに攻撃だ!」


破壊。 撃沈。
──ハハハハハ、強いぞー、カッコ良いぞーXYゼ───


「ボマー・ドラゴンの効果発動よぉ。
  このカードを破壊したモンスターは、破壊されるわぁ!」


全身の汗腺が開くような。 背筋を舐りまわされたかのような。
そんな錯覚の中。 僕は絶望に堕ちた。



「うふふ、ドロー」

──“仮面竜”ねぇ?
    でも、この状況じゃあドローなんて関係ないわぁ。


「私は手札から、魔法カード“未来融合-フューチャー・フュージョン”を発動よぉ!」


──随分と長い間デュエルから遠ざかっていたあなたは知らないでしょうけど、
 デュエルは日々、進化を続けてるのよぉ? このカードのようにねぇ!
私からそのカードを引っ手繰って、舐めるようにジュンはテキストを見つめ、
 頭の中でその効果を咀嚼し、今の自分の置かれた状況を嚥下している。
──うふふ。青ざめちゃってぇ。 可愛いわぁ、ジュンったら。


<未来融合-フューチャー・フュージョン  永続魔法
自分のデッキから融合モンスターカードによって決められたモンスターを
墓地へ送り、融合デッキから融合モンスター1体を選択する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に選択した融合モンスターを
自分フィールド上に特殊召喚する(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。>


「私は融合デッキから“F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)”を指定して、
  デッキから5体のドラゴン族──“ハウンド・ドラゴン”3枚と、
   “アームド・ドラゴン LV5”、そして──
     “青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)”を、墓地へ送るわぁ!」


ジュンはもう気付いたよう。
この、【サイバー・ダーク】の運用に於ける、最重要要素に。
それは、如何にして、サイバー・ダークに装備するドラゴン族を墓地へと送るか。
このカード…“未来融合”は、
 汎用性・その効果、どれを取っても優秀な、このデッキの影のキーカード。
このカードと、“サイバー・ダーク”一体を初手で揃えられたのは運が良かったわ。
──さぁ、畳み掛けるわよぉ。 ジュン。


「そして、手札から“サイバー・ダーク・キール”を召喚!」
「何ッ!?」


うふふ。 驚いた。 驚いた。
私は、全部で三種ある“サイバー・ダーク”それぞれを、
 このカードゲームでの同名カードの枚数制限ギリギリ
  ──つまり、三枚ずつ投入しているんだから。
デッキは四十枚。 最初の手札は五枚。 更に、最初のドローも加えると六枚。
ほぼ確実に初手で“サイバー・ダーク”が来る。
テーマが一貫しているデッキとのデュエルなんだから、
 それくらい予想できるでしょうに。
まぁ良いわ。 ジュンの場はガラ空き。
墓地のハウンド・ドラゴンを装備した“サイバー・ダーク・キール”で──


「ジュンに、ダイレクトアタックよぉ!
  ──『ダーク・ウィップ』ッ!!」
「くっ……!」


水銀燈──サイバー・ダーク・キール
ATK800+1700(ハウンド・ドラゴン装備)/DEF800


ジュン──ライフポイント──5500


「あららぁ?頼みの綱の“XYZ”も死んじゃって、
  挙句、1ターンでカウンターパンチを喰らっちゃうなんてねぇ?」



「つまんなぁい」


ぶちりと。 胸の奥。 何かが焼き切れた。 そんな、音がした。


「ドロー」


──こいつには、勝つ。 絶対、勝つ。
ドローしたカードを認めた僕は、間髪入れずにそのカードを召喚した。


「“V-タイガー・ジェット”、召喚!」


<V-タイガー・ジェット
★★★★・光・機械族・ATK1600/DEF1800>


「怖い顔して何を呼び出すかと思ったら、
  “VtoZ”の中でも地味な、バニラカードじゃなぁい。
    忘れたの? “サイバー・ダーク・キール”の攻撃力は──」
「800だろ」
「ふふん、頭がジャンクになっちゃったのかし──」


僕の魔法・罠ゾーンには、一枚のカードが存在していた。
してやったり。 ああ、してやったり。
──口、開いてるぜ。 水銀燈!


「ら?」
「罠カード“砂塵の大竜巻”オープン!」


<砂塵の大竜巻
相手フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
破壊した後、自分の手札から魔法か罠カード1枚をセットする事ができる。>


耳を抉るような、歯軋りの音色。 勝利の、うた。
水銀燈が、まるで親の仇を見るかのような形相で、僕を睨んでいた。


「“V-タイガー・ジェット”で、
  “サイバー・ダーク・キール”に攻撃だ!」


ジュン──V-タイガー・ジェット
ATK1600/DEF1800
水銀燈──サイバー・ダーク・キール
ATK800/DEF800


水銀燈──ライフポイント──7200



──“アームド・ドラゴン LV3”なんて、引いて如何するのよぉ!
     不要よぉ! ジャンクよぉ!
    効率の悪い“砂塵の大竜巻”に割くスロットなんてせいぜい一枚が限度でしょう。
     “あの子たち”さえドローできれば、
       あんなモンスター、ガラクタにしてあげるんだからぁ!
私は、血の昇った頭で一手先、二手先の戦況を予想・考察する。
──なら、ここは!

「モンスターを一体、裏側守備表示で召喚して、ターンエンドよぉ!」



明らかに水銀燈は狼狽していた。
かといって、いつも冷静に金糸雀たちを纏め、
 他の女子よりも常に一歩先を行く彼女が、この程度の劣勢で戦略を忘れるとは思えない。
水銀燈のフィールド上には、裏側守備表示モンスターが一体だけ。
攻め──ビート・ダウンに重きを置く、彼女のデッキだ。
守備力が“V-タイガー・ジェット”を上回る下級モンスターが入っている可能性は低い。
更に、今ドローしたカードは“サイクロン”。
このカードもまた、フィールド上の魔法・罠カードを破壊できる、強力なカード。
その上、このカードは先程の“砂塵の大竜巻”とは違い、
 “速攻魔法”であるため、汎用性・スピード、全てを上回る。
このカードさえあれば、反撃を受けたとして大きな損害は出ないだろう。

「V-タイガー・ジェットで、裏側守備表示モンスターに攻撃だ!」
「ふふふ。 “仮面竜”は破壊。 そして、それによって“仮面竜”の効果発動よぉ」

<仮面竜
★★★・炎・ドラゴン族・ATK1400/DEF1100
このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、
デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
その後デッキをシャッフルする。>


水銀燈は、デッキに眠るカード達を、その鋭い眼差しで吟味する。
そして。

「私は、デッキから“アームド・ドラゴン LV3”を召喚!」

謎のちびっこドラゴンを召喚した。
愛らしい風貌。能力値。
僕は苦笑いを浮かべながら、“サイクロン”のカードを場に伏せた。

「ターンエンドだ」



──何が起きたのかわからない、って顔ねぇ?
デュエルモンスターズには“レベルアップモンスター”という種類のモンスターがいる。
特定の条件下で種となるモンスターを墓地へ送り、
 そのモンスターの上位種のモンスターを特殊召喚できるというもの。
“仮面竜”の効果で特殊召喚したこの子──“アームド・ドラゴン LV3”もその一体。


「この子はねぇ?ジュン。
  自分のターンの開始時、相手ターンを凌ぎ、生き残っている場合、進化するのよぉ。
   次の形態──“アームド・ドラゴン LV5”にね」


<アームド・ドラゴン LV5
★★★★★・風・ドラゴン族・ATK2400/DEF1700
手札のモンスターカード1枚を墓地に送る事で、
そのモンスターの攻撃力以下の相手フィールド上表側表示モンスター1体を破壊する。
このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、
このカードを墓地に送る事で「アームド・ドラゴン LV7」1体を
手札またはデッキから特殊召喚する。>


尤も、“第三期”辺りで一線を退いていたあなたは知らなかったんでしょうけど。


「ジュン、忘れてはいないわよね?“未来融合”を……!」


ジュンの瞳が、見開かれる。
──やだわぁ、ホントに忘れてたのねぇ。


「うふふ。 さぁ、現れなさぁい、私の、影の切り札!
  ──F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)ッ!」


──そして、ここから。 本当の意味でのデュエルを、僕は取り戻す。

To be continued...

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