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桜田ジュン。
青年。
メガネ。
砲の如き銃を軽々と扱う男。
『相談役』を名乗りながらも、私の知る誰よりも強い『暴力』を持つ。
他人の心を覗き、暴き、曝す術を持つ男。
人、人外であろうと、構わず。
彼のあれが何なのか、私もよくは知らない。
能弁な彼も、あの力についてだけはあまり喋りたがらない。

『糸』
思いの糸。
彼にはそれが見えるのだそうだ。
思いの糸はそれぞれに複雑に絡まりあい、融け合い、心をかたち作る。
それを視ることで、彼は人の心の在り様を、思いを知る事ができる。
また、ある特定の人とは(ジュンは『波長が合う人』と形容した)
距離がある程度までなら、遠く離れていても糸を探し出すのが容易で、
それを通して思いを伝えられるそうだ。
彼いわく、『糸』はそこらじゅうにある。
人の心の中にも勿論あるし、生き物が心と心を通わせる時には、
つまりはコミュニケーションを取る時に、それが心の内から外へと放出されるそうだ。
見える。
見えすぎてしまう。
必要以上。
一方通行。
遮断不可。
彼は常に、誰からもテレパシーを受けているようなもの。
人の心の中をまざまざと見せつけられながら生きる。
彼は常に楽しそうに笑いながら飄々と生きる。
彼は一体、どんな景色の中を生きているのだろう?
彼は、他人と接する事を殆どしなかった元ひきこもりにとっては、信じられないほど強い。



午後11時。ホテルの一室にて。
「なんで翠星石がお前みたいな血に飢えた獣と一緒に待機しなけりゃならんのですか!?
 翠星石がいったい何をしたというのですか!? 何も悪い事はしちゃいねーです!」
「あたしだってあんたみたいな小うるさい奴と一緒に待機なんて嫌なんだからねぇ。
 少しは黙ってて頂戴。ていうか今までの喧嘩は全部あんたがふっかけたものでしょお?
 あんた、ちィーッとも、反省してないのねぇ。おばかさぁん」
「なんですとぉ!? 口のへらねぇ女です! おめーみてーな奴は聖水でも浴びて蒸発しやがれです!」
「ふふふぅ、こんなこともあろうかとあらかじめジュンに水道の水止めといて貰ったのよぉ」
「くぉんのぉ・・・卑怯な奴です! ・・・けどまだこっちにも勝算はあるです! おらぁ!」
「へぶちっ! ううう、痛いじゃなぁい・・・」
「今日までのおめぇの行動を見てる判明した事があるです!
 おめぇは吸血鬼ですが、血を吸わないと体力はふつーの女の子以下なのです!
 つ・ま・り、普通に取っ組み合いやっても翠星石の方が強いのです!
 ふたりっきりの館でジュンといちゃいちゃしやがった罪、ここで裁いてやるです!」
「ちょ! 今までの恨み言の原因それなのぉ!? どんだけ嫉妬深いのよぉ!」
「マウントポジションゲットォっ! ですっ!」
「痛い! 痛い! もう本当怒るわよぉ!」
「この体勢で何ができると言うですかっ。翠星石の勝ちですぅ!」
「ぎゃいっ! うっ! 痛っ!」
「・・・!」
「? どうしたのぉ? 硬直しちゃって」
「ジュンから、連絡です・・・」
「え?」
「子供が、半吸血鬼が、逃げたそうです。方角的にはこっちに向かってる、って」
「えええ!?」

私の知らないところで、祭りが始まった様子。



遡る。
「なんでぇ!? なんで蒼星石といくのよぉ! ジュンの相棒は私でしょぉ!?」
「そ、そうです! それに連れてくんだったらそのぉ・・・翠星石にしやがれです!」
「翠星石は波長けっこう合うから、もしもの時に簡単に連絡がとれる。
 蒼星石じゃそうもいかないし、水銀燈は・・・わからないけど、吸血鬼連れてって柏葉を刺激したくない」
ということで、と言い、ひとつ息を吸う。
「消去法的に蒼星石だ」
「その言い方、あんまり嬉しくないよ、ジュンくん」
「じゃ、じゃあ、その柏葉って人のところにはどーやって行くですか?」
「糸手繰る。昔はずっと一緒だったから、糸の色とか形とかはよく覚えてる。多分大丈夫だろ」
となりの翠星石が歯軋りをする。
彼らはそう言って、部屋を出て行った。



ジュンと蒼星石、二人は暗い路地裏を歩く。
「ねぇ、その柏葉さんってどんな人なの?」
「堅っ苦しい、糞真面目すぎて正直ちょっと怖い。でも、いい奴だよ」
「へぇ」
蒼星石の視線は、ふわふわと宙を浮く。
翠星石と二人でいると、やけに男性的なところばかり目立つ蒼星石であったけれど、
男性と並ぶと、そうでもないらしい。
「ねぇ、ジュンく」
蒼星石がジュンに近づこうとした直後、ジュンはそれを押しとめる。
「この辺だ。たぶん、そこの裏口みたいなところの奥にいる」
今の彼の顔には、普段のへらへらした様子は一切ない。
刃物のような鋭い輝きが、瞳に映っている。
ジュンが指差した先、今まで来た路地よりも狭い隙間に、ドアがあった。
が、茶色く汚れきっており、もう殆ど腐っているあれをドアと言うには少し無理があるかもしれない。
蒼星石は少し戸惑う。
「いくの? あそこに」
「当然」
答えるや否や、ジュンは隙間に体をもぐりこませる、少しためらった様子だったが、蒼星石も後に続く。
通路はビンやらカンやら、生ごみやらが捨ててあり、それらを踏まずに歩くのは至難の業だろう。
けっこういいクツなのになぁ、と、異臭の立ち込める中から、蒼星石の呟く声が聞こえた。
そんなことどこ吹く風、と早足のジュン。
彼がドアの前にたどり着く。
ほっと一息吐いたのち、辛うじてかたちの残っているドアノブへと手を掛ける。
次の瞬間、狭い隙間に響く爆音を、蒼星石は聞いた。
何発かの弾丸がドアを貫いて、ジュン目掛けて突進するのを、蒼星石は見た。
そしてドアは砕け散り、ドアは残骸に成り果てた。
「ジュンくん!」
蒼星石は絶叫した。



暗く湿った納屋のような箱の中、彼女は目を覚ます。
僅かな物音。もしかしたらネズミが歩いているだけかも知れない。
他人はそれを「些細な事」と言って嗤う。
だけれど、彼女はそんな些細な事に気付かなかったばかりに死んでいった人間を何人も知っている。
だから彼女は目を覚ました。
彼女は確かに話し声を聞き。外にいるものがヒトである事を確信する。
追手? それともまた別の何か?
どっちだって構わないという風に、彼女は傍の拳銃に弾薬を装填する。
吸血鬼をかくまう私を守ってくれるものなんて、何もない、全てが敵、とでも言うように。
暗闇の中で黒い瞳が輝く。まるで黒真珠のように。
彼女の膝の上には、少女の小さな頭が乗っかっている。
それをゆっくりと床に載せてやり、次の瞬間。
撃つ。撃つ。撃つ。
放たれた幾つもの鉄の塊はドアを穿ち、抉り、ばらばらにする。
寝ていた女の子が、弾丸がドアを貫き、コンクリに弾かれる音を聞き、飛び起きる。
「巴!? どしたの!? 大丈夫なの!?」
「雛苺、大丈夫よ。怖いおじさん達が来たみたいだから追っ払ってるのよ」
この子だけは。
どこの誰が来ようとも。
指一本触れさせない。
償い。贖い。
誰に対して?
柏葉巴は、銃口が弾丸を吐き出さなくなるまで、トリガーを引き続けた。
煙幕、粉々になったドア、弾丸のめり込んだコンクリート、あたりを覆う異臭は相変わらず。
「柏葉」
まだ生きてたか・・・しぶといにも程がある!
それとも余程戦い慣れしてるのか・・・。
彼女は、からっぽになった拳銃を投げ捨て、その手で脇の刃物を取る。
近寄る人影を確認し、首を狙い、一閃―――――

「危ない、危ない」
女の人の、声が聞こえる。
柏葉が刀越しに感じたのは、鋼の手ごたえ。
「ふぅん、珍しい形の剣を使うんだね。何だっけ、KATANAって言うんだっけか」
柏葉の斬撃を受け止めていたのは、巨大な鋏。
「お前たちを助けに来たぞ。柏葉」
「さくらだ・・・くん?」
薄ら笑いを浮かべていたのは、懐かしい面影を残す男。
彼女は目を見開いた。
女の子は部屋の隅で小さくなってがたがた震えている。
「その通り」
「なんで・・・ここに?」
柏葉は、納刀する。
それに合わせるように、蒼星石も背中のポケットへ鋏を仕舞う。
「この街にいるのはたまたまだよ。お前が吸血鬼をかくまって逃げ回ってるって、風の噂でね。
 で、今はヴァンパイアカウンセラーやってる。VCって言えば、わかるよな?」
柏葉は、小さく頷き、言う。
「同業者」
「僕らはお前らと違って吸血鬼狩りなんてしない」
「でも結果的には何も変わってないんでしょう」
部屋が、沈黙する。
ジュンの隣では、蒼星石が居心地悪そうにあたりを見回していた。
それに気付いたジュンが彼女の事を紹介する。
「おっと、悪い、悪い。こいつは後輩の蒼星石」
「よろしく」

柏葉は、無言。
「昔馴染み、ということでお前とその子を保護しに来たんだ。サービス残業、みたいな?」
「何か違うよ、それ」
柏葉は、固い表情をさらに強張らせる。
「信用しろっていうの?」
ジュンは小さく笑う。
「何を疑ってるんだよ?」
柏葉は、刀の柄を強く握り締める。
「あなたが本物の桜田ジュンであるか。太陽から差し向けられた追手じゃないか。
 この子・・・雛苺が本当に助かるのか」
柏葉はジュンを睨みつけ続けている。
「わかった。上の方にお前らを保護して貰えるように、人を手配してもらいたい。
 今お前は、そう思ってる。合ってるだろ? すぐに手配するように言うよ」
どうやら、柏葉は少し手を緩める。
「もし約束を破ったら?」
「そんなことをいわれるだろうと思ってこんな物を持ってきてみました」
ジュンがその手に持っていたのは・・・・・・。
蒼星石はそれを見て、目をまんまるくした。
聡明で冷静な彼女とは思えない態度。口を半開きにして、ソレを凝視している。
「な・・・な・・・な・・・な・・・?」
彼が持っていたブツ・・・それは・・・。

ま さ か の 婚 姻 届 。

柏葉もすっかり放心状態。
「ふぇ?」
なんて言っている。
「その子に、もしものことがあったら、これを自由にしてくれていい」
ジュンの顔も真っ赤っ赤に染まっている。
見ればその紙には住所氏名年齢印鑑まで、ジュンが書き入れるべきところには全てサインが入っている。
あと柏葉がこれにサインして印を提出すれば即夫婦が完成してしまう。
「桜田君」
柏葉が口を開く。
「な・・・なんだ?」
「わかったわ。本気なのね」
「と、当然だろ」
柏葉は、そこで初めて笑った。
女の子の傍へとより、優しく頭を撫ぜる。
そして、再びジュンの方に向き直り、
「信じましょう。このままでいても埒が開かないわけだし」
女の子は、柏葉の影にかくれて、エメラルド色の瞳でじっと、蒼星石を見つめる。
それを察した柏葉が
「この子は雛苺。半吸血鬼なんだけど、いい子よ。なかよくしてあげて」
「・・・よろしくなの」
雛苺は、ぺこりと頭を下げる。
「ところで、お姉ちゃん」
「? 蒼星石でいいよ」
「ん、じゃあ蒼星石、お姉ちゃんの近くに、吸血鬼、いるの?」
「え? ああ、まぁ、いるよ。君と同じハーフだけど」
「何年くらいハーフなの?」
「本人ももうわからない、って言ってたけど」
「ふうん、じゃあ、大分長い間半吸血鬼だったのね」
雛苺は、右目を手で隠して、言う。
「実に都合がいいわ」
そう言って開いた緑色のはずの瞳は、金色に、らんらんと、光り輝いていた。
「どいて頂戴」

柏葉も別に背が高いわけではない。
雛苺は、そんな柏葉の背丈の半分しか身長がないにも関わらず、跳んだ。
跳んで柏葉の腹を蹴り飛ばし、壁へと叩きつける。
「柏葉!」
ジュンが叫び、彼女へと駆け寄る。
柏葉の太陽での位は分団長。
そこまで偉くはないが、彼女はまだ20そこそこ。
柏葉は、その年齢で、実力のみで分団長へと成り上がった。剣の扱いでは達人の領域だろう。
しかし不意を突かれれば、女性、簡単に吹き飛んでしまう。
そして雛苺は、着地の瞬間再び床を蹴り、出口へと突進する。
そこへすかさず蒼星石が立ちふさがる。
蒼星石は、鋏を抜いた。

 

第11夜ニ続ク




不定期連載蛇足な補足コーナー「元ヒッキーと未だに出番のない子」

銀「またきたわねぇ」
金「本編での出番ないからしょうがなくここで我慢してるかしら!」
銀「で、今回は何をしに来たのよぉ」
金「今回は蒼星石の鋏の解説かしら!
  蒼星石の鋏・・・彼女は『レンピカ』って呼んでるけど、あれもカナが作ったものなの。
  蒼星石に聞いてみると、レンピカを見た人は大抵、『刀工のお遊び作品』とか抜かすらしいけど、
  カナは遊び感覚で仕事なんてしないかしら! 狙いがあるからこそ、ああいう形の剣を作ったのよ。
  VCの仕事は、殺すことに非ず。吸血鬼を人間社会で生かすことかしら。
  だからVCは吸血鬼に襲われても、簡単にはそれを殺すことが出来ない。
  殺してはいけない相手と戦うにはどんな形状の武器を使えばいいのかしら?
  その疑問の末にたどりついたのが、鋏をモチーフとした武器なのよ!
  鋏は開かない限り、刃が相手に触れることはないということはわかるわよね。
  つまり、開かない状態で使う限りは、常に峰打ちということになるかしら」
銀「でも、峰打ちだけで吸血鬼を倒せるのぉ? 私たちは人間よりずっとタフなのよ」
金「普通の人なら、水銀燈の言うとおり、吸血鬼を倒すどころか、全部かわされちゃうかしら。
  でも、そこをカバーできるだけの剣技と経験を、蒼星石は持ってるわ。
  本当に危険になったら刃を開く事も出来るし。
  ちなみに、レンピカの刃は聖水処理をしてあるから、化物に対しての殺傷力も抜群よ。
  生かすことも殺すことも自由自在、というところかしら」
銀「あんた頭弱そうだけど案外そうでもないのねぇ」
金「技術開発局局長の姪っ子をなめちゃいけないのかしら!」

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