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この街並みを見るのも久しぶりだな。
あれから10年…僕はこの街を、日本を離れていた。
風来坊な師匠の元で修練を重ね日々を過ごした事に後悔はない。
いや、大切な友人達と音信不通になった事は後悔してる。
曲がりなりにも一人前のデザイナーになり、世間にも認められた。
だけどあの友人達とバカ話をして盛り上がっていた頃が無性に懐かしく、こうして再び帰ってきてしまった。

いろんな記憶が蘇ってくる。
反芻しながら歩いていると、ある建物の前で足が止まった。
ここは…古びた映画館。
そうだ…僕達はここに入り浸っていた…
一昔前のモノクロ映画ばかり流していて客は殆どいなかった。
それをいいことに僕達は溜まり場にしていたんだっけ。
僕が今の道に進んだのも、ここの映画に出てきた名も知らぬ女優の衣装に目を奪われたから。 


自分の原点の一つを見た気がしてなんだか照れくさい。
折角だから覗いて見ることにしよう。


年代物の内装は中世ヨーロッパの屋敷のようだ。
館長の名前は…一葉さん…だったかな?
売り場の女性からチケットを購入し、重い扉を開けて中に入る。
あの頃と変わらないな。
人っ子一人いない中、真ん中の特等席に座ると見計らったように照明が落とされ、後ろから懐かしい音が聞こえてくる。

カタカタカタカタカタカタカタカタ…

スクリーンにはあの頃と変わらない古臭い映画が映し出されていく。
軽い既視感、その時隣に誰かがドサリと腰を降ろした。

「館長の遺言だからな。こんな古臭い奴ばっかりだから客も滅多に来やがらん。」

隣のソイツはそう言って腕を組む。
もう一人誰かがソイツの隣に座る。 

「ああ、すまんな。今はオレとコイツ二人で切り盛りしているんだ。」
「コイツはないんじゃないかな?昔はストーカー紛いだったのに。姉さんが聞いたら血祭りだよ?」
「ははっ、それは勘弁だ。ほら」

僕の手の中にポップコーンの入ったカップが置かれる。
一口つまむとあの頃と変わらない味が広がった。
映画が淡々と映し出され、僕達3人は互いの顔を見る事もなくスクリーンを見つめていた。
映画の中で男性が去って行こうとする女性の手を掴もうとした時。
また、誰かが隣に座った。
よほど慌てて来たらしく、息が酷く乱れている。

「全く、貴方ときたら…あの時と同じで、唐突に居なくなったと思ったら、また唐突に現れる。私の躾が悪かったのだわ」

強がりらしく、所々震えてはいたが、僕の記憶に一番深く刻まれている声。 

「紅茶の腕は落ちていないでしょうね?」

まるで映画が巻き戻るような感覚。
なら、この先の台詞は決まっている。

「はいはいはい」
「はいは一回よ」

目を向けると、モノクロな記憶に映る少女では無く、紅い薔薇の女性が涙を流しながら笑っていた。


「ただいま、真紅」
「お帰りなさい、ジュン」


end

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