Another RozenMaiden 
         第8話 告白 

今しかない、そう思った。蒼星石から聞いたことが本当なら、
そう遠くない内にJUMは居なくなってしまう。
それに加えて、水銀燈という障害が私にはある。
それら二つを乗り越えて、私がJUMのアリスになるチャンスは今しかない。
今を逃せば、もう私がJUMに近づく術はなくなる。
紅「JUM!」勢いよく教室の扉を開け、JUMの姿を探す。
紅「居ない!?」教室は、もぬけの殻だった。急いでJUMの机を調べる。
机の中に荷物がない。もしかしたら、JUMは既に帰宅してしまったのかもしれない。
後を追う為に私は急いで荷物を纏めるが、どうにも気が焦り、
幾度となく教科書が手から滑り落ちる。
紅「ああ、もう!」こうしている間にも、JUMは少しずつ遠ざかってしまう。
荷物を纏める時間さえ惜しい。
私は手に持った教科書を投げ出し、教室から飛び出す。
蒼「真紅!」遠くから蒼星石の声が聞こえる。構っている暇はない。
上履きのまま学園を飛び出し、JUMの家に向かう。


JUMを探し、走り続ける。しかし、一向にJUMの姿が見えない。
諦めかけたその瞬間、扉を開け家に入ろうとするJUMの姿を見つける。
今ここで呼びかけなければ、JUMが遠くに行ってしまう。
紅「待って!!」そう思うと、無意識の内に声を上げてしまう。
JUM「真紅?」扉から手を離し、JUMがこちらを振り向く。
私はそのまま飛びつくと、両腕をJUMの腰に回す。
トクントクン、JUMの心臓の音が聞こえる。
トクントクン、私の心臓の音が聞こえる。
二つの波が心地よく私に流れ込む。
今、二人だけの世界で私とJUMは一つになっている。
夢見心地で浸っていると、突然その世界に雑音が混じる。服の擦れる音。
JUMが私を振り解こうとしている!?ここはこんなにも優しい世界なのに、どうして?
JUM「真紅!?いきなり何だよ。」
発せられたJUMの言葉で、ついに私は現実へと戻されてしまう。
紅「JUMは私に、抱きしめられるのが嫌なの?」
今ここで手を離せば永遠にJUMを失ってしまう。そう思うと自然と両腕に力が篭る。
JUM「嫌も何も・・・・いきなりだろ?今の真紅、おかしいぞ?」
私を振り解こうとする手が止まり、僅かにJUMの鼓動が聞こえる。
でも、先程の様な一体感は得られない。
紅「私はおかしくないわ。それに、あんなことを聞いてしまえば・・・・。」
JUM「あんなこと?」JUMが私の言葉を繰り返す。でもそれには答えない。
質問するのは私だから。私がJUMに受け入れてもらえるかの、それを。
紅「JUM、落ち着いて聞いて頂戴。私は・・・・。」


私の鼓動が更に激しくなりJUMの音が遠くなる。
それと共にJUMが遠ざかって行くような錯覚に陥る。
行かないで!その想いが私に口を開かせる。
紅「私・・・・JUMのことが好きなの。・・・・返事を・・・・聞かせて頂戴。」
私の鼓動でJUMの音が更に薄れる。私はJUMに受け入れられないの?
JUM「すまない・・・・・。」疑念はJUMの言葉へと変わり、拒絶された私は全身から力が抜ける。
その瞬間、動いたJUMに両腕を振り解かれてしまう。
支えを失った私はバランスを崩し、よろめく。
そんな中、JUMは私に背を向け家に入ろうとしている。
紅「行かないで!お願いよ!!」
想いが私の体を支え、それに突き動かされる様に私はJUMを後ろから抱きしめる。
JUM「すまない。僕は真紅の想いに応えられない。」
私に背を向けたままでJUMが答える。
両腕に力を込めJUMの背中に自分を押し付ける。JUMの鼓動を求めて。
紅「どうしてもダメなの!?私だって、ずっと貴方のことが好きだったのに!!」
目に熱いものがこみ上げてくる。
JUM「すまない・・・・。」JUMは、こちらを振り向こうとしてはくれない。
紅「貴方のことを、家来と呼ぶのが嫌なの?それなら、もう二度と言わないわ。」
私は素直になれなくて、JUMとの絆を家来と主という関係で保とうとしていた。
不器用な自分では、こうする他にJUMを繋ぎ止めておく方法を見つけられなかった。
JUM「そうじゃなくて・・・・。」それが嫌だと言うのなら私は・・・・・・・・。
紅「私、貴方の為なら何でもできるわ!
  貴方が望むのなら、私は貴方の家来にだってなってみせる!!」
私にはJUMの全てを受け入れることができる。
水銀燈の代わりでも構わない!だからお願い、私を受け入れて!
JUM「僕には大切な人がいるんだ。今は嫌われているけど、
   また元の関係になれるよう努力している。」
JUM「だから・・・・すまない。」JUMの言葉で私の全身から力が抜け、体が崩れ落ちる。
もうJUMの鼓動は聞こえてこない。
目の前が真っ暗になる。私はそれから先のことを覚えていない。


蒼「真紅。JUM君に告白したんだね。」
不意に聞こえた声で、私に意識が戻る。
紅「私は・・・・どうしてここに?」
気がつけば、私は自分の部屋で机に向かっていた。
振り返ると、部屋の入り口に蒼星石が立っている。
蒼「君の性格なら、やりかねないと思ってね。
  後を付いて行ったら・・・・思った通りだった。」
蒼星石の言葉で、私はこれまでのことを思い出す。
私はJUMに拒絶され、その場で泣き出してしまった。それに加えて情けないことに、
力の抜けた体をJUMと蒼星石に支えて貰いながら家に帰ってきたのだ。
紅「・・・・それで、貴女は私を馬鹿にしに来たのかしら?」
精一杯の虚勢を張るが、突きつけられた現実に声が震える。
蒼「残念だけど、外れだよ。」蒼星石は帽子をかぶり直すと、言葉を続ける。
蒼「僕からも真紅に、一つ聞きたいことがあるんだ。」
突如、蒼星石の手が光る。次の瞬間、その光が私の右手を掠める。
ガキイィィン!!光は音を立てて壁に突き刺さり、その正体がわかる。
それは巨大な鋏。蒼星石の庭師の鋏だ。
紅「何をする気?」私は蒼星石を睨みつけるが、意に介す様子は無い。
蒼「それは僕の台詞だよ。」そう言うと蒼星石は床を指差す。


蒼星石の示す先、床には小さな剃刀が突き刺さっていた。
蒼「その剃刀で、君は何をしていたんだい?。」
指摘され、始めて気がつく。私の左手首にはガーゼが敷いてあった。
薄っすらと赤く滲んでいる。
紅「・・・・・・・・。」ゆっくりとガーゼを剥がす、その下には無数の切り傷があった。
いわゆる躊躇い傷というものだろう。こんなことをした覚えはなかった。
無意識の内にやったのだろう。
蒼「困った妹だ。そんなことをしたらJUM君が傷つくだけだよ。」
蒼星石が、ゆっくりと私に近づいてくる。
紅「貴女に言われたくないのだわ!私は、もうJUMのアリスになれないのよ!!
  私の気持ちが貴女に分かるというの!?」
私は机の椅子から立ち上がり、蒼星石に殴りかかる。
私の手はあっさりと蒼星石に掴まれ、私は抱き寄せられてしまう。
蒼「君の気持ちは良く分かるよ。僕も昔、同じ気持ちを体験したからね。」
不意にJUMを抱きしめたことを思い出す。
涙が溢れてしまう。人前で涙を流すなんて私らしくない。
必死に涙を止めようとするが、流れ落ちる涙は止まらない。
蒼星石は、そんな私の髪を撫でると耳元でそっと囁いた。
蒼「ねえ真紅。こう思うことはできないかな?」
Another RozenMaiden 第8話  告白 終

Another RozenMaiden 第9話  間奏 に続く。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2006年03月26日 11:55