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悪夢再来?

6月3日午後5時、京都府某コンビニエンスストアに突如、
拳銃を所持した男が押し入り、多額の現金を要求する事件が起こった。
この時、偶然近くを通りかかったパトカーがコンビニエンスストアの前を塞ぎ、
逃げ場を失った男はたまたまこの店にいた男子高校生を人質にとり、逃走用の車を要求した。
その後、男は警察隊によって射殺、男子高校生を無事救助。

しかし現在、男の身元は特定されておらず、警察も特定を急いでいる。
また、警察の発表によると、この男の左肩に、国際テロ組織“ローザミスティカ”を示す刺青があったことにより、残党ではないか、との見解がなされている。

専門家は“ローザミスティカ”の組織的関与は極めて低いと見ているが、今後、注意を払うべきではあると言う。

(2023年6月4日付け 朝刊より一部抜粋)


DIABOROS 第五話 「Metamorphoze」

昨日は本当に酷い目にあった。
強盗に襲われ走馬灯は走るし、そいつの死ぬ所を見るなんて。
その後は、警察署で、軽い事情聴取を受けて帰宅。

帰ったら帰ったで、のりが半狂乱で抱きついてくるし、
親は外国にいるせいか、何の連絡も寄越さず仕舞いだった。
本当にあの日は今までで一番酷い日だった。
学校、今日はサボろうかと思ったけど、そんなことをしたらあいつらが家まで押し掛けてきて、とどめをさされるかもしれない、
なんて考え学校へ来た。

学校では、色んなヤツラから心配され、注目されて、興味持たれて、本当に参った。
梅岡。止めろ。抱きつくな。暑苦しい。
正直、放っておいて欲しかった。
どんなことであれ、注目されるのは好きじゃない。

そんなこんなで嵐のように授業は終わり、夕方帰る段になって、アイツらが家まで送ると言い張った。
どうやって逃げようか、と思い巡らしていると、校門で一人の男に呼び止められた。

「桜田ジュン君だよね?」
「え、はいそうですが…」
「昨日は大変だったね。僕の顔覚えているかい?」
「え、えっと…。あ!犯人の気をそらしてた人ですよね?」
「よかった、覚えててくれてたんだ。僕は白崎。警視庁の物だよ」

そこに真紅が、
「誰なの?ジュン」
「昨日、僕が助かるきっかけを作ってくれた人」


「初めまして、お嬢さん方。白崎と申します。以後お見知りおきを」

と白崎さんは芝居がかった口調と大げさな動作であいさつをした。
意外とひょうきんな人なのかもしれない。

全員の自己紹介を軽く済ませた後、白崎さんは、
「ちょっと彼をお借りしてもいいかな?聞きたいことがあるんだ。ジュン君もいいかい?」
まぁ、どうせ、僕に断れるような代物ではないのだろう。
翠星石を除き、皆頷いたが、
「ジュンに、何もしないですよね?」
「大丈夫だよ、翠星石さん。彼のことは心配しないで」などのやり取りをした後に、翠星石はしぶしぶ認めた。

「じゃあ、借りてくね。皆も気をつけるんだよ」と言い、僕らは白崎さんの車に乗った。うわ、この車高いだろ。
「じゃあ出すよ」

「この辺り、自動操縦させられるんじゃないんですか?」
「うん。そうなんだけど客人を迎える時にはそれじゃ失礼でしょ?
だからね。久しぶりだなぁ、手動でするなんて」
その言葉に身体を強ばらせた僕に、
「はは。冗談だよ。仕事柄、運転する機会も多いし、僕自身も好きだからね。心配はいらないよ」


ほっとした僕は、一番重要な事を思い出した。
「白崎さん。どこに向かってるんですか?」
「うーん。言ってもいいけど、秘密にしておくよ。
驚かせてみたいしね。でも大丈夫。変な所じゃないから」
…どこだろう?驚くような所って。
大人の階段登っちゃうような所?いや、ない。というか、名曲は廃れないもんだね。
じゃあどこだろう?総理官邸?まさか。

そのまさかだった。
当たっていたことと、とんでもない所に来ちゃったことに唖然とする僕。
その顔をみて、白崎さんは実に楽しそうだった。
「まさか、そんなに驚いてくれるとはね。秘密にしててよかったよ」

そうして僕は門をくぐり、中へと入った。
おぉ、絨毯ふかふかだ。体が浮く。変な感覚だな。
そして急に、自分の服装が、ひどく場違いなのが気になった。

「あの、白崎さん」
「なんだい?」
「服装って…」
「ん?あぁ、気にしなくていいよ。突然連れて来ちゃったからね。
どうしても気になるなら着替えあるよ。
サイズはどうか分からないけどさ」
「いぇっ!結局ですっ!」


そんなことしたら余計気になってしまう。この場の空気から逃れたくて、話題をそらす。
「えっと、あの白崎さん。そういえばあなた警察だって…」
「うん。そう言ってたけど、実は内閣関係なんだ。今は警察にいるけどね。
だから、お願いがあるけど、このことは誰にも言わないでもらえるかな?仕事、しにくくなるからさ」
「は、はい。分かりました」
「ん。着いたよ。この部屋でちょっと待っててくれないかい?」
と、そこにある椅子を引く。
「あ、はい…」
そして、白崎さんはどこかに行ってしまった。

尻がムズムズする。なんなんだろうと、軽い不快感を感じて、十分後、奥にあるドアから人が二人出てきた。

一人は他でもない白崎さん。
もう一人は最近話題の人物だ。流石にこの僕でめ誰だか分かった。
でもそれ以上に現実離れし過ぎていた。
その人は一番奥の椅子に座り、
「初めまして。桜田ジュン君。私は結菱一葉だ。ニュースは見ているよね?」
とにこやかに話す人物。その人こそ、現総理、結菱一葉氏。



パニックに陥り、「は、はい、初めまして、よろしくお願いします…」と返したと思う。
頭の中には何を聞かれるのだろう、とか何故ここにいるのかすら分からなくなっている。
まだ白崎さんがここにいる分だけよかった。二人だけだったら、その混乱がずっと続いていただろう。
それでも混乱し続いていたのも事実。何を話していたのか覚えていない。
だが、結菱氏の、この、言葉が、僕を、壊す。

「失礼だけど、君の経歴を調べさせてもらったよ。君は戦災孤児なんだってね?」

…は?今なんて?

「な、なにいってるんですか。そんなことはありませんよ。僕の両親は海外にいて…。死んでるなんてうそですよ…」
そうだ。二人は生きているんだ。海外で働いているんだ。
その仕送りで僕らは生きているんだ。
「あれ?違ったかな?資料には君が小学校五年生の時行った旅行先で武装蜂起に巻き込まれたとかいてあるんだが」

ちがう。ちがう。ちがう。そんなことはない。
そんなことなんてなかった。
あれはぼくがつくったまぼろしだ。わるいゆめなんだ!



霧の向こうから声が聞こえる。

「確かその時、君は左肩に火傷をしたらしいんだけど」

吐いた。胃袋の中のもの全て。
胃袋の中に何もなくなってもずっと吐き続けた。


気が付けばいつの間にか白崎さんの車の中にいた。
「ごめんね。不快な思いさせちゃって」と謝る白崎さん。
「大丈夫ですよ…。気にしてませんから」
「本当に?顔色すごく悪いよ。少し寝るかい?着いたら起こすからさ」
「はい…。そうします…。」
外を見れば、すっかり暗くなっていた。
「あ…、のりに電話しなきゃ…」
「それなら大丈夫だよ。もうお姉さんには連絡してあるから」
「そうですか…。ありがとうございます…」
「じゃあ、お休み」
「はい…。お休みなさい…」



眠りにつくその刹那、僕には白崎さんの顔が、不思議の国のアリスに出てくる、アリスを導いた白兎と被って見えた。



DIABOROS 第五話 「Metamorphoze」 了

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