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翠星石は今日もそれなりに荒んでたらしい。部活中に友達から聞いた。
やっぱり、喧嘩のことが響いてるのかなぁ。
こんな些細なことで翠星石を孤立させるのは酷だ。
翠星石の意見にも耳を傾けなかった僕も悪いし、
僕から謝ろう…

それにしても、だ。
今日はいつもより向こう側からの風当たりが厳しかったような気がする。
ジュン君が入院したという情報が余計に燃料を与えてしまったのか?
しかし何で僕らのクラスの3組にはジュン君の事は何も知らせないんだろう。
話を聞く限り、翠星石のクラスの1組の人にだけしか知らされて無いようだ。

う~ん。
奴らがお祭りムードってのが納得いかない。
何らかの防衛機制でも働いてるのだろうか。
兎にも角にも、僕たち陣営が不利な状況には変わり無いか──

顧「──おい!そこ!ぼーっとすな!!」

あっ…

蒼「すみません」
巴「…」
k「…」

~~~~~

部活の帰り。

明日は遠征だから…と今日の部活は早い目に切り上げらたものの、
やっと鬱な1日が終わったという気持ちだ。
黄昏時というのは、どうも物悲しい。

部活中以外は常にアウェーだ。
登校中も、
授業中も、
休み時間も…

翠星石なんて同じクラスの殆ど全ての奴が“向こう陣営”なんだから、
もっと肩身の狭い思いをしているに違いない。
せめて休み時間ぐらいはこっちのクラスに来てもいいのに、
ジュン君が苛められるようになってから全然来なくなってしまった。
まだ僕のクラスの方が、巴も居るし“こっち陣営”の比率も少しはマシなんだから、
居心地も良いはずなんだけど…

それが気になって、今日の昼休みに翠星石を見に巴と1組へ行ったら、
翠星石は必死でノートに何か書いていた。
僕は相当な衝撃を受けた。

あの翠星石が熱心に勉強してる…

殺気立ったその雰囲気に、僕ですら足がすくんだ。
あと、翠星石が何を書いているか、想像はついたが確信は持てなかった。
今日家に帰ってから聞いてみようかな──

──と、校門を出る直前に、いきなり誰かに肩を叩かれた。

S「よ」
蒼「…あ」
巴「あっ、久しぶり…」

~~~~~

蒼「ただいま」

あぁ、何かもう快晴の大草原のど真ん中にいるような気分だ──

母「おかえり」
翠「おかえりです~…今日は早いですね」

翠星石…
君には伝えたいことが山ほどあるんだ…

蒼「うん。翠星石と一緒に帰れるかも!って思ったぐらいだったしw」

…いつ伝えようか。
いつ伝えよう…。
今日中じゃないとダメだよなぁ。

母「蒼星石も行ってあげなさい。集中治療室から一般の方に移ったみたいだから」

──え?ジュン君、一般病棟に移ったんだ…
お母様からはただの風邪とは聞いたけど、結構順調っぽいね。
…こんな時に部活の遠征かぁ…帰って来るのは夜になりそうだし…

蒼「う~ん…明日は遠征だから…明後日の日曜の午後に行くよ」
母「あ、でもその頃には退院許可が下りて退院してるかも…
  結構順調らしいから…」
翠「…」
蒼「じゃあ、翠星石は明日も行ってもいいんじゃない?」

一緒に行けない僕を気遣ってるんだろうか──
戸惑う翠星石に僕は背中を押すように言う。
園芸部は基本、土日は休みなんだし、
行ける時に行けばいいんだと。
だって…

蒼「そういうことだよ。翠星石…」
翠「え?」

うん、そういうことだよね?

翠「…いっ、嫌ですよそんなことっ!」
蒼「そ、そんなムキにならなくても…」
翠「い~や~で~す~!!!」

僕だって行きたいさ。でも行けない。
私事で部活のメンバーに迷惑を掛けたくはなかった。
少し悔しいけど、早くジュン君を励ましに行ってほしい。
そう思った。

薔「私も行きたい!」
雪「私も…出来れば…」

──そこへ翠星石の叫び声を聞いたのか、
寄ってくるばらしーときらきー。
そして真紅たち。

金「ずるいかしら~!カナも行かせてもらうわ!」
紅「それなら私も監督責任で見に行く必要があるようね」
雛「ジュンのとこっ♪ジュンのとこっ♪」
薔「じゃああとは水銀燈だけだね!」
翠「へぇええっ…?」

翠星石を他所に、勝手に話が進んでいく。
助け舟を出した方がいいのかな…

紅「そうね。じゃあ日曜にみんなで行きましょう」
翠「ちょ…ちょ~っと待つです!」
薔「待たない」
翠「お前は黙れです」
薔「…」
翠「あの…そんな大勢で見舞いに行ったらジュンにも病院にも迷惑掛けるです」
薔「え~っ?…でも──」
蒼「そうだね。それに、病院は騒ぐ場所じゃない」

翠星石はこれを言いたいのかな…?
…と思って少しフォローした。

金「そんな失礼な話あるかしら!?」
翠「そこです!きらきーはともかく、お前とばらしーが一番怪しいです!」
金「あぅ…」
薔「…お見舞いの時はちゃんとするって…だから…」
蒼「まぁ、心配しなくても退院したら会えるんだから…」
紅「…そうね。じゃあ、私たちを代表して行ってらっしゃい」
金「真紅ぅ…」
紅「仕方ないわ。残念なことだけれど、受け入れなさい」
蒼「病院は色んな意味で冗談の通じないところだからね…」
金「…分かったわ。もう…」
薔「…」

妹たちが相次いで理解を示していく一方、
ばらしーだけが頬を膨らまして俯いていた。
まるで何年か前の翠星石を見ているようだった。

翠「ばらしーも落ち込むなです。またあいつが元気な時に会えばいいんですから」
薔「…」
翠「どうせあのチビ人間のことですから、週明けには元気になってますよ」
薔「…」
翠「……ね?」
薔「…うぅ…分かったよぉ。じゃあ病院に行かない」
雪「ば…ばらしーちゃんが行かないのなら私も行きませんわ」
翠「そうです。それでこそ翠星石の妹ですぅ~」
薔「それで、ジュンが元気になったら、私を心配させた罰としてジュン登り──」
翠「そうです。さすがは翠星石の…」

…間が空いた。
僕は笑いを堪えるので精一杯だった。

翠「違うです!」
薔「違わないよ♪だって翠星石がいつも言ってることだしぃ~」
翠「なっ…」
薔「きゃっ!逃げろ~~~」
翠「まっ…待ちやがれですぅ!!」

はしゃいで2階へ逃げる薔薇水晶を、顔を真っ赤にして追う翠星石。
雛苺を含め、下の4人が五月蝿いのは翠星石の影響なんだろうなぁと思う。

この間、お母様は何も口を出さず、
そっと見守るように僕たちを見つめていた。
その目は、潤っていた──

薔「ほら!翠星石だって十分五月蝿いじゃん!」

ここで初めて、お母様はフッと笑って階段を見て言った。

母「そうねぇw…じゃ、行くのやめる?」
翠「それだけは勘弁ですぅ!」

~~~~~

夕飯が終わり、今日は僕が家族で一番初めにお風呂に入った。
明日は遠征だし、早く寝よう…

──ゆっくり湯船に浸かりながら考える。
部活中だったSから聞いた事、早く伝えなきゃなぁ。
対ABC包囲網計画か…
サッカー部をこっち側に寄せる事が出来るのは強みになるなぁ。
…STUとは小学校から一緒でホントに良かった。

あ、あと喧嘩の事も謝らないと──

翠『こっ…こんなもん…くれてやるです!』

唐突に浴室の中にまで響いてきた怒声に、僕はビビった。

銀『あらあら、もう話さなくてもいいのぉ?』
翠『結構です!話す気なんか失せちまったです!』
銀『あっそ。ありがと…いい加減素直になればぁ?』
翠『キィィィィィィィ!!!』

どんどん浴室に響いてくる2人の言い争い。
…いやちょっとこれ…止めに入らないとマズいなぁ…

──浴槽から出て、浴室を出て、バスタオルを巻いて…
その間にも『黙りなさい!中二病!』などと水銀燈が声を荒げている
正直言うと、本気で怒った水銀燈はちょっと苦手なんだけど…

僕は脱衣所を兼ねた洗面所のドアを静かに開け、
開いているリビングのドアから見える中の様子をじっと窺った。

水銀燈は受話器を耳にして怒っていた。
翠星石はその後ろで黒い笑いを浮かべ、妹たちはリビングで固まって怯えていた。
お母様も宥めに入ろうとしているが、2人とも聞こえていないようで…。

銀「身の程を知るがいいわ…」
母「…?」
銀「フン!」

ガシャン!

荒っぽく受話器を戻した水銀燈。無言のまま全く動かない。
この静けさが一番苦手だ…

銀「……」

水銀燈はまだその場から動く気配を見せない。

銀「元に戻りやがった…」

この角度からじゃ…表情がよく見えないなぁ。

銀「……」
翠「そ~ですか!水銀燈好みのジュンに仕上がったんですかぁ~♪」

ん?…あぁ。
さっきの電話はジュン君からだったのかな。
──あ、いや、だ、ダメだよ翠星石…挑発しようとするなんて!

翠「ね?」
銀「…ふん、おばかさん!──」

わっ、水銀燈がこっちへ向かって走ってくる!
ド…ドアを閉めなきゃ…

…あれ?…階段を上っていった?

──ふぅ。
でも何となく事情は分かった。

金「水銀燈…ジュンが泣かしたかしら!」

そろそろリビングに行こうかな。

翠「水銀燈も素直じゃないですねぇ──」

き…君が言うか…w

蒼「…ククッ」
翠「はっ!…笑ったですね!?」

──だって仕方ないよ…w
むしろ僕から君にその言葉を言ってあげたいよ…

翠「…って、いつ風呂から上がったですか?」
蒼「水銀燈と言い争ってた時からだよ。お風呂の中まで声が響いてきたから見に来たら…」
翠「…」
蒼「素直になるのは翠星石も一緒だね」
翠「…そんなんじゃねーです」
蒼「この際なんだから、ジュン君とつき…」
翠「きゃっ…」
蒼「つき…」
翠「なっ…な…何を言うですかっ!」

翠星石は僕のバスタオルを引っ張ろうと手を伸ばした。
が、僕はそれを何とかかわし、急いで風呂へ戻ろうとした。
それでも僕を追いかけてくる翠星石。

蒼「ちょっと!追いかけて来るのは無しだよ!まだバスタオル一枚なんだよ?
  それにまだお風呂終わってないし!w」
翠「そんなもん知るかです!」
蒼「それより追いかけるも何も、まだ言ってないじゃん!…つき…」
翠「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

翠星石が金切り声を上げてその場にうずくまってる間に、
僕は再び浴室に戻ることに成功した。

あぁ怖かった…。

~~~~~

お風呂から上がり、パジャマに着替え、リビングへ入ると、
ばらしーときらきーとお母様がソファに座っていて、
翠星石はソファの上でぐったりしていた。

紅「お風呂、お疲れ様」

真紅はテーブルで紅茶を嗜んでいた。

蒼「…はぁ…大変だったよほんと…」
雪「ばらしーちゃんが何か聞きたいそうですよ?」
薔「ねぇねぇ、“月”って言うと何で翠星石が怒るの?」
蒼「え?あぁ…それはね──」

そういう意味じゃないんだよ…w
本当の意味は…ほら、翠星石の顔を見れば…
…ホントに魂が抜けたような顔してるからやめよう…。

蒼「──翠星石は月からやってきたからだよ」
雛「ほえ…」

──ごめん、翠星石…。

~~~~~

時刻は既に夜の10時を回っていた。
翠星石がようやく回復してお風呂に入ってる間に、
僕は明日の遠征に備えて、早めに寝ようと部屋に入った。

明日の荷物の確認。
いつもの部活の用意はちゃんとある。あとは明日弁当をプラスすれば大丈夫…と。
さ、寝よう…

──と、ベッドへ向かおうとした瞬間、翠星石の机の上に目が留まった。
“数学”と書かれたノート。その横に“公民”と書かれたノートが置かれてある。
これ、もしかして昼休みのノートなのかなぁ…
それを思い出すと余計に気になってしまったので、
数学の方だけこっそりと捲ってみた。

捲っていきなり翠星石の似顔絵に吹き出しがあって
翠星石の言葉で因数分解の問題に解説が入ってたのには吃驚したけれど…


──へぇ…。


──いやぁ…これは……。











僕も頑張らないとなぁ。

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