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《エミ》


冴えわたる青い空、ワンポイントの様にひかれた飛行機雲、この季節にしては暖かな日差しの下、
私と親友はそれぞれの昼食を持ち寄って、学校の中庭でお食事中。
何時もならば、この楽しい時間はもっと大人数で過ごすのだが、生憎と他の皆は学食に行ってしまった。
少し残念に思ったが、親友と二人きりのお食事会も悪くない。

「うゅ、いいお天気と美味しいご飯………幸せなの」
「ふふふ、そうですわね。皆様も同席されればよかったのに」
「皆、『寒い寒い』って。寒がりすぎなのよ」
「まぁまぁ、そう仰らずに。――雛姉様と黄薔薇様は寒さにお強いですから」

ふふ、と優雅な笑みで締める親友。
その笑みに言葉以上のものも感じ、ぷくぅと頬を膨らませる。
――彼女は、雪の様に白い息を零しながら話す。
寒さに強い―体温が高い、と言われた私は、彼女の頬に両手を当てた。

「付き合ってくれて、ありがとなの、雪華綺晶」
「雛姉様のお願いですもの、並大抵の事ではお断りしませんわ。けれども―」
「うゅ?」
「ワタクシも、少々寒いと思っていましたので………姉様の体温が、有難いです」

そっと両手に添えられる、親友の手――頬と同じ様に冷たかった。
私の手は彼女に熱を与え、彼女の頬と手は私に冷気を与える。
混ざり合った体温に気持ちよさを感じ、私は暫し、動きを止めた。
――静止した時を再び動かしたのは、親友の微笑みと発言。

「先程、姉様は寒さにお強い…と申しましたが――」
「うぃ、ちょっと失礼なのよ?」
「ふふ、前言撤回致しますわ。――姉様は、寒いのも嫌いではありませんでしたわね」
「うゅ?――うん、寒いのも暑いのも、色々楽しむ事が出来るもの」

寒ければ、炬燵でぬくぬくできる、可愛いコートが選べる、真っ白で綺麗な雪が見れる。
暑ければ、扇風機で楽しめる、薄着のコーディネイトが楽しめる、青くて美しい海で泳げる。
どちらかを、もしくはどちらも嫌いなんて、なんと勿体ないんだろう。
嫌いならば、好きになれる事を見つければいいだけなのに。

「そうでしたわね。姉様は何でも、何所でも、誰でもお好きですものね。
――その中に、ワタクシも入っていると嬉しいのですが」
「勿論なのよ、雪華綺晶も巴も、みんな、みんな、大好きなの」
「有難う御座いますわ、雛姉様。――あのお方も、ですわよね?」

微笑みを浮かべながら、何気なく、親友は訊ねてくる。
それは、大人びた容姿の彼女からは余り零れない、可愛らしい笑み。
少女が幼子をあやす様な――そんな類のモノだった。
だから、私は質問の答えと共に、にこりと笑んだ。

「ノン、違うのよ、雪華綺晶」
「え………?ま、まさか、苦手とか………お嫌いなのですか?」
「そうじゃないわ。――雪華綺晶への『好き』と、あの人への『好き』は――違う意味なの」
「え………それは………雛…姉様?」

真意を問うてくる親友に、私は言葉を返さない。
代りにもう一度、――にこりと艶だ。
その対応で、その笑みで、彼女も私の想いを汲んだのだろう――
目を一度閉じ、一拍を置いて、此方を真っ直ぐに見返してくる。

「私の――ヒナの言っている事、わかったわね、雪華綺晶」
「――そう言う事、ですのね。雛姉様」
「そう言う事なのよ、雪華綺晶。ヒナも、皆と―貴女と同じ様に、乙女よ?」
「わかりましたわ、お姉様。――不肖、この雪華綺晶、貴女様の想いに対峙させて頂きますわ」

手に伝わる彼女の体温が、少しだけ高くなったように感じた。
真っ直ぐに見つめてくる彼女の瞳には、闘志の焔が見える。
そして、彼女の瞳に映る、幼い外見をした少女にも、同じ色が。
――是で良い、瞳の中の少女…私は、そう思った。

苦手なモノはどうすればいい?
私と親友の想い人は、偶然にも―起こってしまった事を『偶然』と呼ぶ事に違和感はあるが―同じ人。
私は争いが苦手だ。それがどんな形であれ。
争いは、私にとって何一つ楽しい事を生じないから。

嫌いなモノはどうすればいい?
『彼』を取り合う事によって、私は彼女を、彼女は私を遠ざけるかもしれない。
大好きな親友との距離が開く………考えるだけで、粟立つ不快感。
其れは嫌だ――とても、とても、嫌だ。

――苦手なモノも、嫌いなモノも、好きになれる事を見つければいい。
私は想いを吐露し、彼女と同じフィールドに立った―争いを勝負に、距離を刺激に変える為に。
私の瞳に映る親友は笑み、親友の瞳に映る少女は艶だ………交錯する、私達の『エミ』。
是から始まるであろう、刺激的な勝負は――きっと、楽しいモノになるだろう。

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