※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

《足並み》


てくてくてく、てくてくてく―私は冷たい朝を、考え事をしながら歩いている。
とことことこ、とことことこ―その横を、ぴったりと友人が静かに歩いている。
……正確に言えば、言葉が私に向けられていないだけで、静かに、ではない。
先程から、「寒い…寒い…」と念仏のように言葉を繰り返しているのだから。

「あぁ、くんくん、ばらしーは見れたんだ……一番見たかった――」
「それ、違うと思うの。くんくんを勝手に道連れにしないで欲しいのかしら」
「………じゃあ、ジョリー?」
「流石にわざと過ぎる間違えなのかしら。もぅ……」

もふもふふわふわ、と若干遠い所を視線を送り夢見る瞳の友人。
私はもう一度、溜息をつき、再度考え事を始める。
どうやって伝えよう――私の想いを。
どうやって教えよう――彼女の想いを。

「………って、何やってるのかしら、薔薇水晶……」
「ばらしー の のしかかる こうげき ! 金糸雀に 大ダメージ だ!」
「ダメージはないけど、歩きづらいのかしら。離れ――」
「ぬくぬくぽかぽか。……あったかい……♪」

友人は、後ろから覆い被さる様に抱きついてくる。
身長差がかなりある―春の身体測定の時点で約10cm差―ので、羽交い締めされている様だ。
私の体温に満足した友人は、ちょっとやそっとでは離れそうにない。
ずるずると彼女を引きずりながら、私は歩行を続ける。

「………怒った?」
「聞く位なら最初からしないで欲しいのかしら。でも――」
「――『怒ってない』。……えへへ……ぎゅー」
「ぇう……だからって、強く締めすぎなのかしら…っ」

「ブリーカー…っ」と相変わらず抑揚のない声で、彼女は言葉を続けた。
何の事かわからないが…恐らく、ゲームか何かの技名なんだろう。
外見よりもずっと幼い心をしている彼女に、私は苦笑を孕んだ微笑みを浮かべる。
クスクスと小さな声が彼女に届いたのだろう―彼女も微笑みを浮かべていた。

「――私がどうして笑っているか、わかっているのかしら?」
「うぅん、全然わかんない。でも、多分、嫌な気持ちの笑みじゃない。だから――」
「全然………いいのだけれど。――『だから』?」
「うん、だから、嬉しいから、私も笑う。金糸雀の笑顔、好き」

擬音語つきの笑顔で、彼女は締めくくる―「にこー」
表情と違い、余りにも分り過ぎるその言葉に、私は暫しきょとんとしてしまう。
――反応を返さない私に不安を覚えたんだろうか。
友人は抱きしめる力を強め、彼女にしては珍しく矢継ぎ早に口を開く。

「笑顔だけじゃないよ、全部、全部、好き…っ、えと、具体的に言うと…っ」
「もぅ、そう言う事で返事しなかった訳じゃないかしら。――ねぇ、薔薇水晶?」
「可愛くて賑やかで暖かくていい匂いがしてっ………う?――なぁに、金糸雀?」
「――貴女………も、………………『彼』が好き?」

足を止め、ぎゅうと一層の力を込めて抱きしめてくる友人を見上げ、言葉を絞り出す。
さんざん考え込んだ挙句、告げた言葉が是なのだから、自分の未熟を思い知る。
だが………伝えたい事は、想いは、短い文章の中に詰め込んだ―詰め込めた筈だ。
――などと心の内で葛藤していると、友人が口を開いた。それはもう、あっさりと。

「うん、好き。面白いし、楽しい。――でも、安心して………?」
「………………『安心』?」
「ん。――金糸雀の『好き』と、私の『好き』は違うから。えへん」
「く、くっついてる時に凹凸の激しい体で胸を張らないで欲しいのかしら!?」

よくわからない理由で威張る友人に、言葉でじゃれつきながら、心で想う。
『Like』と『Love』の違いと言うのだろう、貴女は。
その二つの違いを分かっていながら――貴女は、自分の想いを勘違いしている。
何故?――自身ではわからないだろう――『彼』の事を話す貴女は、乙女の表情をしているから。

微笑む私に、友人はきょとんとした顔を見せる。
その一瞬をついて、私は彼女の束縛からぱっと離れ――スタスタと進んでいく。
私の歩調は先程と同じ―てくてくてく、てくてくてく。
少し進んだ所で振り返ると、友人はまだ固まっていて―すぐにハッと気付いた様。

少しだけむっとした表情の友人に、私はもう一度、微笑みを送る。
すると、友人もすぐに笑みを浮かべ返し、此方に歩いてきた。
彼女の歩調は、先程と少し違う―とことこ、とことこ。
それは、彼女本来の歩調――先程は、私の為に合わせてくれていたのだ。

てくてくてく、てくてくてく―私は彼女が並んだ事を確認してから、歩を進める。
とことことこ、とことことこ―友人もまた、歩調を調節し、横に並ぶ。
またもや暖を求めてくる彼女に纏わりつかれながら、思う――私も、彼女に合わせてみよう。
彼女自身が彼女の想いを理解するまで、私の想いを緩めよう――私と彼女の、想いの足並みが揃うまで。

|