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今日は久しぶりに依頼を請けてお仕事に出掛けました。ご主人は、お仕事のときに僕も連れていってくれます。
理由は分からないけど、とりあえずご主人の肩でいい子にしておくのが僕の仕事です。


「ピチカート、今日の依頼はあなたにも頑張ってもらうかしら。
大丈夫、あなたは動かなければいいかしら~」
ご主人に必要とされるなんて、嬉しいです。
動かないなりにがんばります。
「あ、ここかしら」
着いた場所は、ドラえもんに出てきそうな空き地でした。こんなところで何をするんだろう?
「ここがいいかしら。ピチカート、あなたはココにスタンバイかしら」
ご主人に言われた通りの場所に僕は飛び降りました。
するとご主人さまは持っていたカバンから、大きな竹ザルと10cmくらいの棒と長いロープを取出し、ロープの先を棒に結び付け始めました。

ロープと棒を結び付け終わると、竹ザルを棒に立て掛けて僕に日除けを作ってくれました。
僕のために日除けを作ってくれるご主人はとても優しい人だと思います。
「ピチカート、何が起きても絶対動いちゃダメかしら」
そう言ってご主人はロープの片端を持って空き地の片隅、土管の中に入っていきました。
もしかして暑いんでしょうか?
暑いならいつも持ってる日傘をさせばいいと思いますよ、ご主人。

あれから30分。
僕は今、人生最大のピンチに直面しています。
僕の前方約10mの地点にヤツがいるんです。僕たち鳥族の天敵、ネコが。

逃げないとヤバい。でもご主人に「何が起きても絶対動いちゃダメ」と命令されています。僕はご主人の命令は守ると決めているので逃げたい心を必死で抑えます。

ヤツは僕が動かないのをいいことに、隠れもせずのそりのそりと距離を縮めてきます。
その距離は今や5m足らず。
絶体絶命。この際、絶対絶命というべきでしょうか。
距離は充分と見たのか、ネコは一気に飛び付いてきました。ヤツの一撃で僕は散るでしょう。

それでも、僕は最期までご主人の命令に従うことにしました。
僕は闘う。
僕は立ち向かう。
僕は逃げない。
僕は気高く咲き誇る、金色の翼・ピチカート。
僕が死んだら、ご主人は悲しんでくれるかな?
目を閉じる瞬間、少しだけそんなことを思いました。


爪があと数cmまで迫ったとき、驚くべきことが起こりました。
日除けの屋根が落下し、ネコの爪から僕を守ってくれたのです。
次の瞬間、バサーッという音がして、フニューッというネコの情けない叫び声がして、最後に「カナの作戦は完璧かしら!」というご主人の声がしました。
よく分からないけど、僕の覚悟が運命を変えたみたいです。




「ピチカート…もしかして怒ってるかしら?」
当たり前です、ご主人。


あの後すぐに僕はご主人に助けだされました。
ザルの外の様子ですが、ザルの上から大きな投網が掛かっていて、ネコはそれに絡み付いて暴れていました。
ご主人が投げてくれたんでしょうか。なんにせよ、いい気味です。

僕としては人生最悪の恐怖を味わったこの場から早く離れたかったんですが
ご主人はカバンからネコや小犬を入れるようなカゴを取り出し
暴れるネコを網から解放しその中に押し込みました。
そして満足気に言ったのです。
「お仕事成功かしら」と。

ネコを連れ事務所へ帰る途中、ご主人は思い出したように今回の依頼を教えてくれました。
今回の依頼は『逃げたネコの捕獲』
‥‥嫌な予感がします。


そのネコは鳥が大好きで、鳥と見るや飛び付く性格だとか。
そして、そのネコを捕えるためにご主人の立てた作戦が、僕を囮にネコをおびきよせる、というものだったんです。

‥人の命をなんだと思ってるんでしょうか、このご主人は。
まぁ鳥ですけども。

「ピチカートぉ‥‥」
あんたなんて知りません。反省してください。
ぷーだよ、ぷー。
「‥‥今回の報酬で新しいカゴ買ってあげるから許してほしいかしら!」
う‥‥今回だけですよ。

僕がご主人を許す気になったとき、事務所のドアが突然開いて少女が飛び込んできました。
「ベリーベル!ベリーベル!」
少女は事務所中ひっくりかえす勢いで何かを探し始めました。
「か、かしら‥」
突然すぎて、ご主人も唖然としています。もちろん僕もです。
「こ、コラ雛苺!!」
「やーの!ベリーベルどこー!?」
慌てて入ってきたおじさんが少女を抱き上げてくれたおかげでなんとか部屋は無事でしたが
彼女はまだ手足をバタバタと暴れています。
ところで誰でしょうか、この人たちは。

「依頼人の‥茂部さん、かしら?」
「は、はい。うちのネコが見つかったとの連絡を受けて‥」
「ベリーベルぅー!」
「…と、とりあえずネコに会わせてやってください」
なるほど、依頼人でしたか。
ベリーベルとはあのネコの名前でしょうか?


ご主人がネコを少女に渡すと、彼女は嬉しそうにヤツを抱き締め、おとなしくなりました。


「その、ありがとうございます。ネコのこと。
報酬、こちらです。少しで申し訳ありませんが‥‥」
そう言って茂部氏の差し出した封筒は、どう見ても“少し”の金額が入った厚さではありませんでした。
「い、いくらなんでも多すぎかしら!約束してた報酬の10倍近い‥」
「いえ、受け取ってください。これでも足りないくらい感謝しているんです」
茂部氏は雛苺を見つめながら続けた。
「ベリーベルは娘にとって何より‥おそらく私よりも大切な存在ですから‥
…とにかく全額受け取ってください。あなたにはいくら感謝してもし足りないくらいです」
深々頭を下げてお金を受け取れ、だそうです。
変な人です。
それにしても、なんという金持ちでしょう。


「‥‥お受け取りします‥かしら」
まぁ、あそこまでされたら断りにくいですよね、ご主人。
立派なカゴ、買ってください。

「‥ありがとうございました。‥‥雛苺、帰るよ」
「うぃ」
立ち上がった雛苺はご主人に感謝を述べ、父娘は帰っていきました。


数日後、この父娘に関する事件に遭遇しようとは、このとき知る由もありませんでした。

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